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「・・はぁ、やっと二人きりになれました」
夕方になり(外はもう真っ暗だが)、部屋に案内されたオレたちは、ソファに座り一息ついた。といっても、もうすぐ夕食の時間だそうで、あまりのんびりもしていられない。
「ギヴは人気者だね」
この村に着いてから半日、ギヴと一緒に行動しているが、どこに行ってもギヴは温かく迎えられていた。
好々爺の村長に、テーブルランプの追加の発注をしにこの村に来たことと滞在の許可を貰った後、そのまま昼食に誘われた。
ありがたくご一緒させてもらい、テムとトールも含め、五人でテーブルを囲み、牛乳たっぷりのシチューと、とろけたチーズののったバゲットを頂いた。
その後は、早速工房に頼みにいくとギヴが言うので、暇なオレも付いて行った。テムとトールも暇なのか、「俺たちも睨みを効かせてやる」と一緒に付いてきた。
馬車の必要はなく、村長の屋敷の周りに工房も、村民の家々も、ちょっとした店も、何もかもがぎゅっと集まっているので、簡単に徒歩で行けるんだ。
そして、さすが“ドワーフの村”、建造物にはそれぞれ細工が施されていて可愛いのだ。
「もう、習性だな。細工を入れずにはいられないんだべ」
オレが大絶賛していると、テムがそんなことを言う。
ドワーフの習性、ということかな?──あまり突っ込んではいけない。
工房に着くと、ギヴは職人さん達ともとても気が合うようで、肩を組んだり小突きあったり、仕事の交渉に来たというより、友人の家に遊びに来たような気安さだった。これは、ギヴの人柄もあるのだろうけど、この村のみんなが温かい人柄なのだろうな。
それにしても、連絡が行き届いていたのか、みんな人の姿で安心した。
ほのぼのと一歩下がったところでそんなことを考えていたら、一人、二人、とギヴを通り越してオレに目線が集まり出した。
「・・・エメラルドの精霊か?人間に化けているのか?」
「・・・え?」
言われた意味がよくわからなかった。
「彼は私の婚約者だ」
「はじめまして、ラブラドライト=ポーラといいます。よろしくお願いします」
「ラブラドライトはギベオンとおんなじ、人間だべ。ちょいと人間離れした瞳を持っているが、変なこと言っちゃあ失礼だべ」
テムが横から口を出す。
人間に化けている、と疑われたのは聞き間違いじゃなかったようだ。そんなにこの瞳は人間離れしているのだろうか。
だが、ドワーフの宝石好きのお陰で、ギヴの連れという以上に大歓迎された。
なんなら、“結婚して欲しい。毎日その瞳を眺めて暮らしたい”と数人に右手を差し出され、プロポーズされた。
──この村ではみだりに握手をしてはいけない、と学んだ。
その後も工房内で素晴らしく緻密な作品を色々見せてもらい(ギヴはいくつか買い付けもして)、作品の工程を説明してもらい、とっぷりあたりが暗くなって、ようやく村長の屋敷に戻ってきたのだ。
季節的にも地域的にも早く暗くなったのだろうけど。
「疲れていませんか?」
「うーん、色々楽しすぎてあまり疲れは感じていないよ。ギヴこそ疲れただろう?」
「ええ、あちこちで貴方が注目の的でしたから。誰かに奪われてしまうんじゃないかと、心配で疲れました」
「なんだ、その疲れ」
あはは、と笑ってギヴを見れば、冗談じゃなかったらしく暗い顔をしていた。
「癒やして下さい」
「う、うん・・?」
横からぎゅう、と抱きしめられる。
「愛しています」
「──、あの、・・・ありがとう」
「私の愛を、受け入れてくれますか?」
穏やかだけど、真剣な眼差しだった。
オレは、照れながらも、こくりと頷いた。
「ギヴが、好きだ。た、多分、友人以上に、・・・愛している」
口から出たのは、恥ずかしくなるほどたどたどしい言葉だった。なんと、オレが同性に愛をささやく日が来ようとは。
でも、もう自分をごまかせそうにない。ギヴと触れ合いたいし、キスだってしたい。その先も──・・・。
待てよ?
その先ってなんだ?
男同士でキスの先なんてあるのか?
「ラド、聞いていいですか?高位貴族は年頃になると閨の授業があるそうですが、・・ラドも?」
「ね、閨の授業?」
なんだその羨ましい授業は。もちろんオレにそんな経験はない。
ぶんぶんと首を振ると、ラドが微笑んだ。
「そうですか、安心しました。そんな事が起きないように気を付けていましたが。それと、もう一つ」
「うん?」
起きないように気を付けていた、とは?
「男性同士の閨ごとは、どこまでご存知ですか?」
「ギヴ、バカにするなよ。オレはギヴより三つもお兄ちゃんなんだぞ」
「・・・ラド?」
オレは隣に座るギヴの方に体を向けた。
「──目、目を、閉じて」
ラドが珍しくもきょとん、としてる。可愛い。
「男同士の閨ごとは、キス。・・だろ?」
そう教えて、ゆっくりと伸び上がってラドに口づけた。
少し離れて、離れがたくなってもう一度。
柔らかい唇の感触にドキドキと胸が早鐘を打つ。
「・・・ラド」
離れると、ギヴが感動したようにオレを見た。
キス、初めてだったのかな。人のことは言えないが。
「・・・初めてだった?」
「はい」
聞いてみたら、やはりそうだった。
「もう一度、お願いします」
後頭部にスッと指を差し込まれ、引き寄せられた。
夕方になり(外はもう真っ暗だが)、部屋に案内されたオレたちは、ソファに座り一息ついた。といっても、もうすぐ夕食の時間だそうで、あまりのんびりもしていられない。
「ギヴは人気者だね」
この村に着いてから半日、ギヴと一緒に行動しているが、どこに行ってもギヴは温かく迎えられていた。
好々爺の村長に、テーブルランプの追加の発注をしにこの村に来たことと滞在の許可を貰った後、そのまま昼食に誘われた。
ありがたくご一緒させてもらい、テムとトールも含め、五人でテーブルを囲み、牛乳たっぷりのシチューと、とろけたチーズののったバゲットを頂いた。
その後は、早速工房に頼みにいくとギヴが言うので、暇なオレも付いて行った。テムとトールも暇なのか、「俺たちも睨みを効かせてやる」と一緒に付いてきた。
馬車の必要はなく、村長の屋敷の周りに工房も、村民の家々も、ちょっとした店も、何もかもがぎゅっと集まっているので、簡単に徒歩で行けるんだ。
そして、さすが“ドワーフの村”、建造物にはそれぞれ細工が施されていて可愛いのだ。
「もう、習性だな。細工を入れずにはいられないんだべ」
オレが大絶賛していると、テムがそんなことを言う。
ドワーフの習性、ということかな?──あまり突っ込んではいけない。
工房に着くと、ギヴは職人さん達ともとても気が合うようで、肩を組んだり小突きあったり、仕事の交渉に来たというより、友人の家に遊びに来たような気安さだった。これは、ギヴの人柄もあるのだろうけど、この村のみんなが温かい人柄なのだろうな。
それにしても、連絡が行き届いていたのか、みんな人の姿で安心した。
ほのぼのと一歩下がったところでそんなことを考えていたら、一人、二人、とギヴを通り越してオレに目線が集まり出した。
「・・・エメラルドの精霊か?人間に化けているのか?」
「・・・え?」
言われた意味がよくわからなかった。
「彼は私の婚約者だ」
「はじめまして、ラブラドライト=ポーラといいます。よろしくお願いします」
「ラブラドライトはギベオンとおんなじ、人間だべ。ちょいと人間離れした瞳を持っているが、変なこと言っちゃあ失礼だべ」
テムが横から口を出す。
人間に化けている、と疑われたのは聞き間違いじゃなかったようだ。そんなにこの瞳は人間離れしているのだろうか。
だが、ドワーフの宝石好きのお陰で、ギヴの連れという以上に大歓迎された。
なんなら、“結婚して欲しい。毎日その瞳を眺めて暮らしたい”と数人に右手を差し出され、プロポーズされた。
──この村ではみだりに握手をしてはいけない、と学んだ。
その後も工房内で素晴らしく緻密な作品を色々見せてもらい(ギヴはいくつか買い付けもして)、作品の工程を説明してもらい、とっぷりあたりが暗くなって、ようやく村長の屋敷に戻ってきたのだ。
季節的にも地域的にも早く暗くなったのだろうけど。
「疲れていませんか?」
「うーん、色々楽しすぎてあまり疲れは感じていないよ。ギヴこそ疲れただろう?」
「ええ、あちこちで貴方が注目の的でしたから。誰かに奪われてしまうんじゃないかと、心配で疲れました」
「なんだ、その疲れ」
あはは、と笑ってギヴを見れば、冗談じゃなかったらしく暗い顔をしていた。
「癒やして下さい」
「う、うん・・?」
横からぎゅう、と抱きしめられる。
「愛しています」
「──、あの、・・・ありがとう」
「私の愛を、受け入れてくれますか?」
穏やかだけど、真剣な眼差しだった。
オレは、照れながらも、こくりと頷いた。
「ギヴが、好きだ。た、多分、友人以上に、・・・愛している」
口から出たのは、恥ずかしくなるほどたどたどしい言葉だった。なんと、オレが同性に愛をささやく日が来ようとは。
でも、もう自分をごまかせそうにない。ギヴと触れ合いたいし、キスだってしたい。その先も──・・・。
待てよ?
その先ってなんだ?
男同士でキスの先なんてあるのか?
「ラド、聞いていいですか?高位貴族は年頃になると閨の授業があるそうですが、・・ラドも?」
「ね、閨の授業?」
なんだその羨ましい授業は。もちろんオレにそんな経験はない。
ぶんぶんと首を振ると、ラドが微笑んだ。
「そうですか、安心しました。そんな事が起きないように気を付けていましたが。それと、もう一つ」
「うん?」
起きないように気を付けていた、とは?
「男性同士の閨ごとは、どこまでご存知ですか?」
「ギヴ、バカにするなよ。オレはギヴより三つもお兄ちゃんなんだぞ」
「・・・ラド?」
オレは隣に座るギヴの方に体を向けた。
「──目、目を、閉じて」
ラドが珍しくもきょとん、としてる。可愛い。
「男同士の閨ごとは、キス。・・だろ?」
そう教えて、ゆっくりと伸び上がってラドに口づけた。
少し離れて、離れがたくなってもう一度。
柔らかい唇の感触にドキドキと胸が早鐘を打つ。
「・・・ラド」
離れると、ギヴが感動したようにオレを見た。
キス、初めてだったのかな。人のことは言えないが。
「・・・初めてだった?」
「はい」
聞いてみたら、やはりそうだった。
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後頭部にスッと指を差し込まれ、引き寄せられた。
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