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五、真秀。 (まほら。すぐれて良い所。素晴らしい場所)
(六)
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――あの子を思うのなら、お前が剣を抜くのだ、ハヤブサ。
父さんはそう言った。
今のメドリを助けるには、あの剣が必要なのだと。
けど、剣は正しい持ち主以外の者が触れれば、雷を落とす。興味本位、軽い気持ちで触れれば、命を落とす。
――無理にとは言わない。だが、その気があるのなら、素珥山へ行け。
メドリを助けたいという気持ちはある。けど。
――じっくり考えろ、ハヤブサ。
父さんは、すべてをボクに委ねた。
――ただ、お前とメドリの間には、目に見えない絆のようなものがある。だから、お前になら、あの剣は抜ける。まあ、これは勘のようなものだから、あてにはならないがね。
ボクとメドリの間の絆。
そんなもの、あるんだろうか。
夜中、室を出て、一人社の階に立つ。
メドリがここに来て七年。一緒に過ごした時間は長いけれど、そんな絆のようなものを感じたことはなかった。
初めて会った時は、薄汚い人の子にしか見えなかったし、父さんから面倒なことを押しつけられたと思っていた。
だから、仕方なく世話をしていただけで、サッサと人の里に返せばいいのにって思っていたほどだった。名前だって、追い詰められてしかたなくつけたようなもの。
(メドリ……)
ここに立って思い出すのは、あの歌垣の日のことだった。この階で、暗い空を見上げていたメドリの横顔。連れて行った先、ムラサキの花をジッと見ていたメドリの姿。
そして。
――さようなら。
最後に見せたあの笑顔。泣きそうなのをこらえて、一生けん命笑ったあの顔。
あんな顔、見たくなかった。あんな震えた声、聞きたくなかった。
天鳥笛を渡した時みたいに、ボクの羽根のなかに潜りこんできたらいいのに。
アイツはボクらを守ろうと、無理に笑って、人の元に行ってしまった。両親を殺されるなんて辛い過去のある場所へ戻っていってしまった。
以前のボクは、メドリの将来を考えるなら、人の里に返してやったほうがいいと思っていた。ここにはメドリのことを快く思っていない鳥人もいる。だから、ここで暮らしていくより、人の子であるメドリは、やはり人の男と番ったほうが幸せだろうって思っていた。
けど。
〝鳥人ノ若子ヨ〟
バサッと翼が風を切る音と同時に、黒い塊がボクのもとへ飛びこんできた。
「大鷹ッ!?」
不格好に、墜落するように腕の中に落ちてきた大鷹。
〝フウ、ヤハリ翼ヲ動カスノハ難シイノ〟
腕の中で二、三度体と羽根を震わせ、体勢を整える。
「翼は、ケガはもう大丈夫なのか?」
右の翼、肩羽のあたりに矢を受けた大鷹。もう二度と空を飛べないかもしれないと言われていたのに。
〝ナンノ、アレシキノケガ。タイシタコトナイワイ〟
翼を広げかけた大鷹。でも右の翼はやはり痛むらしく、途中で広げるのをやめた。
〝右ノ翼ガ動カヌデモ、ワシニハ左ノ翼ガアル。翼デ足リヌナラ、コノクチバシモ、カギヅメモアル。ワシハ、マダ戦エルゾイ〟
「わっ、痛っ!」
コツコツとボクの腕をつついた大鷹。正直、かなり痛い。
〝若子ハ、コレカラドウスルノジャ〟
「え?」
〝メドリ姫ヲ、奪ワレタママニスルノカ、否カ〟
「……ボクは」
〝若子ガ行カヌナラ、ワシ一羽ダケデモ参ルノミ〟
大鷹が、今にも風を掴みそうなほど、翼を広げる。
「勇ましいな、お前は」
〝ソレガ鳥トイウモノ。イヤ、男ノ鳥トイウモノ〟
「男の鳥?」
〝ソウジャ。男ノ鳥ニハ、ソノ命ヲカケルベキ時ガ二ツアル。一ツハ、オノレノ矜持ヲ守ル時。モウ一ツハ、愛スル者ヲ守ル時ジャ。ソノ時ガ来タラ、男ノ鳥タルモノ、命ヲ惜シンデハナラヌ。命ヲ賭シテ、大切ナモノヲ守ルガ定メ〟
己の矜持を守る時。愛するものを守る時。
先ほど聞いた、メドリの父親の最期もそうだったんだろうか。
剣を山に突き立てることで、大君の目をメドリからそらした。愛する娘を鳥人に託した。
そして、理不尽に剣を奪われることに抵抗した。
己の矜持と愛するものを、同時に守って命を落とした。
きっと、つらく大変な逃避行だったのに、最期まで大切なものを守りきった。
メドリだってそうだ。
ここを守るために、みずからの辛い過去へと飛びこんでいった。
(幼いメドリですらがんばっているのに……)
目を閉じ、心を定める。
(メドリ……)
思い浮かぶのは、あのムラサキ草を見た時のメドリの顔。ボクは、あの笑顔をもう一度見たい。あんな震える声じゃなく、笑って「兄さま」と呼ばれたい。そのためには、こんなところでくすぶってちゃいけない。
「大鷹、決めたよ」
〝ホウ〟
「ボクは、メドリを取り返す。メドリの父親の遺した剣を手に入れる!」
父さんはそう言った。
今のメドリを助けるには、あの剣が必要なのだと。
けど、剣は正しい持ち主以外の者が触れれば、雷を落とす。興味本位、軽い気持ちで触れれば、命を落とす。
――無理にとは言わない。だが、その気があるのなら、素珥山へ行け。
メドリを助けたいという気持ちはある。けど。
――じっくり考えろ、ハヤブサ。
父さんは、すべてをボクに委ねた。
――ただ、お前とメドリの間には、目に見えない絆のようなものがある。だから、お前になら、あの剣は抜ける。まあ、これは勘のようなものだから、あてにはならないがね。
ボクとメドリの間の絆。
そんなもの、あるんだろうか。
夜中、室を出て、一人社の階に立つ。
メドリがここに来て七年。一緒に過ごした時間は長いけれど、そんな絆のようなものを感じたことはなかった。
初めて会った時は、薄汚い人の子にしか見えなかったし、父さんから面倒なことを押しつけられたと思っていた。
だから、仕方なく世話をしていただけで、サッサと人の里に返せばいいのにって思っていたほどだった。名前だって、追い詰められてしかたなくつけたようなもの。
(メドリ……)
ここに立って思い出すのは、あの歌垣の日のことだった。この階で、暗い空を見上げていたメドリの横顔。連れて行った先、ムラサキの花をジッと見ていたメドリの姿。
そして。
――さようなら。
最後に見せたあの笑顔。泣きそうなのをこらえて、一生けん命笑ったあの顔。
あんな顔、見たくなかった。あんな震えた声、聞きたくなかった。
天鳥笛を渡した時みたいに、ボクの羽根のなかに潜りこんできたらいいのに。
アイツはボクらを守ろうと、無理に笑って、人の元に行ってしまった。両親を殺されるなんて辛い過去のある場所へ戻っていってしまった。
以前のボクは、メドリの将来を考えるなら、人の里に返してやったほうがいいと思っていた。ここにはメドリのことを快く思っていない鳥人もいる。だから、ここで暮らしていくより、人の子であるメドリは、やはり人の男と番ったほうが幸せだろうって思っていた。
けど。
〝鳥人ノ若子ヨ〟
バサッと翼が風を切る音と同時に、黒い塊がボクのもとへ飛びこんできた。
「大鷹ッ!?」
不格好に、墜落するように腕の中に落ちてきた大鷹。
〝フウ、ヤハリ翼ヲ動カスノハ難シイノ〟
腕の中で二、三度体と羽根を震わせ、体勢を整える。
「翼は、ケガはもう大丈夫なのか?」
右の翼、肩羽のあたりに矢を受けた大鷹。もう二度と空を飛べないかもしれないと言われていたのに。
〝ナンノ、アレシキノケガ。タイシタコトナイワイ〟
翼を広げかけた大鷹。でも右の翼はやはり痛むらしく、途中で広げるのをやめた。
〝右ノ翼ガ動カヌデモ、ワシニハ左ノ翼ガアル。翼デ足リヌナラ、コノクチバシモ、カギヅメモアル。ワシハ、マダ戦エルゾイ〟
「わっ、痛っ!」
コツコツとボクの腕をつついた大鷹。正直、かなり痛い。
〝若子ハ、コレカラドウスルノジャ〟
「え?」
〝メドリ姫ヲ、奪ワレタママニスルノカ、否カ〟
「……ボクは」
〝若子ガ行カヌナラ、ワシ一羽ダケデモ参ルノミ〟
大鷹が、今にも風を掴みそうなほど、翼を広げる。
「勇ましいな、お前は」
〝ソレガ鳥トイウモノ。イヤ、男ノ鳥トイウモノ〟
「男の鳥?」
〝ソウジャ。男ノ鳥ニハ、ソノ命ヲカケルベキ時ガ二ツアル。一ツハ、オノレノ矜持ヲ守ル時。モウ一ツハ、愛スル者ヲ守ル時ジャ。ソノ時ガ来タラ、男ノ鳥タルモノ、命ヲ惜シンデハナラヌ。命ヲ賭シテ、大切ナモノヲ守ルガ定メ〟
己の矜持を守る時。愛するものを守る時。
先ほど聞いた、メドリの父親の最期もそうだったんだろうか。
剣を山に突き立てることで、大君の目をメドリからそらした。愛する娘を鳥人に託した。
そして、理不尽に剣を奪われることに抵抗した。
己の矜持と愛するものを、同時に守って命を落とした。
きっと、つらく大変な逃避行だったのに、最期まで大切なものを守りきった。
メドリだってそうだ。
ここを守るために、みずからの辛い過去へと飛びこんでいった。
(幼いメドリですらがんばっているのに……)
目を閉じ、心を定める。
(メドリ……)
思い浮かぶのは、あのムラサキ草を見た時のメドリの顔。ボクは、あの笑顔をもう一度見たい。あんな震える声じゃなく、笑って「兄さま」と呼ばれたい。そのためには、こんなところでくすぶってちゃいけない。
「大鷹、決めたよ」
〝ホウ〟
「ボクは、メドリを取り返す。メドリの父親の遺した剣を手に入れる!」
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