恋をするなら、キミとがいい

若松だんご

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2.距離ナシディスタンス

(二)

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 「昨日は、ありがとな。助かった」

 翌日の学校。
 お昼に文学部棟を出たところで、なぜかウロウロしていた氷鷹を見つけて、やらなきゃいけないこと、「昨日のお礼を言う」を実行する。
 もしかしたら、ここにいるかな――程度の予想で棟を出たんだが。まさか、予想通りにそこにいるとは思わなかった。
 でも、そのおかげで、礼が言いやすくて助かった。工学部まで行って、氷鷹を探して、それから礼を述べるのは、……ちょっとさすがに面倒くさい。それに、会えるとも限らないのに、工学部棟へ入っていくのは、少し抵抗もある。

 「あれぐらい、なんでもないっすよ」

 オレのお礼に対し、氷鷹が照れたように、後頭部を掻く。

 「氷鷹、お前、お昼ごはん、まだか?」

 「え? まだですけど」

 「じゃあ、今日はオレがおごる。昨日のお礼だ」

 キョトンとした氷鷹を置いて、先に歩き出す。

 「いや、あんなぐらいでお昼なんて」

 「〝あんなぐらい〟じゃない。助かったのは本当だし。昼ぐらい、おごらせてくれ」

 口で礼を述べるだけじゃない。行動で、感謝を伝えておきたい。
 でないと、借りを作りっぱなしのようで、オレが落ち着かない。

 「じゃ、じゃあ……。おごられます」

 オレの気持ちを察したのか。氷鷹が後ろからついてくる――が。

 (デカいって腹立つよなあ)

 すぐに、オレの隣に並んで歩くようになった氷鷹。170センチないオレと違って、氷鷹はおそらくだけど、余裕の180超え。足の長さも違うのか、あっという間に先に歩き出したはずのオレに追いつく。それでいて、追い抜かさずに隣に並んで歩くのは、なんの嫌味か。

 「今日は……、学食でいいか、鷹?」

 「あ、はい」

 「どれ食う?」

 「どれでも……。あ! 先輩と同じものが食いたいです!」

 なんでだよ。
 思ったけど、「同じもんな」と復唱して、同じハンバーグランチの食券を二枚購入。出てきた食券の一枚を、氷鷹に渡す。

 「ありがとうございます」

 そんなお礼を聴き、二人で受け取りの列に並ぶ。
 ハンバーグランチは、お昼に合わせてある程度用意されてたんだろう。オレたちがそれぞれ食券を渡すと、食堂のオバちゃんが、ホイ来たとばかりに、サッとハンバーグランチのトレーをカウンターに引っ張り出した。

 (じゃあ、どこに座ろうか……)

 トレーを受け取り、少しだけ悩む。
 なるべく歩きたくないし、ここから近いほうがいいけど、そういう場所はすでに埋まってる。入口近くは、人の動きが激しくて落ち着かないし……。

 「先輩、こっち! こっちですよ!」

 オレより先にトレーを受け取っていた氷鷹が、向かい合う席を陣取りオレを呼ぶ。
 人に紛れても目立つ、その身長。なんかムカつく。
 
 「オレ、お水持ってきますから。先輩は座っててください」

 先にトレーをテーブルに置いていた氷鷹。オレが到着するなり、サッと動き出す。
 
 (世話焼きだよなあ、アイツ)

 なんていうのか。――パシリ気質?
 そんなことを思いながら、トレーのなかの食器を置き直す。

 「あれ? 先輩って、関西出身なんですか?」

 戻ってきた氷鷹。両手に水の入ったコップを持ちながら、こっちを見て驚いてる。

 「関西?」

 なんで関西?

 「その汁物の置き場所ですよ」

 手が塞がってるから。クイッと顎で汁椀を指し示した氷鷹。

 「関西だと、左奥に汁物を置くんだって。テレビでやってました」

 ああ。なるほど。

 「オレは、東海地方。この置き方が関西風なのかどうかは知らないけど、元の位置のままだと、腕で引っ掛けそうでイヤなんだよ」

 トレーのなか。
 味噌汁は右手前、肘で引っ掛けそうな位置にあった。そのままだと、ハンバーグを箸で切り分けてる時とかに肘をぶつけそうで、なんとなくイヤだったのだ。

 「それに、どうせ汁椀は左手で持ち上げるし。こっちにあったほうが合理的だろ」

 それでも左手前に置かないのは、左手前はご飯の場所だから。左手で持ち上げる、引っ掛けないという意味で、汁椀は左奥にあった方が合理的だと思っている。

 「なるほど~。それで関西の人は、左に汁物を置きたがるんですね」

 「いや、関西の人はどうか知らないけど」

 オレは関西出身じゃないって言ってるのに。食器の並べ方に、関西、関東があるなんて、初めて聞いた。

 「あと、先輩の、俺を呼ぶ時の、特徴的なイントネーションも、故郷のものですか?」

 「イントネーション?」

 氷鷹からお水を受け取って、お水は、トレー右奥に置く。コップは右手で持つことが多いから……、というより、そこにしか置く場所がないから。

 「先輩、俺を呼ぶ時、〝氷鷹〟の〝ヒ〟の部分を強調してますよね?」

 「そ、そうか?」

 「そうですよ。鷹って感じですかね。〝ヒ〟に一番力がこもってるというか」

 そ、それは。
 「井高」とは違う、「氷鷹」なんだと言い聞かせるため、そうなってるというか。

 「ダメか?」

 ザワザワと動揺してしまった心を隠すように、あえてつっけんどんに尋ねる。

 「ダメってことはないですけど……」

 ん~っと、口を閉じて、言葉を探してるふうな氷鷹。

 「なんか、先輩独特の呼び方で、俺は好きです!」

 「そ、そうか」

 「はい!」

 オレ独特って。
 それでいいのか?
 疑問に思うより、なんか恥ずかしい気持ちが大きくなって、あわてて水で飲み下す。

 「先輩。俺もその食器の置き方、マネしてもいいっすか?」

 「食器? 好きにしたらいいけど」

 そんなの、わざわざオレに断りを入れなくても。
 目の前、食べるより先に、うれしそうに食器を並べ直す氷鷹。カチャカチャ動かしていた手が止まると、向かい合う席に、鏡写しのようになった同じ料理が並んだ。

 「いっただっきまっす!」

 弾んだ声で、手を合わせた氷鷹。
 
 「これ、うっま~ぃ!」

 いや、いつものよくあるハンバーグランチだろ。
 そうツッコミたいぐらい、氷鷹が幸せそうにハンバーグを頬張る。
 そんなに旨いのか? 今日のハンバーグは特別なのか?
 不思議に思いながら、箸で切り分けたハンバーグを口に放り込む。

 (――やっぱり、いつものハンバーグ)

 そこまで「旨い!」というわけじゃない。値段どおりの、普通の味。
 でも。
 
 (悪くない)

 旨そうに食う氷鷹を見てるからか。いつものハンバーグは、いつもの味なのに、不思議と箸の進む、食べ終わるのがもったいなく感じる味だった。
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