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第9話-1 【涙の訴え】「好きな人、いるんでしょ……?」
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「ただいま」
重厚なドアが閉まり、電子ロックがかかる音が響く。
外界と遮断された静かな玄関で、私の張り詰めていた糸が、プツリと切れた。
「……っ」
終わった。 元カレとの関係も。
そして、蒼との「夢のようなデート」も。
ここからはまた、ただの同居人だ。 そう思うと、堪えていたものが一気に込み上げてきて、視界が歪んだ。
「……萌」
蒼が靴を脱ぎ、私の前に立つ。
彼は大きな手で、私の頭をポンポンと優しく撫でた。
「よく出来ました。……頑張ったな」 「あ……」 「涙、我慢しなくていいぞ。辛かったら泣けばいい」
蒼の顔が近づき、その親指が私の目尻に浮かんだ涙をそっと拭う。
その瞳は、痛いくらいに慈愛に満ちていて。
(……ちがう)
蒼は勘違いしている。
私が泣きそうなのは、元カレと別れて辛いからじゃない。
これから先、あなたを好きでい続けることが、あまりにも辛いからだ。
「……う、うぅ……っ」
優しくされればされるほど、惨めになる。
この優しさは、私に向けられたものじゃない。
彼の中にある「10年想い続けている本命」への愛情のおこぼれなんだ。
そう思うと、胸が引き裂かれそうで、涙が止めどなく溢れ出した。
「おいおい、そんなに泣くなよ……」
悲しそうな顔をした蒼が、そっと私を引き寄せ、その広い胸の中に閉じ込める。
鼻をくすぐるムスクの香り。
トクトクと聞こえる、落ち着いた心臓の音。
温かい。泣きたくなるほど、温かい。
(あぁ……好き。大好き……)
この腕の中にずっといたい。
でも、ここは私の居場所じゃない。
「……うっ……ぐすっ……」
しゃくりあげる背中を、蒼の大きな手が一定のリズムで撫でてくれる。
その残酷な優しさに、私の理性が限界を迎えた。
聞かなきゃ。 聞いて、傷ついて、終わらせなきゃ。
そうしないと、私は一生、この心地よいぬるま湯の中で、あなたへの叶わない恋に殺されてしまう。
私は彼のシャツを握りしめ、胸に顔を埋めたまま、震える声でその言葉を吐き出した。
「……蒼、」
「ん?」
「……すきなひと、いる……んでしょ、っ」
「――――」
撫でてくれていた彼の手が、ピタリと止まった。
玄関ホールに、重苦しい静寂が落ちる。 換気扇の回る音さえ聞こえそうなほどの、空白の時間。
(……こわい)
否定してほしい。 「そんなのいねーよ」って笑い飛ばしてほしい。
でも、もし「ああ、いるよ」って言われたら?
身体の震えが止まらない。 答えを聞くのが怖くて、顔を上げることもできない。
私は逃げるように、縋るように、無意識に彼の胸板に自分の身体をさらに押し付け、小さく丸まった。
お願い。 このまま時が止まってしまえばいいのに――。
重厚なドアが閉まり、電子ロックがかかる音が響く。
外界と遮断された静かな玄関で、私の張り詰めていた糸が、プツリと切れた。
「……っ」
終わった。 元カレとの関係も。
そして、蒼との「夢のようなデート」も。
ここからはまた、ただの同居人だ。 そう思うと、堪えていたものが一気に込み上げてきて、視界が歪んだ。
「……萌」
蒼が靴を脱ぎ、私の前に立つ。
彼は大きな手で、私の頭をポンポンと優しく撫でた。
「よく出来ました。……頑張ったな」 「あ……」 「涙、我慢しなくていいぞ。辛かったら泣けばいい」
蒼の顔が近づき、その親指が私の目尻に浮かんだ涙をそっと拭う。
その瞳は、痛いくらいに慈愛に満ちていて。
(……ちがう)
蒼は勘違いしている。
私が泣きそうなのは、元カレと別れて辛いからじゃない。
これから先、あなたを好きでい続けることが、あまりにも辛いからだ。
「……う、うぅ……っ」
優しくされればされるほど、惨めになる。
この優しさは、私に向けられたものじゃない。
彼の中にある「10年想い続けている本命」への愛情のおこぼれなんだ。
そう思うと、胸が引き裂かれそうで、涙が止めどなく溢れ出した。
「おいおい、そんなに泣くなよ……」
悲しそうな顔をした蒼が、そっと私を引き寄せ、その広い胸の中に閉じ込める。
鼻をくすぐるムスクの香り。
トクトクと聞こえる、落ち着いた心臓の音。
温かい。泣きたくなるほど、温かい。
(あぁ……好き。大好き……)
この腕の中にずっといたい。
でも、ここは私の居場所じゃない。
「……うっ……ぐすっ……」
しゃくりあげる背中を、蒼の大きな手が一定のリズムで撫でてくれる。
その残酷な優しさに、私の理性が限界を迎えた。
聞かなきゃ。 聞いて、傷ついて、終わらせなきゃ。
そうしないと、私は一生、この心地よいぬるま湯の中で、あなたへの叶わない恋に殺されてしまう。
私は彼のシャツを握りしめ、胸に顔を埋めたまま、震える声でその言葉を吐き出した。
「……蒼、」
「ん?」
「……すきなひと、いる……んでしょ、っ」
「――――」
撫でてくれていた彼の手が、ピタリと止まった。
玄関ホールに、重苦しい静寂が落ちる。 換気扇の回る音さえ聞こえそうなほどの、空白の時間。
(……こわい)
否定してほしい。 「そんなのいねーよ」って笑い飛ばしてほしい。
でも、もし「ああ、いるよ」って言われたら?
身体の震えが止まらない。 答えを聞くのが怖くて、顔を上げることもできない。
私は逃げるように、縋るように、無意識に彼の胸板に自分の身体をさらに押し付け、小さく丸まった。
お願い。 このまま時が止まってしまえばいいのに――。
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