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一章
変態貴族
しおりを挟む「………………」
少女は路地裏から通りを見つめた。夕暮れ時になり、娼館にあかりが灯り始めた。色とりどりの衣装を纏った女達が客引きを始めている。
円形闘技場に劇場、娼館……ありとあらゆる娯楽が揃った少女が生まれ育ったこの街は、「この世の楽園」を意味する古代語で呼ばれている。
その実態は、国で一番の奴隷商人が運営する一大娯楽施設だ。住人はすべて奴隷で、金さえ払えば何をしても構わない。
奴隷は財産であって、人ではない。
金でやり取りできる商品なのだ。
「ね、アンタよく見ると綺麗な顔してるよ。ご主人様にお願いして、娼館で働かせてもらえるように言ってみたら?」
「嫌。私はいつか、ここを出ていくの」
「あはは、また言ってるよこの子。あははははは!」
女はさもおかしい、とばかりに笑い続ける。少女は一瞥すると、そっぽを向いて服の(といってもぼろ切れのようだが)裾を絞り始めた。
「私は、みんなの方がおかしいと思うよ。どうして逃げようとしないの?どうして戦おうと思わないの?私がポーみたいに力が強かったら、きっとご主人様を殺してやる。私はがミーシャみたいに大人の女だったら、上手く客を騙して外に出るよ……だけど誰もそれをしない」
笑い続けていた女……ミーシャは、ぴた、と動きを止めて少女を見た。
「アンタそれって…………」
「…………」
「……ぶっ!やっだーー!カワイーとこあんじゃない!なになに?アタシみたいに美しくて賢い女になりたいか~♪」
「そうは言ってない」
「あっはっは!照れるな照れるな~♪」
ミーシャは上機嫌で少女の頭を布で拭いてやった。少女が着ている服よりも、よほど綺麗である。少女は苛立たしげに睨んでいたが、ミーシャはその表情をみて、ふ、と哀しげに笑った。
「……そうだねェ……もし、何かを成し遂げられる人間ってやつがいるとしたら、それは、アンタみたいな子なのかもね」
「……?」
「……ふふ、何でもないよ……アタシはきっと、どこにも行けないけど、アンタなら、もしかしたら………………………ってなんだなんだ!?毒されちゃったかな!?あははははは」
「痛い……やめて……」
ぐりぐりぐり、と白い頭を強い力でこねくり回すミーシャに、少女はそろそろ本気で怒ろうとして……………
「ぬあああああああ!!!!」
突然、大きな男の声が近距離で聞こえて、少女とミーシャは固まった。
でっぷりとした身体を、ぴっちりとした上品な衣服に包んだ、何とも滑稽ないでたちの男だ。(と、少女は思った。)
「あ……い、いらっしゃいませ!公爵様!」
ミーシャは、ばっ、と身を翻し、綺麗な愛想笑いを浮かべた。しかし、よく見れば頬は引き攣り、二の腕は鳥肌が立っている。
「公爵様、申し訳ありませんがここは店の裏でして……表の方に――」
と続けるミーシャを無視して、さりげなく背で隠していた少女の方に男は向かった。
「ふ、ふほほほほほ!おい!いくらだ?!」
ぎろり、と少女は男を睨みつけた。
「あっ、公爵様?この子はその………そう!ご主人のお気に入りでして!」
その言葉を聞いて文句を言いかけた少女の口を、ミーシャは慌てて塞いだ。
「な、なんだと!?!この街に非売品がいるなんて聞いとらん!!」
ぷりぷり、と小さくて大きな身体を揺らしながら男は言う。少女は、動けなかった。恐怖からではない。ミーシャの身体が小刻みに震えていたからだ。
「くそっくそっくそっ!ふざけおって!ふざけおって!奴に文句を言ってやろう!!」
男は、手に持っていたステッキであたりを打ち付けながら、通りの方へ消えていった。
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