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「……狼?オルトロス=ランドクルース……??どこに逃げたの!?」
「ワフ!」
一瞬言葉に詰まる。
オルトロスと呼ぶと同時に吠えた狼。片足から血が吹き出していて、痛々しくて可哀想だが、横になった姿は私の体格の5人分程ある巨大さ。
魔物が急に学院に現れたのか?と思う。オルトロスの魔力は感じないから、彼は一瞬にしてこの魔物に喰われた可能性がある。
魔物は一言吠えたきり、沈黙を貫いて動かない。足に酷い怪我を負っているとはいえ、近付くと危険だと判断して、弓に対魔物用の魔術式を込めて射ろうとした瞬間に魔物がオルトロスの姿を取った。
「待て待て待て!!!待ってくれ!全く君は物騒だな。変身魔法は身体への負荷が大きいから、再使用まで時間がかかるんだ!!常識だろう」
「変身魔法……実際に使っているのは初めて見ました。普通に魔物に食べられたんだと思って、退治しようとしちゃってましたね」
「うわ、こっわ……。位置からして俺だって気付けよ。それに名前にも返事しただろう。足貫かれて動けないんだぞ、こっちは」
なんだか人の腕を切り落とそうとしていた人にドン引きされている。心外だ。
しかしこの男、私に負けたくせに口が減らない。私が彼の使う魔法について知っているわけないだろう。しかも変身魔法というのはかなり上位の魔法だ。狼の大きさからしても分かるが、使えば質量ごと変わる大魔法だと以前読んだ本にも書いてあった。
質量保存の法則を完全に無視した魔法。身体を魔力で包み込むことで実現しているらしい。使ったことはないので、どんな感覚なのかは分からないが。
「それにしても、今の俺では僅差で君には敵わないようだな。悔しいが」
「とは言っても、諦らめないんですよね?次は2番手の私も、カインも越しているって言ってましたし」
「ああ。抜いてやるさ。それと、敬語はやめないか?俺は君、アナスタシア……だと長いな。シアって呼ばせてもらう。シアの事を今回の戦いで認めたし、君も勿論俺の実力を認めてくれたんだよな?」
確かに認めはした。彼は確実に高い実力を持つ強者だ。
しかし、彼と敬語なしで接し始めたら、カインがかなり面倒くさいことになるのは目に見えていた。男とペアを組むと決まった瞬間に殺気が吹き出していたというのに、親しげに話し始めたらどうなってしまうのだろうか……。
「ハハーン!さては俺を睨んでいた男を気にしてるのか?シア、君の婚約者だったか?」
「断じて違います」
「じゃあいいじゃないか。婚約すら取り付けられないような意気地もない、情けない男よりも俺との仲を選べよ」
正確には私がカインの求愛(?)を断り続けてしまっているのだが、このオルトロスには知る由はない。なんだか誤解しているようだが、訂正も面倒なのでそのままにしておく。
「俺だったら、君をもっと高みへ連れていける。それに俺は君を欲している。俺を選べ」
視線が熱い。
確実に敬語を使わないで欲しいというだけの意味のはずだが、オルトロスの言い方も相まって口説いてきているように聞こえる。
でも一言言わせて欲しい。この人、絶対に面倒くさいタイプの人だ。自分の欲しいものは、何が何でも手に入れるという空気を感じる。カインと似たタイプだろう。
「敬語を外してくれないんだったら、今からカイン=ストレツヴェルクに『シアと俺、付き合い始めたんだ』と言って――」
「これからよろしく!オルトロス!!」
「オルト、だ」
「……オルト」
面倒くさいと感じたのが、現実になってしまった。
これ以上ややこしくなりそうな気配に、私は早々に考えることを放棄した。何故私の周りには厄介な性格の人ばかりが集まってくるのだろうか……。
「ワフ!」
一瞬言葉に詰まる。
オルトロスと呼ぶと同時に吠えた狼。片足から血が吹き出していて、痛々しくて可哀想だが、横になった姿は私の体格の5人分程ある巨大さ。
魔物が急に学院に現れたのか?と思う。オルトロスの魔力は感じないから、彼は一瞬にしてこの魔物に喰われた可能性がある。
魔物は一言吠えたきり、沈黙を貫いて動かない。足に酷い怪我を負っているとはいえ、近付くと危険だと判断して、弓に対魔物用の魔術式を込めて射ろうとした瞬間に魔物がオルトロスの姿を取った。
「待て待て待て!!!待ってくれ!全く君は物騒だな。変身魔法は身体への負荷が大きいから、再使用まで時間がかかるんだ!!常識だろう」
「変身魔法……実際に使っているのは初めて見ました。普通に魔物に食べられたんだと思って、退治しようとしちゃってましたね」
「うわ、こっわ……。位置からして俺だって気付けよ。それに名前にも返事しただろう。足貫かれて動けないんだぞ、こっちは」
なんだか人の腕を切り落とそうとしていた人にドン引きされている。心外だ。
しかしこの男、私に負けたくせに口が減らない。私が彼の使う魔法について知っているわけないだろう。しかも変身魔法というのはかなり上位の魔法だ。狼の大きさからしても分かるが、使えば質量ごと変わる大魔法だと以前読んだ本にも書いてあった。
質量保存の法則を完全に無視した魔法。身体を魔力で包み込むことで実現しているらしい。使ったことはないので、どんな感覚なのかは分からないが。
「それにしても、今の俺では僅差で君には敵わないようだな。悔しいが」
「とは言っても、諦らめないんですよね?次は2番手の私も、カインも越しているって言ってましたし」
「ああ。抜いてやるさ。それと、敬語はやめないか?俺は君、アナスタシア……だと長いな。シアって呼ばせてもらう。シアの事を今回の戦いで認めたし、君も勿論俺の実力を認めてくれたんだよな?」
確かに認めはした。彼は確実に高い実力を持つ強者だ。
しかし、彼と敬語なしで接し始めたら、カインがかなり面倒くさいことになるのは目に見えていた。男とペアを組むと決まった瞬間に殺気が吹き出していたというのに、親しげに話し始めたらどうなってしまうのだろうか……。
「ハハーン!さては俺を睨んでいた男を気にしてるのか?シア、君の婚約者だったか?」
「断じて違います」
「じゃあいいじゃないか。婚約すら取り付けられないような意気地もない、情けない男よりも俺との仲を選べよ」
正確には私がカインの求愛(?)を断り続けてしまっているのだが、このオルトロスには知る由はない。なんだか誤解しているようだが、訂正も面倒なのでそのままにしておく。
「俺だったら、君をもっと高みへ連れていける。それに俺は君を欲している。俺を選べ」
視線が熱い。
確実に敬語を使わないで欲しいというだけの意味のはずだが、オルトロスの言い方も相まって口説いてきているように聞こえる。
でも一言言わせて欲しい。この人、絶対に面倒くさいタイプの人だ。自分の欲しいものは、何が何でも手に入れるという空気を感じる。カインと似たタイプだろう。
「敬語を外してくれないんだったら、今からカイン=ストレツヴェルクに『シアと俺、付き合い始めたんだ』と言って――」
「これからよろしく!オルトロス!!」
「オルト、だ」
「……オルト」
面倒くさいと感じたのが、現実になってしまった。
これ以上ややこしくなりそうな気配に、私は早々に考えることを放棄した。何故私の周りには厄介な性格の人ばかりが集まってくるのだろうか……。
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