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ソフィーの初恋
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アシルス帝国皇妃ソフィーヤ・カルロヴナ・ロマノヴァはナルフェック王国で生まれた。
彼女はナルフェック王国のロベール王家の娘であり、祖国ではソフィー・ルイーズ・ルナ・シャルロット・ド・ロベールという名前だった。
ロベール王家の見た目の特徴は、月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪にアメジストのような紫の目。
しかしソフィーの髪色は父であり王配であるシャルルの色を引き継いでいた。
そしてソフィーは両親と同じように長身であった。
まだ十五歳の成人の儀を迎えたばかりのソフィーは少し暗い表情をしていた。
(……ついに決まってしまったのね)
ソフィーはため息をついた。
彼女は国同士の政略の為、四つ年上のアシルス帝国皇太子アレクセイ・エフゲニエヴィチ・ロマノフと婚約しており、ついに結婚式の日程が決まったのである。
しかし、ソフィーには現在好意を寄せる相手がいた。
(あ……)
ソフィーは立ち止まる。
彼女のアメジストの目の先には、とある令息がいた。
セヴラン・ヤニック・ド・グラス。
ソフィーより三つ年上の十八歳で、グラス侯爵家長男で次期当主だ。
褐色の髪にペリドットのような緑の目ので、背丈は長身のソフィーとそれ程変わらない。
別にセヴランの背が低いわけではない。ソフィーが女性の平均身長よりも遥かに高いだけである。
ソフィーは着けていた細部まで意匠が凝らされたペリドットのブローチにそっと触れる。
その時、セヴランはソフィーの姿に気付いたようで、ボウ・アンド・スクレープで礼を執《と》った。
「セヴラン、楽にしてちょうだい」
ソフィーは緊張し、ほんの少しだけ声が震えてしまった。
「ありがとうございます、王女殿下」
セヴランは穏やかな笑みである。
「……ガブリエルお兄様の元へ行くところかしら?」
ソフィーがそう聞くと、セヴランは頷く。
「ええ。王太子殿下から頼まれていたことがありますので」
ガブリエルはソフィーの兄で、ナルフェック王国の王太子である。年はソフィーよりも一つ上の十六歳だ。
「そう。……お兄様のことをよろしく頼むわね」
ソフィーは品良く微笑んだ。
「王女殿下からのもったいないお言葉、光栄でございます」
ビシッと礼を執り、セヴランはガブリエルの元へ向かうのであった。
ソフィーはそんなセヴランの背中を見つめていた。そっとペリドットのブローチに触れる。
(セヴラン……貴方をお慕いしていると伝えてしまったら……貴方は困るわよね……)
ソフィーは悲しげに微笑んだ。
ソフィーが好意を寄せている相手はセヴランなのである。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
ソフィーの初恋は十三歳の時。
王宮の中で護衛や侍女を付けず、中庭に咲き誇る薔薇を眺めていたソフィー。
その時、ペリドットのブローチが落ちて金具の部分が壊れてしまった。
(どうしよう……!?)
ソフィーは途方に暮れた。
この後のお茶会で着用予定のブローチだったのだ。
今から戻って他のブローチに変える時間もない。
焦るばかりのソフィー。
「あの、王女殿下……?」
そんな彼女に恐る恐る声を掛ける者がいた。
それがセヴランである。
「突然のお声掛け、申し訳ございません。お困りのように見えましたので」
通常、下の身分の者が上の身分の者に話しかけてはいけない。
しかし、セヴランはソフィーの様子を見て緊急事態だと察し、無礼を承知で声を掛けたのだ。
「……構わないわ」
「ありがとうございます。それで……どうかなさいましたか?」
「お茶会で着用予定のブローチが壊れてしまったの。今から代わりのものを用意する時間もなくて……」
ソフィーは俯く。
「それなら、そのブローチを少し貸していただけますか?」
「……ええ」
ソフィーはきょとんとした様子でペリドットのブローチをセヴランに渡した。
するとセヴランは常に持ち歩いているらしい簡単な工具を取り出し、あっという間に壊れた金具を元通りに直したのだ。
「これで問題ないかと存じます」
「まあ……! 凄いわ……!」
ブローチを受け取ったソフィーはアメジストの目を大きく見開いた。その目はキラキラと輝いている。
「王女殿下にそう仰っていただけて光栄です。ちょっとしたもの作りや修理は得意ですので」
セヴランは嬉しそうに微笑んだ。
「本当にありがとう。助かったわ。貴方の名前を聞いても良いかしら?」
「申し遅れました。グラス侯爵家長男、セヴラン・ヤニック・ド・グラスと申します」
「セヴランと言うのね。ありがとう、覚えておくわ。本当に助かったわ」
「そんな、とんでもないことでございます。こちらこそ、王女殿下のお役に立つことが出来て大変光栄でございます」
ソフィーを真っ直ぐ見つめるペリドットの目。
ほんの少し、ソフィーの心臓が跳ねた。
その後、セヴランはガブリエルの元へ向かい、ソフィーもお茶会が開催される場所へと向かい始めた。
(セヴラン……まるでヒーローだわ)
ソフィーはセヴランに直してもらったブローチにそっと触れた。
セヴランの真摯な態度、真っ直ぐなペリドットの目。そして困った時に助けてくれたこと。
ソフィーの中に生まれた甘く切ない感情。
それは初恋であった。
しかし幼少期から国同士の政略の為にアシルス帝国の皇太子アレクセイとの結婚が決まっているソフィー。
ソフィーの恋は絶対に実らせてはいけないものなのであった。
彼女はナルフェック王国のロベール王家の娘であり、祖国ではソフィー・ルイーズ・ルナ・シャルロット・ド・ロベールという名前だった。
ロベール王家の見た目の特徴は、月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪にアメジストのような紫の目。
しかしソフィーの髪色は父であり王配であるシャルルの色を引き継いでいた。
そしてソフィーは両親と同じように長身であった。
まだ十五歳の成人の儀を迎えたばかりのソフィーは少し暗い表情をしていた。
(……ついに決まってしまったのね)
ソフィーはため息をついた。
彼女は国同士の政略の為、四つ年上のアシルス帝国皇太子アレクセイ・エフゲニエヴィチ・ロマノフと婚約しており、ついに結婚式の日程が決まったのである。
しかし、ソフィーには現在好意を寄せる相手がいた。
(あ……)
ソフィーは立ち止まる。
彼女のアメジストの目の先には、とある令息がいた。
セヴラン・ヤニック・ド・グラス。
ソフィーより三つ年上の十八歳で、グラス侯爵家長男で次期当主だ。
褐色の髪にペリドットのような緑の目ので、背丈は長身のソフィーとそれ程変わらない。
別にセヴランの背が低いわけではない。ソフィーが女性の平均身長よりも遥かに高いだけである。
ソフィーは着けていた細部まで意匠が凝らされたペリドットのブローチにそっと触れる。
その時、セヴランはソフィーの姿に気付いたようで、ボウ・アンド・スクレープで礼を執《と》った。
「セヴラン、楽にしてちょうだい」
ソフィーは緊張し、ほんの少しだけ声が震えてしまった。
「ありがとうございます、王女殿下」
セヴランは穏やかな笑みである。
「……ガブリエルお兄様の元へ行くところかしら?」
ソフィーがそう聞くと、セヴランは頷く。
「ええ。王太子殿下から頼まれていたことがありますので」
ガブリエルはソフィーの兄で、ナルフェック王国の王太子である。年はソフィーよりも一つ上の十六歳だ。
「そう。……お兄様のことをよろしく頼むわね」
ソフィーは品良く微笑んだ。
「王女殿下からのもったいないお言葉、光栄でございます」
ビシッと礼を執り、セヴランはガブリエルの元へ向かうのであった。
ソフィーはそんなセヴランの背中を見つめていた。そっとペリドットのブローチに触れる。
(セヴラン……貴方をお慕いしていると伝えてしまったら……貴方は困るわよね……)
ソフィーは悲しげに微笑んだ。
ソフィーが好意を寄せている相手はセヴランなのである。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
ソフィーの初恋は十三歳の時。
王宮の中で護衛や侍女を付けず、中庭に咲き誇る薔薇を眺めていたソフィー。
その時、ペリドットのブローチが落ちて金具の部分が壊れてしまった。
(どうしよう……!?)
ソフィーは途方に暮れた。
この後のお茶会で着用予定のブローチだったのだ。
今から戻って他のブローチに変える時間もない。
焦るばかりのソフィー。
「あの、王女殿下……?」
そんな彼女に恐る恐る声を掛ける者がいた。
それがセヴランである。
「突然のお声掛け、申し訳ございません。お困りのように見えましたので」
通常、下の身分の者が上の身分の者に話しかけてはいけない。
しかし、セヴランはソフィーの様子を見て緊急事態だと察し、無礼を承知で声を掛けたのだ。
「……構わないわ」
「ありがとうございます。それで……どうかなさいましたか?」
「お茶会で着用予定のブローチが壊れてしまったの。今から代わりのものを用意する時間もなくて……」
ソフィーは俯く。
「それなら、そのブローチを少し貸していただけますか?」
「……ええ」
ソフィーはきょとんとした様子でペリドットのブローチをセヴランに渡した。
するとセヴランは常に持ち歩いているらしい簡単な工具を取り出し、あっという間に壊れた金具を元通りに直したのだ。
「これで問題ないかと存じます」
「まあ……! 凄いわ……!」
ブローチを受け取ったソフィーはアメジストの目を大きく見開いた。その目はキラキラと輝いている。
「王女殿下にそう仰っていただけて光栄です。ちょっとしたもの作りや修理は得意ですので」
セヴランは嬉しそうに微笑んだ。
「本当にありがとう。助かったわ。貴方の名前を聞いても良いかしら?」
「申し遅れました。グラス侯爵家長男、セヴラン・ヤニック・ド・グラスと申します」
「セヴランと言うのね。ありがとう、覚えておくわ。本当に助かったわ」
「そんな、とんでもないことでございます。こちらこそ、王女殿下のお役に立つことが出来て大変光栄でございます」
ソフィーを真っ直ぐ見つめるペリドットの目。
ほんの少し、ソフィーの心臓が跳ねた。
その後、セヴランはガブリエルの元へ向かい、ソフィーもお茶会が開催される場所へと向かい始めた。
(セヴラン……まるでヒーローだわ)
ソフィーはセヴランに直してもらったブローチにそっと触れた。
セヴランの真摯な態度、真っ直ぐなペリドットの目。そして困った時に助けてくれたこと。
ソフィーの中に生まれた甘く切ない感情。
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