『10年隠した執着愛。元婚約者に捨てられた私は、ハイスペ同級生の甘い檻で二度と逃げられないほど塗り潰される』

小木楓

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第8話-1 【牽制】高級外車とキスと、格の違い

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翌朝。 

胃の奥に鉛を詰め込まれたような重苦しい気分で、私は玄関のドアを開けた。 手

足が冷たい。元カレに会う。その事実だけで、身体が拒絶反応を起こして震えてしまう。

「……よし。行かなきゃ」

自分を奮い立たせ、駅に向かおうとエレベーターホールへ歩き出した時だ。

「おい。どこ行く気だよ」 「え?」

背後から声をかけられ、振り返ると、パリッとしたスーツにサングラスをかけた蒼が立っていた。 

手には車のキーがジャラリと鳴っている。

「こっち。地下の駐車場」 「あ、うん……」

言われるがままについて行き、薄暗い地下駐車場の一角にたどり着いた私は、あんぐりと口を開けた。

「……え」

そこには、威圧感たっぷりの黒塗りの車が鎮座していた。 

私は車には詳し

くないけれど、フロントにあるエンブレムと、その巨大なボディ、ピカピカに磨き上げられた光沢だけで分かった。 これは、めちゃくちゃ高いやつだ。

「げ、外車……? しかもGクラスってやつ……?」

元カレが車好きで、「いつかGクラスに乗りてぇ」と雑誌を見て言っていたのを思い出す。

 まさか、実物をこんな間近で見ることになるなんて。

「車で行くの!?」 

「当たり前だろ。お前、電車で泣きっ面晒すつもりかよ」

私が裏返った声で驚くと、蒼はサングラスを少しずらし、ニヤリと悪戯っぽく笑った。

「それに、ドライブデートには最高の天気だしな」 

「デートって……これから修羅場なんですけど!?」

私の抗議もどこ吹く風。

 蒼は慣れた手つきで助手席のドアを開け、大げさに片手を差し出した。

「さぁどうぞ? お姫様」

 「……からかわないでよぉ」

恥ずかしさと戸惑いで頬を膨らませながら、私は高いシートに乗り込む。 

重厚なドアが閉まり、車内は静寂と、高級な革の匂いに包まれた。

(……すごい。別世界だ)

座り心地の良いシートに身体を沈めながら、ふと胸の奥がチクリと痛んだ。 

この助手席。 今まで、誰が乗っていたんだろう。

(……やっぱり、あの「本命の人」も、ここに乗せたのかな)

聞きたい。 「この席、誰の指定席なの?」って。

 でも、聞けない。 もし「お前以外の誰か」の名前が出てきたら、私はもう笑っていられないから。

--------------------------------------------------------------------

車は滑るように都内を走り、あっという間に待ち合わせ場所のカフェがある大通りに到着した。

窓の外を見ると、オープンテラスの席に、見覚えのある背中があった。

 元カレだ。貧乏ゆすりをしながら、スマホをいじっている。

「……いた」 

「あいつか」

蒼の声のトーンが、スッと低くなる。 

彼は路肩にスムーズに車を寄せると、エンジンを切る前に車を降りた。 

そして、わざわざ助手席側に回り込み、私のドアを開けてくれる。

「ほら、降りろ」 「あ、ありがとう……」

私が車から降り立った瞬間、カフェのテラスにいた元カレと目が合った。

「……は?」

元カレの目が点になっているのが、ここからでも分かった。

 無理もない。

 待ち合わせに現れた元カノが、見たこともない高級外車から、モデルのようなスーツの男にエスコートされて降りてきたのだから。 

彼は口をパクパクさせて、目を白黒させている。

(……なんか、ちょっとスッとしたかも)

蒼の圧倒的なオーラのおかげで、萎縮していた心が少しだけ強くなるのを感じた。

「俺、あっちの駐車場に停めてくるから。先に話してな」 

「うん。わかった」

私は頷き、意を決して元カレの方へ向き直ろうとした。 その時だ。

「あ、そうだ萌」 「え?」

振り返った私の後頭部に、蒼の大きな手が添えられた。 次の瞬間。

チュッ。

「――ッ!?」

私のつむじのあたりに、熱い感触が押し当てられた。 

キスだ。

 しかも、軽く触れるようなものではない。 「こいつは俺のものだ」と主張するかのような、重く、長い口づけ。

大通りの人混み。カフェの客。 そして何より、目の前で凝視している元カレ。

 全員が見ている前での、堂々たる「所有宣言」。

「あ、あ、蒼……っ!?」

カァァァッ!! と顔から火が出る。 

パニックになって見上げると、蒼は元カレの方を一瞬だけ冷ややかな目で見下し、それから私に向かって、とろけるような甘い微笑みを向けた。

「すぐ行くから。……頑張れよ」

 「ぅ、うん……っ」 

「待ってる」

ポン、と頭を撫でると、彼は颯爽と運転席に戻り、重低音を響かせて車を発進させた。

残された私は、心臓が爆発しそうなまま、呆然と立ち尽くす。

 今の、何? ドライブデート? 待ってる? これじゃまるで、本当に私のことが好きみたいじゃない――。

いや、違う。これは彼の演技だ。 私を惨めにさせないための、最大級の援護射撃なんだ。

(……ありがとう、蒼)

熱くなった頬を両手で叩き、私は深呼吸をした。 今の私には、最強の味方がついている。 もう怖くない。

私は背筋を伸ばし、顔面蒼白になっている元カレの元へと、一歩を踏み出した。
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