ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~

若松だんご

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六、風早。 (かざはや。風が強く吹くこと。風の激しい土地)

(五)

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 月明かりの下、東にむかって空を飛ぶ。
 星影に山の木々、稜線りょうせんが黒々と浮かび上がる。
 人の宮を出た時は、黒い塊のように連なって飛んでいた鳥たちも、少しずつ別れ、それぞれの巣へと帰っていく。きっと明日には、仲間や家族に自分がいかに活躍して、メドリを助けたか自慢気に話すんだろう。メドリを背に乗せて飛んだとか、人の間を縫うように飛んで驚かせたとか。きっと、鳥たちの一生に一度、生涯で一番大きな自慢話になるだろう。

 そんな鳥たちが別れのあいさつに近づいてくるたびに、メドリが「ありがとう」とか「おやすみなさい」をくり返す。

 「でもほんと、メドリが無事でよかったよ」

 ほとんどの鳥と別れ、あとはやしろに帰るだけとなった頃、カリガネが言った。

 「兵に囲まれてるのを見た時は、どうなるかって思ったけどさ」
 
 「かっこよかったよなあ、ハヤブサの雷。こう、ズババババッて出てさ。飛んできた矢を全部まっ黒焦げにしちゃってさあ」

 「そうだよね、あれ、すごかったよね!」

 ノスリの言葉にカリガネが興奮しながら頷く。

 〝ワシモ活躍シタゾイ!〟

 忘れられては困ると、大鷹オオタカが、ノスリの腕の上で翼を羽ばたかせた。
 あの時の大鷹オオタカは、メドリを助けるために鳥たちを率いて飛んだけど、やはり肩羽の傷は重くて、遠く長い距離を飛ぶ時は、誰かに運んでもらわなきゃいけない。

 「うん。大鷹オオタカもかっこよかったよ」

 そう言ってやると、エヘンと大鷹オオタカが胸を反らした。とまり木代わりに腕を貸してるノスリが「イテっ!」と顔をしかめた。きっと、胸を反らしたひょうしに、鉤爪かぎつめを立てられたんだろう。

 「でもさ、あの抜け殻になった剣、あれをこれからどうするんだろうね」

 「気になるのか、カリガネ」

 「うん。だってあれ、フツミタマノツルギ? だっけ。あれには、なんの力も宿ってないんだよ。ただの鉄のかたまりじゃないか」

 あの剣に宿ってたいかづちの力はボクに移った。だからあれはもう神宝かんだからでもなんでもない、ただの鉄のかたまり。鉄の剣。
 山にあったときは、何年も放置されててもビクともしなかったけど、これからは普通にサビて土にかえっていくんだろう。

 「でも、神宝かんだから神宝かんだからだし。大事にしていくんじゃないのか?」

 力はなくても形は残っている。
 メドリの父親を殺して剣の鞘だけを持ち帰った大君。あの剣が人の神宝かんだから、大君の証だと言うなら、抜け殻であっても大事にするに違いない。
 誰でも持てるようになった剣に、それだけの価値があればだけど。

 「ごめんな、メドリ。お前の父さんの形見をあんなふうに渡してしまって」

 気になることといえばそれだけ。
 あれは、メドリの父親が持っていた剣。それを勝手に渡してしまった。

 「いいの」

 軽く首をふって、メドリが衣の下から勾玉を取り出す。
 
 「それは……」

 「父さまが母さまに贈った、妻問いの宝なの」

 初めて会った時、ずっとメドリが握りしめていた淡桃色の勾玉。忍海彦おしみひこたちに、巫女姫の証みたいに言われたから、どういう品なのかって思っていたけど。

 「そっか」

 それがあれば充分か。
 剣なんて物騒なものじゃなくても。
 軽く笑ってメドリを見ると、ニコッと笑い返された。

 「梯立はしだての 倉橋山くらはしやまは さがしけど いもと登れば さがしくあらず」

 「え?」

 今、なんて言った?

 「ねえねえ、それが〝歌〟ってやつなの? メドリ」

 「やっぱ、鳥のさえずりとは違うなあ。ってか、どういう意味なのさ」

 カリガネだけじゃなく、ノスリも食いついた。大鷹オオタカも興味深そうに首を伸ばす。

 「倉橋山は、天にかけたはしごのように険しいけど、愛する人と登れば、なんてことない、険しくない……って意味だろ」

 メドリの代わりに答える。
 歌った本人は、尋ねられて恥ずかしかったのか、ボクの胸に顔をうずめて、小さくうなずいただけ。

 「父さまが、母さまに贈った歌なの」

 顔を真っ赤にしたメドリが、小さな声で言った。

 「いい歌だな」

 褒めると、メドリがさらにきつくボクの衣を握りしめた。

 「アナタとならどんな山でもへっちゃらさ~か」

 「の鳥とそんなふうに想いあえたら素敵だよね」

 「そうだよな~って、ああっ! 歌垣かがいっ! あれって今年はもう終わりなのかな」

 人の襲撃せいで、途中で終わっちゃったけど。

 「終わりなんじゃないのか?」

 「終わりでしょ」

 ボクとカリガネが答える。

 「ちくしょ~。じゃあ、来年までつがいはお預けかよぉ」

 グシャグシャと髪をかき乱すノスリ。そんなにつがい探しに必死だったのか。

 「じゃあ、メドリ! オイラとつがいになってくれ!」

 ノスリが叫んだ。

 「オイラ、メドリを大切にする! だから、メドリを嫁にくれ、ハヤブサ!」

 は?

 「ノスリ……。そこまでしてつがいが欲しいの?」

 カリガネがあきれた。

 「だってさ。メドリとなら、楽しくやっていけるような気がするんだよな、オイラ」

 「あ、それなら僕もメドリをお嫁さんにほしいかな。メドリとなら、気心知れてるし。一緒に暮らして、いっぱいメドリの歌を聴かせてほしいな」

 カリガネまで言い出した。

 カッカッカッカッ、カッカッカッカッ。

 〝ワシモ姫トツガイタイゾイ〟

 なぜか、大鷹オオタカまで参戦する。

 〝ワシナラ、姫ノタメニ、最高ノ巣ヲ用意デキル〟

 いや、メドリを巣で暮らさせるのかよ。

 「――メドリは誰にもやらない」

 発した声。自分でも知らないうちに、とんでもなく低くなっていた。

 「メドリは、誰もやらない!」

 だって、まだ小さいし。一人じゃ空も飛べないし。あぶなっかしいし。目が離せないし。だから、まだ誰かとつがうなんてできないし。そんなのは、もっともっと先の話だし。
 「じゃあ」とか「それなら」みたいな気軽さで、つがい相手に選んでほしくない。安易すぎる。

 「うわあ、ハヤブサ、おさと同じこと言ってる」

 「うん。おさのこと、親バカとかなんとか言ってたけど、自分もおんなじじゃん」

 〝兄バカジャノ〟

 うなずき合う二人と一羽。

 ――娘は、誰にもやらーん!

 ボクだって、言ってから父さんと同じだって思ったんだから、追い打ちかけるようなこと言うなよ。

 「兄さま……」

 なぜかキュッとボクの首に腕を回したメドリ。なにがうれしいのか、ヘニャッといつものように笑いかけてくる。
 そのせいで、ボクの顔がカッと熱くなる。首をしめられたせいだ。ドキンと胸がはねたのは、息が苦しくて心臓がもがいたせいだ。きっと。

 まったく。
 コイツといると、ほんと、調子が狂う。
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