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ep6 何を捨ててでも
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Bランクパーティー“蒼牙の刃”がダンジョンの深層に潜る。
そう聞いて心臓が鳴ったのは、この街のダンジョンは危険度が高いと知っているからだ。
どうか無事に帰ってきてほしいという思いは、採取から帰ってきたギルドの混乱で破られた。
「“蒼牙の刃”が――」
「まさか――」
「助からない――」
「全滅も――」
物騒な単語が聞こえて、何かが起きたと分かって心がざわついた。
「……なにか、あったんですか。」
「それが、どうも黒龍が現れたらしくて。」
顔馴染みのギルド職員の人に聞いてさっと血の気が引いた。
黒龍。
稀にダンジョンに現れる魔物で、しかも最上級に強い。
荷物役や、雑事を依頼された冒険者が軒並み怪我をして今帰されていると。
――それなら、レグルスは?
転移のスクロールなど僕は持っていない。
彼なら迷わず使って向かうだろうに――僕には、その力がない。
借り馬屋に走って、馬を借りる。
辿り着くまで10分少々だったはずなのに、1時間にも感じた。
「もう!早く!怪我人がいっぱい居るのよ……!」
たどり着いてすぐに、リオナが怒鳴っている声が聞こえた。
ダンジョンのポータルの前で、沢山の怪我人がいてぞっとした――まさか、レグルスも。
「リオナさん……!」
「フィン君!助かった!手伝ってくれる?!」
必死な声に気持ちを押し込めた。
きっと、みんな同じように我慢している。僕はそれを知っているから。
「はい!」
怪我人の手当てを手伝いながら、あたりを見渡す。
呻いている人たちを見てあの日の出来事が頭をよぎる。
それでも。
あの日と違って、今日はてのひらが震えなかった。
怪我人の手当ての目処がついたころ、リオナが顔を出した。
「ありがとう。フィンくんがいてくれて助かったわ。」
「あの、“蒼牙の刃”の状況は。」
「まだ戦ってるわ。……怪我人が多くて、戦況が悪いけど、きっと大丈夫。」
そういうリオナの顔色は言葉と違って青かった。
ぶわっと、自分から魔力が漏れ出るのが分かった。
あたりには、もう息の細くなっている人もいる。
“蒼牙の刃”の皆が守った人たちだ。
レグルスが以前言っていた。
『今から言う二つを誰にも言わないと守れるか。』
真剣な瞳に頷くと、彼は絶対に守れよ、と僕に言い聞かせた。
『お前の魔力量は感情にリンクしている。
恐らく実力以上のものも展開できてしまうが、身体への負担が大きいからやるな。
それから、お前の“眼”も希少だ。
望んだものが見えるだろうが、それも負担が大きい。程々に使え。』
あれから2年、ずっとその言葉を守って堅実でいようとしていたけど。
でも、今はそれを使う時じゃないだろうか。
たくさん読ませてくれた書物の中に、範囲的に展開できる治癒の魔法があった。
今は治癒師がここにいない。
でもやり方は覚えていて、“蒼牙の刃”の皆が守りたかった人達が傷ついている。
多分、感情が昂っている今なら、力技でどうにかできる気がした。
瞳を閉じて“眼”を展開する。
“蒼牙の刃”が応戦しているけど、怪我人を必死にポータルの外へ送ろうとしているせいで、防戦一方になっている。
このままじゃ、体力消耗するだけだ。
5メートル四方の空間を作って、治癒魔法を展開した。
「リオナさん!僕、レグルスさんのところに行きます。
この中に重症者を運び込んでください!治癒師が来るまでは時間を稼げると思います!」
「え、ええぇーー?!なにこれ、なにが、ちょっとまって、フィン君!」
「ごめんなさい、待てません!」
ポータルに片足を入れる。
腹の底にずんと重しを乗せられたような感覚。
避難者を助け出すためかポータルは固定されていたようで、不快感を堪えた先、蒼牙の刃のメンバーが戦っていた。
「レグルスさん……!」
どうか無事でいてほしい。
けれど、まだポータルを越えられていない負傷者がたくさん居る。
アークも、レグルスも、他のメンバーも必死に食い止めようとしている。
――黒龍は。
この世にいる存在を、今まで舐めていたのかと思うくらいの威圧感だった。
どこかで、どうにかなると思っていた思考をあっさり破られた。
そこにいるのは、僕にとっては絶望そのものだ。
空気が重く、息が浅くなる。
ただそこにいるだけで死を連想させる存在だった。
でも周囲には負傷者がたくさんいて、このままじゃレグルスが思うように戦えない。
咄嗟に手を組んだ。
僕の感情で魔力量がどうにかなるのなら。
今だけでいい。全部、出てほしい。
どうにか、最大限に僕の力を。
いま、出すべきだから叶えて。
どうか。お願いだから。
今後、何もできなくてもいい。
彼がいなければ死んでいた人生だ。
僕はどこまでいっても戦えない。
それならせめて、ここにいる彼らの傷をすべて癒して欲しい。
「おねがい……っ!」
自分の心臓が揺さぶられる感覚とともに、光があたりを覆った。
「は、」
心臓がうるさい。
水滴のようなものが見えて下を向いた。
ぼとりと血の塊が落ちて、ああ、自分のものかとぼんやりと思う。
分不相応の力を使ったのだ。
視界も血に覆われて、それでも僕はようやく役に立てたのだと思った。
「――!」
「――っ!!」
喧騒が聞こえるけれど、なんと言っているか聞こえない。
耳に音が届かなくて、それでもぼやけた視界に動き出した人達が見えて安心した。
たぶん願いが叶ったのだ。
これで、安心して皆も戦える。
こちらに何か叫んでいる顔が見える。
“蒼牙の刃”のパーティーのミレイだ。
優しい彼女は僕を心配してくれているのかもしれない。
僕の身体を抱き止めて、何か必死に言ってくれている。
その言葉は聞こえないけど。
はやく、レグルスさんの元へ行ってくれないかなと失礼なことを思った。
興奮状態が続いているのか“眼”が発動している。
レグルスが黒龍に向かっていた。
視界に入った自分の手は血まみれで震えていた。
それでも、最後の力を振り絞って。
レグルスに、威力向上の魔法を。
お願いだから、届けてほしい。
霞む意識の先で、レグルスに魔法が届いて、黒龍の首に剣を入れるのが見えて、ああもう大丈夫だと思った。
やっぱり、彼は誰よりも頼りになって、誰よりも格好いい。
僕の大好きな、彼だ。
そう聞いて心臓が鳴ったのは、この街のダンジョンは危険度が高いと知っているからだ。
どうか無事に帰ってきてほしいという思いは、採取から帰ってきたギルドの混乱で破られた。
「“蒼牙の刃”が――」
「まさか――」
「助からない――」
「全滅も――」
物騒な単語が聞こえて、何かが起きたと分かって心がざわついた。
「……なにか、あったんですか。」
「それが、どうも黒龍が現れたらしくて。」
顔馴染みのギルド職員の人に聞いてさっと血の気が引いた。
黒龍。
稀にダンジョンに現れる魔物で、しかも最上級に強い。
荷物役や、雑事を依頼された冒険者が軒並み怪我をして今帰されていると。
――それなら、レグルスは?
転移のスクロールなど僕は持っていない。
彼なら迷わず使って向かうだろうに――僕には、その力がない。
借り馬屋に走って、馬を借りる。
辿り着くまで10分少々だったはずなのに、1時間にも感じた。
「もう!早く!怪我人がいっぱい居るのよ……!」
たどり着いてすぐに、リオナが怒鳴っている声が聞こえた。
ダンジョンのポータルの前で、沢山の怪我人がいてぞっとした――まさか、レグルスも。
「リオナさん……!」
「フィン君!助かった!手伝ってくれる?!」
必死な声に気持ちを押し込めた。
きっと、みんな同じように我慢している。僕はそれを知っているから。
「はい!」
怪我人の手当てを手伝いながら、あたりを見渡す。
呻いている人たちを見てあの日の出来事が頭をよぎる。
それでも。
あの日と違って、今日はてのひらが震えなかった。
怪我人の手当ての目処がついたころ、リオナが顔を出した。
「ありがとう。フィンくんがいてくれて助かったわ。」
「あの、“蒼牙の刃”の状況は。」
「まだ戦ってるわ。……怪我人が多くて、戦況が悪いけど、きっと大丈夫。」
そういうリオナの顔色は言葉と違って青かった。
ぶわっと、自分から魔力が漏れ出るのが分かった。
あたりには、もう息の細くなっている人もいる。
“蒼牙の刃”の皆が守った人たちだ。
レグルスが以前言っていた。
『今から言う二つを誰にも言わないと守れるか。』
真剣な瞳に頷くと、彼は絶対に守れよ、と僕に言い聞かせた。
『お前の魔力量は感情にリンクしている。
恐らく実力以上のものも展開できてしまうが、身体への負担が大きいからやるな。
それから、お前の“眼”も希少だ。
望んだものが見えるだろうが、それも負担が大きい。程々に使え。』
あれから2年、ずっとその言葉を守って堅実でいようとしていたけど。
でも、今はそれを使う時じゃないだろうか。
たくさん読ませてくれた書物の中に、範囲的に展開できる治癒の魔法があった。
今は治癒師がここにいない。
でもやり方は覚えていて、“蒼牙の刃”の皆が守りたかった人達が傷ついている。
多分、感情が昂っている今なら、力技でどうにかできる気がした。
瞳を閉じて“眼”を展開する。
“蒼牙の刃”が応戦しているけど、怪我人を必死にポータルの外へ送ろうとしているせいで、防戦一方になっている。
このままじゃ、体力消耗するだけだ。
5メートル四方の空間を作って、治癒魔法を展開した。
「リオナさん!僕、レグルスさんのところに行きます。
この中に重症者を運び込んでください!治癒師が来るまでは時間を稼げると思います!」
「え、ええぇーー?!なにこれ、なにが、ちょっとまって、フィン君!」
「ごめんなさい、待てません!」
ポータルに片足を入れる。
腹の底にずんと重しを乗せられたような感覚。
避難者を助け出すためかポータルは固定されていたようで、不快感を堪えた先、蒼牙の刃のメンバーが戦っていた。
「レグルスさん……!」
どうか無事でいてほしい。
けれど、まだポータルを越えられていない負傷者がたくさん居る。
アークも、レグルスも、他のメンバーも必死に食い止めようとしている。
――黒龍は。
この世にいる存在を、今まで舐めていたのかと思うくらいの威圧感だった。
どこかで、どうにかなると思っていた思考をあっさり破られた。
そこにいるのは、僕にとっては絶望そのものだ。
空気が重く、息が浅くなる。
ただそこにいるだけで死を連想させる存在だった。
でも周囲には負傷者がたくさんいて、このままじゃレグルスが思うように戦えない。
咄嗟に手を組んだ。
僕の感情で魔力量がどうにかなるのなら。
今だけでいい。全部、出てほしい。
どうにか、最大限に僕の力を。
いま、出すべきだから叶えて。
どうか。お願いだから。
今後、何もできなくてもいい。
彼がいなければ死んでいた人生だ。
僕はどこまでいっても戦えない。
それならせめて、ここにいる彼らの傷をすべて癒して欲しい。
「おねがい……っ!」
自分の心臓が揺さぶられる感覚とともに、光があたりを覆った。
「は、」
心臓がうるさい。
水滴のようなものが見えて下を向いた。
ぼとりと血の塊が落ちて、ああ、自分のものかとぼんやりと思う。
分不相応の力を使ったのだ。
視界も血に覆われて、それでも僕はようやく役に立てたのだと思った。
「――!」
「――っ!!」
喧騒が聞こえるけれど、なんと言っているか聞こえない。
耳に音が届かなくて、それでもぼやけた視界に動き出した人達が見えて安心した。
たぶん願いが叶ったのだ。
これで、安心して皆も戦える。
こちらに何か叫んでいる顔が見える。
“蒼牙の刃”のパーティーのミレイだ。
優しい彼女は僕を心配してくれているのかもしれない。
僕の身体を抱き止めて、何か必死に言ってくれている。
その言葉は聞こえないけど。
はやく、レグルスさんの元へ行ってくれないかなと失礼なことを思った。
興奮状態が続いているのか“眼”が発動している。
レグルスが黒龍に向かっていた。
視界に入った自分の手は血まみれで震えていた。
それでも、最後の力を振り絞って。
レグルスに、威力向上の魔法を。
お願いだから、届けてほしい。
霞む意識の先で、レグルスに魔法が届いて、黒龍の首に剣を入れるのが見えて、ああもう大丈夫だと思った。
やっぱり、彼は誰よりも頼りになって、誰よりも格好いい。
僕の大好きな、彼だ。
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