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スピンオフ:【マルコの初恋】柔らかな感触と劣情(18R)
現れた美女
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細身のスーツを着て大股で歩く美貌の男を道行く女性らが振り返る。
いつもなら、笑顔かウィンクのひとつも投げてサービスするところだが、不思議なことにそういう軽薄な気分にはなれない。
心は浮き足立っているのに、頭に浮かぶのは、ただひたすらに1人の女性の事だけだ。
マルコは、沸き立つ胸を落ち着かせるように手で押さえた。
やがて見慣れたリズデのアパートに到着すると、街路樹に凭れて灯りの漏れる部屋を見上げた。
しばらくして、カーテンが揺れて隙間から人影が覗いたが、逆光になってこちらからは見えない。
マルコが手を上げて合図すると部屋の灯りが消えた。
ほどなく、アパートの扉がきしんだ音をたてて開いた。
現れたのは、絶世の美女だった。
いつもの無造作な黒髪は、艶やかに輝き、緩やかにカールして片側の肩から流されている。
胸から上がレースで覆われた黒いドレスは、ぴったりと張り付き、リズデのスレンダーな身体と豊満な胸を際立たせて実に扇情的だ。
スカート部分にはゆったりとしたドレープがあしらわれ、そこから覗く細く白い脚にも目を奪われる。
妖艶にしてどこかあどけない、凛として見えるがどこか無防備な…ああ、形容する言葉が見当たらない。
それほど魅力的だ。
エントランスの階段をゆっくり降りてくる彼女に、マルコはただただ見惚れた。
やがて、マルコのもとにやってきたリズデは、切り揃えた前髪の下から長い睫に縁取られたエメラルドグリーンの瞳をゆっくりと開き、マルコを見上げた。
マルコは息を飲む。
血色のなかった頬は薄桃色に彩られ、唇は濡れたような薔薇色だ。
唯一、胸元に続くきめ細やかな肌は変わらないが…
マルコは思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「お待たせしました」
マルコが言葉もなく自分を凝視している様子を見て、リズデは、微笑んだ。
「びっくりしました?フフ…してやったりですね」
***
レストランに行く道すがら、店に入ってからも、二人は周囲の視線を集めていた。
噂の美貌のヴォクシー大臣が、これまた見たこともないほどの美しい令嬢を連れているのだから、注目されない方がおかしい。
しかし、向かいに座るリズデは全く動じていないようだ。
運ばれてきた食前酒を手に取るとマルコの言葉を待たずに淡々と告げる。
「お疲れ様です」
そして、一気に飲み干した。
「変装しないで出歩くのは久しぶりです。やっぱり解放感がありますね」
出鼻を挫かれたマルコは、少し焦っていた。
「しかし、お前の美しさは少しばかり危険な程だ。さっきから、男達がチラチラこっちを見ていることに気付いているだろう?」
忌々しい不躾な視線だ。
しかし、リズデは事も無げに言いきった。
「自分の見目が良いことは自覚しています。まあ、仕方ないですよね」
目の前に置かれた前菜をパクパクと食べ始めた。しかし、未だ何にも手付かずでリズデを唖然と見詰めているマルコに気付いて、顔を上げた。
「食べないんですか、ボス。私が食べますか?」
マルコは我に返った。
「何を言ってる、人の前菜まで食うやつがあるか。初めて言われたわ!」
リズデはあはは、と笑った。
「ボスの魂が抜け掛かっていたので、戻して差し上げたんですよ」
マルコは食前酒を飲んで心を落ち着けた。
しっかりしろ、今日はリズデから色々と聞き出すつもりだったろう、もちろんその後は全力で口説くつもりだが。
ともかく主導権を握られる訳にはいかない。
「その様子を見ると、好き好んで変装していた訳じゃないようだな」
「着飾るのは嫌いじゃないですね。…でも、今夜は『紫薔薇の貴公子』の相乗効果もあるんじゃないですか?」
リズデはからかった。
「そのあだ名はやめろ。…ケツが痒くなる」
苦虫を噛み潰したような顔でマルコが呟くと、リズデは声を上げて笑った。
そして、前菜をペロリと完食してからナプキンで口を押さえると、姿勢を正してマルコを真っ直ぐ見た。
「さて、ではお話しましょうか。お知りになりたいんですよね?私が姿を偽る理由を」
いつもなら、笑顔かウィンクのひとつも投げてサービスするところだが、不思議なことにそういう軽薄な気分にはなれない。
心は浮き足立っているのに、頭に浮かぶのは、ただひたすらに1人の女性の事だけだ。
マルコは、沸き立つ胸を落ち着かせるように手で押さえた。
やがて見慣れたリズデのアパートに到着すると、街路樹に凭れて灯りの漏れる部屋を見上げた。
しばらくして、カーテンが揺れて隙間から人影が覗いたが、逆光になってこちらからは見えない。
マルコが手を上げて合図すると部屋の灯りが消えた。
ほどなく、アパートの扉がきしんだ音をたてて開いた。
現れたのは、絶世の美女だった。
いつもの無造作な黒髪は、艶やかに輝き、緩やかにカールして片側の肩から流されている。
胸から上がレースで覆われた黒いドレスは、ぴったりと張り付き、リズデのスレンダーな身体と豊満な胸を際立たせて実に扇情的だ。
スカート部分にはゆったりとしたドレープがあしらわれ、そこから覗く細く白い脚にも目を奪われる。
妖艶にしてどこかあどけない、凛として見えるがどこか無防備な…ああ、形容する言葉が見当たらない。
それほど魅力的だ。
エントランスの階段をゆっくり降りてくる彼女に、マルコはただただ見惚れた。
やがて、マルコのもとにやってきたリズデは、切り揃えた前髪の下から長い睫に縁取られたエメラルドグリーンの瞳をゆっくりと開き、マルコを見上げた。
マルコは息を飲む。
血色のなかった頬は薄桃色に彩られ、唇は濡れたような薔薇色だ。
唯一、胸元に続くきめ細やかな肌は変わらないが…
マルコは思わず、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「お待たせしました」
マルコが言葉もなく自分を凝視している様子を見て、リズデは、微笑んだ。
「びっくりしました?フフ…してやったりですね」
***
レストランに行く道すがら、店に入ってからも、二人は周囲の視線を集めていた。
噂の美貌のヴォクシー大臣が、これまた見たこともないほどの美しい令嬢を連れているのだから、注目されない方がおかしい。
しかし、向かいに座るリズデは全く動じていないようだ。
運ばれてきた食前酒を手に取るとマルコの言葉を待たずに淡々と告げる。
「お疲れ様です」
そして、一気に飲み干した。
「変装しないで出歩くのは久しぶりです。やっぱり解放感がありますね」
出鼻を挫かれたマルコは、少し焦っていた。
「しかし、お前の美しさは少しばかり危険な程だ。さっきから、男達がチラチラこっちを見ていることに気付いているだろう?」
忌々しい不躾な視線だ。
しかし、リズデは事も無げに言いきった。
「自分の見目が良いことは自覚しています。まあ、仕方ないですよね」
目の前に置かれた前菜をパクパクと食べ始めた。しかし、未だ何にも手付かずでリズデを唖然と見詰めているマルコに気付いて、顔を上げた。
「食べないんですか、ボス。私が食べますか?」
マルコは我に返った。
「何を言ってる、人の前菜まで食うやつがあるか。初めて言われたわ!」
リズデはあはは、と笑った。
「ボスの魂が抜け掛かっていたので、戻して差し上げたんですよ」
マルコは食前酒を飲んで心を落ち着けた。
しっかりしろ、今日はリズデから色々と聞き出すつもりだったろう、もちろんその後は全力で口説くつもりだが。
ともかく主導権を握られる訳にはいかない。
「その様子を見ると、好き好んで変装していた訳じゃないようだな」
「着飾るのは嫌いじゃないですね。…でも、今夜は『紫薔薇の貴公子』の相乗効果もあるんじゃないですか?」
リズデはからかった。
「そのあだ名はやめろ。…ケツが痒くなる」
苦虫を噛み潰したような顔でマルコが呟くと、リズデは声を上げて笑った。
そして、前菜をペロリと完食してからナプキンで口を押さえると、姿勢を正してマルコを真っ直ぐ見た。
「さて、ではお話しましょうか。お知りになりたいんですよね?私が姿を偽る理由を」
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