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第21章 新リゾート開発編

第351話 ネオ・プリンセス

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 あの日から5ヶ月余りが経過した。
 今日は王都アリーナの大ホールでアクアスター・プロダクションの新人女性アイドルグループ「ネオ・プリンセス」のデビュー公演が開催される日だ。
 メンバーは14歳から16歳の美少女5人、抜群の歌唱力と卓越したダンステクニックを持つ実力者揃いである。
 彼女らは、王都で開催した一般公募オーディションにより発掘され、約1年間研修所で育成したスター候補生の中から才能を見出された少女たちだ。

 R&B系のスタイリッシュで乗りの良い音楽を中心とした楽曲で、この国には無かった新しいジャンルの音楽に若者達は飛びついた。
 もちろんこれはプロデューサーであるサクラの周到な準備が実を結んだ結果である。

 ネオ・プリンセス(略してネオプリ)は、そのスタイリッシュなファッションやR&B系の乗りの良いリズムが受け、若い男性ばかりではなく、若年層の女性からも絶大な人気を誇り、王都アリーナの昼夜2回3日間連続6回のデビュー記念公演のチケット4万8千枚は早々に売切れたのである。
 王都ではちょっとしたネオプリブームが起こっており、若者たちが彼女たちのファッションを真似した。
 それに目を付けたアスナがバレンシア・ストアでネオプリファッションを売り出すことになるのだが、それはもう少し後のことだ。

「カイト様、デビュー公演は予想以上の大盛況です」
 サクラが嬉しそうにオレに報告した。

「うん、サクラの判断は正しかったようだね」
 今回のネオ・プリンセスのコンセプトはK-POPの要素をふんだんに取り入れたのである。
 元々K-POP好きであったサクラが全面プロデュースしたのだ。

 『ネオプリ』のセンターに立つ金髪の超絶美少女の名前は「マリス」である。
 彼女こそマリウス王子が『性転換の秘薬』を服用し女性化した姿なのだ。
 どこからどう見ても完璧な女性で、しかも超絶美少女であり、歌もダンスパフォーマンスも抜群に上手いと来ているから人気が出ない理由わけがない。
 彼女の一挙手一投足いっきょしゅいちとうそくに世の男も女も目を奪われ熱狂するのである。

 この日に至るまでには紆余曲折があった。
 元々、彼女はこの国の王太子と成るべくして生まれたのであるが、ある事件が原因で廃嫡となったのだ。
 そして唯一のよすがであった王族と王子と言う身分も放り出し、自らただの女性として生きる道を選んだのである。

 あの日、マリウスに『性転換の秘薬』の存在を話した時、そのような秘薬があるなら、すぐにでも服用して自分は生涯女性として生きたいと一切の迷いなくオレと3人の姉たちに話したのである。

 マリウスの決意の固さは揺るぎないものだった。
 王族の身分を捨て生涯一人の女性として生きて行くことを決心したのである。

 マリウスの決意を彼の父親である国王クラウスと王妃ジェシカに話す時は大変であった。
 王妃は半狂乱となり泣き叫び、国王はどうにか思い止まる良い手立てはないかあの手この手で説得を試みたが、マリウスは頑なに拒み、国王は何を言っても無駄と悟ると遂には諦めマリウスに離縁を言い渡し、以後王室への立ち入りを禁じると申し渡したのだ。

 後日、ソランスター王室から第1王子マリウスの廃嫡と王家との離縁成立が正式に発表された。
 その後マリウスがどうなったか一切発表されることなく、王都では暫く人々の間で噂となった。

 マリウスは自分の心を偽り、男として王子役を演じて生きるより、自分の心に素直になり、女性として生きることを選択したのだ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 午後1時、王都アリーナ大ホールは8000人の人々で埋め尽くされていた。
 定刻になり、思わず指でリズムを取りたくなるようなアップテンポなR&Bのリズムが流れると会場からは絶叫が混じった拍手と声援が鳴り響いた。

 するとステージ正面からスポットライトを浴びた「ネオ・プリンセス」のメンバーが走りながら姿を表した。
 メンバーはエレン、リリア、マリス、シオン、レイナの5名である。
 センターのマリスは肩までのサラサラの金髪で、それ以外の4名は、黒髪ロングである。
 いずれ劣らぬ美少女であるが、マリスの美しさは一人群を抜いていた。
 最初の曲は、デビュー曲の「Absolute Girl(絶対的な女の子)」である。
 クールでスタイリッシュなダンスパフォーマンスに小気味良いビート、マリスたち5人のポップな歌声に観客は一瞬でステージに魅了された。
 会場は熱気に包まれ観客は『ネオプリ』の世界へ引き込まれていった。

 ステージ袖には4人の女性と1人の男が立ち、「ネオ・プリンセス」を見つめていた。

「果たしてこれで良かったのかしらねぇ…」
 舞台袖で、かつて弟だった超絶美少女アイドルのライブパフォーマンスを見つめながらフローラがシミジミと呟いた。

「良かったに決まってるわ、本人が望んだことなんだし…」
 彼女の姉の一人であるアリエスが言った。

「そうよ、あの子のあんな良い笑顔、今まで見たこと無いもん」
 もう一人の姉ジェスティーナも舞台袖から、かつて葛藤に苦しんでいた元弟の晴れ姿を見ていた。

「未来のことなんて不確実過ぎて誰も分からないよ…
 同じ後悔するなら自分の思い通り進むのが一番幸せに決まってるさ」
 オレの言葉に3人の王女は頷いた。

「カイトの言う通り、ウジウジ悩んでいるより自分でこうだと決めた道に進むのが良いに決まってるよね」
「そうよ、自分の道は自分で切り開かなきゃ、未来はないわ」

 思えばオレは、サクラが付けた『ネオ・プリンセス』と言うグループ名は意味深いみしんであると思っていた。
 サクラにその意味を聞くと「ご想像にお任せします」とグループ名に込めた意味を明かしてくれなかった。

 こうして、アクアスター・プロダクション期待の新人グループ「ネオ・プリンセス」のデビュー公演が始まった。
 曲は、「Surprise」、「Turning Point」、「MonoTone」「Hyper Love」、「Endless Loop」、「Signal」、「Vibration」、「Trouble Maker」、「Dynamic」、「Starry Night」「SkyDive」と続きアンコールの「Ice Cake」を含めた全13曲を披露し、その日の公演は終了した。
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