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第三十六話 なれの果て

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 野営地に留まること二日。子供達も心なしかふっくらとしてきたように思う。
 そして、奴隷から解放された安心感に開放感、それにいくつかの魔法を覚えたことで、これからの生活に対する希望が溢れている。
「じゃあ、明日の朝にここを出ようか」
「やっとなのね。まあ二日間だけど、ちょっとだけ長く感じたわね」
「あの穴蔵生活に比べれば、そんなにいうほどでもないんじゃないの?」
 俺がこの野営地を出るといった後にミラがぼやき、それにアンナが被せて発言する。
「そうです! そんなに慌てて移動しなくてもいいと思います!」
「「え?」」
 ミラ達に反論する様に発言したのは魔法や剣に組み技をシンに指導されているアンディだった。
「アンディ、何を言ってるの? シンにも目的があるんだから一つの所に居続ける訳にはいかないのよ。それは分かる?」
「だから、それは俺が強くなるのを待ってから「いつ?」……え?」
「だから、それはいつなの?」
「それは……えっと、明後日くらい?」
「バカじゃないの?」
「バカって、なんですか! いくらミラでも非道いじゃないですか!」
「だって、バカなんだもの。そりゃシンに見てもらっているんだから、多少はモノになるでしょうよ。でもね、後、二、三日でどうなるっていうのよ。アンタの目標はとりあえず、アレでしょ」
 ミラがそう言って、フクの指導の下で魔法を撃ち合う子供達を指差す。
「うっ」
「だから、そんな馬鹿なことを言ってないで、ほら。シンから言われた特別メニューがあるんでしょ」
「……はい」
 ミラに言われ俺から言われた練習メニューをこなしに行く。
「アンディも、もう少し頭が柔らかくなれば魔法の習得も、もう少し楽になるのにな」
「それは難しいんじゃないのかな」
「アンナ、どうしてそう思う?」
「だって、彼は『守りたい。守らなきゃ』って想いが強すぎるもの」
「あ~そこを言われちゃうとな~」

 翌朝、野営地を片付けて皆で次の村を目指して歩く。
 しばらく歩くと馬車が数台横倒しになり、回りには護衛の冒険者と隊商の商人らしき死体が散乱していた。
「ねえ、シンこれって……」
「多分、そうだろうな。顔の半分は無くなっているけど、この冒険者には見覚えがあるな。そして、こっちの太っちょ……今はガリガリになってしまっているが、あの商人だろ」
 子供達に死体を見せないために、手前で止まって待ってもらっている。

 商品と呼べるかどうかは分からないが、魔獣には興味が無かったと思われる散らばった商品を無限倉庫に収納し死体を葬るための穴を街道の横に空け、そこへ死体を放り込む。その際に貴金属や武具に防具、そして冒険者であることを示す物や商人の形見となる物を回収するのを忘れない。
 そして、仕上げにと死体を放った穴に向けて『獄炎インフェルノ』を放ち、灰になったことを確認してから土を被せ、適当な石を墓標代わりに置く。
 それを見たアンナが少し哀しげな表情で呟く。
「私達のせいなのかな」
「違うさ。だって、こいつらが俺達に『先に行けば次の野営地がある』って言ってたんだしな」
 そうとも、アンナを差し出せと言った連中に同情しても何もいいことはない。アイツらが『この野営地じゃなくても他にある』と言ったのだから。だが、それでもアンナは納得出来ないらしく、自分に言い聞かせるようにまた呟く。
「そりゃそうだけど……ね」
「それはいいから、使えそうな馬車はない?」
「ないわね。どれもこれも微妙に使えないのよ。車軸が折れていたり、御者台が壊れていたりとか、一つもまともな物がないのよ」
「なら、ニコイチでいいんじゃないの」
「にこいち?」
「そう。まずは本体がある程度、無事な物を選んだら、他の馬車から車軸とか車輪とか持ってきて組み合わせれば一台にはなるんじゃないの」
「そうか。一つ一つはダメでも、足りない部分を組み合わせて補えばなんとか一台が出来るって訳ね」
「そういうこと」
「でも、そうやって出来ても引くのはどうするの?」
「それは……ユキ!」
 フクと一緒に子供達の相手をしていたユキを呼ぶ。
『なんだい、シン』
「質問だけど、馬車を引くことは出来る?」
『な! 私に馬車を引けと言うのか』
「そう、頼めるかな」
『まあ、シンが言うなら、引くがあまりにも重い物は無理だぞ』
「それは大丈夫。子供達が乗る馬車だから」
『そうか。なら軽いか……って、待て! いくら子供でも十何人もいれば十分に重いわ!』
「そうか、ユキは引けないか……じゃ、しょうがないな」
『ま、待て! 誰も引かないとは言ってない。ちょっとした不満じゃないか』
「なら、引いてくれるんだな」
『あ、ああ、任せてくれ』

 死体も片付け、血痕も分からないようにしたところで、待たせていたカレン達を呼び、馬車の組み立てを手伝ってもらう。

「兄ちゃん、これが一番キレイだよ」
「どれ」
 フクが見付けた馬車は車輪が壊れ、車軸も折れていたが、馬車本体は少し補強すれば十分に使える物だったので、これをベースに他の残骸から部品を寄せ集めて馬車を作り上げることにしたのだが……
「はい、はい! 僕がやる!」
 そう言って、フクが手を上げたのだが、俺からは不安しかない。
「フク、そうは言ってもな……」
「やだ! 絶対に僕がやる!」
 何かのスイッチが入ってしまったのか、妙にやる気なフクに任せることにする。
「ユキ、それとアンディ。何か問題を起こさないように見張っていてくれ。そして、変な装飾をしようとしたら、絶対に止めてくれ」
「装飾ですか?」
「ああ、いいか飾りだからと放っておくと大変なことになるからな」
「大変なことですか?」
「ああ、そうだ。想像出来ないだろうが、考えてみてくれ。自分が裸に近い格好で鳥の羽や何かで着飾った格好をさせられたらどう思う?」
 俺の言葉にアンディが何を想像したのかブルッと身震いさせる。
「ああ、確かにイヤですね」
「だろ? でもな、それが格好いいと感じる時代があるんだよ。お前にも覚えがあるだろ」
「そう言われれば、そうですね。分かりました。しっかりと見張ります!」
「ああ、頼んだよ」

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