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4個目 恋人までの道のり
4個目 恋人までの道のり
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4個目 恋人までの道のり
順番はおかしかったが告白されキスした。
あまりにも苦しげに愛おしげに俺を見るから、抱きしめ返した。
じゃあ、この次ってこれってどうなんの?
「あれ? 何してんの? 帰るわよ」
靴箱で傘置き場に腰をかけてたら、さやがやってきてしまった。
「帰りたくない」
「そ。じゃ行くよ」
「ぐえっ」
俺の斜め掛けの鞄を引っ張り無理矢理立たされた。
「加賀くん、前嶋さん」
ズルズル引きずられている俺とさやに声をかけたのは、檜山先生だった。
「うわ」
俺を放り出してさやは先生の元へ駆け付けた。
「どうしたんですか?」
「あ、いえ。指定校の提出期限を張り出しましたって報告を……加賀くん、死んでませんか?」
地面に顔から転んでいる俺を見て、先生が立たせてくれた。
苦笑する先生の顔はやっぱり整ってて羨ましくなる。
これぐらい男として魅力があれば、俺も自信が持てたのかな?
「二人とも英語は良かったですから評点も問題無いですしね。でも加賀くん」
「はい?」
檜山先生は両手を出した。
「約束の甘い物は?」
「え? 何それ! ズルい!」
にこにこ尋ねてくる先生に、溜め息しか出ない。
いや申し訳ない気持ちも沢山あるんだよ。
「胸が痛くて、作れなかったんです」
お箸でご飯を掬ってもほっぺに当たるぐらい、胸が痛くて悩んでたら作れなかったんだ。
「深刻な悩みですか……?」
先生の顔が心配そうに曇る。けど、すぐにさやが肩を叩いた。
「それは恋わずらいだっーての。処方箋なんてないんだからお菓子作ってたら良くなるって」
「だって相手は甘い物、嫌いなんだよ」
さやみたいに何でも食べる人じゃないんだ。
あの日、あの指がうなじから背中をなぞった。
あの指が俺の体に触れるとぞくぞくして、狂おしくなる。
そして、雨宮さんはそんな俺を見て意地悪そうに笑ったんだ。
言葉は貰った。順序やムードは無かったけど、キスした。
キスしたら、もう雨宮さんしか考えられなくて、回りなんてどうでもよくなった。
これは恋?じゃあ俺と雨宮さんは恋人……?
そう考えると胸が痛くて悩んでしまう。お菓子を作るのに、レシピが頭に入ってこないんだ。
「加賀くん、相談なら私が」
「大丈夫大丈夫! 私が話を聞きますんで。じゃーさよーならー」
さやに再び引きずられながら、校門まで走った。
「で、アンタやっぱホモだったの?」
そう言われて軽口さえ叩けなかった。
「さやは、先生が好き?」
依然としてさやに腕を捕まれ、引きずられるように歩きながら、聞いてみた。
「うん。好き。でも生徒である限り、あの先生じゃ恋人になれないよねぇ」
溜め息を吐く後ろ姿は、間違いなく恋する女の子だ。
「恋人になったら何すればいいんだ? てか俺は、付き合ってるのか??」
「ええ!? 何があったの!? テスト明けでなんで付き合ってるのよ!? 双葉の君!?」
ぐわんぐわんと胸ぐらを捕まえられて、問い詰められる。
「あ、いやその、両思いならもうその時点で『付き合ってる』事になるの? その、順序的にキスってどれぐらいでするもんかなぁ…とか……思ったり」
「あー。あんた、恋に夢持ってるもんね。順序とか色々考えてたら損よ?」
「損?」
「だってキスしたいぐらい相手の仕草や言葉が愛しかった時に、『まだ付き合って数日だから』とか『こんなムードがない場所で』とか思ってキスしないなんて馬鹿だし損よ」
「……さや。意外としっかり考えてるんだな」
「馬鹿にすんなってーの。私だって、色々考えてるんだよ。私が憂斗なら、ガンガン攻める! チャンスは逃さない」
そう言うと、引きずられていた腕を、カップルみたいにギュッと組んできた。
「何が不安なのか分からないけど、こんな風に相手に甘えてみなさいよ」
「ええ!?」
「あんた、どーせ夢見てるから、自分の気持ち、ちゃんと伝えてないでしょ? ちゃんと言いなさいよ」
「うわ! だから違……」
核心をつかれて、バッとさやの絡んでいた手を離した。
「う………ぁ……」
さやと夢中になってたから、家付近まで来てたのに気づかなかった。
塾のあるビルへ入ろうとしていた雨宮さんが立っていた。ずっとこっち、見てる。
「ほら、じゃーね」
「え、さや」
あのキスからまだ三日しか経ってないんだぞ。でも、でも確かに俺、まだ何も雨宮さんに気持ちを伝えてない。今後の話しとか連絡先とか何もかも知らない。
「こ、ここんにちは」
顔を見るのが照れ臭くて、首下辺りを見つめてしまう。
「…………ああ」
「あ、の、お店で待ってま……すね?」
「――ああ」
そう言うと、雨宮さんは振り向きもせずビルの中へ入っていった。
なんかちょっと機嫌が悪いのかな?
やっぱ、後悔してるのかな?
背中が離れていくのが怖くなる。気持ちを伝えるのが、怖くなる。声なんて出ない。胸が、痛い。
**
「ごめんね、憂斗。エプロン全部、クリーニングに出しちゃって」
いつもは、黄色の無地のエプロンなんだけど、今日は家で使ってる、りのとしのとお揃いのピンクのエプロンだ。ポケットが左がチョコレートと右がビスケットになってる。
家で使うなら気にしないけど、お店で着るなら可愛すぎて恥ずかしいじゃん。雨宮さんも来るのに、本当に今日はついてない。さやが来なくて良かった。
雨宮さんの塾が終わるまでに一枚ぐらいクリーニングから返ってこないかな。
「母さん、ケーキ作りたいからバイト代から材料費抜いといて」
先生へとびきり甘いケーキを作って色々考えるのをやめよう。
今回は砂糖の量を三倍にしないようにして、美味しいケーキを作りたい。モンブランをホールで作ってもいい。自分で食べたっていいんだから。
「あら、イケメンさんが来たわよ」
飴細工の飾りを作っていた手が止まる。
時計を見れば十九時をとっくに過ぎていた。もうそんな時間だったか。
慌ててビニール手袋を外し前髪をピンで止め直した。
「い、いらっしゃいませ」
「ママー」
「ジュースこぼしたー」
本当に俺の可愛い妹たちはタイミングがいい。
父は予約されたケーキの仕上げとクッキーに名前を書いている。
なるべくショーケースに体を隠して、誤魔化しながら雨宮さんを見た。
「……憂斗」
ちょいちょいと指でこっちに来いと合図する。
「な、何ですか?」
さっき拒絶されたような背中とは違い、無表情だが心なしか機嫌が良いように見えた。
ショーケースの上から身を乗り出したらシャッター音がした。
見るとご機嫌な雨宮さんが俺を盗撮していた。
「本当は冷たくした事を詫びようと思ってたのに、可愛いエプロンしてるから、ついお前、あのボーイッシュな子とイチャイチャしすぎ」
「ボーイッシュって、さや?」
今日は確かにごつめの伊達メガネかけてたけど、さやは普通に可愛い女の子だと思う。口と態度が悪いだけで、お洒落で奇抜なファッションが似合う自慢の幼馴染だ。
「そ。俺、独占欲強いんだよ。見た目と裏腹に」
「なんですか。見た目と裏腹ってそんな硬派そうにも見えませんよ」
「あんなに腕に密着してたら、ちょっと苛々した」
「あんなのいつものことだけど」
「嫌だ。見たくない」
そんな仁王立ちで言うセリフだろうか。
同じ男なのに、雨宮さんの気持ちが良く理解できないな。全然親密になれてない。
それどころかあまり喋らないくせに、喋ったら意地悪な印象だし、こんな人に気持ちを伝えてちゃんと両思いになったら、もっと意地悪になりそうだ。
「じゃ、このティラミスと俺でも食べれそうな甘さ控え目のある?」
「『じゃ』の意味が分かりませんが、雨宮さん、蜂蜜とか餡の甘さも苦手ですか? 苦手じゃないならこっちのつぶ餡入りのロールケーキか、蜂蜜プリンとか」
そう言って、指で次々さしていくと、雨宮さんの長い指も後を追う。嗚呼、でも指、やっぱ格好いいなぁ。その指に触れたくて、ドキドキしてしまう。
「じゃあ蜂蜜プリン、試してみるか」
「はい。ありがとうございます」
何も言われなくても、三十分用にドライアイスを詰めていく。
雨宮さんの指は、じゃなくて雨宮さんは、レジに肘を置き此方を見ている。
肘をついたら、手に血管が浮かんできて格好いい。平静を装いながらも心の中は、雨宮さんの主に指先でいっぱいだ。
「なぁ、土日、どっちか暇? 映画とボーリングどっちが良い?」
「ボーリング?」
速答してしまった。
けど、ボーリングなら雨宮さんの指、ずっと見られる。
でも雨宮さんなんか腹を押さえて笑ってる。
「割引券あるから行こー?」
絶対子供っぽく思われた。また即答するのは嫌だったから、口をとがらせる。
「俺一応受験生だし、その木曜にまた連絡を……。あ」
プリンを受け取りながら、雨宮さんは動きを止めた。
「アドレス交換しなきゃ、火と木以外も憂斗を独り占めできないな」
そう言いながらスマホを取り出した。
***
『同い年だろ? 敬語止めね?』
風呂上がりにスマホを確認したら、雨宮さんからメッセージが来ていた。
まあ、それはそうだ。見た目がかなり年上に見えようが俺が幼かろうが、同い年には変わらないか。
『別にいいけど』
素っ気ない返事になってしまったが、男友達ならばこれぐらいが普通だろう。
メッセージぐらいで意識するのも変だし。
「ドライヤーってどこ?」
「あら、ごめんね、リビングかも」
いつも妹たちが走り回るからドライヤーは脱衣所に置きっぱなしなんだけど、今日はリビングまで逃げたようだ。
母さんと妹たちは二階で寝かしつけ、父さんはオーブンの掃除。
俺は素っ気なく返事したせいで返信が止まったことに若干不安を覚えつつも髪を乾かしていた。
『じゃあ決まり。勉強のご褒美に蜂蜜プリン食べてるよ』
本当に食べたのかな。甘いの苦手だろって思っていると写真が送信されてきた。
プリンを食べてピースしている写真。
スプーンを持つ指が、やっぱり格好いい。
『まあ俺の店のスイーツは全部美味しいからな』
写真の奥、でっかい参考書と電子辞書とノートが見える。
俺は今から寝ようとしてたけど、まだ雨宮さんは勉強しているのか。
いや雨宮さんじゃない。雨宮。雨宮はあの双葉高校だもんな。勉強の邪魔しては悪いし、返信せずにベッドへ向かう。
『プリン食べたら憂斗のケーキ食べてみたくなった』
『受験生は勉強してなよ』
『たかが一日自主勉しないだけで俺の学力は下がらない』
余裕な事で。でもまあほぼ毎日塾へ行っているようだし、そんなものなのかな。
俺は製菓の専門学校に受験予定だから共通テストの大変さが分からないし、彼がどれほど頭いいのかもわからない。
結局俺と雨宮さんは、どちらが先に寝るかを意地はって、夜遅くまでメッセージを送り合ってしまった。
高速で返事が来たり、面白いスタンプが来たり、ちゃんとプリンを食べた証拠写メが来たり。その度に胸が踊り出す。
俺、分かってる。認めなきゃならない。俺も雨宮さんが好きだって事を。
**
それからも塾終わりに顔を出してくれたりメッセージで連絡したりと約束の日曜までは順調だった。
お互い呼び捨てで呼ぶことになったから、雨宮さんから清人呼びになったのはちょっとまだ慣れないけど、それぐらい。
当日の朝も天気はいいし前日から決めていた服装も変じゃないし、今日は遊びに行くからお店も手伝えないってきちんと伝えていた。
問題はなにもないはずだった。
「いやぁぁぁぁ!」
「おにーちゃんのばかぁぁぁ!」
「だから、ごめんって。今日は帽子なんだって!」
「いやぁぁ!ばかばか!あほー」
「きらいきらいきらいきらい!」
壁の時計を見ると、もうすぐ迎えに来てくれる時間だ。
頑張って髪を立たせようとしたんだけど、猫っ毛の俺の髪じゃ決まらなくて仕方なくキャップを被って誤魔化そうとしたのに、髪を結びたい二人に捕まってしまった。
でも髪はもうワックスついてるから結べないって。
足にしがみつかまれて途方にくれてたら、お客様が入ってきた。
清人は店の中を覗いて笑った。そして、入ってきて、俺の様子を見る。
「何してんだ?」
「妹二人が髪の毛を……」
恥を忍んで告白したら笑われた。お揃いじゃないのがこんなに嫌だとは思わなかった。
「よし。俺のなら結んで良いぞ」
***
「ぷぷぷぷぷ」
「お前、いつまで笑ってんだよ」
「だって、ぷぷっ」
赤い水玉模様のポンポンのゴムで前髪を結んでもらった清人、全然似合ってない。
グレーのジャケットにデニムを合わせたラフで素敵な格好なのに、笑ってしまう。
「もう店から離れたし外して良いですよ」
清人の髪に触れると、ギロッと睨まれた。
「お前、後でその口塞ぐ」
「え!?」
「何身構えてんだよ」
「へ?」
「本気にした?」
「酷……」
「まぁ、本気だけど」
俺のキャップを取ると、キャップで口元を隠しながら、歩道橋を歩く人たちに隠れるように、唇が重なった。
「……馬鹿!」
「さぁて、行きますか」
最初からこんな調子なら俺はデートが終わるころにはタコ焼きに入っている湯でタコみたいになっているに違いない。
ボーリング場に着くと、清人は何事も無かったかのように、俺に笑いかけた。
「いつまで茹でタコになってんだ。ほら、行くぞ」
気に入ったのか、未だに前髪を結んだままの清人が言う。
「足、何センチ?」
手続きが終わり、シューズとボールを選びながら言う。
「26」
「じゃあ、まだ身長伸びるかもな」
俺の頭をくしゃくしゃしながら、清人は28センチのシューズを選ぶ。
伸びても清人は越えられない気がする。
「清人はよくボーリング行くの?」
「いや、数年ぶり」
内心ガッツポーズしてしまった。俺は友達とよく行くし家族の中で一番うまいから。
「勝負! もし俺が勝ったら何でも言うこと聞いてもらう!」
「――じゃあ俺も」
そう言うと、清人は俺に耳打ちした。
俺が勝ったら、もっと甘いキスさせろ
「や、やっぱ勝負無しで!」
「ふぅん。口だけか」
挑発に簡単に反応してしまう自分の単純な思考が嫌いだ。
こうなったら意地でも勝ってやる。勝って、絶対に服従させてやる。
なのにストライクやスペアばっかり俺は取り零しがちらほらあるのに。
あ、でも指、腕、ヤバい。
投げる瞬間の浮き出る血管がなんか格好いい。
フォームもなんか格好いい。
もうなんか居るだけでかっこ良く見えてきた。
これは何としても阻止しなくては。
徹底的に投げる邪魔をしようと俺は、決意した。
「清人、隙有り!」
後ろから脇腹を触ると、驚いた清人はボールを落とした。
そして、そのボールはガーターへ。
「よしっ」
「よし、じゃねーだろ。こらっ」
仕返しに清人が脇腹を狙ってきたから避けた。
避けたのに羽交い締めにされて、セットに失敗した髪をわしゃわしゃされる。
「やーめーてー」
「うるさい!」
ギャーギャー、ワーワー騒いでいると後ろから声が聞こえてきた。
「何あれ。楽しそう」
「友達? 兄弟かな? 可愛い」
――兄弟?
それを聞いて、すっごく凹んでしまった。
こんなに俺は胸がドキドキしてるのに、回りには兄弟にしか見えないんだ。
「憂斗?」
様子に気づいてくれた清人が顔を覗き込む。
だけど……。
「再び隙有り!」
緩んだ手から逃れ、再びガーターへ。
「ふっ。何をしてでも勝つ!」
「面白い。受けて立とう」
今は耳を塞いで、考えない。
今考えるのは、清人に勝つことのみだ。
卑怯な手を駆使し、俺は勝った。
「お前、覚えとけよ」
清人からどす黒いオーラが見えるけど、気にしない。
「汚い手でも、勝ちは勝ち。まずはもう俺を馬鹿にするのはやめてもらおう」
「馬鹿にした事はない。可愛がってるだろ?」
「その言い方が」
「――二人の時しか言わねぇよ」
フッと笑うと、またくしゃくしゃと髪を触られた。
二時間以上白熱した戦いもおなかの音と共に終わり、俺たちはボーリング場の隣のファーストフード店へ向かった。
「意外。こんなの食べるの?」
「俺を何だと思ってんだよ」
ポテトを摘まんだ指に見とれつつも、やっすいハンバーガーも炭酸飲料水も似合っていない。
「なんかコース料理とか常に食べてそう」
「偏見やめろ」
でも双葉高校って幼稚園から大学まである名門校だし、私立で金持ちばっか通っている印象だ。さやもあそこは体操服でさえ有名ブランドのオーダーメイドって言ってたし。
「清人の学校はお金持ちとか頭いいやつしか通えないじゃん。というか、こんな風に遊んで大丈夫なの? 受験生じゃん」
あんなに塾通って、土日も朝から夕方までずっと塾のある二階は電気ついてるからずっと勉強しているんだろうし。
「んー。俺は一日や二日休んだぐらいで揺らぐ学力じゃないよ」
炭酸飲料を飲みながら表情一つ変えずにそう言うと、清人は外通りに目をやる。
「部活と両立している人も凄いし、部活終わってから成績上げる人もいるけど、俺は色んな人が成績上げても全然焦らないようにずっと勉強してきたからね。どちらかというと全教科満点とか自分の限界を更新していく方が忙しいし楽しいし、戦っているし」
よくわからないけど次元が違う世界で戦っているんだ。
そこまで勉強できるなら、一日ぐらい息抜きしても平気なのか。
「そんな勉強して行きたい大学があるの?」
「んー。悩むよな。ずっと研究室に籠って勉強だけしたいし、憂人を一日中眺める仕事も探してみたいし家の会社継ぐのも面白そうだし。無限大」
「なんか間に変な仕事はいってたぞ」
つまり趣味が勉強なんだ。テスト前になってひいひい勉強している俺と違って歯を磨く並みに勉強するのが普通なんだ。
「でもまあそれだけ勉強が好きで結果がついてるなら、そりゃあ職業の選択も沢山あるかあ」
感心するけど、見習えるか分からない。俺は英語の勉強は本当に苦手だ。
「憂斗は家のケーキ屋継ぐの?」
「まあね。一学期のテストもまあまあ良かったし行きたい専門学校の指定校推薦貰えそうだし俺も余裕だよ」
一応普通科で私立文系クラスは指定校や推薦が貰いやすいって教えてもらって高校を選んだからね。受験勉強だけは頑張った。ほかの理系三クラスと国立文系クラスは土曜もテストや補講で忙しそうだけど、私立文系コースは指定校受かり次第免許を取りに行ったりバイトも許可が出ている。
「じゃあ良かった。俺は余裕だけど毎日遅くまでメッセージ送っても悪いかなって心配してたんだよな」
心配?
浮かれていたから俺は心配してなかったのに、清人は流石だな。
「この後どうする? 浮かれてゲーセンまで行く?」
気づけば清人は完食していて、あとは飲み物だけだった。
「行く」
妹たちに両手を引かれていくゲームセンターとは違って、友達とうろうろするのゆっくり出来て楽しいんだよな。
俺も急いで完食して清人のあとを追いかけた。
***
確かに俺は清人にちょっとだけ偏見があったかもしれない。
あんな有名進学校の学年首位がゲームセンターに行くわけないとか思っていたかもしれない。
でも目の前の学年首位は一緒にカーレースも銃を撃つゲームもバスケットボールを入れるゲームさえも楽しそうにしてくれる。全部、指先の動きが好きなゲームばかりで俺チョイスになってしまった。
「お、可愛い」
ジュースを飲みながらクレーンゲームを見て回っていたら、キャンディとケーキの巨大クッションを見つけてしまった。
妹二人にあげたら喜ぶかな。いや、同じのじゃないと喧嘩になるか。
というか可愛いから俺の方が欲しい。
「それ、欲しいの?」
色々考えたが素直に頷いた。
「じゃ、さっきの罰ゲーム、これ捕ったらチャラで良い?」
「へ? とれるの」
財布からお金を取り出して、入れていく。
「分からないけど何回かやれば法則が分かるはず」
そう言って優しく笑ってくれる。
意地悪だけど、すぐ困る事ばかり言うけど、俺、この人の笑顔を独り占めしたい。
好きで好きで、胸が痛くなる。誤魔化せないんだ。
無邪気に右からや上から、慎重にぬいぐるみを狙う。
その姿が、いつもの大人っぽい清人と違って可愛い。
そのままアームが降りて、ぬいぐるみが持ち上がる。
ゆっくり、ぬいぐるみが落ちていくのに、目が離せなかった。
落ちた。落ちたんだ。いや、俺はもうデートの前からとっくに落ちてたんだ。
そう、目の前で落ちたのを確認してみればもう誤魔化せない。
落ちている。
「ほら、これ」
「……ありがとう」
清人はなんと二個とも取ってくれたんだ。
***
『じろじろ見られるから恥ずかしい』
俺はそう言って、公園につれてきて貰った。
巨大なぬいぐるみを抱っこして歩いてたら、女の子たちにクスクス笑われたから恥ずかしかったのは本当だ。
ジョギングコースもある大きめの公園だったけど、噴水の回りは寒いからか人が居なかった。
清人が噴水の縁に座り、俺はぬいぐるみを挟んで座りそれを見る。
突然キスをされて、きちんと告白をされて俺も抱きしめられた時にあの背中を抱きしめ返した。
でもきちんと恋人になろうって言葉や形にはせずに今日まで来た。
これなら言える。言おう。
さっきみたいに友達に見られたり兄弟に間違えられる不安な気持ちも、清人への気持ちも、全部。そうじゃなきゃ、俺は清人にとても不誠実だ。
「清人」
「あれ? 雨宮くんじゃん」
ジョギングコースから声がしたので見ると、この前香水を頼まれていた女性が立っていた。私服だから大人っぽくて一瞬わからなかった。
「この子、あのケーキ屋の子じゃない」
俺が頭を下げると、ふんわりと笑ってくれた。
お化粧はしてないのか分からないけど、こっちの方が緊張しない綺麗さがある。
「二人は何してるの? ぬいぐるみなんか持って」
そう言われて俺が焦って清人を見ると、清人はいつも通り、表情1つ変えずに言った。
「デート」
その瞬間、俺は固まった。
冗談かもしれないし、相手の女性も笑ってくれてる。
けど、俺がさっきまでうじうじ悩んでたのが馬鹿らしくなるぐらい、清人は真っ直ぐで。俺だけが雨宮さんに対して卑怯だった。
女性は手を振るとまた、ジョギングコースに戻っていった。
「清人!」
震える手を、ぬいぐるみを抱き締めて誤魔化した。
喉の奥からカラカラ乾いてくる。自分の体じゃないみたいにフワフワする。心臓が、痛い。
「あの! 今なら、今ならまだ俺とのキス、今なら無かった事にできるっ」
「は?」
「お、男同士なんて不毛だし、後ろ指指されるかもだし、反対されたり、祝福なんてされないかもしれない! 清人だって、俺の事気持ち悪いって思う日が来るかも」
「――それ以上喋るな、憂斗」
明らかに不機嫌になった清人が睨みつけてくるが俺は怯むことなく睨み返した。
「黙らない。俺は俺は、清人が好きだから!」
頬を伝う温かい物が涙だと気づくのに時間がかかった。
でも譲れない。
「俺、誰にも言えなくても、祝福できなくても、母さん達みたいに皆が憧れる恋愛じゃなくても、良い。意地悪なのは困るけど、でも俺、」
清人が良い。
そう言うと、嗚咽さえ出てきてしまった。
なんでただ告白するだけなのに、こんな涙が出てきてしまうんだろう。
相手に好きと言ってもらえているのに、伝えるのが怖い。伝わるのも言葉にするのも怖い。
でも人をこんなに好きになるのは初めてなんだ。だから清人には重いかもしれない。
今ならまだ無かった事にして忘れて、キス前に戻れる。
まだ傷が浅いうちに。そう思うと涙が流れた。
「憂斗」
優しい清人の声に、体が震えた。
「回りの雑音なんて関係ねーよ。俺は気にしないし、お前が傷つくなら俺が全部、代わりに背負う」
「清人」
顔を上げると、清人はとろけそうな甘い笑顔を浮かべていた。
「憂斗がこんなに考えてくれてたなんて、すっげ嬉しい。泣かせて、悪い」
涙を指先で掬った後、強く強く抱き締めてくれた。
「だけど、俺は今さら無かった事にはできない。絶対にしない。お前が怖がったら嫌だから抑えてだけど、一生離す気は無い」
頭を撫でながら言ってくれた。
夕暮れに差し掛かり、辺りは犬の散歩やジョギングの人がまばらになってきた。
でも清人は人目なんて気にしないで、俺が泣き止むまでずっとずっと抱き締めてくれた。
そして、色んな話をしてくれた。
歳は十八歳。
もうすぐ誕生日らしい。先日予約していたケーキは双子の妹のケーキ。誕生日が一緒のせいでケーキが一回しか食べられないのが嫌らしく、週をずらしてケーキでお祝いするらしい。双子の妹がいる。
178センチで好きな物は、ドライフルーツと珈琲。
妹さんが毎日お菓子を作って食べさせられて、甘いものが苦手になった事、塾の窓から俺の店がよく見える事、いつ話しかけようか、きっかけを探していた事。
妹とは趣味やすきなものが似ているので、今回先に告白されて悔しかったらしい。
妹は可愛いし大事にしているけれど、今回ばかりは譲れなかったと安堵していた。
そして、俺の事。
表情がくるくる変わって見ていて飽きない事、照れて下を向く姿が可愛い事、真っ直ぐでばか正直で危なっかしい事、柔らかい髪の毛が気持ち良い事。
「何だ? お前、照れてんの?」
聞いてたら、涙なんか乾くぐらい体温が熱くなってきた。
それに清人が、耳元で吐息みたいに甘く囁くように言うから。
「で、憂斗は?」
そう言われて、覚悟を決めて清人を見上げる。
初めは、指先。
綺麗で骨ばっているのに、スラリとした指先に釘付けになった事。
こんなに格好いいのに甘いものが好きなんだ、と毎回見るようになった事、香水の香りが、大人の男の人みたいで憧れた事、キスされるまで、自分でもこの感情の名前が分からなかった事。
意地悪だけど優しいし、その苦い香りが癖になる事。
「――へぇ。意地悪ねぇ」
不敵に笑う清人。
……そんな所が意地悪なんだよ。
「俺の指と香りが好き、かぁ。でももう1つあるだろ?」
そう言って、俺の髪を耳にかけてくれた。
「なに?」
真っ赤になりながら視線を反らすと、顎を指先で捉えられた。
「甘いキス」
「あまっ……んっ」
ああ、駄目だ。
目の前に清人の顔がある。サラサラと揺れる前髪が、気持ち良い。
髪にも、体にも、唇にも、その香りを移して欲しい。
頭がくらくらして気持ちが良いんだ。
頭がクラクラしたり、胸がドキドキしたり、たった一言や、表情1つであたふたしたり、これが恋と言うならば、どんなケーキやお菓子より甘くて、そして胸いっぱいになる。
「ん……」
そして、苦くてぞくぞくするこのキスは、お菓子の甘さより癖になる。
体温1つで幸せになれる。
甘い甘い初恋の味。
順番はおかしかったが告白されキスした。
あまりにも苦しげに愛おしげに俺を見るから、抱きしめ返した。
じゃあ、この次ってこれってどうなんの?
「あれ? 何してんの? 帰るわよ」
靴箱で傘置き場に腰をかけてたら、さやがやってきてしまった。
「帰りたくない」
「そ。じゃ行くよ」
「ぐえっ」
俺の斜め掛けの鞄を引っ張り無理矢理立たされた。
「加賀くん、前嶋さん」
ズルズル引きずられている俺とさやに声をかけたのは、檜山先生だった。
「うわ」
俺を放り出してさやは先生の元へ駆け付けた。
「どうしたんですか?」
「あ、いえ。指定校の提出期限を張り出しましたって報告を……加賀くん、死んでませんか?」
地面に顔から転んでいる俺を見て、先生が立たせてくれた。
苦笑する先生の顔はやっぱり整ってて羨ましくなる。
これぐらい男として魅力があれば、俺も自信が持てたのかな?
「二人とも英語は良かったですから評点も問題無いですしね。でも加賀くん」
「はい?」
檜山先生は両手を出した。
「約束の甘い物は?」
「え? 何それ! ズルい!」
にこにこ尋ねてくる先生に、溜め息しか出ない。
いや申し訳ない気持ちも沢山あるんだよ。
「胸が痛くて、作れなかったんです」
お箸でご飯を掬ってもほっぺに当たるぐらい、胸が痛くて悩んでたら作れなかったんだ。
「深刻な悩みですか……?」
先生の顔が心配そうに曇る。けど、すぐにさやが肩を叩いた。
「それは恋わずらいだっーての。処方箋なんてないんだからお菓子作ってたら良くなるって」
「だって相手は甘い物、嫌いなんだよ」
さやみたいに何でも食べる人じゃないんだ。
あの日、あの指がうなじから背中をなぞった。
あの指が俺の体に触れるとぞくぞくして、狂おしくなる。
そして、雨宮さんはそんな俺を見て意地悪そうに笑ったんだ。
言葉は貰った。順序やムードは無かったけど、キスした。
キスしたら、もう雨宮さんしか考えられなくて、回りなんてどうでもよくなった。
これは恋?じゃあ俺と雨宮さんは恋人……?
そう考えると胸が痛くて悩んでしまう。お菓子を作るのに、レシピが頭に入ってこないんだ。
「加賀くん、相談なら私が」
「大丈夫大丈夫! 私が話を聞きますんで。じゃーさよーならー」
さやに再び引きずられながら、校門まで走った。
「で、アンタやっぱホモだったの?」
そう言われて軽口さえ叩けなかった。
「さやは、先生が好き?」
依然としてさやに腕を捕まれ、引きずられるように歩きながら、聞いてみた。
「うん。好き。でも生徒である限り、あの先生じゃ恋人になれないよねぇ」
溜め息を吐く後ろ姿は、間違いなく恋する女の子だ。
「恋人になったら何すればいいんだ? てか俺は、付き合ってるのか??」
「ええ!? 何があったの!? テスト明けでなんで付き合ってるのよ!? 双葉の君!?」
ぐわんぐわんと胸ぐらを捕まえられて、問い詰められる。
「あ、いやその、両思いならもうその時点で『付き合ってる』事になるの? その、順序的にキスってどれぐらいでするもんかなぁ…とか……思ったり」
「あー。あんた、恋に夢持ってるもんね。順序とか色々考えてたら損よ?」
「損?」
「だってキスしたいぐらい相手の仕草や言葉が愛しかった時に、『まだ付き合って数日だから』とか『こんなムードがない場所で』とか思ってキスしないなんて馬鹿だし損よ」
「……さや。意外としっかり考えてるんだな」
「馬鹿にすんなってーの。私だって、色々考えてるんだよ。私が憂斗なら、ガンガン攻める! チャンスは逃さない」
そう言うと、引きずられていた腕を、カップルみたいにギュッと組んできた。
「何が不安なのか分からないけど、こんな風に相手に甘えてみなさいよ」
「ええ!?」
「あんた、どーせ夢見てるから、自分の気持ち、ちゃんと伝えてないでしょ? ちゃんと言いなさいよ」
「うわ! だから違……」
核心をつかれて、バッとさやの絡んでいた手を離した。
「う………ぁ……」
さやと夢中になってたから、家付近まで来てたのに気づかなかった。
塾のあるビルへ入ろうとしていた雨宮さんが立っていた。ずっとこっち、見てる。
「ほら、じゃーね」
「え、さや」
あのキスからまだ三日しか経ってないんだぞ。でも、でも確かに俺、まだ何も雨宮さんに気持ちを伝えてない。今後の話しとか連絡先とか何もかも知らない。
「こ、ここんにちは」
顔を見るのが照れ臭くて、首下辺りを見つめてしまう。
「…………ああ」
「あ、の、お店で待ってま……すね?」
「――ああ」
そう言うと、雨宮さんは振り向きもせずビルの中へ入っていった。
なんかちょっと機嫌が悪いのかな?
やっぱ、後悔してるのかな?
背中が離れていくのが怖くなる。気持ちを伝えるのが、怖くなる。声なんて出ない。胸が、痛い。
**
「ごめんね、憂斗。エプロン全部、クリーニングに出しちゃって」
いつもは、黄色の無地のエプロンなんだけど、今日は家で使ってる、りのとしのとお揃いのピンクのエプロンだ。ポケットが左がチョコレートと右がビスケットになってる。
家で使うなら気にしないけど、お店で着るなら可愛すぎて恥ずかしいじゃん。雨宮さんも来るのに、本当に今日はついてない。さやが来なくて良かった。
雨宮さんの塾が終わるまでに一枚ぐらいクリーニングから返ってこないかな。
「母さん、ケーキ作りたいからバイト代から材料費抜いといて」
先生へとびきり甘いケーキを作って色々考えるのをやめよう。
今回は砂糖の量を三倍にしないようにして、美味しいケーキを作りたい。モンブランをホールで作ってもいい。自分で食べたっていいんだから。
「あら、イケメンさんが来たわよ」
飴細工の飾りを作っていた手が止まる。
時計を見れば十九時をとっくに過ぎていた。もうそんな時間だったか。
慌ててビニール手袋を外し前髪をピンで止め直した。
「い、いらっしゃいませ」
「ママー」
「ジュースこぼしたー」
本当に俺の可愛い妹たちはタイミングがいい。
父は予約されたケーキの仕上げとクッキーに名前を書いている。
なるべくショーケースに体を隠して、誤魔化しながら雨宮さんを見た。
「……憂斗」
ちょいちょいと指でこっちに来いと合図する。
「な、何ですか?」
さっき拒絶されたような背中とは違い、無表情だが心なしか機嫌が良いように見えた。
ショーケースの上から身を乗り出したらシャッター音がした。
見るとご機嫌な雨宮さんが俺を盗撮していた。
「本当は冷たくした事を詫びようと思ってたのに、可愛いエプロンしてるから、ついお前、あのボーイッシュな子とイチャイチャしすぎ」
「ボーイッシュって、さや?」
今日は確かにごつめの伊達メガネかけてたけど、さやは普通に可愛い女の子だと思う。口と態度が悪いだけで、お洒落で奇抜なファッションが似合う自慢の幼馴染だ。
「そ。俺、独占欲強いんだよ。見た目と裏腹に」
「なんですか。見た目と裏腹ってそんな硬派そうにも見えませんよ」
「あんなに腕に密着してたら、ちょっと苛々した」
「あんなのいつものことだけど」
「嫌だ。見たくない」
そんな仁王立ちで言うセリフだろうか。
同じ男なのに、雨宮さんの気持ちが良く理解できないな。全然親密になれてない。
それどころかあまり喋らないくせに、喋ったら意地悪な印象だし、こんな人に気持ちを伝えてちゃんと両思いになったら、もっと意地悪になりそうだ。
「じゃ、このティラミスと俺でも食べれそうな甘さ控え目のある?」
「『じゃ』の意味が分かりませんが、雨宮さん、蜂蜜とか餡の甘さも苦手ですか? 苦手じゃないならこっちのつぶ餡入りのロールケーキか、蜂蜜プリンとか」
そう言って、指で次々さしていくと、雨宮さんの長い指も後を追う。嗚呼、でも指、やっぱ格好いいなぁ。その指に触れたくて、ドキドキしてしまう。
「じゃあ蜂蜜プリン、試してみるか」
「はい。ありがとうございます」
何も言われなくても、三十分用にドライアイスを詰めていく。
雨宮さんの指は、じゃなくて雨宮さんは、レジに肘を置き此方を見ている。
肘をついたら、手に血管が浮かんできて格好いい。平静を装いながらも心の中は、雨宮さんの主に指先でいっぱいだ。
「なぁ、土日、どっちか暇? 映画とボーリングどっちが良い?」
「ボーリング?」
速答してしまった。
けど、ボーリングなら雨宮さんの指、ずっと見られる。
でも雨宮さんなんか腹を押さえて笑ってる。
「割引券あるから行こー?」
絶対子供っぽく思われた。また即答するのは嫌だったから、口をとがらせる。
「俺一応受験生だし、その木曜にまた連絡を……。あ」
プリンを受け取りながら、雨宮さんは動きを止めた。
「アドレス交換しなきゃ、火と木以外も憂斗を独り占めできないな」
そう言いながらスマホを取り出した。
***
『同い年だろ? 敬語止めね?』
風呂上がりにスマホを確認したら、雨宮さんからメッセージが来ていた。
まあ、それはそうだ。見た目がかなり年上に見えようが俺が幼かろうが、同い年には変わらないか。
『別にいいけど』
素っ気ない返事になってしまったが、男友達ならばこれぐらいが普通だろう。
メッセージぐらいで意識するのも変だし。
「ドライヤーってどこ?」
「あら、ごめんね、リビングかも」
いつも妹たちが走り回るからドライヤーは脱衣所に置きっぱなしなんだけど、今日はリビングまで逃げたようだ。
母さんと妹たちは二階で寝かしつけ、父さんはオーブンの掃除。
俺は素っ気なく返事したせいで返信が止まったことに若干不安を覚えつつも髪を乾かしていた。
『じゃあ決まり。勉強のご褒美に蜂蜜プリン食べてるよ』
本当に食べたのかな。甘いの苦手だろって思っていると写真が送信されてきた。
プリンを食べてピースしている写真。
スプーンを持つ指が、やっぱり格好いい。
『まあ俺の店のスイーツは全部美味しいからな』
写真の奥、でっかい参考書と電子辞書とノートが見える。
俺は今から寝ようとしてたけど、まだ雨宮さんは勉強しているのか。
いや雨宮さんじゃない。雨宮。雨宮はあの双葉高校だもんな。勉強の邪魔しては悪いし、返信せずにベッドへ向かう。
『プリン食べたら憂斗のケーキ食べてみたくなった』
『受験生は勉強してなよ』
『たかが一日自主勉しないだけで俺の学力は下がらない』
余裕な事で。でもまあほぼ毎日塾へ行っているようだし、そんなものなのかな。
俺は製菓の専門学校に受験予定だから共通テストの大変さが分からないし、彼がどれほど頭いいのかもわからない。
結局俺と雨宮さんは、どちらが先に寝るかを意地はって、夜遅くまでメッセージを送り合ってしまった。
高速で返事が来たり、面白いスタンプが来たり、ちゃんとプリンを食べた証拠写メが来たり。その度に胸が踊り出す。
俺、分かってる。認めなきゃならない。俺も雨宮さんが好きだって事を。
**
それからも塾終わりに顔を出してくれたりメッセージで連絡したりと約束の日曜までは順調だった。
お互い呼び捨てで呼ぶことになったから、雨宮さんから清人呼びになったのはちょっとまだ慣れないけど、それぐらい。
当日の朝も天気はいいし前日から決めていた服装も変じゃないし、今日は遊びに行くからお店も手伝えないってきちんと伝えていた。
問題はなにもないはずだった。
「いやぁぁぁぁ!」
「おにーちゃんのばかぁぁぁ!」
「だから、ごめんって。今日は帽子なんだって!」
「いやぁぁ!ばかばか!あほー」
「きらいきらいきらいきらい!」
壁の時計を見ると、もうすぐ迎えに来てくれる時間だ。
頑張って髪を立たせようとしたんだけど、猫っ毛の俺の髪じゃ決まらなくて仕方なくキャップを被って誤魔化そうとしたのに、髪を結びたい二人に捕まってしまった。
でも髪はもうワックスついてるから結べないって。
足にしがみつかまれて途方にくれてたら、お客様が入ってきた。
清人は店の中を覗いて笑った。そして、入ってきて、俺の様子を見る。
「何してんだ?」
「妹二人が髪の毛を……」
恥を忍んで告白したら笑われた。お揃いじゃないのがこんなに嫌だとは思わなかった。
「よし。俺のなら結んで良いぞ」
***
「ぷぷぷぷぷ」
「お前、いつまで笑ってんだよ」
「だって、ぷぷっ」
赤い水玉模様のポンポンのゴムで前髪を結んでもらった清人、全然似合ってない。
グレーのジャケットにデニムを合わせたラフで素敵な格好なのに、笑ってしまう。
「もう店から離れたし外して良いですよ」
清人の髪に触れると、ギロッと睨まれた。
「お前、後でその口塞ぐ」
「え!?」
「何身構えてんだよ」
「へ?」
「本気にした?」
「酷……」
「まぁ、本気だけど」
俺のキャップを取ると、キャップで口元を隠しながら、歩道橋を歩く人たちに隠れるように、唇が重なった。
「……馬鹿!」
「さぁて、行きますか」
最初からこんな調子なら俺はデートが終わるころにはタコ焼きに入っている湯でタコみたいになっているに違いない。
ボーリング場に着くと、清人は何事も無かったかのように、俺に笑いかけた。
「いつまで茹でタコになってんだ。ほら、行くぞ」
気に入ったのか、未だに前髪を結んだままの清人が言う。
「足、何センチ?」
手続きが終わり、シューズとボールを選びながら言う。
「26」
「じゃあ、まだ身長伸びるかもな」
俺の頭をくしゃくしゃしながら、清人は28センチのシューズを選ぶ。
伸びても清人は越えられない気がする。
「清人はよくボーリング行くの?」
「いや、数年ぶり」
内心ガッツポーズしてしまった。俺は友達とよく行くし家族の中で一番うまいから。
「勝負! もし俺が勝ったら何でも言うこと聞いてもらう!」
「――じゃあ俺も」
そう言うと、清人は俺に耳打ちした。
俺が勝ったら、もっと甘いキスさせろ
「や、やっぱ勝負無しで!」
「ふぅん。口だけか」
挑発に簡単に反応してしまう自分の単純な思考が嫌いだ。
こうなったら意地でも勝ってやる。勝って、絶対に服従させてやる。
なのにストライクやスペアばっかり俺は取り零しがちらほらあるのに。
あ、でも指、腕、ヤバい。
投げる瞬間の浮き出る血管がなんか格好いい。
フォームもなんか格好いい。
もうなんか居るだけでかっこ良く見えてきた。
これは何としても阻止しなくては。
徹底的に投げる邪魔をしようと俺は、決意した。
「清人、隙有り!」
後ろから脇腹を触ると、驚いた清人はボールを落とした。
そして、そのボールはガーターへ。
「よしっ」
「よし、じゃねーだろ。こらっ」
仕返しに清人が脇腹を狙ってきたから避けた。
避けたのに羽交い締めにされて、セットに失敗した髪をわしゃわしゃされる。
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「うるさい!」
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卑怯な手を駆使し、俺は勝った。
「お前、覚えとけよ」
清人からどす黒いオーラが見えるけど、気にしない。
「汚い手でも、勝ちは勝ち。まずはもう俺を馬鹿にするのはやめてもらおう」
「馬鹿にした事はない。可愛がってるだろ?」
「その言い方が」
「――二人の時しか言わねぇよ」
フッと笑うと、またくしゃくしゃと髪を触られた。
二時間以上白熱した戦いもおなかの音と共に終わり、俺たちはボーリング場の隣のファーストフード店へ向かった。
「意外。こんなの食べるの?」
「俺を何だと思ってんだよ」
ポテトを摘まんだ指に見とれつつも、やっすいハンバーガーも炭酸飲料水も似合っていない。
「なんかコース料理とか常に食べてそう」
「偏見やめろ」
でも双葉高校って幼稚園から大学まである名門校だし、私立で金持ちばっか通っている印象だ。さやもあそこは体操服でさえ有名ブランドのオーダーメイドって言ってたし。
「清人の学校はお金持ちとか頭いいやつしか通えないじゃん。というか、こんな風に遊んで大丈夫なの? 受験生じゃん」
あんなに塾通って、土日も朝から夕方までずっと塾のある二階は電気ついてるからずっと勉強しているんだろうし。
「んー。俺は一日や二日休んだぐらいで揺らぐ学力じゃないよ」
炭酸飲料を飲みながら表情一つ変えずにそう言うと、清人は外通りに目をやる。
「部活と両立している人も凄いし、部活終わってから成績上げる人もいるけど、俺は色んな人が成績上げても全然焦らないようにずっと勉強してきたからね。どちらかというと全教科満点とか自分の限界を更新していく方が忙しいし楽しいし、戦っているし」
よくわからないけど次元が違う世界で戦っているんだ。
そこまで勉強できるなら、一日ぐらい息抜きしても平気なのか。
「そんな勉強して行きたい大学があるの?」
「んー。悩むよな。ずっと研究室に籠って勉強だけしたいし、憂人を一日中眺める仕事も探してみたいし家の会社継ぐのも面白そうだし。無限大」
「なんか間に変な仕事はいってたぞ」
つまり趣味が勉強なんだ。テスト前になってひいひい勉強している俺と違って歯を磨く並みに勉強するのが普通なんだ。
「でもまあそれだけ勉強が好きで結果がついてるなら、そりゃあ職業の選択も沢山あるかあ」
感心するけど、見習えるか分からない。俺は英語の勉強は本当に苦手だ。
「憂斗は家のケーキ屋継ぐの?」
「まあね。一学期のテストもまあまあ良かったし行きたい専門学校の指定校推薦貰えそうだし俺も余裕だよ」
一応普通科で私立文系クラスは指定校や推薦が貰いやすいって教えてもらって高校を選んだからね。受験勉強だけは頑張った。ほかの理系三クラスと国立文系クラスは土曜もテストや補講で忙しそうだけど、私立文系コースは指定校受かり次第免許を取りに行ったりバイトも許可が出ている。
「じゃあ良かった。俺は余裕だけど毎日遅くまでメッセージ送っても悪いかなって心配してたんだよな」
心配?
浮かれていたから俺は心配してなかったのに、清人は流石だな。
「この後どうする? 浮かれてゲーセンまで行く?」
気づけば清人は完食していて、あとは飲み物だけだった。
「行く」
妹たちに両手を引かれていくゲームセンターとは違って、友達とうろうろするのゆっくり出来て楽しいんだよな。
俺も急いで完食して清人のあとを追いかけた。
***
確かに俺は清人にちょっとだけ偏見があったかもしれない。
あんな有名進学校の学年首位がゲームセンターに行くわけないとか思っていたかもしれない。
でも目の前の学年首位は一緒にカーレースも銃を撃つゲームもバスケットボールを入れるゲームさえも楽しそうにしてくれる。全部、指先の動きが好きなゲームばかりで俺チョイスになってしまった。
「お、可愛い」
ジュースを飲みながらクレーンゲームを見て回っていたら、キャンディとケーキの巨大クッションを見つけてしまった。
妹二人にあげたら喜ぶかな。いや、同じのじゃないと喧嘩になるか。
というか可愛いから俺の方が欲しい。
「それ、欲しいの?」
色々考えたが素直に頷いた。
「じゃ、さっきの罰ゲーム、これ捕ったらチャラで良い?」
「へ? とれるの」
財布からお金を取り出して、入れていく。
「分からないけど何回かやれば法則が分かるはず」
そう言って優しく笑ってくれる。
意地悪だけど、すぐ困る事ばかり言うけど、俺、この人の笑顔を独り占めしたい。
好きで好きで、胸が痛くなる。誤魔化せないんだ。
無邪気に右からや上から、慎重にぬいぐるみを狙う。
その姿が、いつもの大人っぽい清人と違って可愛い。
そのままアームが降りて、ぬいぐるみが持ち上がる。
ゆっくり、ぬいぐるみが落ちていくのに、目が離せなかった。
落ちた。落ちたんだ。いや、俺はもうデートの前からとっくに落ちてたんだ。
そう、目の前で落ちたのを確認してみればもう誤魔化せない。
落ちている。
「ほら、これ」
「……ありがとう」
清人はなんと二個とも取ってくれたんだ。
***
『じろじろ見られるから恥ずかしい』
俺はそう言って、公園につれてきて貰った。
巨大なぬいぐるみを抱っこして歩いてたら、女の子たちにクスクス笑われたから恥ずかしかったのは本当だ。
ジョギングコースもある大きめの公園だったけど、噴水の回りは寒いからか人が居なかった。
清人が噴水の縁に座り、俺はぬいぐるみを挟んで座りそれを見る。
突然キスをされて、きちんと告白をされて俺も抱きしめられた時にあの背中を抱きしめ返した。
でもきちんと恋人になろうって言葉や形にはせずに今日まで来た。
これなら言える。言おう。
さっきみたいに友達に見られたり兄弟に間違えられる不安な気持ちも、清人への気持ちも、全部。そうじゃなきゃ、俺は清人にとても不誠実だ。
「清人」
「あれ? 雨宮くんじゃん」
ジョギングコースから声がしたので見ると、この前香水を頼まれていた女性が立っていた。私服だから大人っぽくて一瞬わからなかった。
「この子、あのケーキ屋の子じゃない」
俺が頭を下げると、ふんわりと笑ってくれた。
お化粧はしてないのか分からないけど、こっちの方が緊張しない綺麗さがある。
「二人は何してるの? ぬいぐるみなんか持って」
そう言われて俺が焦って清人を見ると、清人はいつも通り、表情1つ変えずに言った。
「デート」
その瞬間、俺は固まった。
冗談かもしれないし、相手の女性も笑ってくれてる。
けど、俺がさっきまでうじうじ悩んでたのが馬鹿らしくなるぐらい、清人は真っ直ぐで。俺だけが雨宮さんに対して卑怯だった。
女性は手を振るとまた、ジョギングコースに戻っていった。
「清人!」
震える手を、ぬいぐるみを抱き締めて誤魔化した。
喉の奥からカラカラ乾いてくる。自分の体じゃないみたいにフワフワする。心臓が、痛い。
「あの! 今なら、今ならまだ俺とのキス、今なら無かった事にできるっ」
「は?」
「お、男同士なんて不毛だし、後ろ指指されるかもだし、反対されたり、祝福なんてされないかもしれない! 清人だって、俺の事気持ち悪いって思う日が来るかも」
「――それ以上喋るな、憂斗」
明らかに不機嫌になった清人が睨みつけてくるが俺は怯むことなく睨み返した。
「黙らない。俺は俺は、清人が好きだから!」
頬を伝う温かい物が涙だと気づくのに時間がかかった。
でも譲れない。
「俺、誰にも言えなくても、祝福できなくても、母さん達みたいに皆が憧れる恋愛じゃなくても、良い。意地悪なのは困るけど、でも俺、」
清人が良い。
そう言うと、嗚咽さえ出てきてしまった。
なんでただ告白するだけなのに、こんな涙が出てきてしまうんだろう。
相手に好きと言ってもらえているのに、伝えるのが怖い。伝わるのも言葉にするのも怖い。
でも人をこんなに好きになるのは初めてなんだ。だから清人には重いかもしれない。
今ならまだ無かった事にして忘れて、キス前に戻れる。
まだ傷が浅いうちに。そう思うと涙が流れた。
「憂斗」
優しい清人の声に、体が震えた。
「回りの雑音なんて関係ねーよ。俺は気にしないし、お前が傷つくなら俺が全部、代わりに背負う」
「清人」
顔を上げると、清人はとろけそうな甘い笑顔を浮かべていた。
「憂斗がこんなに考えてくれてたなんて、すっげ嬉しい。泣かせて、悪い」
涙を指先で掬った後、強く強く抱き締めてくれた。
「だけど、俺は今さら無かった事にはできない。絶対にしない。お前が怖がったら嫌だから抑えてだけど、一生離す気は無い」
頭を撫でながら言ってくれた。
夕暮れに差し掛かり、辺りは犬の散歩やジョギングの人がまばらになってきた。
でも清人は人目なんて気にしないで、俺が泣き止むまでずっとずっと抱き締めてくれた。
そして、色んな話をしてくれた。
歳は十八歳。
もうすぐ誕生日らしい。先日予約していたケーキは双子の妹のケーキ。誕生日が一緒のせいでケーキが一回しか食べられないのが嫌らしく、週をずらしてケーキでお祝いするらしい。双子の妹がいる。
178センチで好きな物は、ドライフルーツと珈琲。
妹さんが毎日お菓子を作って食べさせられて、甘いものが苦手になった事、塾の窓から俺の店がよく見える事、いつ話しかけようか、きっかけを探していた事。
妹とは趣味やすきなものが似ているので、今回先に告白されて悔しかったらしい。
妹は可愛いし大事にしているけれど、今回ばかりは譲れなかったと安堵していた。
そして、俺の事。
表情がくるくる変わって見ていて飽きない事、照れて下を向く姿が可愛い事、真っ直ぐでばか正直で危なっかしい事、柔らかい髪の毛が気持ち良い事。
「何だ? お前、照れてんの?」
聞いてたら、涙なんか乾くぐらい体温が熱くなってきた。
それに清人が、耳元で吐息みたいに甘く囁くように言うから。
「で、憂斗は?」
そう言われて、覚悟を決めて清人を見上げる。
初めは、指先。
綺麗で骨ばっているのに、スラリとした指先に釘付けになった事。
こんなに格好いいのに甘いものが好きなんだ、と毎回見るようになった事、香水の香りが、大人の男の人みたいで憧れた事、キスされるまで、自分でもこの感情の名前が分からなかった事。
意地悪だけど優しいし、その苦い香りが癖になる事。
「――へぇ。意地悪ねぇ」
不敵に笑う清人。
……そんな所が意地悪なんだよ。
「俺の指と香りが好き、かぁ。でももう1つあるだろ?」
そう言って、俺の髪を耳にかけてくれた。
「なに?」
真っ赤になりながら視線を反らすと、顎を指先で捉えられた。
「甘いキス」
「あまっ……んっ」
ああ、駄目だ。
目の前に清人の顔がある。サラサラと揺れる前髪が、気持ち良い。
髪にも、体にも、唇にも、その香りを移して欲しい。
頭がくらくらして気持ちが良いんだ。
頭がクラクラしたり、胸がドキドキしたり、たった一言や、表情1つであたふたしたり、これが恋と言うならば、どんなケーキやお菓子より甘くて、そして胸いっぱいになる。
「ん……」
そして、苦くてぞくぞくするこのキスは、お菓子の甘さより癖になる。
体温1つで幸せになれる。
甘い甘い初恋の味。
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