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思う仲に垣をするか放っておいて。

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「神山さんたちのとこに行かなかったんですね」
「あ、うん。実家にドラマの録画お願いしてなかったの思いだして連絡してたの」
「あー、新連載の! 飯山美奈未ってめっちゃんこ可愛いモデルがヒロインの!」
「そう、それ」

あはは、とごまかして喫煙所の方へ歩く。
中にいる二人を見たら、険悪な様子はなかった。

彼がどんな風に答えたのかわからないけど、叔父さんを丸め込んだのが分かる。

どこまでが本心で、どこまでが彼の仕事上の野心で、どれが本音なのかわからない。

「お久しぶりです。やば、専務と課長とご飯とか、緊張しかしないですう」

何も知らない泰城ちゃんの言葉に、彼がふっと笑うのが分かった。
二人が喫煙所から出てくると、彼が私の方へ視線を向けてくる。

「飯、勝手に予約しといたんだけどいい?」
「うん。期待してる」

「運動の後だから肉を食べたくてね。桃花は今週ほとんど外食だろ?」

 叔父さんが私と彼の間に割り込んできたけれど、違和感なかったので何も顔に出すのはやめた。

 叔父さんが怒っていないのなら、悪いことを言ったわけではないかもしれない。
 叔父さんがただ丸め込まれただけかもしれない。

 ただ、私も彼に恋愛だけを望んで結婚をしたいと思っているわけではない今、何かがどんどん冷たくなっていくのだけはわかった。
 今更もう、疑うことも信じることもばからしいくらい。

 
 予約していた店は、近くのホテルの三階のイタリア料理『フィオーレ』
サラダとデザートはバイキング方式で、ピザかパスタとスープを注文するラフな形式の店だった。
窓辺にサラダやデザートが並べられたテーブルが置かれ、選ぶときに景色が見れる。
それにピアニストの生の演奏を聴きながら、優雅にワインを揺らして楽しめる。

 叔父さんはジムで疲れたのかサラダばかり食べていて少し無口だった。


「専務うぅ、私も次は行きたいです」
「泰城ちゃん……っ」
 怖いとか近寄りがたいと評判の叔父さんにさえ媚びを売れる彼女に尊敬するべきなのかな。
 叔父さんも少しだけ驚いていた。

「ええー。私も今日は招待されて行っただけだよ。彼とは同級生でね。一人じゃ悪いかなって、そこの御曹司を誘っただけのこと」
「あそこ、会費高いし。近くのジムの方がいいよ」

 二人に説得されている泰城ちゃんを見ると、本当に通いたいっていうより二人に説得されているのがうれしそうに伺える。
 私なら、わざわざ休日まで体動かしたくない。一日中眠っていたいもん。

「それより二人でエステ行けばいいじゃん。最近支店がここら辺にできた、オーガニックサロンの『エマ』さ、あそこなら顔効くかも」
「きゃあ。知ってます! 予約とるのも大変な高級エステ!」

 ジムの時よりも目が輝く泰城ちゃんに、苦笑する。
 高級店って言ってるのに、そこまで行きたいのか。

「何他人事みたいな顔してんだよ。お前が行くんだっての」「なんで私?」

 そんな高級店に通うような分厚い給料をもらっていない。
 ネイルでさえ、自分で手入れしてるぐらい。
 自分に投資してきたことはない。


「あー、なるほど。ブライダルエステってやつですね」
「ぶっ」

 飲んでいたカクテルを吐き出しそうになって慌てておしぼりで口を押えた。

「だったら早い方がいいですよお。エステってそんな一か月で効果でないです。二、三か月後から効果が表れるんです。早めにしてた方がいいって言ってました」
「や、だって、」

式場だって決めてないしまだプロポーズちゃんとされてないのに。

「ブライダルエステって雑誌では安く載せるけど、実際はいっぱいオプション付けられて高額になるんですよお。だったら最初から自分で選んでた方が絶対いいです」

「もー。泰城ちゃん、圧がすごい」

 カクテルを一気飲みした後、ピザを一切れとって、口の中に押し込んだ。
「えーっと、お二人はもうそんな話をする段階ってことですよねえ?」

 二個目のピザに手を伸ばしながら、私は進歩さんを見た。
 進歩さんもピザソースのついた指を拭きながら私を見る。

「プロポーズのやり直しってことかな」
「そう。なのに先にエステで釣ろうとするなんて、バカじゃない」

 彼が手を伸ばしたピザに、タバスコを山のようにかける。
そして、窓の景色の方へ眼をやった。

「でもおじいちゃんがいるから、こんなホテルとかじゃなくて、庭がきれいなお屋敷借りて結婚式とかいいなあ」
「なるほど」

 彼が妙に納得したように頷く。
彼の中ではもう結婚のビジョンはとっくに出来上がってるんだろうね。

その先の、会社の派閥についてのことまできっと。

「やばい。タバスコ、鼻に来た」
「先輩、かけすぎですよ」
「やばいやばい、メイク崩れるう」
「そんなメイクしてねえだろ」

 使っていないナプキンを渡され、目じりに浮かぶ涙を抑える。
 だが、私のピザにはタバスコは全くかかっていなかったことをきっと誰も知らない。
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