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第10話-2 【甘い朝と、招かれざる着信】
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カチャ、カチャ……。
食器が触れ合う軽やかな音が、朝のリビングに響く。
いつもの朝食の風景。でも、空気感だけが昨日までとは決定的に違っていた。
「……」
私はトーストを齧りながら、目の前の蒼を直視できずにいた。
視線を合わせようとすると、昨夜の記憶が奔流のように押し寄せてくるからだ。
『好きだ……。萌、こっち見ろ』
『恥ずかしがんなくていい。全部可愛いから』
耳元で何度も囁かれた、熱烈な愛の言葉。
10年分の想いが込められたその行為は、私の想像を遥かに超えて濃厚で、甘くて……。
思い出して身悶えしそうになるのを、コーヒーで無理やり流し込む。
(あんなこと……本当に私たちが……?)
思い出してカァァッと顔を赤くして下を向くと、向かい側から「フッ」と含み笑いが聞こえた。
「……何だよ」 「っ!?」
顔を上げると、コーヒーカップを片手に持った蒼が、口の端をニヤリと吊り上げて私を見ていた。
その表情は、満足した猫のように艶っぽく、そして意地悪だ。
「そんなに昨日のこと思い出してんの? 顔、真っ赤だぞ」
「ち、ちがっ……! コーヒーが熱かっただけ!」
「へぇ……」
蒼が立ち上がり、ゆっくりと私の方へ歩いてくる。
逃げようとする間もなく、背後からふわりと抱きすくめられた。
「あ、蒼……っ」
「嘘つけ。身体、こんなに熱いのに」
耳元に唇が触れる。
大きな手が私のお腹の前で組まれ、背中全体に彼の体温が伝わってくる。
その安心感とときめきに、私は抗うことができず、彼の腕に身体を預けた。
「……萌」
甘く、低い囁きが鼓膜をくすぐる。
「今晩も……続き、しような?」
「ッ~~!!?」
昨夜あれだけ乱れて、まだ身体の芯が痺れているのに、また!?
彼の底なしの体力と執着愛に、私のキャパシティはもう限界寸前だ。
「む、無理……っ」
「何が?」
「心臓が……もたないよぉ……」
情けない声で訴えると、蒼は喉を鳴らして楽しそうに笑い、私の首筋にチュッとキスマークを上書きした。
「大丈夫だろ。……俺が何度でも生き返らせてやるから」
その殺し文句に、私は完全に降伏するしかなかった。
幸せすぎて、怖い。 このままずっと、この温かい腕の中に閉じ込められていたい。
そう思っていた、その夜のことだった。
---------------------------------------------------------------
夕食後、ソファで二人寄り添いながら映画を見ていた時。
ブーッ、ブーッ、ブーッ……。
テーブルの上で、私のスマホが無機質な音を立てて震え出した。
画面に表示された名前を見た瞬間、私の背筋が凍りついた。
『元カレ』
まだかけてくるの?あれだけ蒼に牽制されたのに?
「……あいつか」
私の肩を抱いていた蒼の手が、ピクリと止まる。
彼が画面を横目で確認した瞬間、その瞳から「甘さ」が一瞬で消え去り、射殺すような鋭い光が宿った。
「しつこいな。……出る必要ねぇよ」
「う、うん……」
無視しようとした。 けれど、着信が切れた直後、今度はメッセージの通知が連投で画面を埋め尽くした。
『今、お前の家の近くにいる』
『話がある。降りてこい』
『あの男のことだろ? 騙されてるぞ』
「……家の近く、って……」
恐怖で血の気が引く。
ここはオートロックのタワマンだけど、もしエントランスの前で待ち伏せされていたら?
蒼がスッと立ち上がり、窓の外――眼下に広がる夜の通りを見下ろした。
そして、小さく舌打ちをして、振り返る。
「……行こうか」
「え?」
「諦めの悪いバカには、現実(じごく)を見せてやらないとな」
蒼の口元が、冷酷で、それでいて最高に楽しそうに歪んだ。
その笑顔は、私を抱く時の優しい彼とは違う。
獲物を追い詰める、加虐心に満ちた「絶対強者」の顔だった。
食器が触れ合う軽やかな音が、朝のリビングに響く。
いつもの朝食の風景。でも、空気感だけが昨日までとは決定的に違っていた。
「……」
私はトーストを齧りながら、目の前の蒼を直視できずにいた。
視線を合わせようとすると、昨夜の記憶が奔流のように押し寄せてくるからだ。
『好きだ……。萌、こっち見ろ』
『恥ずかしがんなくていい。全部可愛いから』
耳元で何度も囁かれた、熱烈な愛の言葉。
10年分の想いが込められたその行為は、私の想像を遥かに超えて濃厚で、甘くて……。
思い出して身悶えしそうになるのを、コーヒーで無理やり流し込む。
(あんなこと……本当に私たちが……?)
思い出してカァァッと顔を赤くして下を向くと、向かい側から「フッ」と含み笑いが聞こえた。
「……何だよ」 「っ!?」
顔を上げると、コーヒーカップを片手に持った蒼が、口の端をニヤリと吊り上げて私を見ていた。
その表情は、満足した猫のように艶っぽく、そして意地悪だ。
「そんなに昨日のこと思い出してんの? 顔、真っ赤だぞ」
「ち、ちがっ……! コーヒーが熱かっただけ!」
「へぇ……」
蒼が立ち上がり、ゆっくりと私の方へ歩いてくる。
逃げようとする間もなく、背後からふわりと抱きすくめられた。
「あ、蒼……っ」
「嘘つけ。身体、こんなに熱いのに」
耳元に唇が触れる。
大きな手が私のお腹の前で組まれ、背中全体に彼の体温が伝わってくる。
その安心感とときめきに、私は抗うことができず、彼の腕に身体を預けた。
「……萌」
甘く、低い囁きが鼓膜をくすぐる。
「今晩も……続き、しような?」
「ッ~~!!?」
昨夜あれだけ乱れて、まだ身体の芯が痺れているのに、また!?
彼の底なしの体力と執着愛に、私のキャパシティはもう限界寸前だ。
「む、無理……っ」
「何が?」
「心臓が……もたないよぉ……」
情けない声で訴えると、蒼は喉を鳴らして楽しそうに笑い、私の首筋にチュッとキスマークを上書きした。
「大丈夫だろ。……俺が何度でも生き返らせてやるから」
その殺し文句に、私は完全に降伏するしかなかった。
幸せすぎて、怖い。 このままずっと、この温かい腕の中に閉じ込められていたい。
そう思っていた、その夜のことだった。
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夕食後、ソファで二人寄り添いながら映画を見ていた時。
ブーッ、ブーッ、ブーッ……。
テーブルの上で、私のスマホが無機質な音を立てて震え出した。
画面に表示された名前を見た瞬間、私の背筋が凍りついた。
『元カレ』
まだかけてくるの?あれだけ蒼に牽制されたのに?
「……あいつか」
私の肩を抱いていた蒼の手が、ピクリと止まる。
彼が画面を横目で確認した瞬間、その瞳から「甘さ」が一瞬で消え去り、射殺すような鋭い光が宿った。
「しつこいな。……出る必要ねぇよ」
「う、うん……」
無視しようとした。 けれど、着信が切れた直後、今度はメッセージの通知が連投で画面を埋め尽くした。
『今、お前の家の近くにいる』
『話がある。降りてこい』
『あの男のことだろ? 騙されてるぞ』
「……家の近く、って……」
恐怖で血の気が引く。
ここはオートロックのタワマンだけど、もしエントランスの前で待ち伏せされていたら?
蒼がスッと立ち上がり、窓の外――眼下に広がる夜の通りを見下ろした。
そして、小さく舌打ちをして、振り返る。
「……行こうか」
「え?」
「諦めの悪いバカには、現実(じごく)を見せてやらないとな」
蒼の口元が、冷酷で、それでいて最高に楽しそうに歪んだ。
その笑顔は、私を抱く時の優しい彼とは違う。
獲物を追い詰める、加虐心に満ちた「絶対強者」の顔だった。
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