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一章
束の間の休息
しおりを挟む街で一番綺麗な館。
それは、この街の「王」である、奴隷商人ダリル・バイロウのものである。
少女の根城は、この屋敷の一角、簡素な作りの建物の中にあった。ここでは、数十人の少女たちが暮らしていて、商品としての「出荷」を待っているのだ。
「何、あんた。やだ、汚い」
部屋の扉を開けた時、部屋にいた一人の少女が鼻を摘んだ。
「ほんとだわ。一体、何をしてきたの?」
「ほら、あれよ・・・闘技場の・・・」
「きゃあ!いやっ!こっち来ないで穢らわしい!」
歳の頃は白い少女と同じほど。
しかし、少女よりも数段身なりの良い少女たち。あれやこれやと騒ぎ立てる彼女らをいっさい無視して、寝床の薄い布団に潜り込もうとした少女の前に、先程の少女が立ち塞がった。
「無視すんじゃないわよ」
「……何か用?八番」
八番。
それが目の前の少女に割り当てられた番号だった。
「ふふ、あははっ!アンタは知らなかったのね?あたし、名前をもらったの。今日からあたしは、エルナよ。出荷が決まったの」
ふふん、と自慢げに胸を張る小麦色の髪の少女……エルナを、白い少女は静かに見つめた。
「エルナは、高級娼館に行くことになったのよ!」
「貴族御用達の店なのよ?きっとお金持ちに身請けしてもらえるわ!エルナは美人だもの!」
本人よりも興奮しているのは、周りの少女たちだった。
「…ま、アンタも早くもらい先が決まるといいわね?九番ちゃん?」
「そう。おめでとう、エルナ。頑張って」
にやにや、と馬鹿にした笑みを浮かべる少女たちに、九番と呼ばれた少女はとても平淡に、そう告げた。そのあまりの素っ気なさに、エルナは顔を赤らめた。
「何なのアンタ、生意気なのよ」
がつ、と鈍い音が響く。
エルナが少女の身体を扉に押し付けた音だった。
「アンタ、奴隷ですらないんでしょ?」
「ご主人様もよく言ってるもの。お前には生きる価値がないって」
「値段もつけられないって……アンタって何なのかしらね?」
「くすくす、誰もいらない物には値段もつけられないよね?ゴミなんじゃない?」
「あはは、それ最高!」
あはははは、と陰湿な笑い声が響きわたる。
「………………」
「………………ア?なんだよその目は!」
六人に取り囲まれても、怯えた様子一つ見せない少女に、エルナが怒鳴り散らす。
「用って終わり?私、寝たいんだけど」
「………………あは、あはははは……あたし、アンタのことマジで嫌い。死ねばいいのに」
エルナは扉を開くと廊下に少女を突き飛ばした。
「家畜小屋で寝な。アンタが部屋にいると、穢れる」
倒れ込んだ少女を残し、扉は閉められた。
少女は、のろのろと身体をおこすと、ゆっくりと歩き始めた。そして、家畜小屋の建て付けの悪い扉を開くと、開いたゲージの古い藁の上に、身体を横たえた。
・・・ひどく、疲れていた。
瞼を閉じると、すぐに睡魔が襲いかかり、少女は泥のように眠った。
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