神様のうそ、食べた。

篠原愛紀

文字の大きさ
36 / 62
四  あの夜のこと

四  あの夜のこと 十一

しおりを挟む
「夜景を見るためですか?」

有名なデートスポットなのかな?

学生時代のデートは、大分まで出かけるお買いものデートばっかだったので、大人デートのスキルは無い。


「高速のパーキングなんか置いていかれたら帰れないだろ? 俺の言う事を何でも聞かせる為だ」

「ひ、酷いですっ」

ククっと子供のように目を細めて笑う部長は、しっかりと私の手を握りしめた。


「言え。お前、けっこう俺が好きだろ?」



「はあ!? ち、ちがいます。ちがいます!」




「言わなきゃ置いて行くぞ、こら」

もちろん、本気じゃなくて意地悪なんだろうけど、ズルイ!
部長、ずるいです。

一日の疲れが吹っ飛んでいくような、部長の言葉に、夜風は冷たいのに体温がどんどん上昇していく。
「お前、顔真っ赤」

「は、離して下さい! い、意地悪! いじめっ子!」
じたばた暴れてても部長の手はしっかり私を離さないまま。

小学生の男の子かってぐらいしょうもない嫌がらせをしてきたけれど、私が暴れていると車の陰から小さな物体が飛び出してきた。


「みなみせんせいをいじめたら、だめ!」

「うわ」

部長の横腹に突進してきたのは、――真君だ。

って、


「ぶ、部長! こんな時間に子どもを連れ歩くなんてどういうつもりなんですか!」「――お前、俺の腹を心配しろよ」

不満げに部長がそう言うと、私の前に、部長を睨みつめながら両手をバッと広げた真君が立ち塞がる。


「おんなのこにはやさしくするの!」

「真君……」

「お前、車に隠れて着いてきたんだな」

こら、とデコピンすると、真君の目がウルウルと揺れ出して、私に抱きついてきた。

「ぱぱ、ふくおかにかえるかとおもったの。かえってほしくなくて、ぼく。ひっく……。いっしょにつれていってほしくて」


ぽろぽろ流れる綺麗な涙に、胸が痛む。
こんなに小さいのに、大好きなパパとは暮らせないなんて、悲しいよね。


「部長……」

「ああ、分かってる。帰るぞ、まこと」

「うう、うん」

手の甲でごしごしと涙を拭きながら、真君は素直に頷いた。

「遠足のあと、大事な話があるからその時に、その話をしような」

そう優しく頭を撫でると、真君を抱っこした。

「さて、帰りますか」
じっとこちらを見る目は、帰りたいなんて全然思っていない目だった。

――私もどうしていいか分からない。

ただ、部長が握ってくれていた手が、ずっとずっと温かいまま。


親子遠足が終わって、土日を挟むとすぐに部長は帰ってしまう。

福岡に。


部長はまだ私を連れて帰ろうって思ってくれているのだろうか。

家に戻れば、侑哉と明美先生がまだ居るかもしれない。
最悪、明美先生が帰っていても、侑哉はいるだろう。


気まずい。
戻りたくない。

でも、そんな状況を作ったのは、誰?

神さまでもない。
部長でも、侑哉でも、明美先生でもない。

あの夜、私が作った状況だ。


侑哉に代わりに言って貰えるからいい。


子どもが出来ないから、またフラれるぐらいなら恋なんてしなくて侑哉に守って貰えば良い。


『お前、負けんなよ』

ずっとずっと逃げてきた。

神様なんて信じてないくせに、そう誰かのせいにしなきゃ苦しかった。



私が変わらなければ、あの夜の事はずっと燻ってしまう。

侑哉にも、前を進む邪魔になる。


一歩を踏み出さなきゃ。


真君みたいに純粋に、自分の言葉を伝えたい。

声の出し方を忘れてしまっていても。


――伝えたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...