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第一章 18歳 キスで補給
第12話 ♥二人きりの図書室で秘密の補給
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あれから数週間。
奈々の周囲の空気は、目に見えて変わっていった。
もともと美人ではあったが、18歳を境に、彼女の肌は内側から発光するような瑞々しさを帯び、黒髪は夜の闇を溶かしたように艶めいた。
無意識に振りまかれる甘い香りは、廊下ですれ違う男子生徒たちの足を止めさせ、放課後の下駄箱には主のいない手紙が何通も投げ込まれるようになった。
「……また、告白されちゃった」
図書室の隅で、奈々は深くため息をつく。
サキュバスとしての本能が目覚めるたび、彼女の美しさは毒のように鋭さを増していく。
けれど、人見知りの彼女にとって、向けられる視線の熱はただただ恐ろしいものだった。
そして、ついに「その日」がやってきた。
六時間目の現代文。
窓から差し込む午後の光が、嫌にねっとりと肌にまとわりつく。
奈々は教科書の文字を追おうとしたが、視界がじわりと歪み始めていた。
(あ、つい……。……だめ、今日なんだ……)
下腹部の奥から、せり上がるような熱。 ふと、隣の列に座る男子生徒の、半袖から覗く逞しい腕が目に入った。
——美味しそう。 その瞬間、頭の中に響いたどろりとした思考に、奈々は戦慄した。
肌に流れる血管、脈打つ熱、そのすべてを吸い尽くしたいという猛烈な渇望。
「奈々……? 顔、真っ赤だよ。大丈夫?」
後ろの席からミカが小声で囁く。 奈々は震える手で顔を覆い、首を横に振った。
「だい、じょうぶ……。放課後まで、あと少しだから……っ」
けれど、状況は悪化する一方だった。
クラス中の男子の「匂い」が、暴力的なまでの誘惑となって奈々の鼻腔を突き刺す。
誰でもいい、誰でもいいからこの熱を鎮めて。
そんな獣のような本能が、理性の薄皮を一枚ずつ剥ぎ取っていく。
キーンコーンカーンコーン。
終礼のチャイムが鳴った瞬間、奈々はカバンを掴んで教室を飛び出した。
「奈々!」というミカの声を背に、彼女が向かったのは、放課後の人気のない旧館——
図書室の奥にある、閉鎖された資料室だった。
「はぁ、……あ、つ……っ、ふ、ぅ……」
ひんやりとした書庫の空気に触れても、体内の炎は消えない。
奈々は書棚にしがみつき、ずるずると床にへたり込んだ。
瞳はすでに、濁りのない鮮やかな緋色に染まり、視界にあるものすべてが赤く明滅している。
ガタッ、と。 静まり返った図書室の入り口で、扉が勢いよく開く音がした。
「……奈々! どこだ、奈々!」
焦燥に駆られた、荒々しい足音。
廊下を走ってきたのだろう、肩で息をするユウの匂いが、扉が開いた瞬間に流れ込んできた。
他の男子とは違う。
奈々が一番よく知っている、一番欲しがっている、陽だまりのようなエネルギー。
「……あ、ユウ……くん……」
奈々の喉から、熱に浮かされたような、掠れた嬌声が漏れた。
暗い資料室の奥。緋色の瞳を爛々と輝かせ、潤んだ唇を戦慄かせて自分を見上げる奈々の姿を認め、ユウは息を呑んだ。
「……バカ、お前……。限界ならすぐ呼べって言っただろ」
ユウがゆっくりと、獲物を追い詰めるような、あるいは壊れ物を扱うような足取りで歩み寄る。
奈々の理性が、パチンと音を立てて弾けた。
「……っ、奈々!」
ユウが駆け寄り、その場に膝をついた瞬間だった。
奈々の細い腕が、まるで飢えた獣のようにユウの首にしがみついた。
「は、……っ、ん……!」
言葉になる前の熱い吐息が、ユウの唇を塞ぐ。 それは「キス」と呼ぶにはあまりに激しく、略奪に近いものだった。
奈々の唇は震え、必死にユウの口内を、彼の体温を、魂の欠片さえも啜り上げようと貪欲に動く。
ユウは背後の書棚に背中を打ち付けたが、痛みを感じる余裕さえなかった。
鼻腔を突くのは、普段の奈々からは考えられないほど濃厚で、熟れた果実のような甘い香りと、微かな涙の匂い。
視界の端で、彼女の緋色の瞳が、陶酔と苦痛の入り混じった色で潤んでいるのが見えた。
奈々の周囲の空気は、目に見えて変わっていった。
もともと美人ではあったが、18歳を境に、彼女の肌は内側から発光するような瑞々しさを帯び、黒髪は夜の闇を溶かしたように艶めいた。
無意識に振りまかれる甘い香りは、廊下ですれ違う男子生徒たちの足を止めさせ、放課後の下駄箱には主のいない手紙が何通も投げ込まれるようになった。
「……また、告白されちゃった」
図書室の隅で、奈々は深くため息をつく。
サキュバスとしての本能が目覚めるたび、彼女の美しさは毒のように鋭さを増していく。
けれど、人見知りの彼女にとって、向けられる視線の熱はただただ恐ろしいものだった。
そして、ついに「その日」がやってきた。
六時間目の現代文。
窓から差し込む午後の光が、嫌にねっとりと肌にまとわりつく。
奈々は教科書の文字を追おうとしたが、視界がじわりと歪み始めていた。
(あ、つい……。……だめ、今日なんだ……)
下腹部の奥から、せり上がるような熱。 ふと、隣の列に座る男子生徒の、半袖から覗く逞しい腕が目に入った。
——美味しそう。 その瞬間、頭の中に響いたどろりとした思考に、奈々は戦慄した。
肌に流れる血管、脈打つ熱、そのすべてを吸い尽くしたいという猛烈な渇望。
「奈々……? 顔、真っ赤だよ。大丈夫?」
後ろの席からミカが小声で囁く。 奈々は震える手で顔を覆い、首を横に振った。
「だい、じょうぶ……。放課後まで、あと少しだから……っ」
けれど、状況は悪化する一方だった。
クラス中の男子の「匂い」が、暴力的なまでの誘惑となって奈々の鼻腔を突き刺す。
誰でもいい、誰でもいいからこの熱を鎮めて。
そんな獣のような本能が、理性の薄皮を一枚ずつ剥ぎ取っていく。
キーンコーンカーンコーン。
終礼のチャイムが鳴った瞬間、奈々はカバンを掴んで教室を飛び出した。
「奈々!」というミカの声を背に、彼女が向かったのは、放課後の人気のない旧館——
図書室の奥にある、閉鎖された資料室だった。
「はぁ、……あ、つ……っ、ふ、ぅ……」
ひんやりとした書庫の空気に触れても、体内の炎は消えない。
奈々は書棚にしがみつき、ずるずると床にへたり込んだ。
瞳はすでに、濁りのない鮮やかな緋色に染まり、視界にあるものすべてが赤く明滅している。
ガタッ、と。 静まり返った図書室の入り口で、扉が勢いよく開く音がした。
「……奈々! どこだ、奈々!」
焦燥に駆られた、荒々しい足音。
廊下を走ってきたのだろう、肩で息をするユウの匂いが、扉が開いた瞬間に流れ込んできた。
他の男子とは違う。
奈々が一番よく知っている、一番欲しがっている、陽だまりのようなエネルギー。
「……あ、ユウ……くん……」
奈々の喉から、熱に浮かされたような、掠れた嬌声が漏れた。
暗い資料室の奥。緋色の瞳を爛々と輝かせ、潤んだ唇を戦慄かせて自分を見上げる奈々の姿を認め、ユウは息を呑んだ。
「……バカ、お前……。限界ならすぐ呼べって言っただろ」
ユウがゆっくりと、獲物を追い詰めるような、あるいは壊れ物を扱うような足取りで歩み寄る。
奈々の理性が、パチンと音を立てて弾けた。
「……っ、奈々!」
ユウが駆け寄り、その場に膝をついた瞬間だった。
奈々の細い腕が、まるで飢えた獣のようにユウの首にしがみついた。
「は、……っ、ん……!」
言葉になる前の熱い吐息が、ユウの唇を塞ぐ。 それは「キス」と呼ぶにはあまりに激しく、略奪に近いものだった。
奈々の唇は震え、必死にユウの口内を、彼の体温を、魂の欠片さえも啜り上げようと貪欲に動く。
ユウは背後の書棚に背中を打ち付けたが、痛みを感じる余裕さえなかった。
鼻腔を突くのは、普段の奈々からは考えられないほど濃厚で、熟れた果実のような甘い香りと、微かな涙の匂い。
視界の端で、彼女の緋色の瞳が、陶酔と苦痛の入り混じった色で潤んでいるのが見えた。
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