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四 あの夜のこと
四 あの夜のこと 十一
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「夜景を見るためですか?」
有名なデートスポットなのかな?
学生時代のデートは、大分まで出かけるお買いものデートばっかだったので、大人デートのスキルは無い。
「高速のパーキングなんか置いていかれたら帰れないだろ? 俺の言う事を何でも聞かせる為だ」
「ひ、酷いですっ」
ククっと子供のように目を細めて笑う部長は、しっかりと私の手を握りしめた。
「言え。お前、けっこう俺が好きだろ?」
「はあ!? ち、ちがいます。ちがいます!」
「言わなきゃ置いて行くぞ、こら」
もちろん、本気じゃなくて意地悪なんだろうけど、ズルイ!
部長、ずるいです。
一日の疲れが吹っ飛んでいくような、部長の言葉に、夜風は冷たいのに体温がどんどん上昇していく。
「お前、顔真っ赤」
「は、離して下さい! い、意地悪! いじめっ子!」
じたばた暴れてても部長の手はしっかり私を離さないまま。
小学生の男の子かってぐらいしょうもない嫌がらせをしてきたけれど、私が暴れていると車の陰から小さな物体が飛び出してきた。
「みなみせんせいをいじめたら、だめ!」
「うわ」
部長の横腹に突進してきたのは、――真君だ。
って、
「ぶ、部長! こんな時間に子どもを連れ歩くなんてどういうつもりなんですか!」「――お前、俺の腹を心配しろよ」
不満げに部長がそう言うと、私の前に、部長を睨みつめながら両手をバッと広げた真君が立ち塞がる。
「おんなのこにはやさしくするの!」
「真君……」
「お前、車に隠れて着いてきたんだな」
こら、とデコピンすると、真君の目がウルウルと揺れ出して、私に抱きついてきた。
「ぱぱ、ふくおかにかえるかとおもったの。かえってほしくなくて、ぼく。ひっく……。いっしょにつれていってほしくて」
ぽろぽろ流れる綺麗な涙に、胸が痛む。
こんなに小さいのに、大好きなパパとは暮らせないなんて、悲しいよね。
「部長……」
「ああ、分かってる。帰るぞ、まこと」
「うう、うん」
手の甲でごしごしと涙を拭きながら、真君は素直に頷いた。
「遠足のあと、大事な話があるからその時に、その話をしような」
そう優しく頭を撫でると、真君を抱っこした。
「さて、帰りますか」
じっとこちらを見る目は、帰りたいなんて全然思っていない目だった。
――私もどうしていいか分からない。
ただ、部長が握ってくれていた手が、ずっとずっと温かいまま。
親子遠足が終わって、土日を挟むとすぐに部長は帰ってしまう。
福岡に。
部長はまだ私を連れて帰ろうって思ってくれているのだろうか。
家に戻れば、侑哉と明美先生がまだ居るかもしれない。
最悪、明美先生が帰っていても、侑哉はいるだろう。
気まずい。
戻りたくない。
でも、そんな状況を作ったのは、誰?
神さまでもない。
部長でも、侑哉でも、明美先生でもない。
あの夜、私が作った状況だ。
侑哉に代わりに言って貰えるからいい。
子どもが出来ないから、またフラれるぐらいなら恋なんてしなくて侑哉に守って貰えば良い。
『お前、負けんなよ』
ずっとずっと逃げてきた。
神様なんて信じてないくせに、そう誰かのせいにしなきゃ苦しかった。
私が変わらなければ、あの夜の事はずっと燻ってしまう。
侑哉にも、前を進む邪魔になる。
一歩を踏み出さなきゃ。
真君みたいに純粋に、自分の言葉を伝えたい。
声の出し方を忘れてしまっていても。
――伝えたい。
有名なデートスポットなのかな?
学生時代のデートは、大分まで出かけるお買いものデートばっかだったので、大人デートのスキルは無い。
「高速のパーキングなんか置いていかれたら帰れないだろ? 俺の言う事を何でも聞かせる為だ」
「ひ、酷いですっ」
ククっと子供のように目を細めて笑う部長は、しっかりと私の手を握りしめた。
「言え。お前、けっこう俺が好きだろ?」
「はあ!? ち、ちがいます。ちがいます!」
「言わなきゃ置いて行くぞ、こら」
もちろん、本気じゃなくて意地悪なんだろうけど、ズルイ!
部長、ずるいです。
一日の疲れが吹っ飛んでいくような、部長の言葉に、夜風は冷たいのに体温がどんどん上昇していく。
「お前、顔真っ赤」
「は、離して下さい! い、意地悪! いじめっ子!」
じたばた暴れてても部長の手はしっかり私を離さないまま。
小学生の男の子かってぐらいしょうもない嫌がらせをしてきたけれど、私が暴れていると車の陰から小さな物体が飛び出してきた。
「みなみせんせいをいじめたら、だめ!」
「うわ」
部長の横腹に突進してきたのは、――真君だ。
って、
「ぶ、部長! こんな時間に子どもを連れ歩くなんてどういうつもりなんですか!」「――お前、俺の腹を心配しろよ」
不満げに部長がそう言うと、私の前に、部長を睨みつめながら両手をバッと広げた真君が立ち塞がる。
「おんなのこにはやさしくするの!」
「真君……」
「お前、車に隠れて着いてきたんだな」
こら、とデコピンすると、真君の目がウルウルと揺れ出して、私に抱きついてきた。
「ぱぱ、ふくおかにかえるかとおもったの。かえってほしくなくて、ぼく。ひっく……。いっしょにつれていってほしくて」
ぽろぽろ流れる綺麗な涙に、胸が痛む。
こんなに小さいのに、大好きなパパとは暮らせないなんて、悲しいよね。
「部長……」
「ああ、分かってる。帰るぞ、まこと」
「うう、うん」
手の甲でごしごしと涙を拭きながら、真君は素直に頷いた。
「遠足のあと、大事な話があるからその時に、その話をしような」
そう優しく頭を撫でると、真君を抱っこした。
「さて、帰りますか」
じっとこちらを見る目は、帰りたいなんて全然思っていない目だった。
――私もどうしていいか分からない。
ただ、部長が握ってくれていた手が、ずっとずっと温かいまま。
親子遠足が終わって、土日を挟むとすぐに部長は帰ってしまう。
福岡に。
部長はまだ私を連れて帰ろうって思ってくれているのだろうか。
家に戻れば、侑哉と明美先生がまだ居るかもしれない。
最悪、明美先生が帰っていても、侑哉はいるだろう。
気まずい。
戻りたくない。
でも、そんな状況を作ったのは、誰?
神さまでもない。
部長でも、侑哉でも、明美先生でもない。
あの夜、私が作った状況だ。
侑哉に代わりに言って貰えるからいい。
子どもが出来ないから、またフラれるぐらいなら恋なんてしなくて侑哉に守って貰えば良い。
『お前、負けんなよ』
ずっとずっと逃げてきた。
神様なんて信じてないくせに、そう誰かのせいにしなきゃ苦しかった。
私が変わらなければ、あの夜の事はずっと燻ってしまう。
侑哉にも、前を進む邪魔になる。
一歩を踏み出さなきゃ。
真君みたいに純粋に、自分の言葉を伝えたい。
声の出し方を忘れてしまっていても。
――伝えたい。
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