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四、風巻。 (しまき。激しく吹き荒れる風。雨や雪を混じえて吹く風)
(四)
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山の斜面を駆け下りる。
翼を使って、木々を間をくぐり抜けるように飛びながら下りていく。
――巫女姫を返せ?
かつて会ったことのある〝人〟、忍海彦。
彼は、この山のどこかにあるという、人の神宝を捜しに来たと言っていた。具体的にそれがどんなものかが説明してなかったけど、でも、メドリのような生きている人だとは言わなかった。
それに、もしメドリが捜している神宝だったのだとしたら、なぜ、あの時メドリのことを話題にしなかった? 「薄桃色の勾玉を持った、年の頃十二、三の乙女」っていうのが宝なのだとしたら、なぜ、メドリに会った時に、メドリこそが捜していたモノだと言わなかった?
人が、甲虫のような黒光りする鉄の〝ヨロイ〟を身に着け、同じ鉄でできた〝剣〟や〝槍〟を持って戦う用意をしているのが〝兵〟。大勢の同じ出で立ちの〝兵〟が集まってできているのが〝軍〟。それが、山のすそ野に集まっているのだという。
兵や軍を動かせるのは、身分ある者にしかできないと聞いた。なら、今、軍を動かしているのは、人の中でも身分の高い者。人で身分の高いヤツが何人いるのか知らないけど、そこに忍海彦は関わっているのか。
(神宝を捜してるってのは、ウソだったのか?)
そもそも、そんなモノは存在しなくて。たまたまメドリを見かけたから、それを理由に森を襲おうとしているのか? 鳥人たちの間に、人の娘がいる。あれを助ける、取り返すと言えば、大義名分が成り立つ。鳥人たちにさらわれた、あわれな少女の奪還。悪いのは鳥人であって、自分たちは正義なのだと。
(チクショー。だから、人なんてものは信用ならないんだ)
スキあらば、森に入って木々を奪い、山で獣を狩る。食べるものに困って狩りをするのならまだしも、楽しみのために狩りをすることもある〝人〟。鳥人たちが持ったこともない鉄でできた武器を持ち、時として自分たち人同士で戦い、殺し合うこともあるという残虐な性格の種族。
今もこうして、メドリを口実に、森を襲おうとしている。
〝鳥人ノ若子ヨ〟
ボクの翼の音に、別の風を切る音が混じる。
「大鷹か」
〝コウ森ガ騒ガシクテハ、オチオチ眠ルコトモデキヌ〟
並び飛ぶ大鷹が文句をもらす。いつもはメドリに寄り添う大鷹だけど、夜だけは彼の巣に戻って眠る。だけど、森を包む異様な空気は、その眠りを妨げたのだろう。一緒に飛びながらも大鷹は眠そうで、不満そうな顔をしていた。
「人が、襲ってきたんだよ。メドリをよこせってな」
〝メドリ姫ヲトナ?〟
大鷹の目がキラリと光った。メドリのことに関して、この大鷹は誰よりも敏感に反応する。
〝メドリ姫ハコノ森ノ宝。ソレヲ人ゴトキガ所望スルナド。身ノホドモワキマエズ、オコガマシイ!〟
キィーッ! キィーッ!
大鷹が、翼を広げ怒った。人を威嚇するような、鋭い声を上げる。
ボクは、大鷹と同じように、メドリを森の宝だなんて思ったことはない。ちょっと手のかかる、翼を持たない妹のようなもの。そういう認識だった。七年前、父さんがいきなり拾ってきて、ボクに預けた子ども。どういう事情があったのか、声の出せない女の子。どういうわけか、ボクにだけ懐いた女の子。
だから、それなりに大事にしてきたし、いろいろ世話を焼いてやった。この先のことを考えれば、人の里に返してあげるのもいいかもしれない。そう思ったこともある。鳥人たちと一緒に暮らすより、そのほうが幸せかもしれない。
だけど。
(こんな、奪われるような形で渡すわけにはいかないんだよ!)
メドリを連れ去って、どうするつもりなのか。
メドリを幸せにしてくれるのならそれでいい。けど、物々しい、軍なんておっかないのを引き連れてきたヤツが、本当に幸せにしてくれるのか?
それに、仮にメドリを引き渡したとして、そのまま素直に軍は引いていくのか? メドリはただの口実で、森を攻撃するために集まっているんじゃないのか? もしそうだとしたら、メドリは渡せないし、鳥人のみんなを守るために、ボクは族長の息子として何か手を打たなきゃいけなくなる。
どっちにしたって、人の真意がどこにあるのか。ボクはそれを確かめたい。
「急ぐぞ、大鷹!」
地面を蹴り、翼をすぼめて、一気に速度を上げる。
目指すは、山のすそ野。忍海彦がいるかもしれない、人の軍。その頭にあって、すべてを問いただす!
翼を使って、木々を間をくぐり抜けるように飛びながら下りていく。
――巫女姫を返せ?
かつて会ったことのある〝人〟、忍海彦。
彼は、この山のどこかにあるという、人の神宝を捜しに来たと言っていた。具体的にそれがどんなものかが説明してなかったけど、でも、メドリのような生きている人だとは言わなかった。
それに、もしメドリが捜している神宝だったのだとしたら、なぜ、あの時メドリのことを話題にしなかった? 「薄桃色の勾玉を持った、年の頃十二、三の乙女」っていうのが宝なのだとしたら、なぜ、メドリに会った時に、メドリこそが捜していたモノだと言わなかった?
人が、甲虫のような黒光りする鉄の〝ヨロイ〟を身に着け、同じ鉄でできた〝剣〟や〝槍〟を持って戦う用意をしているのが〝兵〟。大勢の同じ出で立ちの〝兵〟が集まってできているのが〝軍〟。それが、山のすそ野に集まっているのだという。
兵や軍を動かせるのは、身分ある者にしかできないと聞いた。なら、今、軍を動かしているのは、人の中でも身分の高い者。人で身分の高いヤツが何人いるのか知らないけど、そこに忍海彦は関わっているのか。
(神宝を捜してるってのは、ウソだったのか?)
そもそも、そんなモノは存在しなくて。たまたまメドリを見かけたから、それを理由に森を襲おうとしているのか? 鳥人たちの間に、人の娘がいる。あれを助ける、取り返すと言えば、大義名分が成り立つ。鳥人たちにさらわれた、あわれな少女の奪還。悪いのは鳥人であって、自分たちは正義なのだと。
(チクショー。だから、人なんてものは信用ならないんだ)
スキあらば、森に入って木々を奪い、山で獣を狩る。食べるものに困って狩りをするのならまだしも、楽しみのために狩りをすることもある〝人〟。鳥人たちが持ったこともない鉄でできた武器を持ち、時として自分たち人同士で戦い、殺し合うこともあるという残虐な性格の種族。
今もこうして、メドリを口実に、森を襲おうとしている。
〝鳥人ノ若子ヨ〟
ボクの翼の音に、別の風を切る音が混じる。
「大鷹か」
〝コウ森ガ騒ガシクテハ、オチオチ眠ルコトモデキヌ〟
並び飛ぶ大鷹が文句をもらす。いつもはメドリに寄り添う大鷹だけど、夜だけは彼の巣に戻って眠る。だけど、森を包む異様な空気は、その眠りを妨げたのだろう。一緒に飛びながらも大鷹は眠そうで、不満そうな顔をしていた。
「人が、襲ってきたんだよ。メドリをよこせってな」
〝メドリ姫ヲトナ?〟
大鷹の目がキラリと光った。メドリのことに関して、この大鷹は誰よりも敏感に反応する。
〝メドリ姫ハコノ森ノ宝。ソレヲ人ゴトキガ所望スルナド。身ノホドモワキマエズ、オコガマシイ!〟
キィーッ! キィーッ!
大鷹が、翼を広げ怒った。人を威嚇するような、鋭い声を上げる。
ボクは、大鷹と同じように、メドリを森の宝だなんて思ったことはない。ちょっと手のかかる、翼を持たない妹のようなもの。そういう認識だった。七年前、父さんがいきなり拾ってきて、ボクに預けた子ども。どういう事情があったのか、声の出せない女の子。どういうわけか、ボクにだけ懐いた女の子。
だから、それなりに大事にしてきたし、いろいろ世話を焼いてやった。この先のことを考えれば、人の里に返してあげるのもいいかもしれない。そう思ったこともある。鳥人たちと一緒に暮らすより、そのほうが幸せかもしれない。
だけど。
(こんな、奪われるような形で渡すわけにはいかないんだよ!)
メドリを連れ去って、どうするつもりなのか。
メドリを幸せにしてくれるのならそれでいい。けど、物々しい、軍なんておっかないのを引き連れてきたヤツが、本当に幸せにしてくれるのか?
それに、仮にメドリを引き渡したとして、そのまま素直に軍は引いていくのか? メドリはただの口実で、森を攻撃するために集まっているんじゃないのか? もしそうだとしたら、メドリは渡せないし、鳥人のみんなを守るために、ボクは族長の息子として何か手を打たなきゃいけなくなる。
どっちにしたって、人の真意がどこにあるのか。ボクはそれを確かめたい。
「急ぐぞ、大鷹!」
地面を蹴り、翼をすぼめて、一気に速度を上げる。
目指すは、山のすそ野。忍海彦がいるかもしれない、人の軍。その頭にあって、すべてを問いただす!
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