キスだけの契約だったのに。幼馴染に美味しく食べられて、溺愛されています

小木楓

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第一章 18歳 キスで補給

第8話 ご飯の時間のルール決め

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リリアが去った後の部屋は、まるで時間が止まったかのような静寂に包まれた。 

さっきまで唇を重ねていたという事実が、重低音のような沈黙となって二人の間に横たわっている。

奈々は、膝を抱えたまま、消え入りそうな声で口を開いた。

「……ユウくん。本当に、いいの? 嫌じゃない……?」

潤んだ瞳が、不安そうにユウを見上げる。

その瞳の端には、今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。

自分の都合で、一番大切な幼馴染を『家畜』のように扱ってしまうのではないか——そんな怯えが、彼女の小さな肩を震わせている。

(……そんな顔すんなよ。反則だろ、それ)

ユウの胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。 

泣き出しそうな顔で自分を見つめる奈々が、あまりにも危うくて、そしてたまらなく可愛い。

本当は今すぐにでもその細い肩を抱き寄せ、大丈夫だよと伝えたい衝動に駆られる。

けれど、ここで無闇に抱きしめれば、自分の「下心」まで透けて見えてしまう気がした。

 ユウは一つ、大きな深呼吸をして、震える自分の右手を、奈々の小さくて熱い手の上にそっと重ねた。

「……いいか、奈々。俺が決めたルールだ。よく聞けよ」

「え……?」

「いいな、月に一度、その……お腹が空いたら。……絶対に、すぐ、俺を呼べ」

ユウはあえて真面目な、少しだけ威圧的な顔を作って、「すぐ」という言葉に力を込めた。

「俺は嫌じゃないし、むしろ頼りにされるのは嬉しいんだ。

……いいか? 変な気遣いして、他の男のところに行ったり、一人で我慢したりすんのは、絶対禁止だ。

隣に住んでんだから、ベランダから石っころ投げればすぐ来る。分かったか?」

「……ユウ、くん……」

奈々は、重ねられたユウの大きな手の温もりを確かめるように、じっと彼を見つめた。 

彼が自分のことを、「非常食」どころか、もっと切実な存在として守ろうとしてくれている——

そんな風に解釈した彼女の瞳から、不安の影が消え、パッと花が開くような安堵が広がった。

「……うん。わかった。絶対に、ユウくんを一番に呼ぶね」

奈々は、まだ涙の残る顔で、ふにゃりと可愛らしく微笑んだ。 

その、ユウの「オス」としての本能をこれでもかと刺激する無防備な笑顔。

(……あぶねぇ。今の、めちゃくちゃ可愛かったぞ……)

ユウは顔がカァッと熱くなるのを感じ、慌てて視線を泳がせた。

彼女が自分の「独占欲」混じりのルールに、これっぽっちも気づいていないのが救いでもあり、同時に酷くもどかしい。

「……おう。約束だからな。じゃあ、俺……もう帰るわ。あんまり遅いと、おばさんに怒られるし」

「あ……。うん。送っていくね」

「ベランダから隣に行くだけだろ。送るもクソもねーよ」

ユウはぶっきらぼうに言い捨てて立ち上がると、窓へと向かった。 

冷たい夜風がカーテンを揺らす中、彼は一度だけ振り返り、ベッドに座る奈々に「おやすみ」と短く告げた。

その足取りは、いつものそれよりもずっと軽く、どこか浮足立っていた。

夏の朝の眩しい光が、通学路の並木道を鮮やかに照らしている。

昨夜の出来事が嘘のように爽やかな空気の中で、奈々は足元がおぼつかないような、不思議な浮遊感の中にいた。
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