キスだけの契約だったのに。幼馴染に美味しく食べられて、溺愛されています

小木楓

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第一章 18歳 キスで補給

第2話 幼馴染が欲しくて欲しくて仕方ない

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「……冗談は……やめてよ、お母さん」

奈々は震える声で絞り出した。

視界の端が赤く明滅し、思考がまとまらない。 

けれど、リリアは真剣そのものの表情で、娘の火照った頬に冷たい指先を添えた。

「冗談じゃないわ。この渇きは、あなたの精神力だけでどうにかなるものじゃないの。……もし、今好きな人がいないなら、ユウ君にお願いするか。さもなくば、夜の街に出て、適当な男の人を……」

「そんなこと、できるわけないじゃない!」

奈々はリリアの手を振り払った。ガタンと椅子が音を立てて倒れる。

リビングの静寂に、奈々の荒い呼吸だけが響く。

ユウにお願いする? 

幼い頃から泥遊びをして、一緒に図書室で過ごして、背が伸びた彼を見上げては誇らしく思っていた、あの大切な幼馴染に? 

そんな、自分を維持するための「食事」のような真似、死んでもしたくない。

「……ユウは、私の友達なの。そんな風に利用したくない」

 「奈々、落ち着いて。いい? 私たちサキュバスには、特別な力があるの。

関係を持った相手から、その時の記憶だけを綺麗に消すことができるわ。

朝になれば、彼は何も覚えていない。

あなたはただ、彼から溢れるエネルギーを少し分けてもらうだけ。

罪悪感なんて、抱く必要はないのよ」

リリアの言葉は、今の奈々にとっては悪魔の囁きのようだった。

記憶を消せば、なかったことになる。 

明日もまた、何食わぬ顔で「おはよう、ユウ」と笑い合える。 けれど、それは。

「……それじゃ、私がユウを裏切ってることには変わりないじゃない……っ!」

奈々は吐き捨てるように言うと、縋り付こうとする母を振り切り、逃げるように階段を駆け上がった。

背後から「奈々! 明日の朝までには決めなさい!」というリリアの鋭い声が追いかけてきたが、今の彼女にはそれを聞き入れる余裕はなかった。

自分の部屋に飛び込み、内側から鍵をかける。

バフリ、とベッドに倒れ込むと、シーツの冷たさが心地いい。

けれど、それも一瞬のことだった。

体の芯が、まるで熱した鉄を流し込まれたように熱い。

「はぁ、……あ、つ……っ」

首筋を伝う汗が、パジャマの襟元を濡らす。

カーテンの隙間から、満月の光が残酷なほど白く差し込んでいた。

その光に照らされた自分の手を見ると、爪が心なしか鋭くなり、肌は異常なほど艶めかしく発光している。

ふと、窓の向こうに目を向ける。 数メートル先。手を伸ばせば届きそうな距離にある、隣の家の窓。

そこには、ユウがいる。 いつもならカーテン越しに漏れる光を見て安心していたのに、今はその光の向こう側にいる彼の「体温」や、血管を流れる「血の音」までもが、肌を刺すような鮮明さで伝わってくる気がした。

ユウの匂いがする。

石鹸と、部活のあとの汗と、彼特有の、陽だまりのような温かい匂い。

それが脳に直接届くたび、下腹部の疼きが鋭い痛みに変わっていく。

(だめ……。行っちゃだめ。ユウは……ユウだけは、巻き込んじゃだめなのに……)

奈々は枕を強く抱きしめ、真っ赤に染まった瞳を固く閉じた。

けれど、耳の奥では、トクン、トクンと、自分のものではない「誰か」の鼓動が、甘い誘惑のように鳴り響き続けていた。

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