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第7話 未来は、今、作られる。
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「でも、アウスゼーレンからですと、セイラムさまをお守りするのは難しそうですね」
ミレットが、遠慮がちに意見を述べた。
「そうなのよ」
「これから起きるであろうことをセイラムさまにすべてお伝えして、用心していただくというのはどうでしょう」
レフの提案と違って、ミレットの意見は地に足がついてる。当然、擬音攻撃もない。
「うーん。それなんだけどねえ……」
まともな提案だけど、私の言葉はハッキリしない。
「ダメなのかよ」
「うん。未来は必ずそうなるとは限らないから。これを避けようとして別の道を選んだとしても、その先にも別の罠が仕掛けられてるってこともあるのよ」
「罠は一つじゃないってことか」
「そういうこと。毒の盛られた食事を避けてこれで大丈夫だって思ってたら、寝室に刺客がいたってこともあったわ。刺客を避けたら、今度は寝台に毒針が仕込まれてたり。私が経験したことない未来が隠れてる可能性があるのよ」
右に曲がる道を左に変えても、左にも見知らぬ敵がいる。運命を変えたつもりでも、運命は変わっていない。ただ私があがきもがいただけになることもある。
「未来は一つじゃないの。私が見てきた未来を避けることで、また別の未来が出来上がって、知らない未来が起きることもあるのよ」
「今、どう動くかによって、未来が変わってくる。そういうことでしょうか」
「そうね。今もこうしてアナタたちと協議してる時点で、未来は変わってきてるかもしれないわね」
「ならさ、王さまが死なねぇ未来もあるんじゃね?」
「そうね。それがあれば一番いいんだけど」
セイラムのためにも、陛下には長くご存命であられてほしい。母君はすでになく、父王までもなくなってしまえば、セイラムは孤独になってしまうから。
「ほんと、私に病気平癒の力があればいいんだけどねえ」
「お嬢さま……」
時を戻すことはできるけど、病気を治す力はない。ケガを治すこともできないし、特別な加護を与えることもできない。
私に病を癒す力があるなら。祈ることで陛下を救うことができるなら、何度だってどこでだってどれだけだって祈ってやるわよ。
「私、ほんとに聖女なのかな」
「聖女なんじゃね?」
レフが即答した。
「とりあえず、セイラムは助けてるんだしよ。たくさんの人間を助けることは出来なくっても、とりあえず一人は助けてるんだし。おじょーがいなきゃ、セイラムはここまで生きてねえんだろ?」
「まあ、それは確かに……」
私の力がなかったら、セイラムは八つの時に死んでいた。
けど、私、セイラムしか助けられてないわ。
「一人でも助けられたんだから、聖女でいいじゃん。他のヤツにはできねーことをやってるんだからさ」
「たった一人のための聖女……ね」
「そ」
ニカッと笑ったレフの軽い言い方に、私の頬が緩む。
「レフの言う通りですわ。お嬢さまは誰にも真似できないお力で殿下を守っていらっしゃるのですから。素晴らしいことだと思いますわ」
「ミレット……」
「誰にでも出来ることではございません。国の未来を担う王子殿下をお守りしているお嬢さまは、間違いなく聖女さまですわ」
そんな力説しなくても。
でも。
「ありがと。二人とも」
少し、元気でたわ。
「にしてもよぉ」
レフがポリポリと頭を搔きながら言い出した。
「一度ぐらい、あっちをギャフンって言わせてやりてえよな」
ギャフン?
私とミレットが首をかしげる。
「やられてばっかじゃ性に合わねえからさ。せめてあっちのメシにも、なんか盛ってやろうぜ」
「こっちから毒殺を仕掛けるって言うの? ダメよ、そんなこと」
そんなことをしたら、私たちまで王妃と同じクズになっちゃうじゃない。
「ちげーよ。毒じゃなくって、激辛にしてやるんだよ。それこそ唇がパンパンに腫れあがって、ブオォッって炎を吹きたくなるような激辛ソースをかけてやるんだよ」
それ、辛いを通り越して、舌が痛くなるやつじゃない。
用意するこっちも目から涙が止まらなくなるし、指がヒリヒリするやつ。
「却下よ、却下」
「じゃあ、せめて廊下の曲がり角でおどかすってのはどうだ? 刺客じゃねえんだからいいだろ?」
「ダーメ。却下」
アンタは王妃たちにインネンつけさせたいわけ?
人を慰めるようないいことを言ったかと思えばこれだもの。レフはやはりどこか危険な香りがする。
ミレットが、遠慮がちに意見を述べた。
「そうなのよ」
「これから起きるであろうことをセイラムさまにすべてお伝えして、用心していただくというのはどうでしょう」
レフの提案と違って、ミレットの意見は地に足がついてる。当然、擬音攻撃もない。
「うーん。それなんだけどねえ……」
まともな提案だけど、私の言葉はハッキリしない。
「ダメなのかよ」
「うん。未来は必ずそうなるとは限らないから。これを避けようとして別の道を選んだとしても、その先にも別の罠が仕掛けられてるってこともあるのよ」
「罠は一つじゃないってことか」
「そういうこと。毒の盛られた食事を避けてこれで大丈夫だって思ってたら、寝室に刺客がいたってこともあったわ。刺客を避けたら、今度は寝台に毒針が仕込まれてたり。私が経験したことない未来が隠れてる可能性があるのよ」
右に曲がる道を左に変えても、左にも見知らぬ敵がいる。運命を変えたつもりでも、運命は変わっていない。ただ私があがきもがいただけになることもある。
「未来は一つじゃないの。私が見てきた未来を避けることで、また別の未来が出来上がって、知らない未来が起きることもあるのよ」
「今、どう動くかによって、未来が変わってくる。そういうことでしょうか」
「そうね。今もこうしてアナタたちと協議してる時点で、未来は変わってきてるかもしれないわね」
「ならさ、王さまが死なねぇ未来もあるんじゃね?」
「そうね。それがあれば一番いいんだけど」
セイラムのためにも、陛下には長くご存命であられてほしい。母君はすでになく、父王までもなくなってしまえば、セイラムは孤独になってしまうから。
「ほんと、私に病気平癒の力があればいいんだけどねえ」
「お嬢さま……」
時を戻すことはできるけど、病気を治す力はない。ケガを治すこともできないし、特別な加護を与えることもできない。
私に病を癒す力があるなら。祈ることで陛下を救うことができるなら、何度だってどこでだってどれだけだって祈ってやるわよ。
「私、ほんとに聖女なのかな」
「聖女なんじゃね?」
レフが即答した。
「とりあえず、セイラムは助けてるんだしよ。たくさんの人間を助けることは出来なくっても、とりあえず一人は助けてるんだし。おじょーがいなきゃ、セイラムはここまで生きてねえんだろ?」
「まあ、それは確かに……」
私の力がなかったら、セイラムは八つの時に死んでいた。
けど、私、セイラムしか助けられてないわ。
「一人でも助けられたんだから、聖女でいいじゃん。他のヤツにはできねーことをやってるんだからさ」
「たった一人のための聖女……ね」
「そ」
ニカッと笑ったレフの軽い言い方に、私の頬が緩む。
「レフの言う通りですわ。お嬢さまは誰にも真似できないお力で殿下を守っていらっしゃるのですから。素晴らしいことだと思いますわ」
「ミレット……」
「誰にでも出来ることではございません。国の未来を担う王子殿下をお守りしているお嬢さまは、間違いなく聖女さまですわ」
そんな力説しなくても。
でも。
「ありがと。二人とも」
少し、元気でたわ。
「にしてもよぉ」
レフがポリポリと頭を搔きながら言い出した。
「一度ぐらい、あっちをギャフンって言わせてやりてえよな」
ギャフン?
私とミレットが首をかしげる。
「やられてばっかじゃ性に合わねえからさ。せめてあっちのメシにも、なんか盛ってやろうぜ」
「こっちから毒殺を仕掛けるって言うの? ダメよ、そんなこと」
そんなことをしたら、私たちまで王妃と同じクズになっちゃうじゃない。
「ちげーよ。毒じゃなくって、激辛にしてやるんだよ。それこそ唇がパンパンに腫れあがって、ブオォッって炎を吹きたくなるような激辛ソースをかけてやるんだよ」
それ、辛いを通り越して、舌が痛くなるやつじゃない。
用意するこっちも目から涙が止まらなくなるし、指がヒリヒリするやつ。
「却下よ、却下」
「じゃあ、せめて廊下の曲がり角でおどかすってのはどうだ? 刺客じゃねえんだからいいだろ?」
「ダーメ。却下」
アンタは王妃たちにインネンつけさせたいわけ?
人を慰めるようないいことを言ったかと思えばこれだもの。レフはやはりどこか危険な香りがする。
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