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第9話 オリバたちのその後
しおりを挟む「クソがっ! どれだけ魔物出てくるんだよ!」
オリバたちは数日かけて何とか街に帰還していた。
いつもはソータが『魔力探知』や支援魔法をかけてくれるから楽だった。
しかし、ソータを追放してしまったため、ただ帰還するだけの道のりが長く険しいものになっていたのだった。
「まぁ、いいじゃないか。これだけ俺たちが疲れているんだ。あいつが死んだ話も信憑性が出るだろ」
「それもそうだな。チッ、殉職金受け取って、早く宿で一杯やるぞ」
オリバはロードの言葉を聞いて自分を納得させてから、他のパーティメンバーに目を向けた。
リリスは杖に体重を預けて立っているのがやっと、ナナはしばらく前からずっと息が上がっていて、ろくに口もきけないくらい疲れている。
俺たちがこんな状態になるくらい辛い帰路だったんだ。どのみち、あのガキは死んでただろう。
オリバはそう思いながら、声を潜める。
「いいか、おまえら……ちゃんと、演じろよ」
オリバの声にロードたちが頷いたのを確認してから、オリバは冒険者ギルドの扉を開けた。
そして、すぐに癇癪を起していた顔を伏せて、流れてもいない涙を隠すようにしながらカウンターに向かう。
カウンターに来たのに、いつまでも顔を上げようとしないオリバたちの様子に、受付嬢のエリは首を傾げていた。
「すまない。依頼は達成したのだが、大事なパーティメンバーを失くしてしまった」
「え? パーティメンバーをですか?」
エリはオリバの後ろにいるロードたちを見て、眉をひそめる。
「ああ。パーティメンバーのソータが、俺の指示を無視して一人で魔物と戦うと言って聞かなくてな。本人の意思を尊重して向かわせたのだが、返り討ちにあってしまった」
「ソータくんが、ですか?」
エリはロードたちのさらに後ろに一瞬目を向けてから、すぐにその目をオリバに戻す。
「ああ。見てわかると思うがS級パーティの俺たちでも苦戦を強いられてな。……クソッ、まだ幼い命だったのに! 俺の大事な仲間を殺した魔物どもめ! 許せない!!」
憤りを感じているような演技をするオリバの肩をロードはポンと叩いた。
そして、しみじみとした様子でロード、リリス、ナナは順々に言葉を続ける。
「オリバ、あれは仕方がなかったんだ。むしろ、ソータは冒険者として、男として立派だった。殉職という奴だな」
「そうね。私たち全員で止めたけど、止まらなかったんだもの。殉職したのも仕方がないわ」
「ええ。惜しいですが、これも神の御導き。殉職も仕方がありません」
オリバたちは大根芝居で『殉職』であることを強調するようにソータが死んだ経緯を説明した。
終始顔が引きつっていたエリだったが、オリバたちはエリの複雑な表情に気づくことはなかった。
「……そういえば、ソータは自分が死んだときは殉職金を俺たちパーティに渡してくれっていっていたな」
オリバはそう言うと、偽造した書類をカウンターに置く。
それを見たロードたちは目元を押さえて、わざとらしい演技を続ける。
「あいつって奴は、よくできた奴だったな。死んでも、俺たちのために……」
ロードがそう言うと、リリスはオリバが置いた書類の中から一枚の封筒を見つけ出して、アッと驚く声を上げた。
「見て! 別添えの手紙に私たちへの感謝の気持ちが書かれているわ!」
「どうやら、私たちに育ててもらったことを感謝しているみたいですね。本当に、惜しい子を失くしました」
ナナはオヨヨッと泣くような演技をして、そのままぺたんと膝から崩れ落ちた。
そんなパーティメンバーを見て、気持ちを汲んだようなオリバが代表して言葉を続ける。
「そういうわけで、殉職金の手続きをしたいんだ。ソータの意思を継げるのは、俺たちしかいないからな!」
オリバがそう言うと、他のパーティメンバーたちがこくんと頷く。
一見、パーティメンバーの死を乗り越えようとしている結束力のあるパーティのように見える。
ギルドにいた他のパーティたちは、そんなオリバたちの姿を見て唖然としていた。
感動している訳でも、憐れむわけでもなく、唖然としているのだ。
やがて、ギルドにいたオリバたちを除く冒険者たちの言葉を代表するかのように、受付嬢のエリは溜息を漏らした。
「あの……ソータくん、後ろにいますよ?」
「「「「は?」」」」
そう言われてオリバたちが振り向くと、そこには数日前に先に街に帰ってきていたソータとケルの姿があったのだった。
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