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手放すべきもの
「メリルが人間と恋仲になっていることは報告を受けていたが、まさか子供まで身籠っていたとは…ドルマンがこれを知ったら半狂乱だろうな」
「これで純血の子供が生まれる道は絶たれてしまったということですね。血脈至上主義の方々もどう出るか…」
スケルが神妙な面持ちで呟いた。
「自分の妻をオラシオ様に差し出すとか言い出しますわよ、あの人達、頭がおかしいんです」
メリルが吐き捨てた。
「種を繋ぐのは生物の本能だといいますが、減り続ける一方の私たちが生き残る為に混ざり合うのは自然なことではないですか。純血などどれ程の意味があると言うのです。現に同族の殆んどは人間と結婚している。私達ばかりが枷を背負う意味がわからない」
「ですよね~」
ブランシュがメリルの言葉に感心したように頷いた。
「身の内から感情が溢れて激しく求めるような相手に巡り会えた事こそ奇跡。そちらを優先して何が悪いのか」
「凄いぃ、メリル様、語るぅ~」
「お前、不敬だぞ」
カクマがブランシュを諌めた。
「まあ、概ね俺も同じ意見だな。一族筆頭などと面倒な役目を押し付けられて辟易していたんだ。吸血族が滅びようと正直どうでも良い。そんなもんに拘って一生を棒に振りたくない」
カクマとスケルが主人の言葉に戸惑っている。
「主様がそのように考えておいでだとは…思ってもおりませんでした」
オラシオがふっと笑った。
「俺とて最初は疑問も感じなかったさ。家柄と血脈に誇りを持っていたし、お役目とて名誉な事と思っていた。このまま、一族の望みに従ってメリルと婚姻し、子を作るのが最善と考えていたが…」
ブランシュはオラシオの手を握った。
「オラシオ様は最後の純血の吸血族となるお子さまの事を想像されたのではないですか?」
メリルは目を伏せた。
カクマとスケルはハッとしたようにオラシオを見た。
その子は同じように一族の望みを背負う。
オラシオより更に孤独で切実な環境に置かれるだろう。
「もう良いだろう。俺は、我ら一族を血の呪縛から解放したいのだ、息苦しい王宮の監視からもな」
ブランシュはオラシオの肩に目を閉じ寄りかかった。
「お優しいオラシオ様。そうですわ、吸血族なんてほんの少し力が強くて偏食なだけ、思考は私達人間と変わりません」
お前は人間というか人狼とのハーフだけどな、と、スケルとカクマは心の中で突っ込む。
「ブランシュもお手伝い致します」
「私達も!」
スケルとカクマは慌てて進み出た。
オラシオは長い足を組み、その上で手を組み合わせた。
顎をのせ牙を剥き出しニヤリと笑った。
「では、始めようか」
真夜中の晩餐は吸血族の伝統的な習慣だ。
歓談しながらワインもしくは血液を薔薇の花を摘まみながら頂く。
オラシオの誘いを受けて、ドルマンはいそいそと小振りなボトルを携えて姿を表した。
「お招き頂いてありがとうございます」
ドルマンは席に着く。
「メリルはどうやら長旅で疲れてしまったらしく、早々に休んでしまったようです。どうかご容赦下さい」
「構わない。一族の今後についてドルマン殿にご意見をうかがいたくてね、ご婦人にはつまらない時間になったであろうから」
ドルマンは給仕のために側に立つカクマにボトルを差し出した。
「今宵の為に用意しました。オラシオ様に是非お召し上がり頂きたく…きっとお気に召すかと」
カクマはボトルを受け取り、主人の元へ運んだ。
ワイングラスにほんの少し注いだところで、オラシオが止めさせた。
その香りをクンと嗅ぐと眉を上げた。
「ほう、成る程良く似ている」
ドルマンが訝しげにオラシオを見やる。
「ブランシュを呼べ」
カクマが腰を折った後、部屋を出た。
「ドルマン殿、この血はどこで入手された?」
「ご興味がおありですか?」
ドルマンは手を組み合わせた。
「稀血の持ち主を偶然見付けましてな、なんとこの血液には滋養強壮効果がある。普通の人間の血とは比にならないというんです。私は吸血はしないので、確かめようがないんですがね」
「ほう、その人物と雇用契約を結ばれたのか」
ドルマンは言い淀んだ。
「ええ、まあ…。この血の持ち主は家族を含めて半永久的に血液を提供しても良いと言っています。我ら一族を信奉し、糧にならせて欲しいと自ら申し出てくれました。私が管理者となり同胞らにもお譲りしようかと」
「成る程、稀血を量産して私腹を肥やすつもりか。我々から吸いとらずとも良いものを」
「オラシオ様と違って我が家は王宮からの依頼も頻繁ではないので…まあ、健康志向の貴族連中にも加工して販売しても良いのですが」
その時、ドアが開き、ブランシュが姿を現した。
オラシオが側に呼び寄せる。
ドルマンが不思議そうにブランシュを見た。
「オラシオ様、その娘は?」
「俺の糧だ」
オラシオはブランシュの顎を引き寄せ、口を開いた。
ブランシュの唇をこじ開けて唾液を啜る。
目の前で繰り広げられる濃厚な口付けを見て、ドルマンは唖然とし、その内顔色を変えて震えだした。
「オラシオ様!どういう事ですかっ、当家の娘と婚約を交わしながらそのような娘を…っ!」
オラシオはブランシュから名残惜しそうに唇を離し、舌舐めずりをした。
「俺はこのブランシュを生涯の伴侶に選んだ。お前の娘とは結婚しない」
ドルマンは激昂し、立ち上がった。
「なんたる侮辱!愚行!貴方は我が一族を滅するつもりか!」
ブランシュは背筋を伸ばし、手を前で組んだ。
「お言葉ですが伯爵。人狼をお飼いになり、繁殖させるなどという非人道的な試みを為されようとする貴方にオラシオ様を責める資格はございますか?」
ドルマンは口をつぐみ、狼狽えた。
「な、何を」
「ドルマン、ブランシュはその血の持ち主の娘だ。父親を狩られて、私のフィアンセはたいへん悲しんでいる」
「そ、そんな、まさか。オラシオ様ともあろうお方が人狼を伴侶などと……!」
ドルマンは後退った。
「人狼と我らと何が違う?蔑むお前の心持ちが最も卑しい。王宮との盟約も破り、一族の品位を落とした罪。何より我が愛するものを怒り悲しませたことが許せん。よって、お前は俺が粛清する」
オラシオは牙を剥く。
ドルマンが部屋の外にいる部下を呼ぼうとするが、スケルとカクマが既に拘束された姿の彼らを連れてきた。
「メリルを…っ、メリルはどうされるおつもりです!あの娘は唯一の純血の…っ」
ドルマンはその場に座り込んだ。
「メリルは既に人の子を身籠っている」
ドルマンは目を見開き、信じられないと首を振った。
「お前が信頼していた侍従とな。メリルから恋人と子供を守るよう懇願された」
ドルマンは床に突っ伏し、拳で床を叩いた。
「高貴な吸血族の血が途絶えるとは…っ!何のために、人間などにかしずいてきたと」
「俺は、己の心の赴くままに命を輝かせることを至上の幸せと定めた。その望みの前には血の継承など塵も同じだ」
放心しているドルマンは拘束され連れられていく。
「ブランシュ!」
ドルマンと入れ違いに部屋に駆け込んできた薄汚れた男を見て、ブランシュは固まった。
「パパだよーっ!」
「こんの、糞親父がぁ!」
ブランシュは駆け出し、ボロ雑巾のような父目掛けて迷いなく跳び蹴りを食らわした。
ドサッと倒れこみ、胸を押さえて恨めしく見上げる男に更に馬乗りになり拳を振り上げた。
オラシオがその腕を掴む。
「ブランシュ落ち着け」
「主様、殴らせて下さい!こんの馬鹿は私ばかりか主様の手まで煩わせてっ」
父はブランシュの下から慌てて抜け出し、平伏した。
「この度はブランシュがお世話になり、私達を狙う者共を捕獲していただき、誠にありがとうございます」
「礼には及ばない、ご無事で良かった」
オラシオは手を差し出した。
その手を両手で握りしめ、父は顔を輝かせた。
「これで故郷にブランシュを連れて帰れます!」
オラシオとブランシュは静止した。
「ちょっと!そんな事聞いてないんだけど」
ブランシュが慌てて叫ぶと、父は小刻みに頷きながらブランシュの肩を掴んだ。
「人間国はお前には暮らし辛いだろ。またいつ狙われるかわからないしな。故郷なら人間は立ち入れないし安全だ。お肉も食べ放題だぞ!」
「お肉が…」
「ブランシュ!俺より肉を選ぶのか!」
オラシオはブランシュの両腕を後ろから掴んで揺らした。
「いやだ、そんな訳無いじゃないですか」
ブランシュは微笑みながら振り向いた。
線になった目の奥がうかがえず、オラシオは不安になる。
人狼の父は更に故郷を褒め称える。
「里の男達は逞しいしフェミニストだぞ。その日に捕れた一番上等な獲物を意中の女性に捧げる習慣がある。番とは一生添い遂げるし、浮気は一切しない」
「へえ…」
ブランシュは父に向き直った。
「ブランシュ!」
オラシオはブランシュを父から引き剥がし、抱き込んだ。
「お父上、ブランシュは里へは帰さない。俺が伴侶として貰い受ける」
父の表情がみるみる不穏なものに変わっていく。
鼻に皺を寄せながらゆっくりと立ち上がった。
「お前、ブランシュを飼うつもりか」
「パパ、オラシオ様は違う」
父は牙を剥き出した。両耳が尖り、黒い毛に覆われていく。
「親切ぶりやがって、結局お前もドルマンと変わらない、ブランシュの血が目当てなんだな。ブランシュ、そいつから離れろ!」
オラシオもまた立ち上がり、父と向き合った。
「ブランシュの血に惚れ込んだのは確かだが、側に置きたいのはそれだけが理由ではない。最早、俺はブランシュと離れられぬ…引き剥がすというなら父上とは言え容赦はしないが?」
ブランシュは、睨み合うオラシオと父を交互に見上げながら溜め息をついた。
「二人とも落ち着きましょう。オラシオ様、父と二人で話させて下さい」
オラシオはブランシュの手を取った。
「ブランシュ、俺だって毎日肉を食わせてやれる。望むなら毎日狩りをしたって構わない。浮気もしないし一生お前の側を離れぬ」
「オラシオ様、私のためにそのような事をする必要はありません」
ブランシュは苦笑いをした。
「ご安心下さい。私はどうやら規格外のようです。普通女性が望むような幸せにはそそられぬのですから」
「これで純血の子供が生まれる道は絶たれてしまったということですね。血脈至上主義の方々もどう出るか…」
スケルが神妙な面持ちで呟いた。
「自分の妻をオラシオ様に差し出すとか言い出しますわよ、あの人達、頭がおかしいんです」
メリルが吐き捨てた。
「種を繋ぐのは生物の本能だといいますが、減り続ける一方の私たちが生き残る為に混ざり合うのは自然なことではないですか。純血などどれ程の意味があると言うのです。現に同族の殆んどは人間と結婚している。私達ばかりが枷を背負う意味がわからない」
「ですよね~」
ブランシュがメリルの言葉に感心したように頷いた。
「身の内から感情が溢れて激しく求めるような相手に巡り会えた事こそ奇跡。そちらを優先して何が悪いのか」
「凄いぃ、メリル様、語るぅ~」
「お前、不敬だぞ」
カクマがブランシュを諌めた。
「まあ、概ね俺も同じ意見だな。一族筆頭などと面倒な役目を押し付けられて辟易していたんだ。吸血族が滅びようと正直どうでも良い。そんなもんに拘って一生を棒に振りたくない」
カクマとスケルが主人の言葉に戸惑っている。
「主様がそのように考えておいでだとは…思ってもおりませんでした」
オラシオがふっと笑った。
「俺とて最初は疑問も感じなかったさ。家柄と血脈に誇りを持っていたし、お役目とて名誉な事と思っていた。このまま、一族の望みに従ってメリルと婚姻し、子を作るのが最善と考えていたが…」
ブランシュはオラシオの手を握った。
「オラシオ様は最後の純血の吸血族となるお子さまの事を想像されたのではないですか?」
メリルは目を伏せた。
カクマとスケルはハッとしたようにオラシオを見た。
その子は同じように一族の望みを背負う。
オラシオより更に孤独で切実な環境に置かれるだろう。
「もう良いだろう。俺は、我ら一族を血の呪縛から解放したいのだ、息苦しい王宮の監視からもな」
ブランシュはオラシオの肩に目を閉じ寄りかかった。
「お優しいオラシオ様。そうですわ、吸血族なんてほんの少し力が強くて偏食なだけ、思考は私達人間と変わりません」
お前は人間というか人狼とのハーフだけどな、と、スケルとカクマは心の中で突っ込む。
「ブランシュもお手伝い致します」
「私達も!」
スケルとカクマは慌てて進み出た。
オラシオは長い足を組み、その上で手を組み合わせた。
顎をのせ牙を剥き出しニヤリと笑った。
「では、始めようか」
真夜中の晩餐は吸血族の伝統的な習慣だ。
歓談しながらワインもしくは血液を薔薇の花を摘まみながら頂く。
オラシオの誘いを受けて、ドルマンはいそいそと小振りなボトルを携えて姿を表した。
「お招き頂いてありがとうございます」
ドルマンは席に着く。
「メリルはどうやら長旅で疲れてしまったらしく、早々に休んでしまったようです。どうかご容赦下さい」
「構わない。一族の今後についてドルマン殿にご意見をうかがいたくてね、ご婦人にはつまらない時間になったであろうから」
ドルマンは給仕のために側に立つカクマにボトルを差し出した。
「今宵の為に用意しました。オラシオ様に是非お召し上がり頂きたく…きっとお気に召すかと」
カクマはボトルを受け取り、主人の元へ運んだ。
ワイングラスにほんの少し注いだところで、オラシオが止めさせた。
その香りをクンと嗅ぐと眉を上げた。
「ほう、成る程良く似ている」
ドルマンが訝しげにオラシオを見やる。
「ブランシュを呼べ」
カクマが腰を折った後、部屋を出た。
「ドルマン殿、この血はどこで入手された?」
「ご興味がおありですか?」
ドルマンは手を組み合わせた。
「稀血の持ち主を偶然見付けましてな、なんとこの血液には滋養強壮効果がある。普通の人間の血とは比にならないというんです。私は吸血はしないので、確かめようがないんですがね」
「ほう、その人物と雇用契約を結ばれたのか」
ドルマンは言い淀んだ。
「ええ、まあ…。この血の持ち主は家族を含めて半永久的に血液を提供しても良いと言っています。我ら一族を信奉し、糧にならせて欲しいと自ら申し出てくれました。私が管理者となり同胞らにもお譲りしようかと」
「成る程、稀血を量産して私腹を肥やすつもりか。我々から吸いとらずとも良いものを」
「オラシオ様と違って我が家は王宮からの依頼も頻繁ではないので…まあ、健康志向の貴族連中にも加工して販売しても良いのですが」
その時、ドアが開き、ブランシュが姿を現した。
オラシオが側に呼び寄せる。
ドルマンが不思議そうにブランシュを見た。
「オラシオ様、その娘は?」
「俺の糧だ」
オラシオはブランシュの顎を引き寄せ、口を開いた。
ブランシュの唇をこじ開けて唾液を啜る。
目の前で繰り広げられる濃厚な口付けを見て、ドルマンは唖然とし、その内顔色を変えて震えだした。
「オラシオ様!どういう事ですかっ、当家の娘と婚約を交わしながらそのような娘を…っ!」
オラシオはブランシュから名残惜しそうに唇を離し、舌舐めずりをした。
「俺はこのブランシュを生涯の伴侶に選んだ。お前の娘とは結婚しない」
ドルマンは激昂し、立ち上がった。
「なんたる侮辱!愚行!貴方は我が一族を滅するつもりか!」
ブランシュは背筋を伸ばし、手を前で組んだ。
「お言葉ですが伯爵。人狼をお飼いになり、繁殖させるなどという非人道的な試みを為されようとする貴方にオラシオ様を責める資格はございますか?」
ドルマンは口をつぐみ、狼狽えた。
「な、何を」
「ドルマン、ブランシュはその血の持ち主の娘だ。父親を狩られて、私のフィアンセはたいへん悲しんでいる」
「そ、そんな、まさか。オラシオ様ともあろうお方が人狼を伴侶などと……!」
ドルマンは後退った。
「人狼と我らと何が違う?蔑むお前の心持ちが最も卑しい。王宮との盟約も破り、一族の品位を落とした罪。何より我が愛するものを怒り悲しませたことが許せん。よって、お前は俺が粛清する」
オラシオは牙を剥く。
ドルマンが部屋の外にいる部下を呼ぼうとするが、スケルとカクマが既に拘束された姿の彼らを連れてきた。
「メリルを…っ、メリルはどうされるおつもりです!あの娘は唯一の純血の…っ」
ドルマンはその場に座り込んだ。
「メリルは既に人の子を身籠っている」
ドルマンは目を見開き、信じられないと首を振った。
「お前が信頼していた侍従とな。メリルから恋人と子供を守るよう懇願された」
ドルマンは床に突っ伏し、拳で床を叩いた。
「高貴な吸血族の血が途絶えるとは…っ!何のために、人間などにかしずいてきたと」
「俺は、己の心の赴くままに命を輝かせることを至上の幸せと定めた。その望みの前には血の継承など塵も同じだ」
放心しているドルマンは拘束され連れられていく。
「ブランシュ!」
ドルマンと入れ違いに部屋に駆け込んできた薄汚れた男を見て、ブランシュは固まった。
「パパだよーっ!」
「こんの、糞親父がぁ!」
ブランシュは駆け出し、ボロ雑巾のような父目掛けて迷いなく跳び蹴りを食らわした。
ドサッと倒れこみ、胸を押さえて恨めしく見上げる男に更に馬乗りになり拳を振り上げた。
オラシオがその腕を掴む。
「ブランシュ落ち着け」
「主様、殴らせて下さい!こんの馬鹿は私ばかりか主様の手まで煩わせてっ」
父はブランシュの下から慌てて抜け出し、平伏した。
「この度はブランシュがお世話になり、私達を狙う者共を捕獲していただき、誠にありがとうございます」
「礼には及ばない、ご無事で良かった」
オラシオは手を差し出した。
その手を両手で握りしめ、父は顔を輝かせた。
「これで故郷にブランシュを連れて帰れます!」
オラシオとブランシュは静止した。
「ちょっと!そんな事聞いてないんだけど」
ブランシュが慌てて叫ぶと、父は小刻みに頷きながらブランシュの肩を掴んだ。
「人間国はお前には暮らし辛いだろ。またいつ狙われるかわからないしな。故郷なら人間は立ち入れないし安全だ。お肉も食べ放題だぞ!」
「お肉が…」
「ブランシュ!俺より肉を選ぶのか!」
オラシオはブランシュの両腕を後ろから掴んで揺らした。
「いやだ、そんな訳無いじゃないですか」
ブランシュは微笑みながら振り向いた。
線になった目の奥がうかがえず、オラシオは不安になる。
人狼の父は更に故郷を褒め称える。
「里の男達は逞しいしフェミニストだぞ。その日に捕れた一番上等な獲物を意中の女性に捧げる習慣がある。番とは一生添い遂げるし、浮気は一切しない」
「へえ…」
ブランシュは父に向き直った。
「ブランシュ!」
オラシオはブランシュを父から引き剥がし、抱き込んだ。
「お父上、ブランシュは里へは帰さない。俺が伴侶として貰い受ける」
父の表情がみるみる不穏なものに変わっていく。
鼻に皺を寄せながらゆっくりと立ち上がった。
「お前、ブランシュを飼うつもりか」
「パパ、オラシオ様は違う」
父は牙を剥き出した。両耳が尖り、黒い毛に覆われていく。
「親切ぶりやがって、結局お前もドルマンと変わらない、ブランシュの血が目当てなんだな。ブランシュ、そいつから離れろ!」
オラシオもまた立ち上がり、父と向き合った。
「ブランシュの血に惚れ込んだのは確かだが、側に置きたいのはそれだけが理由ではない。最早、俺はブランシュと離れられぬ…引き剥がすというなら父上とは言え容赦はしないが?」
ブランシュは、睨み合うオラシオと父を交互に見上げながら溜め息をついた。
「二人とも落ち着きましょう。オラシオ様、父と二人で話させて下さい」
オラシオはブランシュの手を取った。
「ブランシュ、俺だって毎日肉を食わせてやれる。望むなら毎日狩りをしたって構わない。浮気もしないし一生お前の側を離れぬ」
「オラシオ様、私のためにそのような事をする必要はありません」
ブランシュは苦笑いをした。
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