とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。

篠原愛紀

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五、溺愛×賞味

五、溺愛×賞味⑦

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 喬一さんの実家に行くのは実は初めてだ。挨拶はホテルでの結納のみ。
 お姉さんも喬一さんも、もし親戚が邪魔したら申し訳ないからと店の方へ来ないほうはいいと言ってくれていたからだ。

 古舘呉服屋は室町時代から続く老舗呉服屋で、遠祖は神社の祭で祭礼着を奉納していたらしい。そこから法衣商として暖簾を揚げ、江戸時代には百余軒もの分家を擁すまでになっていたとか。江戸時代は新しい染物技術や訪問着中心で売る分家もでき、常にまとめる立場を求められた古舘家は威厳を主張するような豪邸を都内一等地に建てている。

 そこの蔵は、日本文化遺産に申請中で、庭は開放され、本館二階には古舘呉服屋のアートギャラリーとして文化とファッションの展示をしている。

「俺は長子じゃないから、メンテナンスが大変なあの家を継がなくて、心の底じゃラッキーと思う部分もあったんだよね」

 延々と続く壁を追うように運転している喬一さんが、苦笑する。
 もし勘違いでなければ、たぶんこの壁は全てその古舘呉服屋の敷地だ。
 先ほどからすれ違う車が高級車だったり上品な着物の女性ばかりだ。

「姉は、着物の染め物や柄を小さな頃から熱心に眺めていたし勉強していた。どうみても姉の方が古舘屋の看板を背負うのに適しているよ」
「私もそう思います。喬一さんが駄目だってわけじゃないですよ。結婚式の着物、本当に素敵でした。一人ひとりしっかりと観察して、合った色や着物を選んでくださるし、素晴らしい才能ですし、着物が好きな方なんだなって思ったんです」
「姉さんも喜ぶんじゃないかな」

 まんざらでもなさそうに少し口角を上げる。
 喬一さんの、自分の身内を悪く言わない部分も尊敬していたりする。

 私はつい父のナルシストな部分に悪態をついてしまうから。

「でもまあうちは他の家より厳しかったかもしれないな。だからこそ、紗矢の家が居心地が良かったのかも」

「……酔っぱらった父が喬一さんに腹筋させようと絡んできたり、お酒飲んで寝落ちした兄を部屋まで運んでくれたり、迷惑しかかけてない気がしますが」

「それが楽しいんだ。あと段ボールいっぱいの野菜。それと、紗矢かな」
「私もですか」
「俺のこと、見ててくれたでしょ」
「えっ」

 車が右に曲がると、遠くに訪問者用の駐車場が見えた。が、すぐに更に曲がり、身内用の駐車場へ入っていく。砂利道で少し車がカタカタ揺れるが、私はそれどころではない。

「控えめに勉強をするふりしてこちらを見る紗矢、可愛かったな。俺の方がこの家に憧れて通っているのに、勉強の邪魔にならない位置で見てるの」

「わ、分かってたんですか」

「当たり前。観察してたのは俺だからね。でも男性にめんえきがないだけだろうと期待はしていなかったよ」
 眼鏡のフレームを上げながら、余裕の顔でさらりと言った。
 当時の私はそれほどバレバレだったとは恥ずかしい。

「それで、兄が一人暮らしするなら自分は家に居なきゃって進学に悩んでいる、いじらしさとか。一矢とおじさんの干渉と過保護のせいで、男性と全く関わり無くて初々しい感じ。俺も今のうちに唾をつけて、自分以外の男と関わらないようにしようか、血迷ったぐらいだ」

「ひえ。知らなかった。いや、今でも男性はあんまり。会社では父や兄に近寄りたくて胡麻を擦ってる人ばかりだし」
「本当かな」

 クスッと笑われる。

「本心で君を綺麗だと思っていた奴らも大勢いただろうね。可哀そうに」
 車を止め、恭しく助手席のドアを開けてくれる。

「でももう俺の奥さんだから、可哀そうな奴らは一生可哀そうで結構。俺の計画勝ちだ」
「……何か浮かれています? というか酔ってる?」
「酔ってませんよ」
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