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第六章:禁忌の島とパンゲア王国復興計画

第一〇二話:イオォールへ

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「どーゆことだ千葉?」

 緑の長い髪。
 エメラルドの色をした瞳に長い耳。
 幻想世界の住人であるエルフの美少女が魔力光の中から、一歩進み出た。
 エルフとなった千葉だ。
 俺の同級生で親友の男子高校生。しかも高濃度のヲタだ。
 美少女エルフの外見をした男子高校生という、評価に苦しむ存在である。

「俺たちも一緒にイオォールに行かねばならんのだ」

 千葉の一人称が「俺」になっている。
 キャラ作りを忘れるほどの緊急事態なのか?

「なんで?」
「パンゲア王国の財政再建のため」
「なんで財政再建につながる?」
「どうも、宝があるらしい」
「どこに?」
「イオォールに」
「ほう……」
「温泉街の古文書に記されていたのだ」

 嘘くせぇぇぇぇぇ。
 超嘘くせぇ。
 しかし、ここで真贋論争しても仕方ない。

「まあ、行くのはいいが、俺は宝さがしなど手伝わんぞ」
「なぜだ! アイン!」
「なんでもクソもあるかよ! 俺はシャラートを助けに行くんだよ! そんな暇ねーよ!」
「ムッ! 確かにそれは一理あるな……」

 エアメガネをクイっと持ち上げるエルフの千葉。

「うふん、先生が急に来たからって、恥ずかしくなってしまったのね。天成君。いいのよ、無理しなくても、先生は待ってるから、うふ(あはぁん、天成君を見たら先生の体の奥の方が、熱くなってくるの。ああん、欲しいの? 真央? そんなに彼を欲しいの? 28歳の熟れた体がうずいているのね…… ああ、私は教師なのに、どうしらいいのかしら、うふ)」

 全然、恥ずかしいとか別問題ですから。
 確かに、先生の存在そのものが恥ずかしいような気がしますけどね。
 巨大なおっぱいを揺らし、体をくねらせる真央先生。
 エナメルのボンテージが妖しい光沢を放つ。

「では、天成、一緒に行くだけで、到着したら別行動というのはどうだ?」
「え?」

 それはそれでどうなんだ?
 つーか、先生は転移できないのか?

「あはぁん、自分の担任教師に何を要求する気かしら? 私にそんなことをやって欲しいの? 天成君たら…… ああん、ダメ、そんなことはいくら大人の女でも出来ないことなの。ああああ、そんな目で私を見てるのね。私をただの性欲処理の肉とみているの? ダメ、真央ったらそれでも天成君から離れられない。ダメな教師だわ」

 俺の内面描写に回答する池内真央先生28歳。
 先生のこれまでのチートぶりからみて、イオォールに転移できると思っただけなんだが。

「ああああん、ダメ。出来ないの。そんな恥ずかしいこと…… 牝ブタ…… そうね、私を牝ブタにしたいってことなのね」

「あのう…… 先生、こっちの内面描写を勝手に読んで、暴走しないでくれませんか」
「ああん、大人の女を焦らしてどうする気なの?(うふ、天成君にいいように弄ばれてる…… 28歳の大人の女なのに、うふん)」

 魔族と混じりあった女教師28歳(巨乳)はとりあえず無視する。
 話が進まないから。

「もうね、面倒なのよ! 行くだけなら一緒に連れて行ってもいいのよ」

 俺たちの不毛なやりとりにしびれを切らしたようにエロリィが言った。
 形のいい眉毛の角度が完全に不機嫌な状態。
 
「あはッ、いいんじゃねーの。よくワカんねーけどさ」

 ライサがめんどくさそうに言った。
 本当に俺も面倒くさいんだけどね。

「またんかぁぁ!! 俺と立ち会え! アインザムよ、逃げる気か!!」

 日替わりTSの呪いを受けた存在が叫んだ。
 もうさ、取り込み中なんだけど。君、はっきり言って邪魔。

『もう、殺すしかないわね』

 俺の中の血に飢えた精霊がアップを開始しだした。
 しらねーよ。コイツは「殺す」と言ったらマジで殺すからね。

『仲が良くないといっても、ライサの知り合いだしさ、殺さないで半殺しで程度にできないか?』
『じゃあ、残った手を切り落として、目玉を潰せばいいわね。対称性の破れを回復できるわ!』
『いいよ、それは破れたままで……』

「あはッ、アインに立ち会とか、勝てるわけねーだろ。マキレ」
「なに! アインに勝ったら、俺の嫁になるだと! ライサ!」
「てめぇ! どこをどう聞けば、そう理解できるんだ? 脳まで呪いに侵されてるのか?」

 ライサの言葉をガン無視。マキレは剣を抜いた。
 そこそこ斬れそうな剣だ。俺には関係ないけど。

「なんだ? この非常時に、またしても女で揉めているのか? アインよ……」
「あはぁん、天成君たら、そんなに女の子をいっぱい欲しがって…… 私の体だけじゃ満足できないのね、若いんだもの、うふ」

 エルフの千葉&淫靡な女教師28歳真央は、スルーする。
 つーか、この状況でそう見えるのか? キミたちには。
 
 状況に顔をぐんにゃりさせるしかない俺。
 そんな俺にアホウが叫ぶ。
 
「剣を抜け、アインザム・ダートリンクよ!!」
「いや、俺、剣は持ってねーよ。基本素手と魔法だからさ」
「そうか、我が宿命のライバルよ……」
「いや、キミと会ったのは昨日が初めてなんだけど」
「男が細かいことをグダグダと言うな!!」
「今、キミは女になっているけどね」
「基本は男だ! まさか…… 俺の体を狙ってるのか? この獣め!」

 この状況なんだよ?
 俺は先を急いでるんだけど。
 分かってる?
 ほら、エロリィなんか、明らかに不機嫌になっているし。
 つま先でタンタン始めたよ。

「死ねぇぇぇぇ!! アインザム!!」

 ズボ――
 消えた。
 なんか、いなくなった。

「きさまぁぁあぁぁ!! 卑怯者がぁぁぁ!! 落とし穴かぁぁ!」
 
 地の底から声が響く。

『サラームやった?』
『落すだけなんて、ヌルイことすると思う?』
『しないな』
『そういうこと』

 エロリィの仕業じゃない。相変わらず、不機嫌な顔でタンタンしている。
 金髪ツインテールがリズミかるに揺れている。
 ライサでもない。
 腹かかえて笑ってるけど。

 エルフの千葉の訳はないし、先生は……
 相変わらず、巨大なおっぱいを揺らしクネクネしている。
 
『埋める?』
『そうするかなぁ』

 まあ、やれと言えば簡単だろう。
 土の精霊を呼び出し穴を埋めるくらいは一瞬だ。

「ぬぉぉぉぉ!! ぬかった! 昨日の夜に落とし穴を掘ったのを忘れてたぁぁ!!」

 穴をよじ登りながら絶叫。
 ああ、10年に一人の逸材かもしれん。アホウの……
 地面をよく見ると、どう見ても怪しげな場所がいくつもあった。
 2ケタくらいあるんだが。
 これ、全部落とし穴か?
 すごい体力だな。おい。

 どーでもいいけど迷惑だよな。
 自分の国の出入り口に落とし穴量産だよ。
 周囲は密林だから、ここくらいしか、出入りできないだろうに。
 
「卑怯者め! なぜ落ちない!」

 隻眼&隻碗の美少女が、ビシッと指さす。
 声が可愛らしいだけに、余計にむかつく。

「しかーし! 落とし穴はまだ一つではないのだぁぁぁ!! ああーーーーーーー!!」

 飛び出たと思ったら、また落ちた。
 コントか?
 これは、何かのコントなのか?
 俺に対する精神攻撃なのか?

「あははははあッ ひッーーーー!! 死ぬッ! 殺す気かぁぁ、笑いしぬぅぅッーー!!」

 ライサが笑いころげている。

「君の笑顔のためなら、俺は何度でも立ち上がる!」

 また穴からはいずり出てきた。
 埋めるかマジで。

 俺は魔力回路を回転させた。
 筋肉組織に魔力を流し込んでいく。
 サラームを使って魔法を使うまでもない。

 剣を振り上げ飛び込んできたドアホウ様。
 女体化しているので、背は低いし、外見は結構可愛らしい。
 しかし、かまわない。だって中身はアホウだから。

 振り下ろした剣ごと拳でへし折る。
 そのまま、顔面にパンチを叩きこんだ。
  
 鼻血の軌跡を空間に描きながら、吹っ飛んでいくマキレシスという名の稀代のアホウ。

 ゴンと着地。頭から。
 ズベェェェ――っと地面に顔面をこすり付けながら止まった。

 やべ……
 やりすぎた?
 死んだ?

「ぎゃはははははは!! バカメ! 剣を素手で叩くとはな!!」

 むっくりと上半身を起こして、爆笑するマキレシス。
 
「いや、なんともないけど」
 
 俺は傷一つない手をパタパタと振った。
 魔力で強化した体には、あの程度の攻撃は効かない。
 
「なんだと…… マンドルゴアの毒を剣に塗ってあったのに……」

 落とし穴の次は、毒かよ。
 なんでもありか?
 つーか……

「オマエ、頭に刺さってるけど」
「なにが?」
「剣。毒付の」
「なんだとぉぉぉぉ!!」

 頭の上に手を伸ばす。

「ぎゃぁぁぁ! 手が手が切れたぁぁ! 頭がぁぁ! 頭がぁぁ!」

 頭に刺さった剣を不用意に確認にいって、手を切ったようだ。
 もはや、言葉が無い。
 なんか、ブクブクと泡を吹いて、快晴の空のような突き抜けた顔色になっていく。
 しらねーよ、もう。

「もうね! アホウなのよ! 茶番なのよぉ! 行くのよ! アイン」
「お、おう。エロリィ」

 しびれを切らした禁呪のプリンセス様が叫ぶ。

「とりあえず、行くかぁ。千葉、先生。島までは跳びましょう」

「了解だ」

 ビシッと返事をするエルフの千葉。
 
 千葉と先生が、エロリィの転移禁呪圏内に入ってくる。
 エロリィを中心に3メートルくらいの範囲に魔法陣が展開されていく。

「あああん、らめぇ、そんなことまでいいって言ってないのよぉ。そこはダメって言ったのにぃ~。そんな急に突き上げたら、私のちいさな魔力回路が壊れちゃうぅ。
ひゃぁ…… もう、もう、ゆるしてぇ、お願いだから、形が…… 魔力回路が魔素の形を覚えちゃうのよぉ。らめぇ、奥はらめぇなのぉ。大事な魔力が出来る場所なのぉ。出来ちゃう、魔力ができちゃうのよぉぉ、そんなにドピュドピュ―― ひきゅぅぅ~ あはははん。でりゅぅぅ、飛んじゃうのよぉぉぉ~」

 空間が美しい禁呪の調べに満たされていく。
 複層魔法陣が高速回転し、青い魔力光で俺たちを包んでいく。
 
 視界が青い光で満たされた――

        ◇◇◇◇◇◇

「エロリィ……」
「なによ、アイン」
「なに、これ?」
「しらないのよッ! もうね、いきなり割り込んできたのよ、このアホウがぁ!」

 俺は頭に剣の切っ先が突き刺さった隻眼&隻碗の少女を見た。
 お下げの黒髪で、見た目は美少女といってもいい。
 しかしだ。なんでいるんだ?

「あはッ、コイツ、最後に突っ込んできたんだな。殺すか?」

 釘バットを握り締めライサが言った。
 しかし、毒を喰らい、頭に剣が刺さった状態でも生きている。
 このことが凄いんだけど。いや、もう中身はドアホウの極致なわけだが。
 
「いや、しかし、ここがイオォールなんだよな」

 アホウを放置して俺は周囲を見た。
 草木1本もない。岩石だけの島だ。
 島の真ん中あたりか?
 やけに形の整った山がある。CGで描いた円錐形のような感じだ。

「間違いないのよ。転移は成功してるのよ」

 エロリィが断言した。ふわりと風にのってツインテールが宙を舞う。
 やけに、ネットリした風だった。

「ふむ、地図の通りだ。間違いないな」

 千葉がスクロールを開いていた。
 俺も覗きこんだ。

「確かに、あの山がこれか……」

 地図にもあの山が書かれている。その地図がこの場所のものであることは間違いない。
 ただ、ここが本当に――

『ほう…… 思ったよりもお早いお着きですね――』
 
 俺の脳内声が響いた。
 奴だ。忘れるわけがない。あのクソ野郎の声だ。
 
 オウレンツ――
 裏切りの錬金術師。
 かつて、俺の父母と共に、この世界を【シ】から守った存在――
 今は……

『さあ、歓迎の準備はしてはおりますが…… お気に召されるかどうか。さあ、どうぞこちらに』

 俺の脳内に視覚情報が流れ込んできた。
 分かった。あの山だ。あの山の中。洞窟か。

「分かったよ。行くぜ」

 歯を食いしばる。
 そこから、声にならない唸りのような言葉が漏れていた。
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