艶夜に、ほのめく。

篠原愛紀

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三夜、ウソツキと正直者

三夜、ウソツキと正直者 二

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 すると、鼻で笑って首を振られた。

「そんな極端な二種類に分けられない。まあ分けるとしたら『心で浮気する男』と『性欲だけ浮気する男』かな」
「……うわあ」

 いきなり嫌な側面を見せつけられた。
 男が言うから生々しい。


「因みに後者は俺。――前者は誰か分かってるだろ?」
「良いことを教えてあげよう。人生経験の少ない若者よ」

 最後のお皿を押しつけて、私は優しく聖母の様に笑ってやった。



「この世には二種類の聖母がいる。『自分が気付かなかったら浮気ではない聖母』と『浮気に気付きながら、新しい彼氏ができるまで笑って耐える聖母』」

 それは聖母じゃねえと言われても、本当の事だから仕方ない。

「後者は、ある日いきなり浮気野郎を捨てる。前者は気付かない限りその男を許し続ける。さて私はどっちでしょう」

 遊馬さんは深く溜息を吐いて首を振る。
 どっちの顔もアンタが浮かぶ、と。

「何ー? 喧嘩?」

 頭をタオルで拭きながら、泉さんがひょいっと顔を出してきた。

「違う。話にならないもん」
「兄貴、女のセンス悪くない?」

 私と遊馬さんの発言に、面食らいつつも、数秒考えてから遊馬さんに『ハウス』と言い放った。


「気にしないでくれ。どうせ遊馬は幼馴染としか恋愛したことないせいで経験が極端に少なすぎるんだ」
「へえ。可哀相に」

 って、今のやりとりをする中で、なかなか遊馬さんもゲスだと思ったけれど彼女いたのか。


「中学からの付き合いらしい。俺も何度か顔を見たけど、印象に残らない素朴な感じの子だったよ」
「兄貴、それ褒めてないよな」
「早く行こう。気に言っている家具屋は駐車場が少ないんだ」

 泉さんは遊馬さんに目もくれず、自分の部屋へ向かいながら私へそう言う。
 兄弟なのに会話が成り立たないのはなんだが少し面白かった。
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