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第7話ー3 悪役令嬢を包囲しよう。

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ラティディアが部屋に戻った。

「お疲れ様。しかし予想以上だ。」
「はっ?何企んでたんだ。突然ラティディアにお茶を持って来させるなんて。」
「すまん。少し前に出来てたんだが思った以上のことだったから私自身が確認するのに戸惑っていてな。」
「何だ、それ?」

ハーデスはペラペラと数枚の紙を私の目の前にちらつかせた。
そしてソファに移って座った私の前にその5、6枚紙を置い…いや投げ捨てた。

「ラティディア様の秘密。」
「は?」

私はバッとそれを手に取り急いで目を通した。
一枚目に目を通して私はハーデスを見上げた。
どんな顔をしていたのだろう。
困惑、驚愕、不安、歓喜。
全て入っていたに違いない。

ハーデスは頷いた。

そして1枚目をめくり2枚目、3枚目とその報告書の文字を目で追った。

それを読み終えたくらいのタイミングでハーデスは話しかけてきた。

「やはりラティディア嬢がワザと悪く見えるようにしてたようだな。」
そうだ・・・。やはり私の考えはあっていたのか。
「私たちはまんまと彼女の演技に騙されていたわけか…」

一枚目には彼女がお忍びで修道院や孤児院に出入りしていたこと。
二、三枚目には自分の買い与えられたものをお金に変えてその修道院や孤児院に寄付していたこと。
そして侍女であるカーラはその孤児院から引き取ったということ。

どこにも彼女が悪いことをしていたなんで記述はない。
むしろ逆だ。彼女はとても優しく、周りから好かれている。

「次の報告書はダリア様の真実です。」
ハーデスは少し低い声で言った。

四枚目にはダリアに対してラティディアは虐めていなかったことが書いてあった。
これはダリアの取り巻きや学園のクラスメイトから聞きとったもののようだ。
ラティディアは多少きつい口調だが常識的なことを注意しただけらしい。

プリントや連絡の件もダリアの取り巻きに頼んでいたが本人に会えず渡せなかったり、伝えられなかったようだ。それがいつのまにかラティディアが意地悪をしていたことになってしまっていたこと。

スカートにジュースを溢されたと言っていたのもダリアが悪戯しようとラティディアに近づいたもののその前に誰かにぶつかって自分にかかっていたこと。

他のほとんどが狂言だということ。


私は困惑した顔でハーデスを見た。
ハーデスが少し目を細めて私を見ていた。
自分の人を見る目がなかったことは反省している。
先日ダリアのことはジェイデンからも聞いていたことだ。
ハーデスは何も言わない。
この情けない主を持ったことを悲観しているのだろうか。

仕方なく4枚目をめくり5枚目の紙を読み始めた。

五枚目は彼女の頭がかなり良いということ。
一度回答欄をずらして書いたことがあったようだ。全ての教科満点だったらしい。
それを指摘すると次からはわざとらしく間違えをし始めたようだ。

「何だかどうなってるんだ。いいことだらけじゃないか?」
「実は先日、8年の学年最終テストをやらせたんだ。」

ハーデスが私が5枚目を見終わったのを確認してから話しはじめた。
ハーデスにはラティディアの勉強を見てもらっていた。

「8年の?」

ラティディアは6年だ。

「本来は全教科45分ずつ与えられるんだが…九教科全部で半分以下で終わったよ。」
「は?」
「更に全部合ってるんだ。」
「は?」
「それどころか、6年生までには習わない方法で問題が解かれている箇所もある。」
「じゃあ、下から数えた方が早い彼女の成績は?」
「多分、学年一番のジェイデンと張るんじゃないかな。」

ジェイデンの頭は飛び抜けている。
1年の時にはすでに8年の問題を簡単に解いていた。
それと同じ…だって?
「彼女は文学、語学に抜き出てる。計算脳のジェイデン殿下とは違ったものだ。」
「しかし、何故ここまで完璧に隠していたんだ・・・。」
「家族や公爵家の他には一人だけ気づいてみたいだ。6枚目見てみ。」

六枚目にはジェイデンがクラスでただ一人ラティディアをかばう発言をしたことがかかれていた。
クラスでダリアの髪飾りが無くなったことがあったようだ。
その時誰もがラティディアを疑った。しかしジェイデンだけは
「彼女はそんなことをするような子ではないよ。」と言ったようだ。
他にも教科書がなくなったり、筆記具がなくなったりしていたようだがジェイデンは人を疑うのはいけないとダリアに諭していたことが書かれていた。

「ジェイデンは彼女が悪役のように演じていたのを知っていたのか?」
「まあそういうことになるかな?」
「だから・・・なのか?」
「何かあったか?」
「あ、いやなんでもない。」

ジェイデンはやはりラティディアが好きなのか?
ずっとジェイデンは本当の彼女を見ていた。
知っていた…。
だから…ラティディアを…。

「・・ス!エディシス?」
「ああ、ハーデス申し訳ない。」

先日のジェイデンの言葉を思い出して考え込んでしまった。

「問題はなぜラティディア様がこんな演技をしていたのかだ。」
ハーデスが少し考え込んだ。
「彼女は私との婚約を破棄したかったんだ・・・。」
「は?どういうことだ。」
「それしか考えられない。彼女はダリアに対して何もしていないのに
それを否定していない。」
「ダリアをいじめればお前がラティディア様を嫌って婚約破棄をする。確かにそう考えるのが普通だな。ましてやわがまま、浪費とかの噂から考えたら誰もが彼女が王太子妃になることを反対するだろう。そこなのか・・・。お前何やった?」
「何もしていないつもりなんだけどな・・・。」
「じゃあなぜラティディア様が婚約を破棄したがるんだ?」
「そこまで報告書を纏めると有能な側近として褒めてやってもいいのだか。」
「は?ここまで2週間で調べたんだよ。大変だったんだ。」
「あ、すまない。私の個人的な都合で動かしてしまった。」
「まあ、私にとっても大問題だからね。
ラティディア様が王太子妃になるか、ダリア様が王太子妃になるか。」

ハーデスが嫌そうな顔で私を見た。
やはりハーデスもジェイデンと一緒でダリアの本性に気づいていたのか。

「ダリアはない。」

私ははっきりいい切った。
ハーデスは安心した様子だった。
「だよね。よかったよ。後者なら俺はお前の側近やめるわ。主は選びたいよ。もしダリアを選べば文句なしに俺はジェイデン殿下を押す勢力に覆るつもりだったからね。」
「ジェイデンといい。みんな人が悪いな。教えてくれればいいのに。」
「だって教えなきゃわからない馬鹿な王太子になんて付き合えないよ。
自分で気づいて、自分で間違えを正して、自分で行動する。これがなきゃついてはいけないよ。
まあ、お前はギリギリで気づけたな。」
「ジェイデンと同じことを言うんだ。私だけだったのか…」
「しかし何で気づいたんだ?もう俺はダリアの本性に騙されたままかと思った。まあラティディア様と婚約破棄したら俺も動こうかと思っていたよ。」
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