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8.帰国前夜-2

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「フランツ王子がお前のことを絶賛していたぞ。聡明で博識な王女だと」

兄は、そう言った後、ナプキンで口を拭うと、分厚いステーキにナイフを入れた。
 
「感じの良い方でしたわね。国の事を懸命に考えておられるようだし、皇太子も優秀だという噂も聞いておりますし、ミネシア国も安泰ですわね」
 
カリーナは付け合わせの野菜を口に運んだ。
ソースの風味が良い。

「カリーナ、この間あのようなことを言ったが、私はお前に望まない婚姻を押し付けるつもりはない。幼少の頃から苦労をかけたことは申し訳なく思っているし、兄として、出来る限りのことはしてやりたいと思っている」 

カリーナは兄を見た。兄はこちらを向いて神妙な顔をしている。
 
「苦労なんて思ったことはありませんわ。充分好き勝手させてもらってます。お兄様の方がよっぽどたいへんだったでしょうに」
 
まだ十代だった兄は魑魅魍魎が蠢く王宮で奮闘していた。
その間、私は逃がされ、守られていたのだ。

「まだ幼かったために、なんのお力にもなれず悔しいですわ」
「あの頃、お前が生きてどこかで元気に過ごしていると思うことが救いだったのだ。私も母もな」

カリーナが王宮を去ってから数年後に父の前国王が崩御し、母はカリーナが戻って一年後に亡くなった。
国に戻った日、母と兄はこぞってカリーナを抱き締め、再会を泣いて喜んだ。
 
「王族だからこそなのかもしれないが、お前にはどこか冷めて諦めたところがある。王女だからといって恋情に溺れることを恐れることはない。私が良い例だ」
 
王妃は、王宮に侍女として勤めていた下級貴族の令嬢だった。兄が猛アタックの末射止めたのだ。

「姉上を選んだ兄の目は確かでしたわ」
 
カリーナは明るく愛情深い王妃が大好きなのだ。実の妹のように心配し、可愛がってくれている。
 
「覚えていておいてくれ。私も王妃もお前の幸せを望んでいることをな」
 
兄はカリーナの手に自らの手を重ねて軽く握り、目尻にシワを寄せて笑いかけると、食事を再開した。

「それにしても分厚い肉だな。さすが大国の食事は違う。滅多に食べれないから堪能しないとな」

王様とは思えない貧乏くさい発言だわ。
カリーナはそんな兄の横顔を見て笑った。
優しい兄だ。
政情が落ち着いてから遅い婚姻をした兄夫婦だったが、それからもなかなか子供が授からず、5年目にしてやっと待望の第一子が誕生するのだ。
内心は早く帰りたいだろう。
カリーナも楽しみだ。
警戒していたアルフレッドからのアクションは何もないようだ。
もしかしたら、帰国後に縁談の打診があるのかもしれないが、それならば、いくらでも断りようがある。
カリーナは晩餐会が終わった後の帰国準備について考えはじめた。 
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