348 / 468
連載
◆注文されました
しおりを挟む
「そうか、ケインは為政者にはなりたくないか」
「はい。出来れば今のままが一番いいです」
「分かった。色々言って済まなかったな。だが、君が作った魔道具が素晴らしいのは分かっている。特にあの、頭で考えたことが相手に伝わる魔道具。あれは特に素晴らしい。私の方でも随分と役立たせて貰っているよ。だが、一つだけ注文がある」
「注文ですか? それはなんでしょうか」
王太子殿下から注文と言われ俺は警戒してしまう。それは隣のガンツさんも同じ様で小声で『即決するなよ』と注意される。そして、注文内容を王太子殿下に確認する。
「それはね、音量だよ。例え話せるようになったとしても、思ったことの全部が相手に伝わることがいいかと言えば、そうでもない。これは分かるよね」
「はい」
王太子殿下に言われ、ハッとする。確かにマイクを使った場合でも音量の大小は必要な機能であることを知っていたのに魔道具には着けていなかった。頭で考えたことが他者に伝わるという魔道具を作れたことで、それ以上の検証を行わなかった俺の落ち度でもある。
そして、王太子殿下が、その注文内容を話し出す。
「なので、私からの注文は、使用者が自分の意思で音量を変えられるようにして欲しいということだ。あとは、害意ある者から装着者が奪われないようにして欲しい。どうだろうか?」
「一つ確認ですが、それは話すことが出来ない人に使うんですよね。拷問というか、捕まえた犯罪者に使うわけじゃないですよね」
「それはない。そういう風に使うのは既にシャルディーア伯より買い取り済みだ。しかも十分な量をね」
王太子殿下がデューク様を見て、デューク様が俺を見て、また申し訳なさそうにしている。
「分かりました。王太子殿下のご注文は確かに賜りました」
「よろしく頼む。実はね、あの魔道具を知り合いの話すことが出来ない子に使ってもらったんだよ。自分の思いが両親に伝わったと分かった瞬間の、その時のあの子の嬉しそうな顔が今でも忘れられなくてね。でも、その子はすぐに恥ずかしそうになって、奧に引っ込んでしまった。私もその子の両親も最初は、その子がなぜそんな態度を取るのかが分からなかったよ。だって、さっきまであんなに喜んでいたのにさ。でもね、その理由はすぐに分かったんだ。なぜだと思う?」
「さあ、俺には分かりません」
王太子殿下に魔道具を装着した子が急に態度が変わったことの原因を俺に聞いてきたが、王太子殿下が話してくれた内容だけでは正直、何も分からないので、そう答えるしかなかった。
「そこはもう少し想像力を働かせて欲しいな。でも、確かに分からないと思うよ。私もこの目で見て、この耳で聞くまでは分からなかったからね。答えを言うとね、その子は泣いていたんだ。でもね、魔道具からはずっと声が聞こえてくるんだよ。『止めて! 聞かないで! こんなこと言いたくないのに!』ってね。これが君に改良を頼んだ理由さ。そして、便利な物でも使う人にとっては、知られたくないことも含め、全てを自分以外の人に晒してしまうことにもなる物だ。それを君には知って欲しい」
「分かりました。今後は十分に注意します。そして、誰も不幸にしないと約束します」
「ワシも約束する」
魔道具を装着した子の悲痛な叫びを王太子殿下から話を聞いて、やっと理解することが出来た。
「あ~やっぱり、まだまだ半人前だな~」
「ケイン、ワシら職人は満足したら、そこまでだ。それが分かっただけでも大したもんだ。まあ、今度から身に付ける物は十分に検証を重ねようじゃないか」
「うん、ありがとうガンツさん。検証する時はよろしくね」
「ああ、分かった。……って、ケイン。それはどういう意味だ?」
俺が検証の為の実験モデルはガンツさんしかいないと思い、ガンツさんにお願いと言うとガンツさんが露骨にイヤな顔をする。
「どういうって、だから検証はガンツさんにお願いするってことだよ。大丈夫?」
「ワシはまだボケてはおらん! だから、検証をワシにお願いってことは、あれだろ? 要はワシを人体実験に……そう言ってるんだろ」
「そうだよ。何も間違っていないよ。だから、よろしくねガンツさん」
「待てぇ! なんでワシなんだ? それならケインがすればいいだろ?」
俺の言葉にガンツさんが激昂する。もう、お年寄りなんだから興奮するのは体によくないのにね。だから、子供にでも言い聞かせるように咀嚼するように話す。
「いや、俺が自分でしたら第三者の視点で観察出来ないから無理だよ。だから、消去法でガンツさんになるよね」
「何が消去法だ! ん? 待てよ。ワシとケイン以外にもいるじゃないか、ジョシュアが」
「ダメだよ」
「はぁ? 何がダメなんだ。アイツなら、十分だろ?」
「まず魔道具の理解が難しいから、何を検証するのか説明するのが面倒」
「まあ、そうだな」
「それに普段から情緒不安定なところがあるから、ちゃんとしたデータを採るのが難しい」
「ふむ、反論出来んな」
「だから、もし何かが実際に起きたとしても冷静に対応出来ないから。これが答えだよ」
「あ~何してんだよ、ジョシュア!」
「ハックショイ! あ~」
その頃、まだ海上で船の操縦を習っているジョシュアが大きなくしゃみをする。
「おいおい、まだ試験にも受かっていないのに風邪なんてひくなよ」
「はい、気を付けます」
「はい。出来れば今のままが一番いいです」
「分かった。色々言って済まなかったな。だが、君が作った魔道具が素晴らしいのは分かっている。特にあの、頭で考えたことが相手に伝わる魔道具。あれは特に素晴らしい。私の方でも随分と役立たせて貰っているよ。だが、一つだけ注文がある」
「注文ですか? それはなんでしょうか」
王太子殿下から注文と言われ俺は警戒してしまう。それは隣のガンツさんも同じ様で小声で『即決するなよ』と注意される。そして、注文内容を王太子殿下に確認する。
「それはね、音量だよ。例え話せるようになったとしても、思ったことの全部が相手に伝わることがいいかと言えば、そうでもない。これは分かるよね」
「はい」
王太子殿下に言われ、ハッとする。確かにマイクを使った場合でも音量の大小は必要な機能であることを知っていたのに魔道具には着けていなかった。頭で考えたことが他者に伝わるという魔道具を作れたことで、それ以上の検証を行わなかった俺の落ち度でもある。
そして、王太子殿下が、その注文内容を話し出す。
「なので、私からの注文は、使用者が自分の意思で音量を変えられるようにして欲しいということだ。あとは、害意ある者から装着者が奪われないようにして欲しい。どうだろうか?」
「一つ確認ですが、それは話すことが出来ない人に使うんですよね。拷問というか、捕まえた犯罪者に使うわけじゃないですよね」
「それはない。そういう風に使うのは既にシャルディーア伯より買い取り済みだ。しかも十分な量をね」
王太子殿下がデューク様を見て、デューク様が俺を見て、また申し訳なさそうにしている。
「分かりました。王太子殿下のご注文は確かに賜りました」
「よろしく頼む。実はね、あの魔道具を知り合いの話すことが出来ない子に使ってもらったんだよ。自分の思いが両親に伝わったと分かった瞬間の、その時のあの子の嬉しそうな顔が今でも忘れられなくてね。でも、その子はすぐに恥ずかしそうになって、奧に引っ込んでしまった。私もその子の両親も最初は、その子がなぜそんな態度を取るのかが分からなかったよ。だって、さっきまであんなに喜んでいたのにさ。でもね、その理由はすぐに分かったんだ。なぜだと思う?」
「さあ、俺には分かりません」
王太子殿下に魔道具を装着した子が急に態度が変わったことの原因を俺に聞いてきたが、王太子殿下が話してくれた内容だけでは正直、何も分からないので、そう答えるしかなかった。
「そこはもう少し想像力を働かせて欲しいな。でも、確かに分からないと思うよ。私もこの目で見て、この耳で聞くまでは分からなかったからね。答えを言うとね、その子は泣いていたんだ。でもね、魔道具からはずっと声が聞こえてくるんだよ。『止めて! 聞かないで! こんなこと言いたくないのに!』ってね。これが君に改良を頼んだ理由さ。そして、便利な物でも使う人にとっては、知られたくないことも含め、全てを自分以外の人に晒してしまうことにもなる物だ。それを君には知って欲しい」
「分かりました。今後は十分に注意します。そして、誰も不幸にしないと約束します」
「ワシも約束する」
魔道具を装着した子の悲痛な叫びを王太子殿下から話を聞いて、やっと理解することが出来た。
「あ~やっぱり、まだまだ半人前だな~」
「ケイン、ワシら職人は満足したら、そこまでだ。それが分かっただけでも大したもんだ。まあ、今度から身に付ける物は十分に検証を重ねようじゃないか」
「うん、ありがとうガンツさん。検証する時はよろしくね」
「ああ、分かった。……って、ケイン。それはどういう意味だ?」
俺が検証の為の実験モデルはガンツさんしかいないと思い、ガンツさんにお願いと言うとガンツさんが露骨にイヤな顔をする。
「どういうって、だから検証はガンツさんにお願いするってことだよ。大丈夫?」
「ワシはまだボケてはおらん! だから、検証をワシにお願いってことは、あれだろ? 要はワシを人体実験に……そう言ってるんだろ」
「そうだよ。何も間違っていないよ。だから、よろしくねガンツさん」
「待てぇ! なんでワシなんだ? それならケインがすればいいだろ?」
俺の言葉にガンツさんが激昂する。もう、お年寄りなんだから興奮するのは体によくないのにね。だから、子供にでも言い聞かせるように咀嚼するように話す。
「いや、俺が自分でしたら第三者の視点で観察出来ないから無理だよ。だから、消去法でガンツさんになるよね」
「何が消去法だ! ん? 待てよ。ワシとケイン以外にもいるじゃないか、ジョシュアが」
「ダメだよ」
「はぁ? 何がダメなんだ。アイツなら、十分だろ?」
「まず魔道具の理解が難しいから、何を検証するのか説明するのが面倒」
「まあ、そうだな」
「それに普段から情緒不安定なところがあるから、ちゃんとしたデータを採るのが難しい」
「ふむ、反論出来んな」
「だから、もし何かが実際に起きたとしても冷静に対応出来ないから。これが答えだよ」
「あ~何してんだよ、ジョシュア!」
「ハックショイ! あ~」
その頃、まだ海上で船の操縦を習っているジョシュアが大きなくしゃみをする。
「おいおい、まだ試験にも受かっていないのに風邪なんてひくなよ」
「はい、気を付けます」
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。