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第一章 18歳 キスで補給
第5話 好きな子からのキスの後
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奈々はユウの胸を突き飛ばすようにして、ベッドの隅へと後ずさった。
溢れ出した涙が、今度は緋色ではなく、透明な人間の涙となって頬を伝う。
「違うの、私、……自分がおかしくなっちゃって……っ。ユウ君を、こんなことに巻き込むつもりじゃ……っ」
嗚咽を漏らしながら謝り続ける奈々の姿に、ユウは突き飛ばされた胸元を押さえながら、呆然と立ち尽くした。
ユウにとって、奈々はただの幼馴染ではなかった。
ずっと近くにいて、ずっと守りたくて、でもこの関係を壊すのが怖くて、心の奥に鍵をかけて仕舞い込んでいた「好き」という感情。
それが、こんな形で、奈々の苦しそうな涙と共に暴き出されてしまった。
「……謝んなよ」
ユウが絞り出すように言った。
その声には、困惑と、そして隠しきれない切なさが混じっている。
「俺は……別に、…けど。でも、今の奈々は、俺を見てたのか?」
ユウの問いに、奈々は言葉を詰まらせた。
あの瞬間、彼女を動かしていたのは間違いなく「サキュバスの本能」だった。
けれど、その対象がユウでなければならなかった理由が、彼女の心には確かにあったはずなのに。
「ごめん、……本当に、ごめんなさい……」
それしか言えない奈々を見て、ユウは複雑な表情で拳を握りしめた。
彼女が抱えている「何か」は、自分にはまだ到底理解できないほど、暗くて重いもののように思えてならなかった。
二人の間に流れる、張り詰めた沈黙。
それを破ったのは、廊下から響く控えめな、けれど確かな足音だった。
「奈々……入るわよ」
小さな音がして、リリアが静かに部屋へ入ってきた。
ユウは弾かれたように立ち上がり、真っ赤な顔で「あ、おばさん、これは……!」と弁明しようとしたが、リリアの穏やかで、すべてを見透かしたような眼差しに言葉を飲み込んだ。
リリアはベッドの端で丸まっている奈々の傍らに腰を下ろし、その震える肩を優しく抱き寄せた。
「ユウ君。夜分に驚かせてごめんなさいね。……でも、帰らないで。奈々の話を、聞いてあげてほしいの」
「お母さん、……やめて……」
奈々が消え入りそうな声で制止するが、リリアは首を振った。
「奈々。あなたはユウ君を傷つけたと自分を責めているけれど、本当に彼を傷つけるのは、何も言わずにその記憶を消し去ることよ。……大事な友達なら、自分の口で説明しなさい。それが、あなたの誠実さでしょう?」
リリアは奈々の耳元でそう囁くと、娘の背中をそっと押し、自分は部屋の隅へと退いた。
まるで、二人の運命が交わる瞬間を見届ける立会人のように。
ユウは戸惑いながらも、奈々の正面に膝をついた。
奈々は、涙で濡れた睫毛を震わせ、勇気を振り絞って顔を上げる。
瞳の色はもう元の赤茶色に戻っていたが、その奥にはまだ、拭いきれない怯えが残っている。
「……ユウ君、驚かせて、本当にごめん。……あのね、私……」
奈々は自分の指をきつく絡ませ、一言一言、言葉を紡ぎ出した。
「私の……お母さんは、人間じゃないの。『サキュバス』っていう、……男の人のエネルギーを吸わないと生きていけない種族なの。私も、その半分を継いでて……」
ユウの目が点になる。信じられない、というより、あまりに現実離れした言葉に脳が追いついていない様子だった。
「18歳になった今日から、その……本能が、目覚めちゃって。さっきは、身体が燃えるみたいに熱くて、頭の中が真っ白で……。ユウの匂いがしたら、もう、抑えられなくなって……っ」
そこまで一気に話すと、奈々は再び視線を落とした。
「最低だよね。ユウを友達だと思ってるのに、自分のために利用したの。……お母さんは、記憶を消せばいいって言ったけど、私は……ユウのこと裏切るみたいに、、こんな形で消したくないの……」
絞り出すような告白。
ユウは、奈々の震える手を見つめていた。
サキュバス。
記憶消去。本能。
混乱の渦の中にいたユウだったが、その心に一番強く残ったのは、目の前の少女が、自分を裏切らないために「真実を話す」という苦しい選択をしたことへの、震えるような愛おしさだった。
「……だから、あんなに熱かったのか」
ユウがぽつりと溢した言葉に、奈々が肩を震わせる。
ユウは、大きく息を吐くと、自分も膝を突き合わせるようにして距離を詰めた。
溢れ出した涙が、今度は緋色ではなく、透明な人間の涙となって頬を伝う。
「違うの、私、……自分がおかしくなっちゃって……っ。ユウ君を、こんなことに巻き込むつもりじゃ……っ」
嗚咽を漏らしながら謝り続ける奈々の姿に、ユウは突き飛ばされた胸元を押さえながら、呆然と立ち尽くした。
ユウにとって、奈々はただの幼馴染ではなかった。
ずっと近くにいて、ずっと守りたくて、でもこの関係を壊すのが怖くて、心の奥に鍵をかけて仕舞い込んでいた「好き」という感情。
それが、こんな形で、奈々の苦しそうな涙と共に暴き出されてしまった。
「……謝んなよ」
ユウが絞り出すように言った。
その声には、困惑と、そして隠しきれない切なさが混じっている。
「俺は……別に、…けど。でも、今の奈々は、俺を見てたのか?」
ユウの問いに、奈々は言葉を詰まらせた。
あの瞬間、彼女を動かしていたのは間違いなく「サキュバスの本能」だった。
けれど、その対象がユウでなければならなかった理由が、彼女の心には確かにあったはずなのに。
「ごめん、……本当に、ごめんなさい……」
それしか言えない奈々を見て、ユウは複雑な表情で拳を握りしめた。
彼女が抱えている「何か」は、自分にはまだ到底理解できないほど、暗くて重いもののように思えてならなかった。
二人の間に流れる、張り詰めた沈黙。
それを破ったのは、廊下から響く控えめな、けれど確かな足音だった。
「奈々……入るわよ」
小さな音がして、リリアが静かに部屋へ入ってきた。
ユウは弾かれたように立ち上がり、真っ赤な顔で「あ、おばさん、これは……!」と弁明しようとしたが、リリアの穏やかで、すべてを見透かしたような眼差しに言葉を飲み込んだ。
リリアはベッドの端で丸まっている奈々の傍らに腰を下ろし、その震える肩を優しく抱き寄せた。
「ユウ君。夜分に驚かせてごめんなさいね。……でも、帰らないで。奈々の話を、聞いてあげてほしいの」
「お母さん、……やめて……」
奈々が消え入りそうな声で制止するが、リリアは首を振った。
「奈々。あなたはユウ君を傷つけたと自分を責めているけれど、本当に彼を傷つけるのは、何も言わずにその記憶を消し去ることよ。……大事な友達なら、自分の口で説明しなさい。それが、あなたの誠実さでしょう?」
リリアは奈々の耳元でそう囁くと、娘の背中をそっと押し、自分は部屋の隅へと退いた。
まるで、二人の運命が交わる瞬間を見届ける立会人のように。
ユウは戸惑いながらも、奈々の正面に膝をついた。
奈々は、涙で濡れた睫毛を震わせ、勇気を振り絞って顔を上げる。
瞳の色はもう元の赤茶色に戻っていたが、その奥にはまだ、拭いきれない怯えが残っている。
「……ユウ君、驚かせて、本当にごめん。……あのね、私……」
奈々は自分の指をきつく絡ませ、一言一言、言葉を紡ぎ出した。
「私の……お母さんは、人間じゃないの。『サキュバス』っていう、……男の人のエネルギーを吸わないと生きていけない種族なの。私も、その半分を継いでて……」
ユウの目が点になる。信じられない、というより、あまりに現実離れした言葉に脳が追いついていない様子だった。
「18歳になった今日から、その……本能が、目覚めちゃって。さっきは、身体が燃えるみたいに熱くて、頭の中が真っ白で……。ユウの匂いがしたら、もう、抑えられなくなって……っ」
そこまで一気に話すと、奈々は再び視線を落とした。
「最低だよね。ユウを友達だと思ってるのに、自分のために利用したの。……お母さんは、記憶を消せばいいって言ったけど、私は……ユウのこと裏切るみたいに、、こんな形で消したくないの……」
絞り出すような告白。
ユウは、奈々の震える手を見つめていた。
サキュバス。
記憶消去。本能。
混乱の渦の中にいたユウだったが、その心に一番強く残ったのは、目の前の少女が、自分を裏切らないために「真実を話す」という苦しい選択をしたことへの、震えるような愛おしさだった。
「……だから、あんなに熱かったのか」
ユウがぽつりと溢した言葉に、奈々が肩を震わせる。
ユウは、大きく息を吐くと、自分も膝を突き合わせるようにして距離を詰めた。
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