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第8話 正しい男女の営み。2 ♡ (王妃 * 陛下の視点)

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 「んっ、ふっ……」

 かすかに聞こえた、押し殺したような呼吸の音。
 その音に引き寄せられるように、私は茂みに近づく。先ほどまで聞こえていた話し声。
 それは間違いなくわたくしの侍女、オルガのもの。
 そこにいるのかしら?
 茂みの先、イオニア式の柱の立つ四阿あずまやがある。オルガの声はそこから聞こえていた。
 一人で寝所に入ったものの、なんとなく寝つけなくて、彼女に話し相手になってもらおう。そう思ったのに、続き間の部屋に彼女はおらず、廊下に控えていた衛士に訊ねれば、庭にいるのではないかと言う。

 こんな夜遅くに、庭?

 不思議に思いはしたものの、オルガを捜しにわたくしも庭に出る。衛士が止めるような声を上げたけど、オルガもいるのだし危険はないだろうと、その声を無視した。

 「オルガ……? ……っ!」

 茂みをかき分けようとした手が止まる。

 なっ……! ナニあれっ!
 オルガがっ、オルガがっ!

 思わずその光景に背を向け、胸を押さえる。
 半裸のオルガが男に組み敷かれていた。襲われているのではない。彼女の手が男の後頭部に回り、胸を男に押しつけていた。
 男が胸をしゃぶっているのだろう。時折、チュバッと吸い上げるような音が混じる。

 「あっ、ん、あ……」

 その音に混じって聞こえるオルガの乱れた声。こんな声、初めて聴いたわ。
 あれが「喘ぎ」なの?
 わたくしが背を向けている間にも、オルガの声はさらに乱れていく。 

 「んっ、あっ、そこっ……」

 「あっ、あっ、やあっ、あんっ……!」

 何をやってるの、オルガ?
 どうしようもなく気になって、もう一度茂みのむこうを盗み見る。
 月明りに照らし出された四阿で、彼女のドレスはさらに乱れ、白い脚が露わになっていた。
 その脚の間には、男の手。

 「ルシアンさまぁ……」

 え? オルガの相手って、あのルシアンなの?
 陛下の従者。何度か顔を合わせたことはあるけれど、まさかあの男とオルガが?
 男がわずかに身を起こす。月光に照らされた顔は間違いなく、陛下の従者、ルシアンのものだった。

 「気持ちいい?」

 「あっ、うんっ、気持ちっ、いいっ……!」

 そうなの? オルガ、気持ちいいの?
 ルシアンが触っているのは、おそらくオルガの脚の間、子を成すために必要な秘所だろう。昼間、彼女から教わった、「濡れる」場所。触れれば、不思議な熱が溜まってゆき、弾けるような快感に襲われることを知っている。
 ゴクリと喉を鳴らし、食い入るように見てしまう。

 「じゃあ、今日はいっぱい啼いてよ」

 ルシアンの言葉と同時に、オルガの身体が揺れた。

 「あっ、ああっ、んっ、あっ、やあっ、いっ、いいっ……!」

 グチュグチュと粘りのある水音が聞こえてくる。それに合わせてオルガの声も次第に大きくなってくる。
 ルシアンが、大きく震えていたオルガの胸にしゃぶりついた。

 「あっ、ああっ、いっ、イクッ……!」

 オルガが、絶叫とともに、ルシアンにしがみつく。強くこわばった身体。その身体を、ルシアンが暴力的なまでに力強く抱きしめていた。
 あっ、あれが男女の営み、「前戯」なのっ?
 わからない。わからないままに見つめ続ける。目が離せない。

*     *     *     *

 ルシアン、そこにいるのか?
 四阿から聞こえてくる物音に気づき近づいていく。
 明日の政務のことで、二、三話したいことがあった。だから、こうして庭までヤツを捜しに来たのだが。

 「あっ、あっ、やあっ、あんっ……!」 

 四阿から聞こえてきたのは、なまめかしい女の声。

 「ルシアンさまぁ……」

 婀娜っぽい声に、探していた男の名が混じる。
 ルシアン、こんなところで何をやってるんだ?
 そっと茂みに近づき、四阿を覗き込む。
 月明りに照らされたその空間に浮かび上がったのは、乱れた女の肢体と、それを組み敷くルシアンの筋肉質な身体。

 「んっ、あっ、そこっ……」

 「あっ、あっ、やあっ、あんっ……!」

 ルシアンが胸にしゃぶりつき、女の秘所をもてあそぶ。そのたびに女が嬌声をあげ、身を捩る。
 その姿は、今まで抱いてきたどの女よりもなまめかしく、煽情的だった。

 「あっ、ああっ、んっ、あっ、やあっ、いっ、いいっ……!」

 グチュグチュと水音に混じり、女の嬌声が響く。その二つの音は、ルシアンの腕の動きが速くなるにつれ、次第に大きくなっていく。

 「あっ、ああっ、いっ、イクッ……!」

 女が絶叫し、全身を痙攣させる。ルシアンの背中に爪を立て、身体を強張らせた後、グッタリと弛緩した。
 今まで自分が抱いてきた女たちとは違う反応。
 あれが、本当の「イク」ということなのだろうか。
 一瞬、ルシアンがその動きを止めた。
 こちらに気づいたのか?
 ともに戦場を駆けまわったルシアンのことだ。オレの気配にぐらい、簡単に気づくだろう。
 しかし、ルシアンは、女を抱くことをやめるつもりはないらしい。
 再び女に口づけると、その残ったドレスを脱がせ、互いに一糸まとわぬ姿になった。
 ふん。見られているとわかっても、やめないつもりか。
 いいだろう。お前の睦事、全部見てやろうではないか。
 「前戯」とは。「愛撫」とは。
 オレに偉そうに講義を垂れたんだ。どういうものか実践してみせろ。
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