キスだけの契約だったのに。幼馴染に美味しく食べられて、溺愛されています

小木楓

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第一章 18歳 キスで補給

第11話 (ミカ視点)彼氏面の幼馴染

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教室の引き戸を開けた瞬間、私は思わず目を細めた。

いつもなら始業ベルぎりぎりに、寝癖を爆発させて飛び込んでくるはずのユウが、なんと自分の席に座って教科書なんて広げている。

いや、広げているだけで、視線は窓の外の校門付近をこれでもかと気にしているのが丸わかりだ。

(……あーあ。分かりやすすぎて、見てるこっちが恥ずかしくなるわ)

奈々が教室に入ってきた瞬間、ユウの肩がビクッと跳ねた。

昨夜、大人の階段を一歩(いや、半歩くらい?)踏み出した余裕のつもりか、それとも奈々が来るのが待ち遠しすぎて早く来ちゃったのか。

どっちにしろ、あの「俺、ちょっといいことありました」と言わんばかりの、締まりのない口元がすべてを物語っている。

ふと、昔のことを思い出した。

小学生の頃、転んで膝を擦りむいた奈々を、ユウが泣きそうな顔で背負って帰ったあの日。 

中学生の頃、奈々が知らない男子にラブレターをもらって、ユウが三日間くらい露骨に不機嫌だったあの日。

いつだって私たち三人は一緒だった。 

がさつで直情的なユウと、控えめで危うい奈々。

私はその真ん中で、二人の絶妙なバランスを眺めるのが好きだった。

けれど。

「よ、よぉ、奈々。……おはよ」

ユウが立ち上がり、わざとらしくぶっきらぼうな声を出しながら奈々に近づいてくる。 

その歩き方、その距離の詰め方。……完全に「彼氏面」じゃない。 

昨夜、宿命を共有して「非常食」としての契約を交わしたことで、あのがさつ男の中で何かが決定的に変わってしまったらしい。

奈々は奈々で、ユウの顔を見た瞬間にまた真っ赤になって、カバンを抱きしめて固まっている。

私はユウの背後に音もなく忍び寄り、その背中を思い切りパシッと叩いた。

「うおっ!? ……なんだよミカ、痛ぇな!」

「何よ、そのニヤついた面。朝から暑苦しいんだけど」

私はジト目でユウを睨みつけ、それから彼にだけ聞こえるような低い声で囁いた。

「……奈々から全部聞いたわよ。あんた、昨夜のこと」

ユウの顔が、一瞬で奈々と同じ色まで沸騰した。 

「なっ、あいつ、話したのかよ……っ」と狼狽えるユウ。

私はその胸ぐらを掴む勢いで、ビシッと指を突きつけた。

「いい? ユウ。奈々があんな体質になっちゃって、不安なのは分かるでしょ。あんたが『協力』するのはいいけど……もし、どさくさに紛れて奈々に嫌な思いさせたり、無理やり変なことしたりしたら……」

私は笑いながら、けれど目だけは笑わずに、ユウの足の甲を思い切り踏みつけた。

「その時は、幼馴染の縁を切るだけじゃ済まさないから。……分かってるわよね?」

「い、痛ってぇ……! 分かってるよ、あんなに震えてる奴にひどいことできるわけねーだろ!」

ユウは半泣きで足をさすりながらも、ちらりと奈々の方を見た。

その瞳には、下心以上に、彼女を守りたいという真っ直ぐで不器用な決意が宿っている。

(……まあ、あんたなら大丈夫だと思うけどね)

私はフンと鼻を鳴らして、自分の席へ向かった。 

二人の間に流れる空気は、昨日までとは明らかに違う、甘くてどこか危うい熱を帯びている。 

親友として心配なのは山々だけど……。

「……さて。これからの『補給タイム』、どうやって冷やかしてあげようかしら」

私の高校生活も、俄然、面白くなってきた。
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