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第六章 いざ、王都へ

第2話 賑やかな昼食

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ゴルドの発言がフラグを立ててしまったんじゃないかと気にしていたソルトを乗せた馬車は峠に差し掛かる前の休憩所と思わしき場所に立ち寄る。

そこは休憩所と言うが、単に開けた土地と言うだけで、周りには何もない。ただ、同じ様に休憩している馬車が数台認められるだけの場所だった。

「ハァ~やっと下りられる!」
「レイ、ちょっと待ちなさい!」
「そう言うエリスさんもちょっとは落ち着いてください」

休憩所の中をゆっくりと馬車を進めながら、空いた場所を探しているゴルドとソルトの後ろからそんな賑やかな声が聞こえてくる。

「アイツら、これが護衛任務だってこと忘れてないよな?」
「多分、これっぽっちも考えていないと思うよ」
「ふぅ~まあいい。アソコなら停められそうだな。あっちにも連絡してくれや」
「……分かった」

ソルトは気乗りしない様子ながら後ろの馬車に伝えると、後ろの賑やかな女子にも声を掛ける。

「もうすぐ馬車を停めるけど、変にはしゃいで周りの連中から絡まれたりすることのないようにね」
「「「は~い」」」
「返事はいいんだがな。レイ、特にお前だ! お前!」
「ゴルド、なんで私だけ名指しなの!」
「分かるだろ……お前が一番、危険なんだよ」
「分からないよ!」
「ハァ~まあいい。そう言うことだから、エリスとシーナでちゃんと見張っといてくれよ。俺は領主代行の連中と打ち合わせしてくるから。その間に昼飯の準備も頼むな」
「ああ」
「分かりました」
「お任せ下さい」
「ふん!」
「ったく……ソルト、頼むから大人しくさせといてくれよ」
「……」

ゴルドはソルトにも念を押すように話しかけるが、ソルトは答えない。なので、もう一度名を呼ぶ。

「ソルト?」
「出来ないことは約束出来ない」
「……」

ゴルドの呼び掛けに対しソルトはキッパリと出来ないと宣言する。そんなソルトを見ながら、ゴルドは短く嘆息するともういいと言って領主代行の馬車へと近付く。

ソルトはゴルドを見送ると、昼食の準備を始める。それを見たシーナやエリスが手伝うと言って来たので、土魔法で流し台と竈を用意してから、無限倉庫インベントリから野菜や肉を取り出し二人に渡し下準備をお願いする。

次にソルトは竈の前でしゃがみ込むと竈の中に薪を放り込み火を着ける。

「これで準備はヨシ! あ! 食べる場所がないな。え~と、俺達が五人で、領主代行が……」

人数を適当に数えると、自分達のテーブルと領主代行のテーブル、付添人達のテーブルと椅子を人数分用意する。

「ねえ、何かすることないの?」
「そうだな、じゃあ馬の世話を頼む。飼い葉と水やりな」
「オッケー、任せて! って、飼い葉なんてどこにあるのよ!」
「お! それもそうだな」

ソルトは竈をエリス達に見てもらい、レイと並んで馬の所に行って飼い葉と水が入った桶を用意すると、後はレイに任せて元の場所に戻ろうとしてこちらを睨んで仁王立ちしているゴルドが目に入る。

「お帰り、ゴルド。話はもう終わったの?」
「ああ、ただいま……って、そうじゃない! なんだよ、これは!」
「何って昼食の準備でしょ。見たら分かるじゃない。大丈夫?」
「ああ、そうだな。どこからどう見たって食事の準備だな。竈に流しにテーブルに椅子まであるんだからな。誰がどう見たって食事の準備だな」
「そうでしょ。もう、あんまりおかしなこと言わないでよ」
「……」

領主代行との話し合いから戻って来たゴルドは自分達の馬車の周りが騒がしくなっているの気付く。そして、その様子を窺おうと周囲の連中が集まっているのにも気付く。

「なんだこの騒ぎは? まさか、レイが……」

そして連中の視線の先には流し台で野菜を洗い、肉を捌き竈で調理をするエリスとシーナがいた。それを見たゴルドはこの騒動を起こした人物を探していると馬の側で無限倉庫から飼い葉や水を出すソルトを見付ける。

「あれほど目立つなとお願いしたのに……」

ゴルドは右手で自分の顔を覆うと、気を取り直してソルトを睨みつつ仁王立ちで待ち構える。

そして、ゴルドに気付いたソルトが言い放ったのが、さっきのやり取りだ。

ゴルドは腕を組み自分が悪いのかと逡巡するが、いやそうじゃないだろと持ち直す。そして、ソルトにガツンと言ってやろうと顔を上げたところでいい匂いが立ち込める。

ふんふんと鼻をヒクヒクさせながら匂いの元を辿ればそこはさっきソルトが用意したテーブルで、その上には焼かれた肉とスープ、それに付け合わせの野菜スティックが並んでいた。

「出来ましたよ~」
「ソルト、領主代行達も呼んできて」
「ああ、分かった。じゃあ、呼んで来るよ」
「ゴルドさん?」
「……」
「どうしたんですかゴルドさん?」
「……」

エリスとシーナから心配そうに顔を覗き込まれるゴルドは「気にしたら負けなのか?」とブツブツ言いながら、用意された自分の席に座る。
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