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【7話】日常の変貌と、禁断の誘い
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有希乃の日常は、信二とのチャットによって、少しずつ、しかし確実に、
そして劇的に変化していった。
夫のいない夜も、以前のように寂しさに苛まれることはなくなった。
むしろ、信二とのチャットの時間が待ち遠しく、彼女の生活に新たな彩りと、
そして抗いがたい興奮を与えていた。
家事も手につかず、時間を見つけてはスマートフォンを握りしめ、
次のメッセージを心待ちにする自分がいた。
それまで、ただの連絡手段でしかなかったスマートフォンは、
今や有希乃にとって、秘密の扉を開く鍵のような存在となっていた。
他の誰にも見られないよう、画面を伏せて置いたり、
パスワードロックを厳重にしたりと、まるでいけないことをしていると
認識しているかのように、その扱いは慎重になっていった。
夫がいても、その存在は薄れていくばかり。
彼女の意識は、常にチャットの向こうにいる信二に向けられていた。
チャット画面から顔を上げると、有希乃は無意識のうちに鏡の前に立っていた。
そこに映る自分は、先ほどまでの疲弊しきった、
生気のない女とは別人のようだった。
瞳は潤み、頬は微かに、しかし確かに紅潮している。
唇は、まるで蜜を求めるかのように艶めいている。
まるで、信二の言葉が、彼女の体内に深く眠っていた「女」を力ずくで
目覚めさせたかのようだった。その変化は、彼女自身をも驚かせた。
信二は、いつも冗談混じりに、しかしどこか本気の響きを伴って、
有希乃に「日常でこんなことをして、周りの男性の反応を見てみては?」と、
勇気を出せば簡単に実行できる、いくつかの禁断の誘いを告げていた。
例えば、ある日のチャットでは、信二はこう囁いた。
「ユミさん、もしよろしければ、次に外出する時、下半身のラインが
強調されるようなスキニージーンズを履いてみてはどうですか?
周りの視線を感じて、貴女自身の魅力が、あなた自身にも、
よりはっきりとわかるはずです」
有希乃は、信二の言葉を反芻した。スキニージーンズ。
確かに誰もが履いているような服装ではある。街を歩けば、若い女性も、
有希乃と同年代の女性も、皆、当たり前のように身体のラインが
はっきりと出るジーンズを履いている。
だが、有希乃にとっては、身体のラインを他人に晒すということは、
かなりの羞恥だった。普段はゆったりとした服装を選びがちな自分にとって、
それはまるで、裸で街を歩くかのような、とてつもない抵抗感があった。
しかし、彼の言葉が、その気になれば簡単に試せる行動として、
有希乃の脳裏に焼き付いた。
翌日、有希乃は迷った末、クローゼットの奥にしまい込んでいた、
数年前に買ったきりのスキニージーンズを取り出した。
久しく足を通していなかったそのジーンズは、ピタリと肌に吸い付き、
有希乃自身の女性らしい曲線、特にヒップから太ももにかけてのラインを、
驚くほど鮮明に浮かび上がらせた。
鏡に映る自分の姿に、有希乃は思わず息を呑んだ。こんなにも自分の体は、
まだ女らしいラインを残していたのか。
スーパーへ買い物に出かける。普段と変わらない道。
しかし、有希乃の目には、周りの風景がいつもと違って見えた。
すれ違う男性の視線が、まるで磁石に引き寄せられるかのように、
彼女の下半身に集中しているように感じる。気のせいだろうか?
自意識過じょうなのか?だが、その視線の一つ一つが、有希乃の胸の奥を、
微かな高揚感で満たしていく。
いつもは挨拶を交わすだけの近所の男性が、今日はやけにじっと自分を
見ていたような気がする。背中に向けられる、粘着質な視線の気配。
それが、有希乃の身体を、内側から熱くさせた。
自宅に戻り、玄関の鍵を閉めた瞬間、有希乃はどっと疲れを感じ、
壁にもたれかかった。
(なんてことをしてしまったんだろう……。)
自分を責める気持ちが、一気に押し寄せる。まるで、公衆の面前で、
自分の醜い部分を晒してしまったかのような、耐え難い羞恥心。
しかし、その羞恥心の奥には、確かに高揚感が渦巻いている。
この高揚感は、一体何なのだろう?他人に身体を見られたことに対する
嫌悪感があるはずなのに、なぜか、満たされたような、背徳的な快感がある。
まるで、責められれば責められるほど、内側から熱が湧き上がってくるかのようだ。
この感覚は、夫との関係では決して得られないものだった。
有希乃は、自分の心情に戸惑い、そして、この禁断の快感に
足を踏み入れてしまった自分自身に、言いようのない混乱と、
わずかな興奮を覚えた。
また別の日には、信二はこんな大胆な提案もしていた。
「コンビニに行く時で構いませんから、胸のラインがさりげなくわかるけれど、
決して下品には見えないような服装で出かけてみてください。
きっと、レジの店員や、すれ違う男たちの視線が、
貴女に吸い寄せられるのが分かるはずです」
数日後、夫が出張で家を空けた日の午後、有希乃は信二の言葉を思い出し、
少しだけ胸元が開いた、薄手のニットに手を伸ばした。
鏡の前で何度も角度を変えてみる。
確かに、動くたびに胸の膨らみが強調されるが、露骨な印象はないはずだ。
心臓がドキドキと早鐘を打つ。こんな格好で外出するなど、
ここ何年も考えたこともなかった。まるで、若い頃に戻ったような、
気恥ずかしさと、ほんの少しの期待感が入り混じる。
近所のコンビニへ向かう短い道のり。
有希乃は、周囲の視線に過敏になっているのを感じた。
すれ違う主婦の冷たい視線が突き刺さる一方で、若い男性店員の目が、
一瞬、彼女の胸元に吸い寄せられたのを、有希乃は確かに感じ取った。
その瞬間、彼女の心臓はさらに激しく跳ね上がり、顔が熱くなるのを感じた。
「やっぱり、見ているんだ…」。
それは、夫から久しく向けられることのなかった、
異性からの明確な視線だった。嫌悪感よりも先に、忘れかけていた、
自分がまだ「女」として認識されているという事実が、
じんわりとした喜びと共に、有希乃の心を満たしていく。
同時に、今まで隠してきた自分の魅力を、ほんの少しだけ
解放してしまったような、背徳的な高揚感も、彼女を捉えて離さなかった。
コンビニから戻った有希乃は、玄関のドアを閉めると、
すぐに壁に背を預けてずるずるとしゃがみ込んだ。
(なんてこと……!コンビニの店員に、胸を見られていたなんて……!)
自分の浅はかな行動に、激しい後悔と羞恥が襲いかかる。顔が熱い。
今すぐにでも、あの店員に謝りに行きたい衝動に駆られる。
しかし、その激しい羞恥の波の合間に、もう一つの感情が顔を出す。
それは、熱い興奮だった。心臓は未だ早鐘を打ち、身体の内側から
熱が湧き上がってくる。この、たまらないような感覚は、一体何なのだろう?
羞恥と興奮が、有希乃の体の中で混じり合い、彼女を新たな感覚の渦へと
引きずり込んでいく。
そして、有希乃の脳裏に最も鮮明に焼き付いていたのは、
あの下着の件を話した日のチャットの終わり際に、
信二が投げかけた、ある言葉だった。
「ユミさん、下着が盗られてから、室内干しにしていると言っていましたが、
もしよかったら、また庭に干してみませんか?
いえ、今度は、あえて、周りに見えるように。
そして、思い切って、普段はつけないような、少し目立つ、セクシーな下着を
干してみるのも、いいかもしれませんね」
その時のチャットのやり取りが、有希乃の心に蘇る。
信二が、さりげなく下着の話題を持ち出し、有希乃が持っている下着の種類を
告白させられたかのように感じた瞬間だ。
信二: そういえば、ユミさんの下着の話、すごく印象に残っています。
: 普段は、どんな下着を身につけているんですか?快適さ重視ですか?
: それとも、少しは、自分を飾るようなものも?
有希乃は、一瞬たじろいだ。こんなことを、チャットの相手に
話すことなどありえない。しかし、信二の穏やかな、しかし確かな問いかけに、
彼女は抗えなかった。まるで、自分の心の奥底を覗き込まれているような感覚。
ユミ: ……ほとんどが、シンプルな綿の、肌着のようなものです。
: 色は、白やベージュがほとんどですね。
そう答えた後、信二は畳みかけるように尋ねてきた。
信二: なるほど。では、普段は身につけない、けれども、
: お持ちの下着もあるんですか?
: 例えば、少し特別な、勝負下着のようなものとか?
その問いに、有希乃の胸は一瞬で締め付けられた。
信二は、まるで自分の内心を読み解くかのように、核心を突いてきた。
まさか、持ってはいるが、もう何年もタンスの奥にしまい込んだままの、
あのセクシーな下着のことだろうか?それは、夫との関係が冷え切ってから、
一度も袖を通すことのなかった、自分の中の禁断の領域だった。
ユミ: ……っ、いえ、そんなものは……。
有希乃は、咄嗟に否定しようとした。しかし、信二の言葉は、
まるで彼女の嘘を見透かすかのように、さらに深く突き刺さる。
信二: ふふ、ユミさん。そんなに焦らなくてもいいんですよ。
: 誰だって、秘密の一つや二つはあるものですから。
: 特に、女性ならば、自分の魅力を引き出すための、
: 秘められた武器を持っていることくらい、当然のことでしょう?
その言葉に、有希乃の防御は完全に崩れ去った。
「告白させられた」と感じた瞬間だった。しかし、同時に、その告白から、
有希乃の内心に、奇妙な解放感が広がったことも否定できなかった。
まるで、重い秘密を打ち明けた後のような、清々しさ。
信二は、それ以上、有希乃の「勝負下着」について深掘りしようとは
しなかった。その配慮に、有希乃はほっと胸を撫で下ろすと同時に、
彼の紳士的な態度に好意を抱いた。彼は、ただ煽るだけではない。
有希乃の心に寄り添うかのような、絶妙な距離感を保っていた。
チャットを終え、有希乃は立ち上がった。
まるで何かに引き寄せられるかのように、寝室のクローゼットへ向かう。
一番下の引き出しを静かに開ける。
そこには、数年ぶりに、かつての「勝負下着」がひっそりと眠っていた。
一番上にあったのは、深いワインレッドのレースがあしらわれた
ブラジャーとショーツのセット。柔らかなレースが肌を透かし、
繊細な刺繍が施されている。もう一枚は、漆黒のサテン生地に、
細いストラップが幾重にも交差するデザインのランジェリー。
胸元が大きく開いており、見る者を誘惑するような大胆なデザインだ。
そして、最も奥に隠されていたのは、まるで肌に溶け込むかのような
ヌードカラーのシースルーのショーツ。
股の部分には、小さなリボンの飾りがついているだけの、
究極のシンプルさがかえって大胆さを際立たせている。
有希乃は、それらの下着をそっと手に取った。ひんやりとしたレースの感触。
サテンの滑らかな手触り。どれも、今の自分には縁遠い、華やかで、
そしてどこか刺激的なものばかりだ。
「もし、これを庭に干したら……」
その言葉が、信二の口から発せられた時の甘美な誘惑が、再び有希乃の
脳裏にこだました。夫のいない夜、人目のない庭に、こんな下着が
干されている姿を想像する。誰かの視線。覗き見られる興奮。
有希乃の顔が、じわりと熱くなる。しかし、次の瞬間、理性的な自分が、
その想像を打ち消した。
「馬鹿なこと考えてる。そんなこと、できるわけない」。
でも、その一方で、心臓はまだ、激しく鼓動を続けている。
この、心の奥底で渦巻く感情は、果たして欲望なのか、
それとも、ただの好奇心なのだろうか。
そして劇的に変化していった。
夫のいない夜も、以前のように寂しさに苛まれることはなくなった。
むしろ、信二とのチャットの時間が待ち遠しく、彼女の生活に新たな彩りと、
そして抗いがたい興奮を与えていた。
家事も手につかず、時間を見つけてはスマートフォンを握りしめ、
次のメッセージを心待ちにする自分がいた。
それまで、ただの連絡手段でしかなかったスマートフォンは、
今や有希乃にとって、秘密の扉を開く鍵のような存在となっていた。
他の誰にも見られないよう、画面を伏せて置いたり、
パスワードロックを厳重にしたりと、まるでいけないことをしていると
認識しているかのように、その扱いは慎重になっていった。
夫がいても、その存在は薄れていくばかり。
彼女の意識は、常にチャットの向こうにいる信二に向けられていた。
チャット画面から顔を上げると、有希乃は無意識のうちに鏡の前に立っていた。
そこに映る自分は、先ほどまでの疲弊しきった、
生気のない女とは別人のようだった。
瞳は潤み、頬は微かに、しかし確かに紅潮している。
唇は、まるで蜜を求めるかのように艶めいている。
まるで、信二の言葉が、彼女の体内に深く眠っていた「女」を力ずくで
目覚めさせたかのようだった。その変化は、彼女自身をも驚かせた。
信二は、いつも冗談混じりに、しかしどこか本気の響きを伴って、
有希乃に「日常でこんなことをして、周りの男性の反応を見てみては?」と、
勇気を出せば簡単に実行できる、いくつかの禁断の誘いを告げていた。
例えば、ある日のチャットでは、信二はこう囁いた。
「ユミさん、もしよろしければ、次に外出する時、下半身のラインが
強調されるようなスキニージーンズを履いてみてはどうですか?
周りの視線を感じて、貴女自身の魅力が、あなた自身にも、
よりはっきりとわかるはずです」
有希乃は、信二の言葉を反芻した。スキニージーンズ。
確かに誰もが履いているような服装ではある。街を歩けば、若い女性も、
有希乃と同年代の女性も、皆、当たり前のように身体のラインが
はっきりと出るジーンズを履いている。
だが、有希乃にとっては、身体のラインを他人に晒すということは、
かなりの羞恥だった。普段はゆったりとした服装を選びがちな自分にとって、
それはまるで、裸で街を歩くかのような、とてつもない抵抗感があった。
しかし、彼の言葉が、その気になれば簡単に試せる行動として、
有希乃の脳裏に焼き付いた。
翌日、有希乃は迷った末、クローゼットの奥にしまい込んでいた、
数年前に買ったきりのスキニージーンズを取り出した。
久しく足を通していなかったそのジーンズは、ピタリと肌に吸い付き、
有希乃自身の女性らしい曲線、特にヒップから太ももにかけてのラインを、
驚くほど鮮明に浮かび上がらせた。
鏡に映る自分の姿に、有希乃は思わず息を呑んだ。こんなにも自分の体は、
まだ女らしいラインを残していたのか。
スーパーへ買い物に出かける。普段と変わらない道。
しかし、有希乃の目には、周りの風景がいつもと違って見えた。
すれ違う男性の視線が、まるで磁石に引き寄せられるかのように、
彼女の下半身に集中しているように感じる。気のせいだろうか?
自意識過じょうなのか?だが、その視線の一つ一つが、有希乃の胸の奥を、
微かな高揚感で満たしていく。
いつもは挨拶を交わすだけの近所の男性が、今日はやけにじっと自分を
見ていたような気がする。背中に向けられる、粘着質な視線の気配。
それが、有希乃の身体を、内側から熱くさせた。
自宅に戻り、玄関の鍵を閉めた瞬間、有希乃はどっと疲れを感じ、
壁にもたれかかった。
(なんてことをしてしまったんだろう……。)
自分を責める気持ちが、一気に押し寄せる。まるで、公衆の面前で、
自分の醜い部分を晒してしまったかのような、耐え難い羞恥心。
しかし、その羞恥心の奥には、確かに高揚感が渦巻いている。
この高揚感は、一体何なのだろう?他人に身体を見られたことに対する
嫌悪感があるはずなのに、なぜか、満たされたような、背徳的な快感がある。
まるで、責められれば責められるほど、内側から熱が湧き上がってくるかのようだ。
この感覚は、夫との関係では決して得られないものだった。
有希乃は、自分の心情に戸惑い、そして、この禁断の快感に
足を踏み入れてしまった自分自身に、言いようのない混乱と、
わずかな興奮を覚えた。
また別の日には、信二はこんな大胆な提案もしていた。
「コンビニに行く時で構いませんから、胸のラインがさりげなくわかるけれど、
決して下品には見えないような服装で出かけてみてください。
きっと、レジの店員や、すれ違う男たちの視線が、
貴女に吸い寄せられるのが分かるはずです」
数日後、夫が出張で家を空けた日の午後、有希乃は信二の言葉を思い出し、
少しだけ胸元が開いた、薄手のニットに手を伸ばした。
鏡の前で何度も角度を変えてみる。
確かに、動くたびに胸の膨らみが強調されるが、露骨な印象はないはずだ。
心臓がドキドキと早鐘を打つ。こんな格好で外出するなど、
ここ何年も考えたこともなかった。まるで、若い頃に戻ったような、
気恥ずかしさと、ほんの少しの期待感が入り混じる。
近所のコンビニへ向かう短い道のり。
有希乃は、周囲の視線に過敏になっているのを感じた。
すれ違う主婦の冷たい視線が突き刺さる一方で、若い男性店員の目が、
一瞬、彼女の胸元に吸い寄せられたのを、有希乃は確かに感じ取った。
その瞬間、彼女の心臓はさらに激しく跳ね上がり、顔が熱くなるのを感じた。
「やっぱり、見ているんだ…」。
それは、夫から久しく向けられることのなかった、
異性からの明確な視線だった。嫌悪感よりも先に、忘れかけていた、
自分がまだ「女」として認識されているという事実が、
じんわりとした喜びと共に、有希乃の心を満たしていく。
同時に、今まで隠してきた自分の魅力を、ほんの少しだけ
解放してしまったような、背徳的な高揚感も、彼女を捉えて離さなかった。
コンビニから戻った有希乃は、玄関のドアを閉めると、
すぐに壁に背を預けてずるずるとしゃがみ込んだ。
(なんてこと……!コンビニの店員に、胸を見られていたなんて……!)
自分の浅はかな行動に、激しい後悔と羞恥が襲いかかる。顔が熱い。
今すぐにでも、あの店員に謝りに行きたい衝動に駆られる。
しかし、その激しい羞恥の波の合間に、もう一つの感情が顔を出す。
それは、熱い興奮だった。心臓は未だ早鐘を打ち、身体の内側から
熱が湧き上がってくる。この、たまらないような感覚は、一体何なのだろう?
羞恥と興奮が、有希乃の体の中で混じり合い、彼女を新たな感覚の渦へと
引きずり込んでいく。
そして、有希乃の脳裏に最も鮮明に焼き付いていたのは、
あの下着の件を話した日のチャットの終わり際に、
信二が投げかけた、ある言葉だった。
「ユミさん、下着が盗られてから、室内干しにしていると言っていましたが、
もしよかったら、また庭に干してみませんか?
いえ、今度は、あえて、周りに見えるように。
そして、思い切って、普段はつけないような、少し目立つ、セクシーな下着を
干してみるのも、いいかもしれませんね」
その時のチャットのやり取りが、有希乃の心に蘇る。
信二が、さりげなく下着の話題を持ち出し、有希乃が持っている下着の種類を
告白させられたかのように感じた瞬間だ。
信二: そういえば、ユミさんの下着の話、すごく印象に残っています。
: 普段は、どんな下着を身につけているんですか?快適さ重視ですか?
: それとも、少しは、自分を飾るようなものも?
有希乃は、一瞬たじろいだ。こんなことを、チャットの相手に
話すことなどありえない。しかし、信二の穏やかな、しかし確かな問いかけに、
彼女は抗えなかった。まるで、自分の心の奥底を覗き込まれているような感覚。
ユミ: ……ほとんどが、シンプルな綿の、肌着のようなものです。
: 色は、白やベージュがほとんどですね。
そう答えた後、信二は畳みかけるように尋ねてきた。
信二: なるほど。では、普段は身につけない、けれども、
: お持ちの下着もあるんですか?
: 例えば、少し特別な、勝負下着のようなものとか?
その問いに、有希乃の胸は一瞬で締め付けられた。
信二は、まるで自分の内心を読み解くかのように、核心を突いてきた。
まさか、持ってはいるが、もう何年もタンスの奥にしまい込んだままの、
あのセクシーな下着のことだろうか?それは、夫との関係が冷え切ってから、
一度も袖を通すことのなかった、自分の中の禁断の領域だった。
ユミ: ……っ、いえ、そんなものは……。
有希乃は、咄嗟に否定しようとした。しかし、信二の言葉は、
まるで彼女の嘘を見透かすかのように、さらに深く突き刺さる。
信二: ふふ、ユミさん。そんなに焦らなくてもいいんですよ。
: 誰だって、秘密の一つや二つはあるものですから。
: 特に、女性ならば、自分の魅力を引き出すための、
: 秘められた武器を持っていることくらい、当然のことでしょう?
その言葉に、有希乃の防御は完全に崩れ去った。
「告白させられた」と感じた瞬間だった。しかし、同時に、その告白から、
有希乃の内心に、奇妙な解放感が広がったことも否定できなかった。
まるで、重い秘密を打ち明けた後のような、清々しさ。
信二は、それ以上、有希乃の「勝負下着」について深掘りしようとは
しなかった。その配慮に、有希乃はほっと胸を撫で下ろすと同時に、
彼の紳士的な態度に好意を抱いた。彼は、ただ煽るだけではない。
有希乃の心に寄り添うかのような、絶妙な距離感を保っていた。
チャットを終え、有希乃は立ち上がった。
まるで何かに引き寄せられるかのように、寝室のクローゼットへ向かう。
一番下の引き出しを静かに開ける。
そこには、数年ぶりに、かつての「勝負下着」がひっそりと眠っていた。
一番上にあったのは、深いワインレッドのレースがあしらわれた
ブラジャーとショーツのセット。柔らかなレースが肌を透かし、
繊細な刺繍が施されている。もう一枚は、漆黒のサテン生地に、
細いストラップが幾重にも交差するデザインのランジェリー。
胸元が大きく開いており、見る者を誘惑するような大胆なデザインだ。
そして、最も奥に隠されていたのは、まるで肌に溶け込むかのような
ヌードカラーのシースルーのショーツ。
股の部分には、小さなリボンの飾りがついているだけの、
究極のシンプルさがかえって大胆さを際立たせている。
有希乃は、それらの下着をそっと手に取った。ひんやりとしたレースの感触。
サテンの滑らかな手触り。どれも、今の自分には縁遠い、華やかで、
そしてどこか刺激的なものばかりだ。
「もし、これを庭に干したら……」
その言葉が、信二の口から発せられた時の甘美な誘惑が、再び有希乃の
脳裏にこだました。夫のいない夜、人目のない庭に、こんな下着が
干されている姿を想像する。誰かの視線。覗き見られる興奮。
有希乃の顔が、じわりと熱くなる。しかし、次の瞬間、理性的な自分が、
その想像を打ち消した。
「馬鹿なこと考えてる。そんなこと、できるわけない」。
でも、その一方で、心臓はまだ、激しく鼓動を続けている。
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