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ep3 優しい彼
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瞬時にギルド前に辿り着いてしまい、肩を落としつつ納品を済ませた。
レグルスも魔物の素材を納品して報酬を分けようとしてきたが、それだけは、どうしても受け取れない。
「一緒に狩った獲物だろう。」
「いいえ、僕の採取の手助けをしていただいて、流石にいただけません。――それに、スクロールは駄目だって、言ったのに……」
「俺が使いたい時に使っているだけだ。」
しれっというレグルスに文句は言えない。
じっと見つめてくる瞳に、負けじと視線を返せば、先に視線を逸らしたのはレグルスだった。
「……まあいい。それより、飯だ。」
「はい、そうですね。食べましょう。」
席が空いていればいいなと思って宿に帰ると、あいにく満席だった。
「ごめんなさい、レグルスさん。僕の部屋で食事でもいいですか。」
そろりと見上げると満足そうに目を細められた。褒められる時と同じ表情だ。
「そっちの方がいい。」
安宿だから、小さい組み立て式のテーブルと椅子で食べることになるのに、レグルスは気にした様子もない。
いくつかの料理と飲み物を注文して盆で運ぶ。
「まずは食べろ。」
座った途端に、取り皿にひょいひょいと肉を載せられてじっと見つめられる。
出会った頃から、無表情なのに世話好きな様子は変わらない。そう思うと、つい笑ってしまう。
「……はい。ありがとうございます。」
お礼を言っても赤い錆色の瞳がこちらを見つめ続けていて、にまにまと笑っているのを見咎められたのかと思って目をしばたいた。
「あの……?」
「食べろ。」
あ、食べるのを見届けるつもりだ。
気づいて取り分けられた料理を口に入れると眦が若干下がって安堵した。
「心配、してくれたんですか。レグルスさんが親切なのは昔から変わりませんね。」
へら、と笑うと頭に手を置かれた。
「お前だけだ。」
熱い瞳が、少し、心臓に悪い。
2年前、死にかけたところを拾ってもらったとはいえ、ここまでしてもらう理由なんて、ない。
どんな形にしろそれが好意だとしたら――本当に、心臓に悪い。
だって、僕は。
「からかわないでください。」
思わず視線を逸らす。
「からかってなどいない。」
薄い唇に無理やり料理を捩じ込む。
今日のおすすめの肉料理だ。ピリッと辛味のある味付けは彼の好みのものだ。
「寝不足のレグルスさんも、ちゃんと食べてください。」
少し口を突き出して言うと、ふっと笑われた。子供っぽかったのかもしれない。
「ああ、寝不足だから……今日、泊まっていいか。」
僅かばかり首を傾げられて、返答に困った。
この部屋には一つしかベッドがない。
一時期一緒に眠っていたことはあるけど、あれはまた違う事情だったわけで――悩んでいる間にレグルスが首を振る。
「無理にとは言わない。」
「無理なんて!」
無理なんて思わない。
「あの、昔みたいで嬉しいなんて言ったら、嫌がられるかと思って。」
正直に言ってそろりと隣を見上げる。
「嫌がるものか。」
頭を撫でられて、少しほっとした。
「掛け布団をもう一つ準備していただくようにお願いしておきますね。」
「一つでいい。急に用意するのは宿も大変だろう。」
鼓動が、ひとつ跳ねた。
きっと彼は僕の思いになんて気づいていない。
そもそも、こうして構うようになってくれた経緯を考えれば、それだけが理由だと、自分に言い聞かせる。
きっかけは、2年前。
僕のパーティーが、僕以外、死んでしまったから。
レグルスも魔物の素材を納品して報酬を分けようとしてきたが、それだけは、どうしても受け取れない。
「一緒に狩った獲物だろう。」
「いいえ、僕の採取の手助けをしていただいて、流石にいただけません。――それに、スクロールは駄目だって、言ったのに……」
「俺が使いたい時に使っているだけだ。」
しれっというレグルスに文句は言えない。
じっと見つめてくる瞳に、負けじと視線を返せば、先に視線を逸らしたのはレグルスだった。
「……まあいい。それより、飯だ。」
「はい、そうですね。食べましょう。」
席が空いていればいいなと思って宿に帰ると、あいにく満席だった。
「ごめんなさい、レグルスさん。僕の部屋で食事でもいいですか。」
そろりと見上げると満足そうに目を細められた。褒められる時と同じ表情だ。
「そっちの方がいい。」
安宿だから、小さい組み立て式のテーブルと椅子で食べることになるのに、レグルスは気にした様子もない。
いくつかの料理と飲み物を注文して盆で運ぶ。
「まずは食べろ。」
座った途端に、取り皿にひょいひょいと肉を載せられてじっと見つめられる。
出会った頃から、無表情なのに世話好きな様子は変わらない。そう思うと、つい笑ってしまう。
「……はい。ありがとうございます。」
お礼を言っても赤い錆色の瞳がこちらを見つめ続けていて、にまにまと笑っているのを見咎められたのかと思って目をしばたいた。
「あの……?」
「食べろ。」
あ、食べるのを見届けるつもりだ。
気づいて取り分けられた料理を口に入れると眦が若干下がって安堵した。
「心配、してくれたんですか。レグルスさんが親切なのは昔から変わりませんね。」
へら、と笑うと頭に手を置かれた。
「お前だけだ。」
熱い瞳が、少し、心臓に悪い。
2年前、死にかけたところを拾ってもらったとはいえ、ここまでしてもらう理由なんて、ない。
どんな形にしろそれが好意だとしたら――本当に、心臓に悪い。
だって、僕は。
「からかわないでください。」
思わず視線を逸らす。
「からかってなどいない。」
薄い唇に無理やり料理を捩じ込む。
今日のおすすめの肉料理だ。ピリッと辛味のある味付けは彼の好みのものだ。
「寝不足のレグルスさんも、ちゃんと食べてください。」
少し口を突き出して言うと、ふっと笑われた。子供っぽかったのかもしれない。
「ああ、寝不足だから……今日、泊まっていいか。」
僅かばかり首を傾げられて、返答に困った。
この部屋には一つしかベッドがない。
一時期一緒に眠っていたことはあるけど、あれはまた違う事情だったわけで――悩んでいる間にレグルスが首を振る。
「無理にとは言わない。」
「無理なんて!」
無理なんて思わない。
「あの、昔みたいで嬉しいなんて言ったら、嫌がられるかと思って。」
正直に言ってそろりと隣を見上げる。
「嫌がるものか。」
頭を撫でられて、少しほっとした。
「掛け布団をもう一つ準備していただくようにお願いしておきますね。」
「一つでいい。急に用意するのは宿も大変だろう。」
鼓動が、ひとつ跳ねた。
きっと彼は僕の思いになんて気づいていない。
そもそも、こうして構うようになってくれた経緯を考えれば、それだけが理由だと、自分に言い聞かせる。
きっかけは、2年前。
僕のパーティーが、僕以外、死んでしまったから。
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