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第24話 未来は幸せに満ちている。
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「ねえ、二人の結婚式には、アンタ、空を飛んでやりなさいよ」
「はあ? なんで俺がそんなこと」
私の提案に、レフが思いっきり顔をしかめてみせた。
あれから数日後。
セイラムとミレットが王都に戻ってきた。
「お嬢さま、申し訳ありません」
回復したミレットは、セイラムとのことを謝ってきたけれど、私は「幸せになってね」とだけ伝えた。
あの時、思いっきり泣いたせいか、今は純粋に二人のことを祝福できる。
……少しだけ胸が痛いけど。
「アンタが飛べば、『瑞兆じゃあっ!!』『竜のご加護じゃあっ!!』って喜ばれると思うのよね」
貴賤結婚だって文句いう奴もいなくなるだろうし。最高の後ろ盾じゃない、竜。
「そんな、レフさまに祝っていただくなど……」
ミレットが驚き、焦ったように辞退する。竜であるレフに頼みごとなど恐れ多いとか思ってるんだろう。ミレットは、セイラムからレフの正体を聞かされたらしく、王都に帰ってくるなり彼にひれ伏した。
「お前も、ミレットぐらいの謙虚さを持てよ」
竜をなんだと思ってんだ。
レフは思いっきり不満そう。
「いいじゃない。飛んだところで減るもんじゃなし。ちょっと飛んで、『ガオーッ』とか吠えてやればいいのよ」
「俺は見世物か? 犬扱いなのか?」
レフが頭を抱えた。けど。
「僕もアリューシアに賛成かな。式の余興として飛んでくれるとありがたい」
ニッコリとセイラム。
「……お前らなあ。ホンットこの国の連中ときたら。竜使い荒すぎだぞ」
「でも、嫌いじゃないんだろ?」
セイラムの言葉に、レフが「ウッ」と喉を詰まらせ舌打ちする。
……? レフ、この国が好きなのかな。
「じゃあ、決まり。二人の結婚式には、レフ、お祝いとして飛びなさい」
* * * *
セイラムとミレットの結婚は、秋に執り行われることになった。
ミレットが準男爵家の娘であることに不満を述べる者もいたが、そこは伝家の宝刀「竜の加護」。ミレットとセイラムの婚姻を竜が嘉していると言えば、大抵の意見は沈黙した。
ついでに、養父さまから、「ミレットの生家、準男爵家は聖女の血筋だった」と発表してもらった。『聖女の試し』を受けてないのは、庶子の庶子のそのまた庶子だったので、ウッカリ血筋から忘れられてたからとした。
もちろん、捏造、偽造、嘘八百。
でも、当主である公爵がそう発表し、養女にしたとなれば、文句はつけられない。
まあ、私みたいな傍流の傍流のそのまた傍流であっても聖女と認められたんだから、多少のウソは許されるだろう。
誰にも迷惑はかけてないし。
二人の結婚式には、お元気になられた陛下もご臨席される。
長い間昏睡されていたので、回復には時間がかかるかと思われたが、夏を過ぎるころには、杖をつきながらではあるものの、歩くことができるぐらい元気になられた。少しずつではあるけど、国政にも携われるようになったらしい。
そして、マーガス。
彼は、あの後私とセイラムに謝罪した。
「操られていたとはいえ、聖女さまを手にかけたのですから、どのような罰でもお受けいたします」
マーガスが言うには、彼のお母さんの病気によく効く薬を分けてもらったことがキッカケだったらしい。見知らぬ薬売りだったらしいけど、その薬を飲むと容態がよくなっていったのでドンドン懇意にして信用していった。そして、聖女がこの王都に呪いをかけていると吹き込まれ、気づいたら操られていたようだ。
「長年お仕えしているというのに、疑うことすらせずに操られるなど!! このうえは、この命を持って償うほかありません!!」
いや、待て待て待て。
首を掻っ切ろうとするマーガスを、セイラムと二人、全力で止める。
いや、私も無事だったし。結果的には陛下もお助けできたし。問題ないからっ!!
なんとか説得してマーガスを思いとどまらせた。
セイラムも特に咎めなかったので、そのまま従僕として仕えることになったけど。
……生真面目って怖い。
* * * *
そして迎えた結婚式の日。
約束(命令!?)通り、レフが王都の空を飛んだ。ご丁寧に、咆哮つきで。
やる前は、あんなに嫌がってたのに、当日は意外とノリノリだった。
「竜だ!!」「竜じゃ!!」と崇め奉られることに、悪い気はしてないらしい。
散々飛び回ってみんなに拝まれた後、満足したようにフワリと私のいるバルコニーへと降りてきた。
「やっぱ、王都の人間の信心深さは違うよな~。誰かさんと違ってこき使おうなんて考えてないだろうし」
なんだかんだ言って、結構ご満悦。
悪かったわね。こき使って。
ムッとしながら、人型になったレフに近づく。
そして。
――ブチッ。
「痛ってえ!! テメエ、なにしやがるっ!!」
少し背伸びをして、その赤い髪の一部を無理やり引きちぎってやった。手元にあるのは、引っこ抜いた髪ではなく紅色のウロコ、――竜の石。
「返してもらったのよ。これ、私のものだし」
この石は聖女の証。
もう時を戻す必要はないだろうけど、それでもずっと持っていたい。
今、私がセイラムたちを祝福できるのは、もしかしたらこれの持ち主のおかげかもしれないから。
私を守るために立ちはだかってくれた姿。泣きじゃくる私を抱きとめてくれた腕。
言葉にして伝えるとつけあがるだろうから、絶対教えない。
「いや、元々はオレのウロコだって」
涙目になって頭をさするレフ。ウロコをはがしたせいで、また髪が一房だけ白く変化している。
「どっちだっていいじゃない。ウロコなんて、脱皮でもしたら、また生えてくるんじゃないの?」
「……オレはトカゲかよ」
「うるさいわねえ。レフ・ヤシェリッツィのくせに。了見狭いわよ」
「……え? 今、なんて?」
「だから、騒々しい、トカゲよ。アンタの名前でしょ?」
なによ。自分の名前なのに、なにを驚くことがあるの?
「それ、フィリアがつけたあだ名で、誰も知らねえはず……いや、なんでもない」
なんか独り言を呟いて、勝手に納得するレフ。
いったい何なの?
「さて、と。今日はトコトン飲み食いできるんだろ? お祝いだしな」
「アンタ、食べることしか興味ないの?」
「いいじゃねえか。めでたいときは食べて食べて、飲んで、騒ぐ。これが一番だろ?」
まあ、それはそうかもしれないけど。
「行こうぜ」
レフが差し出した手を取る。
彼のウロコを握りしめ、私は祝賀会場へと、ともに走り出した。
「はあ? なんで俺がそんなこと」
私の提案に、レフが思いっきり顔をしかめてみせた。
あれから数日後。
セイラムとミレットが王都に戻ってきた。
「お嬢さま、申し訳ありません」
回復したミレットは、セイラムとのことを謝ってきたけれど、私は「幸せになってね」とだけ伝えた。
あの時、思いっきり泣いたせいか、今は純粋に二人のことを祝福できる。
……少しだけ胸が痛いけど。
「アンタが飛べば、『瑞兆じゃあっ!!』『竜のご加護じゃあっ!!』って喜ばれると思うのよね」
貴賤結婚だって文句いう奴もいなくなるだろうし。最高の後ろ盾じゃない、竜。
「そんな、レフさまに祝っていただくなど……」
ミレットが驚き、焦ったように辞退する。竜であるレフに頼みごとなど恐れ多いとか思ってるんだろう。ミレットは、セイラムからレフの正体を聞かされたらしく、王都に帰ってくるなり彼にひれ伏した。
「お前も、ミレットぐらいの謙虚さを持てよ」
竜をなんだと思ってんだ。
レフは思いっきり不満そう。
「いいじゃない。飛んだところで減るもんじゃなし。ちょっと飛んで、『ガオーッ』とか吠えてやればいいのよ」
「俺は見世物か? 犬扱いなのか?」
レフが頭を抱えた。けど。
「僕もアリューシアに賛成かな。式の余興として飛んでくれるとありがたい」
ニッコリとセイラム。
「……お前らなあ。ホンットこの国の連中ときたら。竜使い荒すぎだぞ」
「でも、嫌いじゃないんだろ?」
セイラムの言葉に、レフが「ウッ」と喉を詰まらせ舌打ちする。
……? レフ、この国が好きなのかな。
「じゃあ、決まり。二人の結婚式には、レフ、お祝いとして飛びなさい」
* * * *
セイラムとミレットの結婚は、秋に執り行われることになった。
ミレットが準男爵家の娘であることに不満を述べる者もいたが、そこは伝家の宝刀「竜の加護」。ミレットとセイラムの婚姻を竜が嘉していると言えば、大抵の意見は沈黙した。
ついでに、養父さまから、「ミレットの生家、準男爵家は聖女の血筋だった」と発表してもらった。『聖女の試し』を受けてないのは、庶子の庶子のそのまた庶子だったので、ウッカリ血筋から忘れられてたからとした。
もちろん、捏造、偽造、嘘八百。
でも、当主である公爵がそう発表し、養女にしたとなれば、文句はつけられない。
まあ、私みたいな傍流の傍流のそのまた傍流であっても聖女と認められたんだから、多少のウソは許されるだろう。
誰にも迷惑はかけてないし。
二人の結婚式には、お元気になられた陛下もご臨席される。
長い間昏睡されていたので、回復には時間がかかるかと思われたが、夏を過ぎるころには、杖をつきながらではあるものの、歩くことができるぐらい元気になられた。少しずつではあるけど、国政にも携われるようになったらしい。
そして、マーガス。
彼は、あの後私とセイラムに謝罪した。
「操られていたとはいえ、聖女さまを手にかけたのですから、どのような罰でもお受けいたします」
マーガスが言うには、彼のお母さんの病気によく効く薬を分けてもらったことがキッカケだったらしい。見知らぬ薬売りだったらしいけど、その薬を飲むと容態がよくなっていったのでドンドン懇意にして信用していった。そして、聖女がこの王都に呪いをかけていると吹き込まれ、気づいたら操られていたようだ。
「長年お仕えしているというのに、疑うことすらせずに操られるなど!! このうえは、この命を持って償うほかありません!!」
いや、待て待て待て。
首を掻っ切ろうとするマーガスを、セイラムと二人、全力で止める。
いや、私も無事だったし。結果的には陛下もお助けできたし。問題ないからっ!!
なんとか説得してマーガスを思いとどまらせた。
セイラムも特に咎めなかったので、そのまま従僕として仕えることになったけど。
……生真面目って怖い。
* * * *
そして迎えた結婚式の日。
約束(命令!?)通り、レフが王都の空を飛んだ。ご丁寧に、咆哮つきで。
やる前は、あんなに嫌がってたのに、当日は意外とノリノリだった。
「竜だ!!」「竜じゃ!!」と崇め奉られることに、悪い気はしてないらしい。
散々飛び回ってみんなに拝まれた後、満足したようにフワリと私のいるバルコニーへと降りてきた。
「やっぱ、王都の人間の信心深さは違うよな~。誰かさんと違ってこき使おうなんて考えてないだろうし」
なんだかんだ言って、結構ご満悦。
悪かったわね。こき使って。
ムッとしながら、人型になったレフに近づく。
そして。
――ブチッ。
「痛ってえ!! テメエ、なにしやがるっ!!」
少し背伸びをして、その赤い髪の一部を無理やり引きちぎってやった。手元にあるのは、引っこ抜いた髪ではなく紅色のウロコ、――竜の石。
「返してもらったのよ。これ、私のものだし」
この石は聖女の証。
もう時を戻す必要はないだろうけど、それでもずっと持っていたい。
今、私がセイラムたちを祝福できるのは、もしかしたらこれの持ち主のおかげかもしれないから。
私を守るために立ちはだかってくれた姿。泣きじゃくる私を抱きとめてくれた腕。
言葉にして伝えるとつけあがるだろうから、絶対教えない。
「いや、元々はオレのウロコだって」
涙目になって頭をさするレフ。ウロコをはがしたせいで、また髪が一房だけ白く変化している。
「どっちだっていいじゃない。ウロコなんて、脱皮でもしたら、また生えてくるんじゃないの?」
「……オレはトカゲかよ」
「うるさいわねえ。レフ・ヤシェリッツィのくせに。了見狭いわよ」
「……え? 今、なんて?」
「だから、騒々しい、トカゲよ。アンタの名前でしょ?」
なによ。自分の名前なのに、なにを驚くことがあるの?
「それ、フィリアがつけたあだ名で、誰も知らねえはず……いや、なんでもない」
なんか独り言を呟いて、勝手に納得するレフ。
いったい何なの?
「さて、と。今日はトコトン飲み食いできるんだろ? お祝いだしな」
「アンタ、食べることしか興味ないの?」
「いいじゃねえか。めでたいときは食べて食べて、飲んで、騒ぐ。これが一番だろ?」
まあ、それはそうかもしれないけど。
「行こうぜ」
レフが差し出した手を取る。
彼のウロコを握りしめ、私は祝賀会場へと、ともに走り出した。
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