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第一章 それぞれの道

第1話 ギルドで登録しましょう

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ソルトが目を覚ますと、柔らかい感触が顔を包み込んでいるのに気がつく。
「どういうことだ?」
その柔らかい物を手で払おうとすると、「あん」と声がする。
「ん?」
「柔らかい……もう一度」
「あん」
ソルトがその柔らかい物の感触を楽しむ度に艶かしい声がする。そこで急に意識が覚醒し、ベッドの上で身を起こすとソルトの横にレイが寝ていて、位置的にはソルトの頭を抱え込むようにしてレイが寝ていたのだ。
「どういうことだ? 確かに俺は自分のベッドに寝ていたはずだ。それにレイは隣のベッドで寝ていたよな?」
昨夜の記憶をソルトが思い起こしてみても、自分に落ち度があるようには思えない。

面倒なことが起きる前にベッドから抜け出そうとしているところで、レイが目を覚ましソルトをじっと見る。
「ふぁ~あ、あれ? ソルト。あんた私のベッドでなにをしているの? まさか?」
「いや、待て。よく見ろ。お前のベッドは向こうだろ? 俺じゃなくて、お前が俺のベッドに入り込んで来たんだ。俺の方こそ、説明して欲しいんだがな。このままじゃ、俺の貞操の危機に関わるからな」
「な……なんであんたの貞操が心配なのよ!」
「いいから、早くベッドからどけてくれ」
「わ、分かったわよ……で? なにしてんの?」
「なにって、着替えるんだが」
「もう、少しは気を使いなさいよ。私が着替えるんだから、あんたは廊下で着替えなさいよ! 全く」
「はいはい、分かりました」
ソルトはここで争ってもなにも得られるものもなく疲れるだけだと判断し、さっさと着替えると部屋の外に出て食堂へと向かう。

受付でエリスに挨拶を済ませ食堂に入るが、やはりメニューの文字が読めない。
ウェイトレスのお姉さんに文字が読めないことを話し、適当に朝食を頼んでもらう。
「では、少々お待ちください」
「おう、どうだ? よく寝られたか?」
ソルトの目の前にゴルドが座り、話しかけてくる。
「ええ、ぐっすりですよ。いい宿を紹介してもらえてよかったです」
「そうかい。まあ、ここ一軒だけだがな」
「あんたが礼を受け取るのかい?」
「女将!」
「女将さん」
いつの間にか女将まで俺のいるテーブルに現れ、座る。

「それより、ゴルド。そこの坊やの宿代と飯代の話だけどね」
「おう、いくらだ?」
「いらないよ。それを言いに来たんだ」
「そうか、いらないのか……いらない? おいおい、どうした? 女将、正気か? あんな……」
「あんな……なんだい? ゴルド。そんなに不思議なら、今からでも請求してもいいんだよ?」
「いや、分かった。いらないっていうのなら、俺にとってはありがたい。だが、なんでか理由を聞いても? まさか、ソルトを売っちまったのか?」
「バカなことを言わないで欲しいね。宿代と飯代はソルトの働きに対する正当な評価さ。なんなら、ゴルドも後で使ってみるといい」
「ソルトが? ソルト、お前はなにをしたんだ?」
「なにって、ただお風呂を作っただけなんですけどね」
「風呂を作った~? お前、昨日の夜にここに着いたばかりだぞ。そんなお前がなんで風呂なんて」
「そこなのさ、ゴルド。エリスと一緒にこの坊やにここでの暮らし方をしばらく教えてやってもらえないかい?」
「教える? 俺が? このソルトに?」
「ああ、そうさ。この子は話せるが読み書きが出来ない。まるで違う世界から来たみたいだよ。それに魔法とかスキルのことについても無自覚に色々とやらかす危険性もあるからね。どうだい、受けてもらえないかい?」
女将の『まるで違う世界から来たみたい』と言う言葉にソルトがドキッとするが、精神耐性スキルのおかげで表面には出ないで済んだ。

「まあ、俺はいいけどよ」
「なんなら、風呂には自由に入れるようにしてやるよ」
「それはいいな。あと、エールもつけてくれ」
「分かった。ただし、一杯だけだよ」
「ああ、いいさ」
「じゃ、ソルト。飯を食い終わったらギルドまで来てくれな。俺はそこで待ってるからよ」
「はい、分かりました」
ゴルドはそういうと、女将にも挨拶すると食堂から出ていく。
「女将さん、エールを一杯だけご馳走するって、意外と策士ですね」
「そうかい? ちゃんとしたサービスだよ。変ないいがかかりはやめておくれよ」
「でも、ゴルドさんが一杯だけで済みますか? 多分、少なくとも二杯は飲むんでしょ?」
「ふふふ、そうさ。確かにソルトの言う通りさ。結局は二杯、三杯と飲んでくれるからね。それにしても連れのお嬢ちゃんはどうしたんだい?」
「さあ? 俺は先に目が覚めたので着替えを済ませて降りて来たんですよ」
「そうかい。まあ、あのお嬢さんからは目を離さないようにするんだね。大変だろうがね」
「はぁ、分かりました」
「あ~ずるい!」
そこへやっと着替えを済ませて来たレイが合流する。
「なにがずるいだ。お前もさっさと飯を済ませろ。早くしないと置いていくからな」
「え~なにそれ。ひどくない?」
「ひどくない! ゆっくりしすぎているお前が悪い。それに女将さんにも挨拶もせずに」
そこで、レイはやっと女将も同席していることに気が付き、挨拶とお礼を済ませる。
「いいよ、いいよ。それよりソルトの言うことをちゃんと聞くんだよ。あんたは私から見てもどうも危なっかしい」
「そこまで言わなくても……」
「いいや、言わせてもらうさ。娼館に立ちたくなければ大人しく年寄りの言うことは聞くもんだよ」
「……はい」
「さ、邪魔しちゃったわね。後でエリスも寄越すからなんでも聞くといい。じゃあ、またね」
「「ありがとうございました」」

レイの食事が終わる頃にエリスがソルト達の元へとやってくる。
「食事は済みましたか?」
「ああ」
「ええ」
「では、ギルドへご案内します。そこで登録を済ませましょう。あと魔石とかお持ちであれば換金も出来ますので。その換金したお金で衣服と武具や防具を揃えましょう」
「へ~ギルドでそこまで出来るんだ」
「ええ、なるべく魔物系の素材はギルドへ卸してもらった方がトラブルになりにくいので、お勧めします」
「そうなんですね。分かりました」
「では、ご案内します」

エリスさんが先導する形で、ギルドまでの道を周りを散策しながら歩いていく。
「昨夜はもう暗かったから分からなかったけど、意外と人が多いんだね」
「そうですね。ここは魔の森が近いので、魔物系の素材の売買と、それに伴う武具や防具などの製品も作られていますので、それを目的に来る人達も多勢来ます」
「なるほど。じゃあ、他の地域の情報も手に入りやすいとか?」
レイがあの二人のことをなんとか知ることが出来ないかと思いエリスに聞いてみる。

「まあ、そうですね。商人次第ですが、そう言った情報も売り買いされているはずです。もしかして、元いた場所の情報を探したのですか?」
「え、ええ、まあ、その、えへへ……」
「後で、そのお店もご案内しましょう。まずはここで冒険者登録をお願いします。ギルドカードを持っていると身分証明などにも使えますので、便利ですよ」
ソルト達はいつの間にかギルド前に辿り着いていた。
「さあ、中に入りますよ」
エリスに案内される形で、中に入ると受付カウンターを目指す。
「ソルト! やっと来たか。お、エリスもご苦労さん」
「ゴルド、あなたはここでなにを」
「なにをって、ソルト達を待っていたんだよ。エリスも女将から聞いているだろ?」
「ああ、そうでしたね。では、ソルトにレイ、登録をお願いします」
「「はい」」
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