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第8章 南国リゾートへの旅

第88話 イシュトリア・シーフード

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 サンドベリアの東海岸は、美しい白砂の海岸線が続き、まさにリゾートと言った感じだ。
 ホテル前のビーチには、ビーチパラソルの花が咲いている。
 その下にはサマーベッドがズラリと並べられ、そこにオレたちは寝そべり一日の大半をビーチで過ごした。
 3人の美女は日光浴の合間を縫い、泳いだり、波打ち際で波と戯れていた。

 この辺りは景観が良く、シーフードも美味しくてリゾートライフを楽しむには、向いているかも知れない。
 しかし、それ以外に特筆すべきものはなく、オレがリゾートの候補地として検討するほどの場所ではない。

 今回泊まったヴィラタイプのホテルは、プライベート空間が確保され、ゲストの満足度は高いと思う。
 しかし、レストランやフロントなど共用設備から距離があるのが、顧客満足度を下げる一因となっているようだ。

 その夜は、近隣のシーフードレストランへ食事に出かけた。
 ホテル前の道路沿いには、数件のシーフードレストランが並んでおり、その中で一番大きなイシュトリア・シーフードへ入った。

 イシュトリア・シーフードは、海岸沿いにある2階建てのお洒落な建物で、席はほぼ埋まっており、人気の高さが伺えた。
 入口で「4人」と言うと、階段を登った2階のテラス席へ案内してくれた。

 このレストランにも水槽や生簀いけすがあり、自分で食べる魚を選べるようになっていた。
 それを見ると、魚の鮮度も種類や量も多く、しかも安いのだ。
 恐らく、セントレーニアの半額以下の値段だろう。
 聞くところによると、サンドベリアの大手鮮魚商が経営しているとのことで、鮮度の良さも納得できると言うものだ。

 水槽を見ていると栗のような形をしたアレを見つけた。
 そう、それは雲丹うにである。
 日本では高級食材として滅多に口に入らない馬糞雲丹ばふんうにであるが、こちらでは海を荒らす厄介者扱いされており、価格も1個銅貨1枚(約50円)とかなり安い。
 しかも殻から外して皿に盛り付けてくれるサービス付きだという。
 あまり食べすぎると体に良くないが、たまにであれば良いだろう。

 オレは店のスタッフに馬糞雲丹ばふんうに40 個を生食用としてオーダーした。
 40個でも、たったの少銀貨2枚(約2千円)なのだ。

 蟹の水槽に行ってみると10種類ほどの蟹が取り揃えられており、その中で最大のタラバガニを注文する。
隣の水槽にはオオズワイガニと毛蟹もあり、結局3大ガニの食べ比べをすることになった。
 重さ3kgとずっしり重いタラバガニが銀貨1枚(約6千円)、重さ2kgもあるオオズワイガニは小銀貨4枚(約4千円)、毛蟹は1kgで小銀貨2枚(約2千円)で単価的には、どの蟹も1kg小銀貨1枚(約千円)なのだそうだ。
 水槽から生きた蟹をすくい、丸ごと高温水蒸気釜で蒸してくれる。
 茹でるよりも旨味が逃げないので濃厚な蟹の甘みが際立つそうだ。

 シーフードと言ったら海老は外せない。
 元気に泳ぐ、プリプリの車海老を20尾ほど塩焼きにしてもらう。

 オレは魚コーナーで珍しい魚を発見した。
 それはノドグロ(アカムツ)と言う魚だ。
 日本では大きさにも寄るが1尾2~3千円もする高級魚なのだが、ここでは1尾200円くらいで買える。
 それを4尾ほど塩焼きにしてもらう。

 あとはシーフードパエリアと海鮮スープ、アサリの白ワイン蒸しも注文した。
 もちろん冷え冷えの生ビールも忘れない。

「こんなに食べられますか?」と店員が心配してくれているが大丈夫だ。
 エミリアはともかく、ステラとクラリスは見ている方が清々すがすがしくなるくらいの食べっぷりである。

 ビールを飲みながら話をしていると料理が出てきた。
 最初はシーフードパエリアと海鮮スープ、アサリの白ワイン蒸しだ。
 スタッフの人数が多いので料理が提供される時間も短いようだ。
 『速い安い旨い』どこかで聞いたような言葉だが、これは繁盛店の必須条件だろう。

「いただきま~す」
 オレとステラとクラリスは生ビール、エミリアはジンジャーエールで乾杯した。
 当然ながら、この世界にはエアコンはない。
 しかし、日が落ちればぐっと過ごしやすくなる。
 屋外にいれば風が吹き抜け、けっこう快適に過ごせるのだ。

 次に出てきた料理は、ノドグロの塩焼きだ。
 開きにしてあり、脂が乗っていて最高に美味い。
 店員に聞くと、これは生の魚を焼いたものではなく、予め開きにして一夜干しにしたものを焼いたそうだ。

 次に出てきたのは生雲丹なまうにだ。
 スプーンですくって、そのまま食べる丁度良い塩加減だ。
 濃厚な雲丹の甘みを堪能しつつビールで流し込む。

 次に出てきたのは車海老の塩焼きだ。
 プリプリの食感に海老独特の甘み、それに振り塩の加減が絶妙で美味い。

 最後に登場したのは本日のメインディッシュ『三大ガニ盛り合わせ』だ。
 もし現代日本で注文すれば幾らになるのか、想像もつかないくらい立派で鮮度抜群の蟹だ。
 まずタラバガニを食べてみる。
 食べ易いように、殻に切れ目を入れてあるので、苦労せず食べられる。

 エミリアの手首ほどの太さがある極太のカニ足にかぶり付く。
 中から、蟹の甘みと旨味、それに絶妙な塩加減が加わりうなるほどの旨さだ。

 次はオオズワイガニに挑戦する。
 これもかなりの太さがあり、直径4cmほどもあろうか。
 殻を剥いた蟹脚を持ち、上を向いてかぶり付くと、タラバとは違う繊細な蟹肉のプリプリとした食感がたまらない。
 味もタラバより濃厚な甘さで、これなら生のカニ脚をしゃぶしゃぶで食べても美味いだろう。

 最後は『真打ち』毛蟹の登場だ。
 大きさはタラバ蟹やオオズワイ蟹には敵わないものの、蟹の旨味と言う面では最上級だろう。
 毛蟹のもう一つの楽しみは蟹味噌だ。
 濃厚な蟹味噌に日本酒を垂らして甲羅酒を楽しみたいところだが、さすがにここに日本酒はない。
 毛蟹は蟹肉の身も味も繊細で、この中でどれか1つ選べと言われたら、間違いなく毛蟹を選ぶだろうとオレは思った。

 蟹を食べると人は無口になると言うが、まさにその通りだ。
 3人の女性たちも無言で、蟹を口に運んでいる。

「ふ~、食べたね~、満腹だ」とオレが言うと。

「カイトさま~、美味しすぎて食べ過ぎちゃいました~」とクラリスはお腹を擦っている。

「カイト様、ご馳走様でした、とても美味しかったです」と普段は無口なステラが笑顔で感想を述べた。
 ステラは昨日までと比べて一皮剥けたような、心做こころなしか、表情が柔らかくなったように感じた。

「こんな美味しい料理、初めて食べました」
 これまで蟹を食べる機会が無かったエミリアも感激の旨さのようだ。

「お気に召していただいたようで、ありがとうございます」と声を掛けてきたのは、この店の店長だった。

 店長の話では、この店の魚介類はサンドベリアの市場に行けば売っているので、いつでも買えますよと教えてくれた。
「その店の魚介類ってある程度まとまった量で買うことも出来ますか?」とオレが聞く。

「はい、大口契約でしたら市場で承っておりますので、そちらでご相談下さい」と丁寧に教えてくれた。

 もし、この辺りにリゾートを建設するとしたら、これだけ新鮮なシーフードを提供できるのは大きな強みになるだろうとオレは思った。
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