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五、溺愛×賞味
五、溺愛×賞味⑨
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「こちらこそです。今日はとても楽しみで――」
二人で微笑みながら進んでいると、空気を切るような車のドアの開閉と、大声で怒鳴る声と制止する声が聞こえて、麗一さんが足を止める。
「……あれは。きっと喬一くんたちの従兄弟の左京くんかな」
「声だけで分かるんですね。よく来られるんですか」
「うーん。そうだね。左京くんはとても良い子なんですよ。ただ新しい事業の資金援助に、彼のご両親が」
苦笑いしながら、ようやく到着した本家の台所へ。
もう使われていない石窯の上に野菜の入った段ボールが置かれる。
本家だけあってどこかの割烹料理屋のように広い台所だ。意外にも、オール電化なんですよーと八つあるコンロ部分を見せてくれた。
「あーも。麗一くん、塩。塩を持って来てちょうだい!」
「お姉さん、あの、あけましておめでとうございます」
今のタイミングでいいのか一瞬焦ったけど、控えめな桃色の着物姿で現れたお姉さんは血管が浮き出たこめかみをぴくぴくさせながら、塩の塊を持とうとしていた手を止めた。
「わーお。紗矢さん。今年も喬一共々よろしくお願いいたしますね。ごめんね。嫌なタイミングで嫌な客が来たから、塩をぶつけてくるわ。うちの両親がお得意様と二階のギャラリーの方で談話してるときに、ほんと、嫌な客」
「雅、やめてくれよ。塩の塊を二袋も持つなんて何を考えてるんだ!」
「えー、これぐらい平気よ。投げたら軽くなる」
「ふふ」
喬一さんも塩を投げるじゃなくて、塊ごと投げようとしていたなと思い出してつい笑ってしまう。姉弟らしい。
「笑い事じゃないですよ。そんな重いもの、大事な体で持たないでください」
「だからこんなの重たいうちに入らないってば」
「大事な身体?」
私も大根を段ボールに戻そうとしていた手を止める。そして、柔らかく笑う綺麗なお姉さんの顔に、察する。
塩を奪った麗一さんが、照れながらお姉さんのお腹を擦った。
「まだ二か月で、安定期になってから報告しようと思ったんですが、雅が我慢できないと言うので」
「だって。はやく言いたいでしょ」
見つめ合って甘い雰囲気の二人の世界に遠ざかっていく。私の前で二人の世界に入らないでください。ああ、喬一さんの甘さはお姉さん譲りなのね。
「左京くんが来てるのに、収拾がつかないのかい?」
「ええ。叔父様、お酒を摂取されているみたいなので。茹でタコみたいよ」
「僕が出ていくから、君は紗矢さんといなさい。客間に絶対に来ないでくださいね」
念を押すように何度も何度もお姉さんに言いながら、真っすぐに前を向いて歩いて行かれていた。線の細い、柔らかそうな人だったのに、お姉さんを守ろうとする芯の強い部分がはっきりと感じる。それが、お姉さんが彼に惚れた部分なのかもしれない。
「ごめんなさいね。喬一は?」
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