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19.再会-2

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部屋の奥から出迎えた人物は、先日城下町でカリーナを助けてくれたその人だった。
あの時、深く被っていたフードは取り払われ、精悍な素顔が晒されている。

「私を覚えておいでですか?」

柔和な笑みを浮かべる長身の男に、カリーナは思わず駆け寄って抱きついた。
男はカリーナを抱き止めて、頭をなでる。

「お元気そうで安心しました。カレン様」


空中で舞うポットが前に置かれたカップにお茶を注ぐ様子を、カリーナは呆けて眺めていた。

「もしかして、あの頃も家事は全部魔術を使っていたの?」

目の前に悠々と座って指先を動かす男はフフと笑った。

「家事のほとんどはあの子にやらせてました。私は指導だけ」

カリーナは呆れた。
実直な侍従にしか見えなかった。
たいした役者だったのだ。
本当の姿はガルシア国魔道士長官レイモンド。
そりゃあ、王宮の敷地内に塔をまるまる与えて貰えるほどの人物なのだから、家事など出来なくて当然なのかもしれないが。

「貴女の様子はジュード殿から聞いていました」
「叔父上がこちらにきたの?!」
「数年前、偶然こちらに立ち寄られたのですよ。帰国されてから爵位を返上して諸国を旅しておられるとその時お聞きしました」

そう、カリーナが王位を返上する考えを持ったのも叔父の影響が大きい。
叔父のジュードは、帰国してからまだ不安定だった王宮を建て直すために奔走した数年の後、突然、公爵の爵位を返上して旅に出たのだ。

「魔道石盤をお渡ししてあるんですよ。お気に召したようで、定期的にそれを使って連絡を下さるんです」

魔道石盤は、それに書き込めば離れた場所いる者も読むことが出来るという便利な魔道具で、たいへん貴重で高価なものだ。
面白いものには目がない叔父が目を輝かせている様子が目に浮かぶ。

「貴方も叔父上も知っていたのね」

必死に情報を集めていた自分が馬鹿らしくなって口を尖らした。

「ええ、まあ。カレン…カリーナ様もあの子の事を調べていただいてたのですね」

レイモンドは手を組んで目を伏せた。

「カリーナ様、あの子について私が語れることは事実だけです」

カリーナは、はっと顔を上げた。
目の前の男は10年の年月を経ても少しも変わらない。髪が少し伸びた程度だ。
レイモンドは真っ直ぐカリーナを見た。

「あの子が何を思い、何を感じていたかは本人からお聞き下さい」
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