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第8話-2 【決着】「俺も毎日、萌がいてくれて幸せなんで」
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「……萌。あいつ、今の誰?」
カフェの席に着くや否や、元カレが開口一番に吐き捨てたのは、謝罪でも挨拶でもなく、嫉妬混じりの不機嫌な問いだった。 貧乏ゆすりでガタガタと揺れるテーブル。
目の前の男が、急にちっぽけに見えた。
(……私、なんでこんな人のために泣いてたんだろう)
数日前まであれほど引きずっていた未練が、スーッと冷えていくのが分かる。
「……誰でもいいでしょ。それより、毎回電話してきて何の用? 私もう鍵も返したよね?」
「チッ……。鍵とかどうでもいいんだよ」
彼は苛ただしげにアイスコーヒーのストローを噛むと、急に猫なで声を出して身を乗り出した。
「萌。俺さ、やっぱお前のがいいなって分かったんだよ」
「は?」
「あいつ、若いだけで気が利かねぇし、料理もできねぇし。やっぱ俺のこと一番分かってんのは萌だなって。……な?」
ニヤリと歪んだその笑顔。
『こう言えば喜んで戻ってくるだろう』という透けて見える打算と、私を家政婦扱いしていた頃と変わらない傲慢さ。 それが決定打だった。
「……私たち、もう終わったよね」
私は彼の目を真っ直ぐに見据え、きっぱりと告げた。
「都合のいい時だけ思い出さないで。私、もうあなたとは無理」
席を立ち、背を向ける。 その瞬間、ガタリ! と椅子が倒れる音がした。
「はぁ!? 待てよ! 戻ってこないのかよ!?」
「っ!」
「俺たち4年も付き合ってたんだぞ!? その情とかねぇのかよ!」
どの口がそれを言うの。
4年の情を裏切って、若い子に走ったのはどっちよ。
喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込み、「もう、いい?」と歩き出そうとした時だ。
「行くなよ!」
ガシッ!! 二の腕を強い力で掴まれ、強引に引き戻される。
「痛っ……!」 「話は終わってねぇぞ! お前、俺を捨ててあんな男のところに……」
その時。 私の視界に、頼もしい影がスッと割って入った。
「――お話中、失礼」
低く、けれど凍りつくような威圧感を纏った声。
「あ、蒼……?」
蒼は私の腕を掴んでいる元カレの手首を、無言で、しかしすごい力で握りしめた。
「い、ててて……っ!」 元カレが悲鳴を上げて手を離す。
その隙に、蒼は私の肩を抱き寄せ、優しく自分の背中へと匿った。
「悪いけど、触んないでもらえるかな」
蒼は氷のような冷ややかな瞳で元カレを見下ろし、淡々と言い放つ。
「こいつ、今、俺と付き合ってるから」
「は、はぁ……!?」
元カレが呆気にとられたように口を開く。
その隙を逃さず、蒼はさらに言葉を畳み掛けた。口調は丁寧だが、その内容は残酷なほど鋭利だ。
「確か、そちらにもお付き合いされている方がいるんですよね? 新入社員の、お若い女性と」
「な、なんでそれを……」
「お互い、今のパートナーを大事にしましょうよ」
蒼は私の肩を抱く手に力を込め、元カレに見せつけるように、愛おしげに私を見つめた。 そして、フッと優しく目を細める。
「俺も……毎日、萌がいてくれて幸せなんで」
「――ッ!!」
その言葉が、私の心臓をドクンと撃ち抜いた。
演技だ。これは演技だ。
分かっているのに。 その声があまりにも温かくて、本心のように聞こえてしまって。
「じゃ、失礼します」 「っ、くそ……!」
顔を真っ赤にして言葉を失う元カレを置き去りにして、蒼は私の手を取り、歩き出した。
蒼の指が、私の指の間に滑り込み、ぎゅっと深く絡み合う「恋人繋ぎ」に変わったのだ。
「あ、蒼……」
「前向け。堂々としてろ」
耳元で囁かれ、私は彼に引かれるままに歩き出す。
背後で元カレが何か喚いているかもしれないけれど、もう何も聞こえない。
大きな手に包まれている安心感と、彼の体温。 そして、さっきの言葉が頭の中で反響して離れない。
『毎日、萌がいてくれて幸せなんで』
(……ずるいよ、蒼)
もしこれが全部嘘なら、あなたは世界一の詐欺師だ。
でも、繋がれた手のひらが少しだけ汗ばんでいて、彼も緊張していることが伝わってきて……。
私の胸の鼓動は、もう痛いくらいに高鳴っていた。
カフェの席に着くや否や、元カレが開口一番に吐き捨てたのは、謝罪でも挨拶でもなく、嫉妬混じりの不機嫌な問いだった。 貧乏ゆすりでガタガタと揺れるテーブル。
目の前の男が、急にちっぽけに見えた。
(……私、なんでこんな人のために泣いてたんだろう)
数日前まであれほど引きずっていた未練が、スーッと冷えていくのが分かる。
「……誰でもいいでしょ。それより、毎回電話してきて何の用? 私もう鍵も返したよね?」
「チッ……。鍵とかどうでもいいんだよ」
彼は苛ただしげにアイスコーヒーのストローを噛むと、急に猫なで声を出して身を乗り出した。
「萌。俺さ、やっぱお前のがいいなって分かったんだよ」
「は?」
「あいつ、若いだけで気が利かねぇし、料理もできねぇし。やっぱ俺のこと一番分かってんのは萌だなって。……な?」
ニヤリと歪んだその笑顔。
『こう言えば喜んで戻ってくるだろう』という透けて見える打算と、私を家政婦扱いしていた頃と変わらない傲慢さ。 それが決定打だった。
「……私たち、もう終わったよね」
私は彼の目を真っ直ぐに見据え、きっぱりと告げた。
「都合のいい時だけ思い出さないで。私、もうあなたとは無理」
席を立ち、背を向ける。 その瞬間、ガタリ! と椅子が倒れる音がした。
「はぁ!? 待てよ! 戻ってこないのかよ!?」
「っ!」
「俺たち4年も付き合ってたんだぞ!? その情とかねぇのかよ!」
どの口がそれを言うの。
4年の情を裏切って、若い子に走ったのはどっちよ。
喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込み、「もう、いい?」と歩き出そうとした時だ。
「行くなよ!」
ガシッ!! 二の腕を強い力で掴まれ、強引に引き戻される。
「痛っ……!」 「話は終わってねぇぞ! お前、俺を捨ててあんな男のところに……」
その時。 私の視界に、頼もしい影がスッと割って入った。
「――お話中、失礼」
低く、けれど凍りつくような威圧感を纏った声。
「あ、蒼……?」
蒼は私の腕を掴んでいる元カレの手首を、無言で、しかしすごい力で握りしめた。
「い、ててて……っ!」 元カレが悲鳴を上げて手を離す。
その隙に、蒼は私の肩を抱き寄せ、優しく自分の背中へと匿った。
「悪いけど、触んないでもらえるかな」
蒼は氷のような冷ややかな瞳で元カレを見下ろし、淡々と言い放つ。
「こいつ、今、俺と付き合ってるから」
「は、はぁ……!?」
元カレが呆気にとられたように口を開く。
その隙を逃さず、蒼はさらに言葉を畳み掛けた。口調は丁寧だが、その内容は残酷なほど鋭利だ。
「確か、そちらにもお付き合いされている方がいるんですよね? 新入社員の、お若い女性と」
「な、なんでそれを……」
「お互い、今のパートナーを大事にしましょうよ」
蒼は私の肩を抱く手に力を込め、元カレに見せつけるように、愛おしげに私を見つめた。 そして、フッと優しく目を細める。
「俺も……毎日、萌がいてくれて幸せなんで」
「――ッ!!」
その言葉が、私の心臓をドクンと撃ち抜いた。
演技だ。これは演技だ。
分かっているのに。 その声があまりにも温かくて、本心のように聞こえてしまって。
「じゃ、失礼します」 「っ、くそ……!」
顔を真っ赤にして言葉を失う元カレを置き去りにして、蒼は私の手を取り、歩き出した。
蒼の指が、私の指の間に滑り込み、ぎゅっと深く絡み合う「恋人繋ぎ」に変わったのだ。
「あ、蒼……」
「前向け。堂々としてろ」
耳元で囁かれ、私は彼に引かれるままに歩き出す。
背後で元カレが何か喚いているかもしれないけれど、もう何も聞こえない。
大きな手に包まれている安心感と、彼の体温。 そして、さっきの言葉が頭の中で反響して離れない。
『毎日、萌がいてくれて幸せなんで』
(……ずるいよ、蒼)
もしこれが全部嘘なら、あなたは世界一の詐欺師だ。
でも、繋がれた手のひらが少しだけ汗ばんでいて、彼も緊張していることが伝わってきて……。
私の胸の鼓動は、もう痛いくらいに高鳴っていた。
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