オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ

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その28 扉の前にて 王太子視点

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そろそろレイクルーゼ嬢が婚約式の打ち合わせで登城してるくるはずだ。
だから父上の執務室に居た。

しかし突然ザイン公爵、伯父上が執務室に入ってきた。

「シャーリーが攫われただと!」  

「陛下、私達のミスです。ルースはシャーロレット嬢の意識はまだ王都にあると言っています。この王都で赤の魔力を使うことをお許しください!危険と判断したら氷の魔族とその娼婦をその場で処刑することをお許しください!」
「父上!」
この打ち合わせがおわればしばらくは新年に向けて休みになる。せっかくゆっくりできると思っていたら何てこった。
「今、ルースが必死にシャーリーの意識を追っています。まだシャーリーの意識を追えているので大丈夫です。」
「承知した。必ず無事で連れ帰ってきてくれ。」

ガタン。扉が開いていたみたいだ。レイクルーゼ嬢だ。
彼女は扉の前で体勢を崩して座り込んでしまった。
「レイクルーゼ嬢!」
彼女に駆け寄り肩に手をかける。
「シャーリー…シャーリーが、どうして…。」
彼女は震えていた。シャーリーのことが心配なんだ。
何だかいつも気が強そうに見えていたが違うのだな。
「大丈夫。必ず無事に戻ってくるはずだ。とにかくルースが探している。」 

レイクルーゼ嬢が何やらぶつぶつ言い出した。
「イベント…思い出すのよ…思い出せ!あったはず…」
ひたすら下を向いて何が呟いている?

「落ち着くんだ。レイクルーゼ嬢!」

彼女は突然顔を上げた。そして父上と伯父上の顔を交互に見た。

「国王陛下…ザイン公爵様…そう2人が並んでいた。」
「レイクルーゼ嬢??」
「レオンハルト…王太子…殿下??いた?違う…
でもあれは…あれは正ルート…違うはず。
でも…ルーズローツのイベントは…」
私に気づいていないのか?それ程動揺してるのか?

「とにかく私は家に戻るよ。ルースが心配だ。タチヒアがついているがかなり不安だろう。側にいてやらないと…」
「すまない。ルーズローツを頼む。そして必ずシャーロレット嬢を無事に助け出してやってくれ。エドワード、お前に頼むしかないんだ。王妃の為にも…私の為にも…マリーの為にもルーズローツを頼む。」
「兄上、大丈夫。あの子は思ったより強い子だ。何たってザイン家自慢の息子だ。あの子はシャーロレット嬢を大切に思っている。大丈夫、必ずあの子なら探しだすよ。」
「エドワード、君はすっかりあの子の父親だな。ありがとう。」

父上は伯父上に頭を下げた。私も視線のあった伯父上に軽く頭を下げた。伯父上は私達のいる扉に向かって歩き出した。 

その時、

「あのイベント…、氷…青の魔族だ………アイザック……リンデトレス王…。」

レイクルーゼ嬢が小声で言った。

青?アイザック?リンデトレス?
確かに氷の魔族リンデトレスがどこかの国に集結して我が国を狙っていると言う話は先日父上から聞かされた。
それを密かに弾圧したとザイン公爵は報告していたはずだ。何故レイクルーゼ嬢がそのことを知っている。更にその魔族の王の名前を知っているんだ?

「…思い出せ…思い出すのよ…私」
「レイクルーゼ嬢!何を言ってるんだ!何か知っているのか!」
大声で彼女の肩を揺する。たまたま歩いてきた伯父上が私達の横で足を止めていた。

「アイザック…アイザック=リンデトレス…」
彼女は気づかずに言葉を繰り返す。
顔は青ざめ、少し震えている。

「レオンハルト殿下、先ほど彼女は何て言いました?
レオンハルト殿下!!今彼女はなんて言った!!
アインシュバッツ嬢!アイザックを知っているのか?」

こんなに大きな声を上げる伯父上を見たことはない。
それだけ彼女の言った言葉は重要なのだと悟った。

更に私は先日での街の事を思い出した。
あの時だ。あの時そいつは近くにいたんだ。
まさかシャーリーが寒さを感じたのはその時に何かされたからか!もうあの時点で彼女は狙われていたんだ。
あの時私達が気づいていれば。くそっ!

伯父上と私は自分の世界に入って何かぶつぶつ言っている彼女をずっとみていた。とにかく次の言葉を待つ。

「落ちつくの…落ちついて考えるのよ。それしかない。
あったでしょう?ルーズローツルートのイベントで…そう正モードのみしかでてこない。あまり正モード覚えていないわ。もう何故隠しモードに出てくるの!それも攫われるのは正ヒロイン。シャーリーじゃない…!あ、シャーリーは今ヒロインだからか…。でもどうして?隠しモードでアイザックが出てくるの?」

レイクルーゼ嬢は何を知ってる?さっきからルートだとかモード、ヒロインとか何を言っているんだ。

「アイザックの隠れ家は何処?あ、よくわからない。あの時の場面に何があった?落ち着け私!大丈夫…大丈夫。よく考えればわかるはず。何か見つけれるはず。でも…暗い。よくわからない。どこ?何処だった?玄関の外に階段??二階?暗くてよく見えない。水の音がする?川?ああ、川があったわ。」

「レイクルーゼ嬢!しっかりしろ!落ち着くんだ。」

彼女の顔はさらに青ざめていた。

「そうだ、そうだわ…。このイベントは間違えるとバッドエンドになるの…。早く…早く助けないと…シャーリーは殺される。どうしたら…ああ、ルーズローツ!早くシャーリーを見つけて…お願い…。」

…殺される?だって!

「レイクルーゼ嬢…何だって…シャーリーは!!」

伯父上が私の肩に手を置いた。
そうだ。私が焦ってはいけない。
落ち着け…落ち着くんだ。

「早く見つけないと…見つけないと…。
思い出すの。知ってるのにそれ以上わからない。シャーリーはどこにいるの?青色の玄関の横に錆びた階段があった。川が近くにあるはず。でもどこの川?」

何で彼女が知っているのはまあ今は考えないでおこう。
シャーリーを見つけなければいけない。
とにかく彼女を落ちつけさせるのが先だ。

川は王都の東側に固まっている。それだけでは情報が少ない。ひとまず川を指示するしかない。
「伯父上、ルースに連絡とれるか」
「魔法石は持たせている。大丈夫、通信できる。」
伯父上は私の隣に座り魔法石を差し出した。
「ルース!聞こえているか?川だ!王都の東だ!ルース、川沿いを探せ!」

レイクルーゼ嬢をソファーに座らせる。
近くにあったグラスに水を注いで彼女に握らせる。
落とさないように手を添える。
目の前に片足をつく。下から彼女を見上げる。
私も落ち着くんだ。私が焦っていたらダメだ。彼女を落ち着かせないと…どうすればいい?
そうだ彼女はアインジュバッツ侯爵、彼女の父上からなんと呼ばれていた?
ああ、そうだったな。優しく、落ち着いた声で話すんだ。

「レイチェ、落ち着くんだ。大丈夫だから。ルースが、必ず助け出すから。ルースが彼女を手放すわけないだろう。レイチェ。」

「そうね…メリバだからありえないわね。ふふふっ」

は?メリバ?なんだ?

彼女は一口水をのんだ。
そして深く息を吐いた。

少し落ち着いた?

「川があるんだね?」
「そう、川があるのだけど音しか聞こえない。ましてや昼なのに暗いの…。カーテンから光が漏れているのだけど強くない…。周りの建物の影になっているんだわ。」

「何か聞こえる?」
「音?川が流れてる。水の音がするの。」
「他には?」
「そうだわ何の音?川の音に混じって微かに聞こえるのは何?ピーって高い音。少し長く響いている。」

…高く鳴り続ける音?
笛の音?!笛だ!笛の音!!

「ルース!アズルガ橋だ!アズルガ橋の近くの集合住宅の二階だ!!青い扉だ!急げ!」

アズルガ橋は跳ね橋だ!一時間に一度橋が上がる時笛が鳴る!

二人とも無事で…
必ず無事で戻ってくるんだ。
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