5 / 16
一章
束の間の休息
しおりを挟む街で一番綺麗な館。
それは、この街の「王」である、奴隷商人ダリル・バイロウのものである。
少女の根城は、この屋敷の一角、簡素な作りの建物の中にあった。ここでは、数十人の少女たちが暮らしていて、商品としての「出荷」を待っているのだ。
「何、あんた。やだ、汚い」
部屋の扉を開けた時、部屋にいた一人の少女が鼻を摘んだ。
「ほんとだわ。一体、何をしてきたの?」
「ほら、あれよ・・・闘技場の・・・」
「きゃあ!いやっ!こっち来ないで穢らわしい!」
歳の頃は白い少女と同じほど。
しかし、少女よりも数段身なりの良い少女たち。あれやこれやと騒ぎ立てる彼女らをいっさい無視して、寝床の薄い布団に潜り込もうとした少女の前に、先程の少女が立ち塞がった。
「無視すんじゃないわよ」
「……何か用?八番」
八番。
それが目の前の少女に割り当てられた番号だった。
「ふふ、あははっ!アンタは知らなかったのね?あたし、名前をもらったの。今日からあたしは、エルナよ。出荷が決まったの」
ふふん、と自慢げに胸を張る小麦色の髪の少女……エルナを、白い少女は静かに見つめた。
「エルナは、高級娼館に行くことになったのよ!」
「貴族御用達の店なのよ?きっとお金持ちに身請けしてもらえるわ!エルナは美人だもの!」
本人よりも興奮しているのは、周りの少女たちだった。
「…ま、アンタも早くもらい先が決まるといいわね?九番ちゃん?」
「そう。おめでとう、エルナ。頑張って」
にやにや、と馬鹿にした笑みを浮かべる少女たちに、九番と呼ばれた少女はとても平淡に、そう告げた。そのあまりの素っ気なさに、エルナは顔を赤らめた。
「何なのアンタ、生意気なのよ」
がつ、と鈍い音が響く。
エルナが少女の身体を扉に押し付けた音だった。
「アンタ、奴隷ですらないんでしょ?」
「ご主人様もよく言ってるもの。お前には生きる価値がないって」
「値段もつけられないって……アンタって何なのかしらね?」
「くすくす、誰もいらない物には値段もつけられないよね?ゴミなんじゃない?」
「あはは、それ最高!」
あはははは、と陰湿な笑い声が響きわたる。
「………………」
「………………ア?なんだよその目は!」
六人に取り囲まれても、怯えた様子一つ見せない少女に、エルナが怒鳴り散らす。
「用って終わり?私、寝たいんだけど」
「………………あは、あはははは……あたし、アンタのことマジで嫌い。死ねばいいのに」
エルナは扉を開くと廊下に少女を突き飛ばした。
「家畜小屋で寝な。アンタが部屋にいると、穢れる」
倒れ込んだ少女を残し、扉は閉められた。
少女は、のろのろと身体をおこすと、ゆっくりと歩き始めた。そして、家畜小屋の建て付けの悪い扉を開くと、開いたゲージの古い藁の上に、身体を横たえた。
・・・ひどく、疲れていた。
瞼を閉じると、すぐに睡魔が襲いかかり、少女は泥のように眠った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる