英雄の娘は死の運命を回避したい

まふ

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一章

救いの手

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「いてぇな……おっさん、このガキ殺す気か?」

 決して大きな声ではなかった。それでも、若い男の憤りが痛いほどに伝わってくる。白い少女は、自分に向けられたものではないのに、全身が震えるのを感じた。

「……これはこれは、何か勘違いをなさっているようですね」

 しかし、焼け付くような視線を全く意に介さず、ダリルは微笑んだ。

「私はオーナーのダリル・バイロウ。所有物のをしていただけですよ。もしかして親子喧嘩にでも見えましたか?……それはそれは、紛らわしくて申し訳ありません」

 ダリルは、若い男に向かって恭しくお辞儀をしたが、馬鹿にしているのは明らかだった。

「お前がこのクソみたいな街の親玉かよ……どんな面してんのかと思ったら、想像より大分薄汚えな」

 吐き捨てるような台詞に、白い少女は唖然とその若い男を見上げた。長身のため分かりづらかったが、よく見てみるとまだ少年とも言えるほどの年齢だった。

 真っ黒な髪にも、褐色の肌にも、瑞々しいほどの生命力が宿っており、それがこの街の中では特に「異様」に映った。つまり、少女が今まで出会ったことのない人種だったのだ……そのことは、少女の中に鮮明に刻まれることとなった。

 
「ふふふ、それはご期待に添えず申し訳ありません。して、何か御用ですかな?」
「用なんてあるかよ」
「そうですか。なら、私たちはお暇いたしましょう……来い、九番」
「……!」
 
 少年が顔を歪ませる。

「何をしている九番、早く来なさい」

 半ば茫然自失の状態だった少女は、一瞬、自分でも知らないうちに、すがるように少年を仰見た。少年はダリルを睨みつけて離さない。少女は、ゆっくりと立ち上がった。
 
「……おい、どこ行くんだよ」

 少年はダリルから目を離さないまま、少女にそう問いかける。

「……どこって……私は、奴隷、だもの」
「それでいいのか?」

 少年の言葉に、少女の内側から焼け付くような激情が溢れ出す。

「いいわけ、ないっ……!!」

 それは、ずっとずっと考えていたこと。

「私の命は誰かものなんかじゃない!私のものだ……!私だけのものだ!」

 同じ人間だ。
 同じ人間のはずなのに、
 奴隷だから、その命に価値をつけられる。
 奴隷だから、殺されても文句は言えない。
 奴隷だから、喜びも悲しみも無かったことにされる。
 奴隷だから、奴隷だから、奴隷だから……

「こんな街なんて嫌いだ!こんな世界………大嫌いだ!」

 はあ、はあ、と肩で息をする少女に、少年は薄く笑みを浮かべた。

「じゃあ、出て行こうぜ。元々そのつもりだったんだろ?」
「は、あ……?」
「見えたんだよ。この街から出て行くつもりなんだろ?」
「……憐れみならやめて。偽善者は嫌い。自分に害が出れば、すぐに手のひらを返すのだから」
「ああ、心配しなくても、俺は俺の選択に後悔なんかしねえよ」

 ぐりぐり、と後ろ手に頭を撫でられて少女は目を白黒させる。

「お前だって、そうだろ?」

 熱い手のひらだった。
 熱くて熱くて、
 その熱さに、少女は「生」を実感した。

 
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