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一章
ある女
しおりを挟む「夢じゃない、みたい……」
鏡の中から、はっきりとした目鼻立ちの、美しい少女がこちらを見返していた。
「ほ、本当にグレタだ……本当に、わたし、グレタになっちゃったんだ……」
鏡の中のグレタは、「本来の」彼女には似合わない、情けなさそうな顔だった。それもそうだ、と、少女の中にいる女は思った。だってわたしは、グレタとは違って、平々凡々などこにでもいる普通の、譌・譛ャ莠コだ………と、考えて女は驚いた。
譌・譛ャ
それが、女が生まれ育った国の名のはずだ。
確かに思い出せるのに、不思議と言葉にすることが出来ない。女は、心の奥底が冷たくなるのを感じた。
「名前は…………思い出せないけど、歳は、多分、28、だったような気がする……」
少女はペンを持ち、すらすらと文字を書いていく。譌・譛ャ隱だ。この国の言葉とは違うから、万が一見られても内容は分からないだろう。頭の心配はされるかも知れないが。
グレタの中に生まれた女の意識は、なんとか夕食会をおさめて自室に逃げ込んだ。具体的に言えば、「大丈夫だから!!ちょっと一人にして」のごり押しだ。
そんなわけで自室で悶々と自問自答を繰り返すこと一時間。ついに、前に進もうという気になって、机に向かった、というわけだ。
――この世界は、大好きだった「英雄伝」の世界?
ノートに書いた文字が滲む。
(英雄伝、は、わたしがそれはもう、どハマりしたゲームだった)
大学生の頃に発売されたゲームで、譌・譛ャだけじゃなく、世界的に大ヒットした据え置き型のゲーム。近年珍しい、王道のRPGだった。
――グレタは、物語序盤のボスキャラ。流行りに乗って、「悪役令嬢」と言われることもあった。
(……わたしが、一番嫌いなキャラクターだった)
何故か。
それは、グレタが自らの実父であり、「主人公」の養父でもあるリンドハーゲン公爵を殺し、「主人公」に壮絶な苦しみを味わわせた上で、彼に殺されるという、何とも後味の悪い「悪役」だったからだ。
「………………さいっあくだ!!!!!うわーーーーん!!」
ばふばふと枕を叩きながらベッドを転がりまくる。広いベッドは三回転しても余裕があった。
「……ううん……冷静にならなきゃ。わたしは絶対、あんなことにはならない……」
グレタは、椅子に座り直すと、もう一度ペンをとった。
――グレタは、幼い頃誘拐され、奴隷商人のもとへ。公爵に助け出されるも、甘やかされて育った結果、性格が悪くなってしまう。リンドハーゲン公爵家の全てを手に入れるため、実父のヴィクトルを罠に嵌めて……殺した。
グレタについて語られているのは、公式ガイドブックでもその程度だ。ちなみにゲームは三周。ガイドブックは五回は読んだ。公式SNSだってフォローしてたし、情報誌だってコンプリートしてたのだ。ゲーム本編の内容は完璧だ。だけど今、それは全く役に立たない。だって本編開始まであと六年もあるのだ!
「これから、わたし、どうしたら…………」
一人きりの部屋で、グレタは途方に暮れた。
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