初恋の思い出はペリドットのブローチと共に

宝月 蓮

文字の大きさ
3 / 7

己の立場

しおりを挟む
 セヴランへの恋心を自覚したソフィー。
 しかし、幼い頃からアシルス帝国の皇太子アレクセイとの結婚が決まっている。よって、決してその恋心を表に出すわけにはいかなかった。

 しかし、初めての恋でソフィーはどこかふわふわとしてしまうこともあった。
 遠目からセヴランを見つめてしまったり、直してもらったペリドットのブローチや、彼の目と同じペリドットのアクセサリーを身に着けるようになっていたのである。

 ソフィーは王宮の自室の窓から見える騎士団の練習風景を見ていた。
 そこにはセヴランの姿もあった。
 王家直轄の騎士団に所属するセヴランは、こうして王宮内での訓練にも参加しているのだ。
(気持ちを伝えるのは許されない。だけど、密かに想うことだけは許して欲しいわ)
 ソフィーは王女という立場上、こうしてセヴランの姿を眺めることしか出来なかった。
(だけど、こうしてセヴランを見つめることが出来るのも、あと一年で終わってしまうのね)
 ソフィーはため息をついた。
 一年後、ソフィーが十六歳になる年に、アレクセイと結婚することになる。つまりソフィーはナルフェック王国から出てアシルス帝国に行かなければならないのだ。
(セヴラン……)
 ソフィーは胸の奥がギュッと痛くなった。





♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔





 数日後。
 侍女を引き連れて王宮内を歩いていたソフィーは、この日も窓から騎士団の訓練中であるセヴランを見つめていた。
 懸命に剣を振るうセヴランの姿。
 ソフィーにはその姿がキラキラと輝いて見えた。
 ほんの少し口角を上げるソフィー。

 その時、兄でありナルフェック王国の王太子のガブリエルがやって来る。
「ソフィー、何を見ている?」
「お兄様……」
 突然声を掛けられ、ソフィーは驚いた。

 ガブリエル・ルイ・ルナ・シャルル・ド・ロベール。
 月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪に、アメジストのような紫の目の少年だ。母親であり女王でもあるルナ譲りのその美貌は、まるで彫刻や芸術品といった類である。
 長身で、髪色と目の色はロベール王家の特徴を見事に引き継いでいる。
「騎士団が訓練中なのか」
 ソフィーと同じように、窓の外に目を向ける。
「そのようですわ」
「王家直轄の騎士団の実力は年々上がっているからな。頼もしいことだ。そうだ、ソフィー。新たに私の護衛が決まったんだよ」
「お兄様の護衛の方……どなたなのです?」
 突然のことに、ソフィーは首を傾げる。
「グラス侯爵家長男のセヴランだ」
「そう……ですか」
 ソフィーは想い人の名前が出てきてドキリとしたが、平然を装った。
「彼は剣術だけでなく、機転もよく利くからな」
 フッと笑うガブリエル。
「……そのようですね」
 ソフィーは訓練中のセヴランを見ながらそう答えた。
 二人の間にしばらく沈黙が続く。
「お前達、少しばかり外してくれ。目の届く範囲にいてくれたら良いから」
 突然ガブリエルは自身の護衛やソフィーに付いている侍女に対してそう言った。
 ソフィーはいきなりのことに驚き、アメジストの目を丸くする。
「お兄様、一体どうなさったのです?」
 ソフィーは怪訝そうな表情だ。
「ソフィー、お前は滅多なことをしないと信じている。だが……万が一お前が行動を起こしてしまった場合、女王陛下母上はお前ではなく相手の方を処分する。それをよく理解しておくことだな」
 ガブリエルのアメジストの目は、ソフィーを射抜くようであった。
(……わたくしの気持ちは……お兄様にバレているのね。だとすると女王陛下お母様にも……)
 少しだけソフィーの呼吸が浅くなった。
「……ええ。わたくしは己の立場を理解しているつもりでございますわ」
 ソフィーはガブリエルの真っ直ぐ目を見て答えた。
「そうか……。それなら女王陛下母上も私も安心だ」
 ガブリエルはフッと笑った。
 そしてそのまま護衛やソフィー付きの侍女を呼び戻し、立ち去るのであった。





♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔





 自室に戻ったソフィーは浮かない表情であった。

『ソフィー、お前は滅多なことをしないと信じている。だが……万が一お前が行動を起こしてしまった場合、女王陛下母上はお前ではなく相手の方を処分する。それをよく理解しておくことだな』

 ガブリエルに言われた言葉を思い出す。
(もしわたくしがセヴランに想いを伝えてしまい、一緒に逃げようとしてしまえば、セヴランが危険な目に遭ってしまうわね……)
 ソフィーはため息をついた。

 兄であるガブリエルも、母であるルナも、目的の為なら手段を選ばない面があることをソフィーは十分じゅうぶん理解している。

(先程のお兄様は……怖かったわ。それに、女王陛下お母様はいつも上品な笑みを浮かべてばかりで、全く考えが読めない。それでいて時には恐ろしい手段を用いるものだから……もっと怖いわ)
 ソフィーはセヴランに直してもらったペリドットのブローチに触れ、心を落ち着ける為にゆっくりと深呼吸をする。
(せめて残り一年だけでも、セヴランのことを想いたい。でも、それすらもやめた方がいいのかしら……?)
 ソフィーは心臓を締め付けられるような思いであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

行き遅れ令嬢の再婚相手は、ダンディな騎士団長 ~息子イケメンの禁断の守護愛~

柴田はつみ
恋愛
貧乏貴族の行き遅れ令嬢リアナは、28歳で社交を苦手とする大人しい性格ゆえに、結婚を諦めかけていた。 そんな彼女に王宮から政略結婚の命令が下る。再婚相手は、妻を亡くしたダンディな騎士団長ギルバート。 クールで頼れる40代のイケメンだが、リアナは「便利な道具として選ばれただけ」と誤解し、切ない想いを抱く。 さらに、ギルバートの息子で爽やかイケメンのエリオット(21歳)が義理の息子となる。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

処理中です...