へし折れ、フラグ!!

若松だんご

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第13話 華麗なる従僕生活。

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 従僕の朝は早い。
 まだ日が昇りきってない時間。私とレフはマーガスに叩き起こされた。

 「おはようございます。申し訳ありませんが、従僕であるならこの時間にお目覚めいただきます」

 うう。眠い。
 でも、先輩従僕のマーガスは、すでに着替えを済ませて、その黒髪までキッチリと整えられている。昨夜見た時と変わらない様子。
 この人、ホントに寝たのかな。
 王宮の、それも王子付きの従僕は完璧すぎるほど完璧。
 一方、私の従僕。
 
 「ふああぁあ……。って、あれ? マーガスじゃん。こんな朝早くにどうした?」

 寝グセボサボサ。服もヨレヨレ。
 ソファで寝たせいか、身体がこっているのだろう。コキコキと肩を回して大あくび。
 落差激しいなあ、この二人。
 ボサボサハネハネ寝グセ髪と、カッチリ隙ナシベタ髪だから、余計にそう思う。

 「アルとレフには、殿下のお部屋を整えていただきます。それから、殿下のお召し物の準備を。レフ、靴を磨いておくのも忘れずに」

 着替えて続き部屋である執務室に向かうと、さっそくマーガスから指示が出た。

 「お前はどうするんだよ」

 「殿下のご朝食を準備いたします」
 
 にわかに雇われた(ことになっている)私たちが厨房に行っても、不審がられるだけだ。この場合、マーガスが一番適任だろうけど。

 「ホント容赦ねえなあ、アイツ」

 パタリと閉じた扉にレフが悪態をつく。
 たしかに、私のことは「アル」と呼んで、特別扱いしないで欲しいとは言ったけど。
 
 (ここまで普通に扱われるとは)

 思ってもみなかった。これじゃあ、本当に従僕の見習いじゃない。

 「レフ。文句言っても始まらないから、やるわよ」

 「へいへい」

 「返事は一回」

 「へい」

 「はい」、でしょ。そこは。
 
 朝食を用意したマーガスはテキパキとセイラムを起こし、彼の着替えを手伝う。
 私たちの朝食も用意してくれたけど、当然のようにセイラムの後とされた。

 「今のアリューシアさまは、聖女ではなく従僕ですから」

 なにか文句でも?
 マーガスはすべてにおいて、セイラム優先、私たちを従僕扱いにした。
 まあ、それはそれでいいんだけど。
 従僕としてセイラムの政務の書類を届けさせられたり、お茶の用意をさせられたり。
 従僕ってこんなに忙しい仕事だったのね。
 
 「マーガスってマジで鬼畜~。こんなに働かされるなんて思ってもなかったぜ」

 こら。
 どうして同じ従僕のアンタが嘆くのよ、レフ。

 夜になっても従僕の仕事は続く。
 セイラムが就寝しても、明日の準備とか執務室や応接室の片づけなど、仕事は終わらない。
 
 も~ダメ。
 私、働いたことなんてないから、かなり疲れる。
 マーガスから解放され、あてがわれた部屋に戻った時には、もうヘロヘロ……って、ちょっと、レフ!!

 「なんでアンタがベッドを使おうとしてんのよっ!!」

 「だって、あのソファ、オレには小さいんだもん」

 ブウブウと唇を尖らせながら、いそいそと、部屋に一つしかないベッドに潜り込もうとするレフ。

 「おじょー、ちっちぇえんだし、ソファでいいじゃん」

 レフの言うソファはギリギリ二人掛け用の大きさだし、私にはちょうどいいサイズかもしれないけど。

 「ふざけないでよ!! 主をソファに追いやる従僕がどこにいるっていうのよ!!」

 「ここにいるじゃん。じゃあ、おやすみ~」

 「レフッ!!」

 ヒラヒラと手をふるレフに腹立って、その上掛けを思いっきり引っ張ってやる。

 「なにすんだよっ!!」

 「うるさいわねっ!! 代わりなさいったら代わりなさいよっ!! 女の子をソファで寝かせるなんて、何考えてるのっ!!」

 主従以前に問題ありでしょ。

 「だってオレ、あのソファじゃ肩も首も腰も痛いし。ゆっくり寝たいんだよ」

 レフが不満そうに首をコキコキ鳴らす。身体が痛いのは本当のことのようだけど。

 「私だってゆっくり寝たいわよ」

 窮屈な寝方をして肩こりに見舞われたくない。

 「それならさ、こっちのベッドで二人で寝ればいいんだよ」

 …………は?

 「ちょっと狭いけどさ、手足は伸ばせそうだし。どうだ?」

 名案だろ?
 レフがニッコリと笑う。

 「ふっ、ふざけないでっ!! だっ、誰がアンタと一緒に、ねっ、寝るもんですかっ!!」

 驚きと怒りと恥ずかしさに、言葉が上手く出てこない。

 「えー。いいじゃん。オレ、別におじょーのこと、なんとも思ってねえし。安心していいぜ?」

 そういう問題じゃないっ!!
 なにがうれしくって、結婚前に別の男と一緒に寝なくちゃいけないのよっ!!
 それに、なんとも思ってないから安心しろって。
 最低の台詞じゃない、それ。

 「レフのバカッ!!」

 私の叫びと同時にキィッと入り口の扉が開いた。薄く開いた扉から顔を出したのはマーガス。

 「うるさいですよ、二人とも。今、何時だと思ってるんですか」

 その冷静すぎる声に、私たちは動きを止める。

 「セイラム殿下はすでにお休みです。お二人とも殿下の従僕であるなら、眠りを妨げるようなことは控えるように」

 「は、はい……」

 これ、マーガス、絶対怒ってるよね。淡々と話してるし。表情、変わんないし。部屋の空気、一気に氷点下。

 「それと、レフ」

 「ひゃい」

 「今は同じ従僕という立場におられますが、アリューシアさまは聖女であらせられます。お仕えするべき立場のアナタが主をないがしろにするようなこと、赦しませんよ。ソファは、アナタがお使いなさい」

 ジロリと睨まれたレフがムダに汗を垂らして背筋を伸ばす。声も裏返っちゃってるし。

 「では……」

 再び静かに閉じられた扉。

 「おっかね~」

 レフの意見に、珍しく頷いてしまう。
 生真面目なだけかと思ってたけど、従僕マーガス、すごく怖いわ。
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