正しいホムンクルスの作り方。

若松だんご

文字の大きさ
17 / 18

第17話 愛しいキミに残すもの

しおりを挟む
 ――好きです、アグネス。

 ずっと昔から抱いていた想い。
 それを受け入れてもらった喜びに、心が熱くなる。
 いや、受け入れてもらっただけじゃない。
 
 ――私もだ。

 その言葉に、頭がクラクラしてくる。
 これは現実なのか? 都合のいい夢なんじゃないのか?
 確かめたくて、何度もアグネスにキスをして、抱きしめる腕に力を込める。
 これが夢なら目覚めたくない。これが現実ならもっと味わいたい。

 「サイトー……」

 くり返すキスの合間に、名を呼ばれる。
 もしかしたら、アグネスも同じ思いなのかもしれない。俺を求めて、俺を確かめて。
 キスに言葉に想いを載せる。
 このまま、彼女のすべてを味わいたい。
 実験じゃない。
 愛し合う者同士、その想いの限り体を重ねたい。アグネスが欲しい。
 でも。

 「ダメだ。今日は薬はいらない」

 俺の意識がそちらに向いたことに、アグネスが気づく。

 「薬なしに、抱いてくれ」

 「でも……」

 戸惑う。あれをなしにセックスしてしまえば――

 「子が欲しいんだ。サイトー、お前の子を私に産ませてくれ」

 「知って、たんですか?」

 声が干からびて喉に貼りつく。
 あの薬がなんなのか、アグネスは知ってたのか?

 「これでも一応、科学者の端くれだぞ? それぐらい調べたらわかる」

 そう、だったのか。
 
 「すみません……」

 「いいんだ。私に子を孕ませなかったのは、自分のことに私を巻き込まないためだろう?」

 正解を言い当てられ、グッと息を呑み込む。
 実験だと騙してでも抱きたかったのに、子を孕ませることを良しとしなかったのは、アグネスを巻き込みたくなかったから。
 子を産んでしまえば、東央国の皇子の子を産んでしまえば、アグネスは無関係でいられなくなる。俺に追手がかかれば、アグネスと生まれた子も、俺と運命をともにしなくてはいけなくなる。俺をどう思ってるかわからないのに巻き込めない。いや。愛してるからこそ、俺の運命にアグネスを巻き込みたくなかった。

 「私は、お前と一緒にありたい。たとえこの先離ればなれになるとしても。私にお前の子を育てさせてくれ。私の中に、お前を残していってくれ」

 「離ればなれって……」

 そんなつもりは俺には――

 「国に帰れ、サイトー。帰って国を平和にしてこい」

 「アグネス……」

 「私はこの国に残って、子を産み、カワイイの研究を進める。平和に戦争を終わらせるためにな。お前と私、どちらが先に平和を成し遂げるか。競争だな」

 ニコッと笑ったのに。元気のいいことを言ってるのに。
 アグネスの水色の瞳からは、ポロポロと涙が溢れ出す。
 
 (アグネス……)

 平気なわけない。想いが通じたのに、別れて平気なわけがない。
 それでも気丈に笑おうとするのは、彼女が健気で、優しくて、誰よりも平和を望んでいるから。これ以上、誰も悲しませたくない、失いたくない。戦争で辛い思いをするのは、自分だけで充分だ。
 だから、寂しがり屋なのに、俺と別れる決意を固める。俺に平和を作れと背中を押す。

 (この頑固者め!)

 アグネスの体をベッドに押し倒して、噛みつくようににキスをする。
 誰よりも平和を希求して、誰よりも自分の意志を貫き通す。
 賢い彼女のことだ。自分がついていけば足手まといになることも、察してるんだろう。一緒にいたい気持ちを押し殺してまで誰かの平和を願うアグネス。

 「アッ、サイ、ト……」

 キスの合間に、アグネスが喘ぐ。
 この女、どうしてくれよう。
 好きだからこそ、その頑固さが憎たらしい。好きだからこそ、その頑固さまで愛おしい。
 このまま抱いて抱いて抱き潰して、俺なしにはいられない体にしてやろうか。朝な夕なに俺を求めて、愛欲に狂わせてやろうか。
 いや。
 そんなアグネスは、俺が好きになったアグネスじゃない。
 俺が好きになったのは、健気で、強くて、優しくて、お人好しで、突拍子もないことを言い出すトンチキなアグネス。誰かのために一生懸命で、誰かのために自分を押し殺す。
 そういうアグネスを、俺は好きでたまらない。
 だから。

 「アグネス、俺の子を産んでください」

 優しく口づけ、彼女の意志を受け止める。彼女が子を望むのなら、俺はここに子を残す。一人ぼっちになるアグネスが、少しでも寂しくないように。

 「俺、国を立て直し、どこよりも平和な国にします。俺が東央国を平和にするのが先か、博士が俺の子でカワイイの研究を進めるのが先か。競争です。俺が勝ったら、博士、俺の妃になってください。必ず、平和にして迎えに来ます」

 「サイトー……、うれしい」

 アグネスの目から、また涙が流れ落ちる。

          *

 屋根の隙間から、青い月の光がこぼれ落ちる。光はアグネスの淡い産毛を照らし出し、官能的なその肢体を美しく染める。白い肌はほんのり赤く色づき熱を孕む。
 一糸まとわぬ姿でキスをくり返し、腕を伸ばし、手で指で相手を求める。
 胸いっぱいに彼女の匂いを吸い込み、瞳に彼女だけを映して、吐息の合間に俺を呼ぶ声に耳をそばだてる。肌の柔らかさを、溢れる熱を。口腔に広がる彼女の甘さを。俺のなかに深くふかく刻みつける。
 
 「アッ、サイト、そ、そこ……」

 濡れた膣に指を沈めると、切なそうにアグネスが喘いだ。

 「ここ、好きですよね」

 膣の浅いところ。グッと上に押し上げると、さらに甘く喘ぐ。
 
 「アアッ、ダメ、ダメェ……」

 そのいいところを攻めつつ、ツンと立ち上がった乳首をしゃぶる。「ダメ」といいながら、「もっと」と背を反らし胸を押し付けてくる。

 「ここも好きですよね」

 膣の上、プクッと腫れた突起を親指で押し潰す。

 「ヒィアッ! ダメッ、いっしょは、ダメッ!」

 快楽から逃げたいのか、それとももっと欲しいのか。アグネスの腰が大きく跳ねた。

 「アッ、アッ、アアッ、アヒッ、イッ、アッ、アアッ……!」

 蜜がドンドン溢れ出し、グチョヌチョと淫猥な音と甘い香りが部屋に満ちる。

 「もうダメッ、イッ、イッちゃ、イッちゃう!」

 「いいですよ、イッてください!」

 速く深く強く。膣の締めつけに、蠕動に逆らわず指を抽送する。

 「アアアッ!」

 ビクンと、ひときわ大きく跳ねた体。挿した指の隙間から吹き出した蜜。
 強張りが解けると同時に指を引き抜くと、濡れた孔がヒクンヒクンと震えだした。

 「――ズルい」

 「は?」

 「私だけ感じて、感じすぎて。お前は平然としてるなんてズルい」

 プイッと体を横向けたアグネス。とっても悔しそうな顔をしてるけど。

 「平然となんてしてませんよ、ほら」

 その小さな手を俺の胸に当てる。

 「心拍、速いな」

 「ええ。これでもかなりドキドキしてるんですよ」

 好きな女の痴態を前にして、平然としていられるほどデキた人間じゃない。

 「本当だな。硬いし、熱い。……ヌルヌルしてる」

 「――って、うわ! アグネスッ!?」

 アグネスの手が俺の肌の上を滑り、硬く張り詰めた陰茎を握りしめた。

 「もっと感じてくれ。もっと感じて、気持ちよくなってくれ」

 「いや、ちょっ、ちょっと待ってください! 今、そんなことされると、出る!」

 出したい。出しちゃえ。ダメだ。今は出すな。
 欲望グルグル。

 「それはダメだな。出すなら、私の中に出してくれ」

 「ええ」

 多分、一回や二回出したぐらいで、この興奮は収まらないだろうけど。

 「愛してます、アグネス」

 言って優しく彼女の脚を開く。仰向けに横たわる彼女に覆いかぶさり、キスをくり返す。上の口と下の口と。どちらもついばむように軽く、柔らかく。

 「サイトー……」

 陰茎の切っ先に触れるアグネスの孔が震えた。求めガマンできないのか、腰が揺れる。
 その動きに逆らわず、ヌプッと陰茎を孔に沈める。

 「アッ……、ンッ!」

 欲しいものを与えられ、ブルッとアグネスが体を震わせた。逃すまいと俺の腰に彼女の脚が絡みついた。
 
 「ンあ……」

 ヌブヌブと沈む快感。思わず俺も呻く。
 腰を押し進めると、切っ先がゴリュッと肉にぶつかった。

 「アアッ……!」

 優しく押し付けたつもりだったけれど、一度イッたアグネスの体には、強い刺激になったみたいで、声を上げ、俺の腕にしがみつく。
 
 (ここが、アグネスの子壺、子宮か……)

 俺の精液を受け止めて、彼女が子を孕む場所。

 「アッ、そんな、押さない、で……」

 確認するように突くと、イヤイヤと首を振られた。
 まだイキたくない。
 俺だって、まだもっと彼女を愛したい。
 腰の動きを止めて、代わりに彼女を抱きしめ口づける。

 「アッ、ン、フ……」

 その吐息を、熱を、想いを。何もかも呑み込んで、何もかも確かめ合って。
 このまま繋がったまま溶けてしまえれば。この幸せのまま時間が止まってしまえば。
 そう思うのに。

 「アッ……!」

 口づけを交わすアグネスの体が震えた。ヒクッ、ビクッと快感を拾い上げる。

 「クッ……!」

 震えるのは体だけじゃない。俺を呑み込んだ膣も射精を促すように蠕動運動をくり返す。
 俺も、その運動が刺激となって、陰茎が痛いくらい張り詰めて熱を帯びる。尾てい骨のあたりに、どうしようもない衝動が襲いかかる。
 出したい。
 この女の中に。この女を孕ませたい。

 「アグネス!」

 限界に理性が焼き切れる。

 「アッ、サイトッ、アッ、アアッ、アッ、ンアッ、アッ!」

 それはアグネスも同じで、貪欲に俺を求めて腰を動かす。
 互いにメチャクチャに求め、貪り、息を乱し、ともに絶頂への階段を駆け上がる。

 「アッ、アアーッ!」

 限界を超え、ギュッと絞られた膣。その最奥で、ゴプッと溢れた精液。
 二度、三度。
 陰茎を穿ち、ヒクつく体に欲望を注ぎ込む。
 受け止めるアグネスの体は、つま先まで強張り、クタリと弛緩する。

 「愛してます、アグネス」

 汗で額に貼りついた砂色の髪を、そっと払いのけてやる。

 「私もだ、サイトー」

 体のつながりは解かず、そのまま見つめ合い、微笑み合う。
 想い通じた後のセックスは、体だけじゃなく、心も満たされる。
 そして。

 「アンッ……」

 また硬くなり始めた陰茎を動かす。満たされたはずの体は、また次を求める。
 それはアグネスも同じで、幸せに蕩けていた水色の瞳に、情欲の炎が灯る。
 ゆっくり動かしていた腰は、次第に激しく、ぶつかる肉の音と、喘ぐ声が夜の静寂に響き渡る。
 何度出しても。何度果てても。
 貪欲にどこまでも果てしなく。
 際限を知らない欲情に、二人深く溺れていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる

柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった! ※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

メイウッド家の双子の姉妹

柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…? ※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

年下騎士は生意気で

乙女田スミレ
恋愛
──ずっと、こうしたかった── 女騎士のアイリーネが半年の静養を経て隊に復帰すると、負けん気は人一倍だが子供っぽさの残る後輩だったフィンは精悍な若者へと変貌し、同等の立場である小隊長に昇進していた。 フィンはかつての上官であるアイリーネを「おまえ」呼ばわりし、二人は事あるごとにぶつかり合う。そんなある日、小隊長たちに密命が下され、アイリーネとフィンは一緒に旅することになり……。 ☆毎週火曜日か金曜日、もしくはその両日に更新予定です。(※PC交換作業のため、四月第二週はお休みします。第三週中には再開予定ですので、よろしくお願いいたします。(2020年4月6日)) ☆表紙は庭嶋アオイさん(お城めぐり大好き)ご提供です。 ☆エブリスタにも掲載を始めました。(2021年9月21日)

処理中です...