21 / 95
8.帰国前夜-2
しおりを挟む
「フランツ王子がお前のことを絶賛していたぞ。聡明で博識な王女だと」
兄は、そう言った後、ナプキンで口を拭うと、分厚いステーキにナイフを入れた。
「感じの良い方でしたわね。国の事を懸命に考えておられるようだし、皇太子も優秀だという噂も聞いておりますし、ミネシア国も安泰ですわね」
カリーナは付け合わせの野菜を口に運んだ。
ソースの風味が良い。
「カリーナ、この間あのようなことを言ったが、私はお前に望まない婚姻を押し付けるつもりはない。幼少の頃から苦労をかけたことは申し訳なく思っているし、兄として、出来る限りのことはしてやりたいと思っている」
カリーナは兄を見た。兄はこちらを向いて神妙な顔をしている。
「苦労なんて思ったことはありませんわ。充分好き勝手させてもらってます。お兄様の方がよっぽどたいへんだったでしょうに」
まだ十代だった兄は魑魅魍魎が蠢く王宮で奮闘していた。
その間、私は逃がされ、守られていたのだ。
「まだ幼かったために、なんのお力にもなれず悔しいですわ」
「あの頃、お前が生きてどこかで元気に過ごしていると思うことが救いだったのだ。私も母もな」
カリーナが王宮を去ってから数年後に父の前国王が崩御し、母はカリーナが戻って一年後に亡くなった。
国に戻った日、母と兄はこぞってカリーナを抱き締め、再会を泣いて喜んだ。
「王族だからこそなのかもしれないが、お前にはどこか冷めて諦めたところがある。王女だからといって恋情に溺れることを恐れることはない。私が良い例だ」
王妃は、王宮に侍女として勤めていた下級貴族の令嬢だった。兄が猛アタックの末射止めたのだ。
「姉上を選んだ兄の目は確かでしたわ」
カリーナは明るく愛情深い王妃が大好きなのだ。実の妹のように心配し、可愛がってくれている。
「覚えていておいてくれ。私も王妃もお前の幸せを望んでいることをな」
兄はカリーナの手に自らの手を重ねて軽く握り、目尻にシワを寄せて笑いかけると、食事を再開した。
「それにしても分厚い肉だな。さすが大国の食事は違う。滅多に食べれないから堪能しないとな」
王様とは思えない貧乏くさい発言だわ。
カリーナはそんな兄の横顔を見て笑った。
優しい兄だ。
政情が落ち着いてから遅い婚姻をした兄夫婦だったが、それからもなかなか子供が授からず、5年目にしてやっと待望の第一子が誕生するのだ。
内心は早く帰りたいだろう。
カリーナも楽しみだ。
警戒していたアルフレッドからのアクションは何もないようだ。
もしかしたら、帰国後に縁談の打診があるのかもしれないが、それならば、いくらでも断りようがある。
カリーナは晩餐会が終わった後の帰国準備について考えはじめた。
兄は、そう言った後、ナプキンで口を拭うと、分厚いステーキにナイフを入れた。
「感じの良い方でしたわね。国の事を懸命に考えておられるようだし、皇太子も優秀だという噂も聞いておりますし、ミネシア国も安泰ですわね」
カリーナは付け合わせの野菜を口に運んだ。
ソースの風味が良い。
「カリーナ、この間あのようなことを言ったが、私はお前に望まない婚姻を押し付けるつもりはない。幼少の頃から苦労をかけたことは申し訳なく思っているし、兄として、出来る限りのことはしてやりたいと思っている」
カリーナは兄を見た。兄はこちらを向いて神妙な顔をしている。
「苦労なんて思ったことはありませんわ。充分好き勝手させてもらってます。お兄様の方がよっぽどたいへんだったでしょうに」
まだ十代だった兄は魑魅魍魎が蠢く王宮で奮闘していた。
その間、私は逃がされ、守られていたのだ。
「まだ幼かったために、なんのお力にもなれず悔しいですわ」
「あの頃、お前が生きてどこかで元気に過ごしていると思うことが救いだったのだ。私も母もな」
カリーナが王宮を去ってから数年後に父の前国王が崩御し、母はカリーナが戻って一年後に亡くなった。
国に戻った日、母と兄はこぞってカリーナを抱き締め、再会を泣いて喜んだ。
「王族だからこそなのかもしれないが、お前にはどこか冷めて諦めたところがある。王女だからといって恋情に溺れることを恐れることはない。私が良い例だ」
王妃は、王宮に侍女として勤めていた下級貴族の令嬢だった。兄が猛アタックの末射止めたのだ。
「姉上を選んだ兄の目は確かでしたわ」
カリーナは明るく愛情深い王妃が大好きなのだ。実の妹のように心配し、可愛がってくれている。
「覚えていておいてくれ。私も王妃もお前の幸せを望んでいることをな」
兄はカリーナの手に自らの手を重ねて軽く握り、目尻にシワを寄せて笑いかけると、食事を再開した。
「それにしても分厚い肉だな。さすが大国の食事は違う。滅多に食べれないから堪能しないとな」
王様とは思えない貧乏くさい発言だわ。
カリーナはそんな兄の横顔を見て笑った。
優しい兄だ。
政情が落ち着いてから遅い婚姻をした兄夫婦だったが、それからもなかなか子供が授からず、5年目にしてやっと待望の第一子が誕生するのだ。
内心は早く帰りたいだろう。
カリーナも楽しみだ。
警戒していたアルフレッドからのアクションは何もないようだ。
もしかしたら、帰国後に縁談の打診があるのかもしれないが、それならば、いくらでも断りようがある。
カリーナは晩餐会が終わった後の帰国準備について考えはじめた。
5
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる