『10年隠した執着愛。元婚約者に捨てられた私は、ハイスペ同級生の甘い檻で二度と逃げられないほど塗り潰される』

小木楓

文字の大きさ
17 / 26

第8話-2 【決着】「俺も毎日、萌がいてくれて幸せなんで」

しおりを挟む
「……萌。あいつ、今の誰?」

カフェの席に着くや否や、元カレが開口一番に吐き捨てたのは、謝罪でも挨拶でもなく、嫉妬混じりの不機嫌な問いだった。 貧乏ゆすりでガタガタと揺れるテーブル。

 目の前の男が、急にちっぽけに見えた。

(……私、なんでこんな人のために泣いてたんだろう)

数日前まであれほど引きずっていた未練が、スーッと冷えていくのが分かる。

「……誰でもいいでしょ。それより、毎回電話してきて何の用? 私もう鍵も返したよね?」

 「チッ……。鍵とかどうでもいいんだよ」

彼は苛ただしげにアイスコーヒーのストローを噛むと、急に猫なで声を出して身を乗り出した。

「萌。俺さ、やっぱお前のがいいなって分かったんだよ」

 「は?」

 「あいつ、若いだけで気が利かねぇし、料理もできねぇし。やっぱ俺のこと一番分かってんのは萌だなって。……な?」

ニヤリと歪んだその笑顔。 

『こう言えば喜んで戻ってくるだろう』という透けて見える打算と、私を家政婦扱いしていた頃と変わらない傲慢さ。 それが決定打だった。

「……私たち、もう終わったよね」

私は彼の目を真っ直ぐに見据え、きっぱりと告げた。

「都合のいい時だけ思い出さないで。私、もうあなたとは無理」

席を立ち、背を向ける。 その瞬間、ガタリ! と椅子が倒れる音がした。

「はぁ!? 待てよ! 戻ってこないのかよ!?」 

「っ!」 

「俺たち4年も付き合ってたんだぞ!? その情とかねぇのかよ!」

どの口がそれを言うの。

 4年の情を裏切って、若い子に走ったのはどっちよ。 

喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込み、「もう、いい?」と歩き出そうとした時だ。

「行くなよ!」

ガシッ!! 二の腕を強い力で掴まれ、強引に引き戻される。

「痛っ……!」 「話は終わってねぇぞ! お前、俺を捨ててあんな男のところに……」

その時。 私の視界に、頼もしい影がスッと割って入った。

「――お話中、失礼」

低く、けれど凍りつくような威圧感を纏った声。

「あ、蒼……?」

蒼は私の腕を掴んでいる元カレの手首を、無言で、しかしすごい力で握りしめた。

「い、ててて……っ!」 元カレが悲鳴を上げて手を離す。

 その隙に、蒼は私の肩を抱き寄せ、優しく自分の背中へと匿った。

「悪いけど、触んないでもらえるかな」

蒼は氷のような冷ややかな瞳で元カレを見下ろし、淡々と言い放つ。

「こいつ、今、俺と付き合ってるから」

「は、はぁ……!?」

元カレが呆気にとられたように口を開く。 

その隙を逃さず、蒼はさらに言葉を畳み掛けた。口調は丁寧だが、その内容は残酷なほど鋭利だ。

「確か、そちらにもお付き合いされている方がいるんですよね? 新入社員の、お若い女性と」 

「な、なんでそれを……」 

「お互い、今のパートナーを大事にしましょうよ」

蒼は私の肩を抱く手に力を込め、元カレに見せつけるように、愛おしげに私を見つめた。 そして、フッと優しく目を細める。

「俺も……毎日、萌がいてくれて幸せなんで」

「――ッ!!」

その言葉が、私の心臓をドクンと撃ち抜いた。

 演技だ。これは演技だ。

 分かっているのに。 その声があまりにも温かくて、本心のように聞こえてしまって。

「じゃ、失礼します」 「っ、くそ……!」

顔を真っ赤にして言葉を失う元カレを置き去りにして、蒼は私の手を取り、歩き出した。 

 蒼の指が、私の指の間に滑り込み、ぎゅっと深く絡み合う「恋人繋ぎ」に変わったのだ。

「あ、蒼……」 

「前向け。堂々としてろ」

耳元で囁かれ、私は彼に引かれるままに歩き出す。

 背後で元カレが何か喚いているかもしれないけれど、もう何も聞こえない。 

大きな手に包まれている安心感と、彼の体温。 そして、さっきの言葉が頭の中で反響して離れない。

『毎日、萌がいてくれて幸せなんで』

(……ずるいよ、蒼)

もしこれが全部嘘なら、あなたは世界一の詐欺師だ。

 でも、繋がれた手のひらが少しだけ汗ばんでいて、彼も緊張していることが伝わってきて……。

私の胸の鼓動は、もう痛いくらいに高鳴っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

その令嬢は祈りを捧げる

ユウキ
恋愛
エイディアーナは生まれてすぐに決められた婚約者がいる。婚約者である第一王子とは、激しい情熱こそないが、穏やかな関係を築いていた。このまま何事もなければ卒業後に結婚となる筈だったのだが、学園入学して2年目に事態は急変する。 エイディアーナは、その心中を神への祈りと共に吐露するのだった。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです

有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。 けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。 助けた騎士は、王の右腕。 見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。 王城で評価され、居場所を得ていく私。 その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。 「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。 選ばれるのを待つ時代は、終わった。

僕の我儘で傲慢な婚約者

雨野千潤
恋愛
僕の婚約者は我儘で傲慢だ。 一日に一度は「わたくしに五分…いいえ三分でいいから時間を頂戴」と僕の執務室に乗り込んでくる。 大事な話かと思えばどうでも良さそうなくだらない話。 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

危ない愛人を持つあなたが王太子でいられるのは、私のおかげです。裏切るのなら容赦しません。

Hibah
恋愛
エリザベスは王妃教育を経て、正式に王太子妃となった。夫である第一王子クリフォードと初めて対面したとき「僕には好きな人がいる。君を王太子妃として迎えるが、僕の生活には極力関わらないでくれ」と告げられる。しかしクリフォードが好きな人というのは、平民だった。もしこの事実が公になれば、クリフォードは廃太子となり、エリザベスは王太子妃でいられなくなってしまう。エリザベスは自分の立場を守るため、平民の愛人を持つ夫の密会を見守るようになる……。

(完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?

青空一夏
恋愛
 私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。  私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・  これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。  ※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。  ※途中タグの追加や削除もありえます。  ※表紙は青空作成AIイラストです。

処理中です...