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1巻
1-2
◇◇◇
「さ~て、そろそろおやつの時間だよ。あれ、静かだね?」
マギーはそう言って家の中から庭の様子を窺うが、子供たちの気配がない。
庭を見回すと、ケインたち兄弟は遊び疲れたのか、庭の木の根元で折り重なるようにして眠っていた。
「気持ちよさそうに寝ているけど、起こさなきゃね。あんたたち、おやつよ~!」
マギーがそう声を掛けると、兄弟三人は一斉に飛び起きて、家に向かって走りだす。
しかしケインだけは、まだうまく走れない。
サムはそんなケインを見て、しょうがないな~という感じで立ち止まり、ケインをおんぶする。そして猛ダッシュでクリスを追い抜き、まっさきに家の中に入った。
「サム兄さん、速いよ!」
サムの行動に、クリスは少し呆れ顔だ。
なんだかんだと仲がいい兄弟たちであった。
◇◇◇
僕――ケインがおやつを食べ終わると、家の外から子供の声が聞こえた。
「「「サ~ム~! ク~リ~ス! あ~そ~び~ま~しょ!」」」
どうやら兄ズの友達が呼んでるみたいだ。
サム兄さんは、窓から外の子供たちへ返事をする。
「きょうは弟の面倒みるから、またな」
すると母さんが優しく微笑んで、サム兄さんに言う。
「いいわよサム、遊びに行ってらっしゃい」
「でも今日は一緒に遊ぶって、ケインと約束したし……な、ケイン?」
サム兄さんがチラッとこっちを見た。
サム兄さん、本当は友達と遊びたいんじゃないかな?
「サムにいさん、ありがと。でもきょうは、はじめておそとであそんだから、ぼくもげんかい。またあしたあそんでね」
「そっか、なら、また明日だな! クリス、行くぞ!」
「サム兄さん、まってよ~。ケイン、明日またいっぱい遊ぼう!」
「うん、やくそくね」
「「約束だ!」」
僕とそんな会話を交わし、兄ズは駆け足で家の外へ出ていった。
少しさみしいけど、一人になれるなら試してみたいことがある。
「ケインはどうするの?」
母さんに尋ねられて「おにわであそぶ!」と答えた。
「ケイン、一人で大丈夫なの?」
「だいじょうぶだよ!」
「そう、なら日が暮れる前にお家に入るのよ」
「は~い」
僕は一人で庭に出て、こっそり魔法の練習をすることにした。
魔力球を操る練習を繰り返した結果、十個同時に操れるようになったんだよね。
というわけで今度は、いろんな属性の魔力球を作れるか試してみたい。
まずは、水魔法からかな。イメージすると、すぐにピンポン球くらいの大きさの水球が目の前に浮かんだ。
次に火魔法、氷魔法、風魔法、土魔法、光魔法、闇魔法と、それぞれの属性の球を発現させる。
よし、今度は一度に複数個出せるか試してみよう。
水球を出したあとに火球を出そうとしたが、うまくできなかった。
ふー、まだダメだな。練習あるのみだ。
いつかは『インベントリ』や『転移』の魔法も使えればいいな。
ちなみにインベントリっていうのは、某建築ゲームみたいに、アイテム作りに使う素材を異空間に収納できる空間魔法のことね。
◇◇◇
こうして何日か練習を重ねるうちに、魔力球を複数出せるようになった。
魔力量が増えたならそろそろインベントリに挑戦してもいいかなと思って、早速やってみる。
魔力球がイメージで使えたんだから、インベントリや転移もイメージすれば使えると思うんだよね。
まずは何かと便利なインベントリが使えるか試してみよう。
一人でこっそり庭に来た僕は落ちている小石を拾い、『異空間に収納する』ことをイメージしながら、「収納」と呟く。
そしたら、手の平に乗っていたはずの小石が消えた。
あれ? ひょっとして本当に異空間に収納できたのかな?
そう思って今度は異空間から取りだすイメージをし、「放出」と呟いた。
次の瞬間、手の平にはさっきの小石が乗っていた。
「もうできちゃったの?」
やったー、サクッとできた~! 僕はラノベでいうチート系じゃないと思ってたけど、本当はチート系だったのかな?
なら、次は転移できるかやってみよう。さっきの小石を一メートルくらい先に転移っと。
手の平の上の小石を見ながら、小石が移動するイメージをして、「転移」と呟く。
すると手の平の上にあった小石が消え、ほぼ同時に、一メートル先の地面にその小石がポトッと落ちた。
「えぇ!? 転移もすぐできちゃった……じゃ、自分自身を転移させることはできるのかな? 転移!」
そう唱えたら、一瞬目の前から景色が消える。
直後、僕は元いた場所から一メートル離れた所に立っていた。
うそ~、自分自身を転移させることもできちゃった。
やっぱり、僕ってチート系じゃない? 自分の才能が怖い……
でも、転移する時の自分自身が一瞬消えるような感覚、怖くて好きになれないな~。それに転移する時は、転移先の様子がどうなってるか先に確認しておかないと危ない気がする。
なら、いきなり転移するんじゃなくて、転移ゲートを経由させられないかな?
イメージは、別の空間への出入り口になる扉のようなものだ。これなら扉の中を覗けば、転移先の様子を窺うことができるよね。
「よし、ものは試しって言うし……」
今の位置から一メートルくらい離れた場所に、転移ゲートをイメージして魔法を発動させる。
すると目の前の空間に、ぽっかり穴が空いた。
この穴が転移ゲートなのかな?
穴の中に手を入れてみると、一メートル先の空間から自分の手が出ているのが見えた。
「うわ、これも成功した!」
そのあと色々試してみたところ、転移ゲートを使っても地球には行けないことが分かった。そもそも、直接行ったことのない場所に設置することはできないみたい。
ともかく、これで転移魔法も使えるのが分かったぞ。
よし次は、インベントリの詳細を確認してみようかな。
容量が気になるとこだけど、今のところそんなに大量にものを収納する予定はないから、あと回しだ。なお今まで試した感じだと、インベントリの容量って、魔力量に比例して増える気がする。魔力量を増やしつつ、様子を見ていこう。
今回はひとまず、インベントリにしまうと、ものの状態がどうなるのか確かめてみようかな。
というわけで土魔法でコップを二つ作り、それぞれに冷水と熱湯を注いで収納する。
ちなみに魔力球で練習していたおかげか、土魔法もあっさり使えてしまった。コップの材質は土を凝縮し、岩みたいに硬くしてある。
それから一時間後にコップを取りだしてみたら、お湯からはまだ湯気が出ていた。冷水も冷たいままだ。
僕のインベントリ、内部で時間が経過しないみたい。
なら中に生き物とか発動後の魔法を収納できたら、それを利用してチートなことができそう! と思ったんだけど、試してみたら生き物も魔法も収納できなかった、残念。
でもモノ作りするには十分そうだから、これからも活用していこうっと。
4 五歳になりました
あっという間に、五歳になりました。
今まで家の敷地内で遊んでいたけど、誰かと一緒であれば、家の外にも出ていいと母さんが許可してくれた。
早速兄ズと一緒に外出して、家の周りを探検する。
家の前の道路は石畳で、道路沿いに石造りの二階建ての建物が並んでいた。この街には、ラノベ定番の中世ヨーロッパっぽい風景が広がってるみたい。
ちなみに僕がいる街は領都で、周囲は城壁に囲まれていると兄ズが教えてくれた。
なぜ城壁に囲まれているのか聞いたら、街の外は相当危険なんだそうだ。
この世界で読んだ絵本には魔王が出てきたけど、魔王とかいるのかって尋ねたら、魔王がいたのは大昔の話らしい。
今は魔王も勇者もいなくて、魔物もたまに出るくらいみたいだ。その代わり、街道には熊や狼といった野獣や、盗賊が出るんだという。
それはそれで怖いな~。僕が一人で外に出られるのは、まだまだ先になりそう。
ちなみに僕の父さん――トミーは、街で小さな商店を経営しているんだって。
◇◇◇
「あんたたち、お父さんがお弁当を忘れていったから、お店に届けてきてちょうだい!」
ある日のこと、僕たち兄弟は、突然母さんにおつかいを頼まれた。
「「「え~?」」」
「文句言わないで、行く!」
「「「は~い!」」」
言われるままに弁当を持って家を出たら、兄ズが話しかけてくる。
「そういやケインは、父さんのお店に行くの初めてだっけ?」
「うん。はじめてだから、たのしみ!」
「ちょっと遠いと思うよ? 大丈夫?」
「たぶんだいじょうぶ。もう五さいだし」
「「そっか、なら一緒に行こう!」」
道行く人たちを眺めながら、父さんのお店を目指す。
街では前世で見たこともないザ・ラノベの住人って感じの人たちが歩いていた。耳の尖った人、ずんぐりした人、ケモミミの人――たぶん、エルフやドワーフや獣人なんだろうな。
「ん? ケインはエルフが珍しいのか?」
「そりゃそうだよね。ケインはずっと家の中にいたもんね」
「うん、はじめてみた」
兄ズとそんなことを話しているうちに、父さんのお店に着いた。
「父さん! お弁当届けに来たよ~」
「お! ありがとよ。忘れたのには気付いたけど、取りに戻る暇がなかったんだ。助かったよ」
父さんは弁当を受け取り、数枚のコインをサム兄さんに握らせる。
「お駄賃だ」
「やった、ありがとう!」
「ちゃんとみんなで仲良く使うんだぞ」
「分かってる!」
サム兄さんはそう返事をして店を出ると、クリス兄さんと一緒に走りだした。
僕も慌ててあとをついていく。
兄ズが向かった先は、串焼きの屋台だった。辺りには香ばしい匂いが漂っている。
サム兄さんが、屋台の主人にコインを渡しながら言う。
「おっちゃん、串焼き三本ちょうだい!」
「あいよ。ちょっと待ってな」
屋台の主人はそう言うと、焼きたての串焼きをタレの中にトプンと入れ、僕たちに差しだす。
「タレで口の周りを汚さないような」
「「「ありがと」」」
それぞれが串を受け取り、肉を頬張る。
「「「うまい!」」」
これはなんの肉だろうか? 豚や牛とは違っていて、鳥に近いような気がする。
「うまいか? これは野うさぎの肉でな。今日はいいのが入ったんだ」
首を捻りながら食べていたら、屋台の主人がウインクしながら教えてくれた。
「おかえり、あんたたち。ありがとね……ん!? 口の周りが汚いわよ。あんたたち、何か食べてきた?」
串焼きを食べ終えて家に帰ったら、いきなり母さんに咎められた。
いけね。口の周りを拭くの忘れてたよ。
これは、買い食いを怒られるパターンなのかな?
兄ズはごまかそうと焦ってるけど、口の周りにタレがついているから、言い逃れはできないだろう。
ここは、末っ子のあざとさの出番かな?
「くしやきかってたべた! おいしかったよ! おとうさんが、おつかいのおれいだって、おこづかいくれたから」
無邪気な笑顔で正直に伝えたら、母さんが頬を緩める。
「しょうがないわね~。まぁ、今回だけ特別よ。口の周りを拭いておやつを食べなさい」
「「「は~い!」」」
三人で返事をしたあと、兄ズが小声で言ってくる。
「「ありがとう、ケイン。助かった~」」
次からは、買い食いする時は気を付けないとな~。そんなことを思いながら兄ズと一緒にテーブルにつき、一緒におやつを食べる。
「それはともかくさー、父さんの店って遠いよな」
「そうなんだよね。よくお弁当届けに行くけど、毎回行くのが大変だよ」
兄ズは不満げな様子で、そう愚痴っていた。
実は僕も、父さんのお店と家との往復はちょっときつかった。お店は子供が歩いていくには遠い距離なんだよな。何か移動手段があればいいのに。
そうだ。何か作ってみようかな。
実は前世で技術開発に興味があったから、乗り物や家電の構造については、結構知識があるんだ。
ただいくら知識があっても、前世では乗り物や家電を自分で作るのは無理だった。
だけど今なら魔法が使えるから、いろんなものを自分の手で作れたりして!
わ~、なんかテンション上がってきたぞ!
魔法の練習を続けながら、モノ作りに挑戦してみるのも楽しそう。
よし、早速移動手段を開発してみるか。作るとしたら何がいいかな。
自転車は今の僕の身長じゃまだ乗れないし、材料も足りない気がする。
自転車がダメならそれよりも車高の低い三輪車はどうかなって思うけど、漕ぐのがきついなぁ。
ローラースケートは、ゴムタイヤを用意できないと滑らかに進まないから無理っぽい。
他には何かないか考えていたら、キックボードはどうかな? と思いついた。
足で地面を蹴った勢いで進むから、石畳みたいな硬い地面を走るだけなら、ゴムじゃなく木のタイヤでもいけそう。
早速簡単な図面を作ってみようと思ったら、今度は紙がなかった。
紙自体が存在しないわけじゃないんだけど、この世界では貴重品だし、そもそも紙質が悪いから図面を書くには向かないみたい。
仕方がないので庭に出て木の枝を拾い、地面に完成予想図や必要な材料を書きだしてみた。
用意すべきものは車輪、台座、ハンドル、ハンドルと台座を繋ぐ軸、などなど……
うん、こういった部品は魔法で作れそうだ。ネジとか一般的な部品は、家の中で探してみようかな。
そして僕は母さんに許可を取りつつ、家の中で調達できる材料を集めていく。
そんなこんなで忙しく働いてたら、兄ズがやって来た。
「「ケイン、何してんの?」」
「ちょっとつくりたいものがあるんだ」
「「手伝おうか?」」
「だいじょうぶ、ぼくだけじゃダメそうだったらおねがいするから」
好奇心旺盛な兄ズの申し出は、そう言ってお断りした。
兄ズにはまだ僕が魔法を使えるって伝えてないから、手伝ってもらうわけにはいかないよね。
しばらくして家で揃えられる材料を庭に集め終え、いよいよキックボード作りを始める。
まずは土魔法でミニチュアの各部品を作り、模型を組み立てて動かしてみた。
うん、模型は動く。これなら実際に作ってもなんとかなりそうだ。
「ごはんよ~」
「あ、は~い」
母さんに呼ばれたので、今日の作業はとりあえずここまでにしよう。
作った模型や材料をインベントリにしまい、家に入る。
このインベントリ、発動するのはすぐできたけど、使いこなすまでは苦労したな~。なんせ魔力の消費量が多すぎて、発動しようとするたびに魔力切れを起こしてしまうんだ。
魔力が切れると倒れちゃうから、寝る前にベッドでしか練習できなかったよ。
とにかく、明日にはキックボードを完成させられそうだな。頑張るぞ~。
翌朝、朝食を済ませて庭に出た。
昨日の作業の続きをするために、材料をインベントリから取りだす。
よし、まずは車輪を作るか。
一度木の車輪を手作りしてキックボードを完成させたら、耐久性が低かったみたいで乗るとすぐ壊れてしまった。なので土魔法で岩の車輪を作ってみることにする。
あとは車輪の軸も、木だと滑らかに回らないよな。よし、じゃあ軸受けも岩にしよう。
ちなみに軸受けっていうのは、車輪の回転をスムーズにする部品のことね。
というわけで土魔法で車輪を作り直し、もう一度キックボードを完成させた。
「よし、しうんてんといきましょう!」
ハンドルを両手で握り、台座に左足を乗せ、右足で地面を蹴る。
すると、キックボードがゆっくりと動きだす。
だけど地面が土だと車輪が土に沈んでしまい、いまいちスピードが出ない。
うーん、家の外の石畳の道に出てみるか。でも、一人で行っちゃダメかな?
悩んでいたら、急に兄ズが現れた。
目をキラキラさせながら、僕のキックボードを興味深げに見つめている。
「「ケイン、それ何!?」」
「キックボードっていうのりものつくってみたの。にいさんたち、のってみる?」
「「うんうん! で、どうやって乗んの?」」
「ここをつかんで、ここにあしをのせて。もうかたほうでじめんをけるの」
「こうか?」
乗り方を聞いたサム兄さんは、いきなり勢いよく地面を蹴り、キックボードに乗って走っていく。
「あ~ずるい!」
それを見たクリス兄さんはそう言うと、不満げに聞いてくる。
「ケイン! キックボード、あれだけなの? もう一つないの?」
「いまはあれだけしかないよ」
「え~サム兄さん! 早く代わってよ!」
「もう少し待って! これ、楽しい!」
試作品でも高評価みたい。これだけ楽しんでもらえるなら、作った甲斐があるよ。
「ねぇにいさんたち、じぶんせんようのキックボード、ほしい?」
兄ズに聞くと、すごい勢いで「「欲しい!」」と返ってきた。
「ならさ、ちょっとつくるのてつだって!」
「「うん、何すればいい?」」
「ぼくがざいりょうをよういするから、くみたてて」
「「おう、わかった」」
周りから見えないよう、インベントリからこっそり材料を取りだし、兄ズの前に並べる。
組み立て方を教えながら一緒に作ると、あっという間に兄ズそれぞれの専用キックボードが完成した。
「「お~! できた!」」と兄ズは大喜びだ。
「俺のはドラゴン号!」
「僕のはフェンリル号!」
今のところなんの装飾もないキックボードなんだけど、兄ズは名前まで付けてる。かなり気に入ってくれたみたい。
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※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。